弁護士法人小杉法律事務所|交通事故被害者側損害賠償請求専門特化

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【高次脳機能障害2級】

医師との連携により賠償額約2億5000万円、
近親者慰謝料1,250万円を獲得

子をかばったお母さんが、トラックに轢かれ、脳を損傷してしまったケースです。脳の損傷の程度が酷く、事故後は生死をさまよう状況が続きましたが、365日家族全員でかわるがわるサポートをしていき、コミュニケーションがとれるまでに回復していきました。

ところが、保険会社がこれを逆手に取り、重い後遺症は残っていないのであるから、1億円以上の高額な賠償までは必要ないと言われてしまいます。

医学的な裏付けを1つ1つ主治医の先生と確認し、裁判で約2億5000万円の賠償金が認められました。

目次
解決事例のポイント
  1. 重い後遺症が残ってしまった場合には、それを適切に後遺障害等級評価をさせるために、交通事故前後でどこがどう変わったのかを示したこと
  2. 交通事故前後の変化を証拠化するためのエピソードを逐一記録したこと
  3. 被害者家族の生活の変化に伴い発生した、おむつ代や入浴用品などの費用を認めさせ、家族の慰謝料も認めさせたこと
  4. 被害者家族の付添費・付添交通費を認めさせ、かつ、家族の慰謝料も認めさせたこと
  5. 主治医の先生に後遺障害診断の記載要領(「依頼書」と呼んでいます。)を作成の上お渡しし、後遺障害診断書を作成したこと
  6. ご主人やお母様と適切な「日常生活状況報告」を作り上げ後遺障害等級別表二第2級1号を獲得したこと
  7. 追加証拠の提示により裁判での判決結果を覆し、賠償額約2億5000万円、近親者慰謝料1,250万円を獲得

交通事故の内容

Bさんは、長崎県の離島のご出身ですが、薬学部を卒業後、薬剤師となり、福岡に出てきました。その後、公務員の男性と結婚され、結婚後は埼玉県にお住まいでした。2人の子宝にも恵まれ、幸せな家庭を築いていました。

ある日、下の子をベビーカーに乗せて、買い物へ出かけました。歩行者用信号が青になったことを確認して、ベビーカーを引いて、横断歩道を渡り始めました。そうしたところ、前から、トラックが右折して進んできたのです。

歩行者用信号が青表示で進んでいるため、Bさんは、まさかこのまま進行してこないだろうと思いましたが、トラックは止まる気配がありません。

「あぶない!」と感じたBさんは、とっさに、ベビーカーを突き飛ばして、トラックと赤ちゃんが衝突することを避けました。ベビーカーは転倒してしまい、赤ちゃんも事故現場で泣き叫んでいましたが、幸い、赤ちゃんは大きな怪我はなく済みました。しかし、Bさん自身は右折進行を続けてきたトラックにはねられてしまい、しかも、頭を踏まれてしまいます。

数日間にわたる手術-家族の状況が一変-

Bさんは、救急搬送先の病院で緊急手術を受けました。
Bさんのご主人にも連絡が行き、すぐに病院へ駆けつけます
Bさんは、頭部がトラックのタイヤに押しつぶされ、えぐれた状態でした。

Bさんご夫妻にはお二人の小さい子どもがいますが、子どもたちの面倒をみるため、福岡県に住んでいるBさんのご主人のお父様・お母様が孫の面倒をみることになりました。そのため、上のお子さんは、幼稚園を急遽退園することになります。この交通事故は、被害者のBさんだけでなく、Bさんの家族も大きく巻き込むことになりました。

一命はとりとめたものの高次脳機能障害のため性格・人格が変わってしまう被害者女性

医師の懸命な手術のおかげで、Bさんは何とか一命をとりとめます。しかし、頭が大きくえぐられている状況でしたので、当然、脳も損傷しており、Bさんは高次脳機能障害と診断されます。脳というのは、脊髄と共に中枢神経を構成しますが、脳を損傷すると、身体が動かなくなる・味やにおいが分からなくなる・目が見えづらくなるなどの身体障害が生じることがあるとともに、性格や人格が変化するなどの精神障害が生じてしまうことがあります。

この性格や人格の変化を来すのが、「高次脳機能障害」です。
Bさんは交通事故被害に遭う前は、おっとりとした非常におだやかな性格で、かつ、勉強熱心な努力家でもありましたが、この交通事故被害に遭ったことにより、別人のように性格や人格が変化してしまいます。

具体的には、体位交換のために訪れた看護師さんのお腹を蹴る、看護師さんに暴言を吐く、夜中にナースコールを連打する、突然大きな声で騒ぎ出すなどの症状が入院中にみられ、病院側も手に負えない状況となっていました。これは交通事故前のBさんのおだやかな性格からすると、考えられない事態です。

重度の高次脳機能障害被害の場合、家族の24時間体制の付添いが必要

Bさんのご主人は、Bさんが一命をとりとめたことで大層喜んでいましたが、この変わり果てた姿のBさんを見て、呆然としてしまいます。Bさんの見舞いや看護のため、仕事を長期間休んでいるプレッシャーもありますし、祖父母に預けている子どものことも心配で、心労がどんどん重なっていきます。

しかし、Bさんは、家族が近くに付き添っていないと、精神が安定せず、病院で暴れ出すなどしてしまうので、ご主人はBさんのそばになるべくいないといけません。懸命にBさんに寄り添い続けましたが、精神的な限界に近づいていました。

そこでBさんのお父様・お母様が、長崎県の離島を離れ、埼玉県の病院の近くのアパートを借り、入院中のBさんに付き添うという体制をとることにしました。Bさんのお父様は日中、ご主人は夕方、お母様は夜間というように担当を決め、24時間体制でBさんと付き添いました。

24時間体制での家族の介護の甲斐あって、徐々に回復付添介護・入院

Bさんのご主人とお父様・お母様の3名でBさんの精神状態を24時間体制で支え、Bさんの幼いお子さんたちはご主人のお父様・お母様が面倒をみるという体制で、交通事故被害後の生活を続けていましたが、こうした入院生活も100日を過ぎ、家族も肉体的・精神的にも限界が近づいてきていました。

ただ、こうした懸命な介護体制の甲斐あって、Bさんは、少しずつ回復をしていきます。寝たきり状態から、少しずつ自分の力で動けるようになっていきましたし、看護師さんへの暴力・暴言・ナースコールの連打なども、家族の付添いにより頻度が減っていきました。

高次脳機能障害のリハビリに専念するため、家族全員で福岡県への引っ越しを決意

Bさんのお父様・お母様は、慣れない関東での暮らしや、昼夜逆転生活などで疲れ果てていました。Bさんのご主人も、仕事に復帰し始めたものの、交通事故前のようには稼働できず、また、子どもと会えない日々も続くなど、この状況では家族がダメになってしまうとの危機感を募らせました。そこで、Bさんのご主人は、転職を決意します。

Bさんの入院先の病院は、難しい脳の手術を成功させるなど良い病院でしたが、リハビリを専門とする病院ではありませんでした。

Bさんのご主人は、Bさんや家族にとって最も良い方法を模索し、福岡県内のリハビリを専門とする病院へ入院するのが良いと考えました。福岡県内の病院といくつか面談を行い、最も良いと思われたリハビリテーション病院への転院を決意します。

そうすることで、子どもたちを含めた家族の結束と、高次脳機能障害のリハビリを両立させようとしたのです。家族全員で話し合い、当該方針を家族の方針と決め、Bさんは福岡県内に転職をして引っ越すことにしました。

Bさんのお父様・お母様の協力も、高次脳機能障害のリハビリには不可欠な状況でしたので、Bさんのお父様・お母様も福岡県内のマンションを買って引っ越すことにしました。

加害者側の保険会社からは治療費しか払われない

家族の懸命な介護の結果、Bさんのリハビリは順調に進み、福岡県に引越す日が近づいてきました。しかし、そのことを保険会社に話しても、「福岡県の病院にも治療費を払いますので、同意書を書いてください。」と言われる程度で、関東でのBさんのお父様・お母様のアパート家賃や、長崎-関東-福岡の飛行機代、福岡県の住居費などを支払う気配もありません。

交通事故に遭わなければ、このような生活状況になることはなかったのに、治療費以外は補償されないのか、退院した後の生活費は補償されるのか、治療費は今のところ支払われているが、これは今後もずっと支払ってもらえるのか、などの現実的な不安が頭をよぎります。

Bさんのご主人は、お持ちの車の任意保険に弁護士費用特約に付いていて、これが家族の歩行中の交通事故でも使えるということでしたので、弁護士に相談してみることにしました。

弁護士小杉晴洋による無料法律相談とご依頼

パラリーガルによる交通事故態様や治療状況の聴き取り

弁護士法人小杉法律事務所では、アメリカにならって、パラリーガル制度を導入しています。

要は、お茶くみやコピー取りといった単純事務作業のみを扱うお手伝いさんとしての事務方ではなく、法律事務職員の全員が日弁連事務職員能力認定試験に合格するなど、実践的なパラリーガルを揃えています。

当事務所では、このパラリーガルが、まず被害者の方や被害者のご家族の方から交通事故態様・治療状況などの聴き取りを行います。

聴き取り内容を見て、「よくここまで頑張ったな」と非常に驚きました。

重度の高次脳機能障害被害に遭われてしまった場合、これを医療機関に丸投げせず、ご家族が徹底的に付き添おうと思うと、どうしても無理がでます。

Bさんのご家族も相当に無理を重ねたと思いますが、Bさんがリハビリを頑張るところまで持ってきていますので、驚きと尊敬の念を抱きました。

弁護士は医療従事者ではありませんので、Bさんの身体を軽快の方向に向かわせるなどはできませんが、治療費や生活費の関係の不安などは、損害賠償請求という形で弁護士である私が取り除く必要があると感じました。

弁護士小杉晴洋によるアドバイス

◆損害賠償の話は弁護士が行うので安心してご自身の生活や高次脳機能障害のリハビリに専念することまず、現在だけでなく将来の治療費や、新しく福岡県に住むことになった住居費を含む生活費関係は、こちらで損害賠償請求を行うので、心配しなくて良いということをお伝えしました。

不安な状況で生活を続けても良いことはありませんし、下手をすると、家族自体が崩壊してしまう危険性もあることから、せめてお金系の話は、弁護士小杉に丸投げするようお伝えしました。

そして、お金に関する将来不安は忘れて、安心して、ご自身の生活の立て直しや、高次脳機能障害のリハビリに専念することをアドバイスとしてお伝えさせていただきました。

◆資料(=証拠)がないと真実でも損害賠償請求は認められなくなるとはいえ、損害賠償請求をするにも資料が必要です。この資料というのが、弁護士や裁判所実務上「証拠」と呼ばれ、価値を有します。証拠のないものは、それが真実であったとしても、損害賠償請求としては認められなくなってしまいます。

レシートなどの資料も立派な証拠です。この調子だと、Bさんもいつか退院できることになると思いますが、おむつ代・介護のための靴・食べ物にとろみをつけるためのものなど、細々した買い物も、交通事故に遭わなければ支出することのなかった出費にあたりますので、すべてレシートなどの証拠を残しておく必要があります。

この積み重ねで損害賠償額は決まります。ですので、証拠の保存については、Bさんのご家族にご協力をお願い致しました。

◆高次脳機能障害にまつわるエピソードを記録すること―後遺障害等級認定のため交通事故被害者側専門の弁護士としてやるべきことというのは、慰謝料などの「損害賠償請求」です。

そして、この交通事故損害賠償請求に最も影響を与えるのが、我が国の場合、自賠責保険による後遺障害等級認定となっています。後遺障害等級というのは1級~14級までありますが、1級・2級といった重たい後遺障害等級の場合は、1億円を超える損害賠償額となることがあるのに対し、14級の場合ですと200~300万円の損害賠償額にとどまることがあります。

弁護士目線で最もよくないと感じるのは、真実重い後遺症が残っているにもかかわらず、それが適切な後遺障害等級認定がなされず、低い等級とされてしまう場合です。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定というのは、交通事故前後の状況変化が審査対象となっています。重い後遺症が残ってしまった場合には、それを適切に後遺障害等級評価をさせるために、交通事故前後でどこがどう変わったのかを示していく必要があります。

高次脳機能障害のご家族が頭の中で理解しているだけではダメで、交通事故前後の変化を、証拠化しないといけません。そこで、Bさんと過ごす中で、高次脳機能障害にまつわるエピソードがあるたびに記録しておくことをお願いさせていただきました。

高次脳機能障害にまつわるエピソード例としては様々ありますが、代表例は「神経系統の障害に関する医学的意見」の認知・情緒・行動障害21項目や、「日常生活状況報告」の日常生活25項目・問題行動10項目・日常の活動および適応状況10項目です。

また、これまで高次脳機能障害の後遺障害等級認定を数多くこなしていく中で培った知見から(すべての後遺障害等級認定実績がございます。)、どのようなエピソードがあると後遺障害等級認定がなされやすいかのお話もさせていただきました。

埼玉県の病院から福岡県の病院への飛行機転院と新たな高次脳機能障害リハビリ生活

Bさんの状況は、交通事故直後の頃よりかはだいぶ落ち着いてはいましたが、依然、高次脳機能障害の症状は強くみられました。そんな中で、埼玉県の病院から遠く離れた福岡県の病院へと転院しますので、飛行機内でのBさんの容態が心配でなりません。そこで、事前に双方の病院と協議を重ねて、埼玉県の病院の主治医が、飛行機内に付き添ってくれるという約束を取り付けることに成功しました。

無事、福岡県内のリハビリテーション病院への転院が終わり、新たな高次脳機能障害の入院生活が始まります。これまでのご家族の懸命な介護の甲斐あって、福岡県内のリハビリテーション病院では、看護師さんに対する暴力・暴言はなくなり、Bさんも懸命にリハビリに励んでいました。そして、福岡県内のリハビリテーション病院での半年間の入院生活を経て、ようやく退院できることになりました。退院後は、主にBさんのご両親が付き添って、リハビリ通院を行いました。

退院後ものしかかる高次脳機能障害の精神的苦痛

頭がえぐられ、生死を彷徨う状態から退院できたわけですから、Bさんのご家族もBさん自身も喜んでおられましたが、他方で、病院内での生活と環境が変わり、本人もご家族も大変な日々を過ごすことになります。

Bさんは、頭部が陥没していますので、家の中で転倒して頭を打つなどすると大変な事態となります。Bさん自身も、ご家族も、神経をとがらせて生活せざるを得ない部分がでてきます。
また、Bさんは排泄関係も自分では上手くできませんし、入浴介助もかなりの手間を要します。Bさんのお父様・お母様が一人娘のBさんと一緒に住むことになりましたが、ご両親も高齢のため、毎日が重労働となりました。

ご家族にも精神的苦痛がのしかかるのですが、1番精神的苦痛を感じているのは、高次脳機能障害となった被害者本人です。

法律相談時に高次脳機能障害にまつわるエピソードをメモしておくようにお話していましたが、その関連でご主人からこんな話を聞きました。Bさんは退院して、ようやく子どもたちと会えるので、その点を1番に喜んでいました。子どもたちも、最愛のお母さんと会えて喜んでいましたが、交通事故前の自分たちが知っているお母さんとは様子が違うことに気づき、どこか違和感を覚えています。

Bさんはようやく退院できたので、子どもの入学式に車いすで参加しました。そうしたところBさんのお子さんのお友達が「お前のお母さんは変だ」と言って、Bさんのお子さんをからかってきたのです。Bさんのお子さんは、「もうお母さんには学校に来てほしくない」と告げました。この話をご主人から伺ったとき、Bさん自身は気丈に振る舞っていましたが、どこか悲し気な様子に窺われました。

Bさんに非のない交通事故なだけに、なんともやるせない気持ちになりました。弁護士ができることというのは限られていますが、損害賠償請求を代理して行うことはできます。精神的苦痛というのは、慰謝料という名目で金銭評価するので、この点はちゃんと慰謝料に反映されなければならないと心に誓いました。

退院後にかさむ高次脳機能障害の介護関係出費(家屋改造費やオムツ代など)

Bさんは車いす生活ですので、退院後は、車いすを載せるための車を購入しての通院となります。当然、駐車場代も必要となります。また、Bさんは排泄関係が上手くできないこともありますので、介護用パンツや尿取りパッドを買う必要がありました。

その他にも、車いす、杖、下肢の装具、下肢装具を付けたまま履けるスリッパ、リハビリ用のジャージ・靴、シャワーチェアー、介護用ベッド、マットレス、介助バー、サイドレール、手すり、歩行器、入浴用品などが必要で、こうした細々とした出費が増えていきます。

これらは車の購入と比べれば金額は低く感じますが、1年中365日必要なものですし、これが向こう数十年続くとなると、数千万円単位の損害となります。また、車の購入以上に大きな出費となるのが、家屋購入費や家屋改造費です。

Bさんは重度の高次脳機能障害被害者で、車いすでの生活となりますので、普通の住居では段差等のため生活できません。そこで、介護用の家屋改造の許されるマンションを購入して、Bさんと共に生活できる環境を整えました。

頭がえぐられ、生死を彷徨う状態から退院できたわけですから、Bさんのご家族は喜んでおられましたが、他方で、度重なる出費から金銭的負担が重くのしかかりました。この点は、Bさんの担当弁護士である私が損害賠償請求を通じて解決していかなければならない問題です。

なお、Bさんのご家族は、法律相談時にお伝えしたアドバイスどおり、すべてのレシートや領収書などを保管しておいてくれましたので、損害賠償額の算定には苦労しませんでした。

高次脳機能障害の症状固定と後遺障害診断

埼玉県での半年間の入院、福岡県での半年間の入院、そして退院後の通院リハビリを経て、症状固定の時期が近づいてきました。重度の高次脳機能障害の場合、治療やリハビリが終わるということはないのですが、どこかで区切りをつけなくてはなりません。

これ以上リハビリを続けても劇的に回復することはないだろうという時期をもって、症状固定、すなわち「症状が固定した」と判断し、後遺障害診断を行います。高次脳機能障害の損害賠償請求額は、後遺障害等級認定によって大きく変わります。

この後遺障害等級認定に最も大きな影響を与える証拠が「後遺障害診断書」です。

医師というのは、身体を治すことが仕事ですので、これ以上治療を続けても治らないという後遺症の判断については積極的ではないことがあります。ましてや、自賠責保険の認定する後遺障害等級については、詳しい要件などを知らないことが多いです。

弁護士法人小杉法律事務所では、主治医の先生に後遺障害診断の記載要領(「依頼書」と呼んでいます。)を作成の上、お渡ししています。

もちろん、弁護士が医師に対して、診断書内容を指示するようなことがあってはなりませんので、その点は注意致しますが、その記載箇所の意図や例示などをさせていただいております。

依頼書の甲斐あり、予想していたとおりの後遺障害診断書が出来上がりました。

今回の交通事故での高次脳機能障害は後遺障害等級何級になるか?

植物人間になってしまった方(遷延性意識障害)などの場合は、常時介護をしていないと生命維持が困難ということで、後遺障害等級別表一第1級1号という最も重い後遺障害等級認定がなされますが、Bさんは、常時介護がなければ生命維持が困難という状態からは脱していました。

Bさんの高次脳機能障害の後遺障害等級認定であり得るのは、
①後遺障害等級別表一第2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
②後遺障害等級別表二第3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
③後遺障害等級別表二第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」の三択でした。

ご家族の視点に立つと、今後のリハビリ生活を頑張って、せめて軽易な労務くらいはできる程度に回復させたいというご意向はあるでしょうが、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士の視点で言うと、希望的観測をベースにして損害賠償請求をするのはご法度で、現状の大変な状況をきちんと加害者側保険会社や裁判所に明示して、適切な慰謝料額などの損害賠償金を獲得しなければなりません。

後遺障害等級別表二第5級2号程度では、ご家族が負担している飛行機代・介護用品・家屋や自動車関係費用はほとんど支払われないことになります。

こうした視点に立ってBさんの高次脳機能障害を考えると、後遺障害等級は別表一第2級1号が適正であると思っておりました。

高次脳機能障害の適正な後遺障害等級認定のためには後遺障害診断書だけでは足りない(億単位の損害賠償金の差が出る)

この後遺障害等級別表二第2級1号を獲得するためには、依頼書を元に作成いただいた後遺障害診断書だけでは足りません。

交通事故事例によって取り付ける種類は異なりますが、今回は3種類を簡単にご紹介いたします。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定に必要な資料1:「神経系統の障害に関する医学的意見」

まずは、医学的に、高次脳機能障害被害者の症状を整理するための「神経系統の障害に関する医学的意見」を主治医から取り付ける必要があります。

この「神経系統の障害に関する医学的意見」は、
①画像(脳MRI・脳CTなど)および脳波所見
②神経心理学的検査
③運動機能
④身の回りの動作能力
⑤てんかん発作の有無
⑥認知・情緒・行動障害21項目
⑦認知・情緒・行動障害の症状が社会生活・日常生活に与える影響の具体例
⑧全般的活動および適応状況に関する具体例の8つのパートから構成されています。

①や②など医師の専門的知見に寄るところが大きいパートもありますが、特に⑥~⑧については、高次脳機能障害被害者本人や、日常生活を共にする家族から聞いたエピソードをもとに、主治医が医学的に判断するところがありますので、主治医にご記載いただく前に、患者さん本人の生活状況などを適切に伝えておく必要があります。

そこで、弁護士法人小杉法律事務所では、後記の「日常生活状況報告」を先に作成しておいて、主治医との情報共有を図ることとしています。また、後遺障害診断書と同様、依頼書を作成して、高次脳機能障害の適正な後遺障害等級を獲得するための方策を練っています。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定に必要な資料2:「日常生活状況報告」

次に、高次脳機能障害の被害者の方と近い間柄にある方にご作成いただく、「日常生活状況報告」という書面があります。

これは、交通事故前後の症状の比較を行って、高次脳機能障害の程度を測るための証拠です。Bさんの事例で言うと、程度評価によって、後遺障害等級認定が2級になったり、5級になったりしますので、損害賠償金にして1億円近い差が生じてしまうことになります。ですので、この「日常生活状況報告」というのは極めて大事です。使い方によっては、先ほど説明した「神経系統の障害に関する医学的意見」という他の証拠への大きな影響を与えます。Bさんのご家族には、法律相談時からこの重要さと、エピソードの保存などをご説明していたため、Bさんの退院後の様子をノートにキレイにまとめていてくれました。
ですので、当該ノートをもとに、Bさんのご主人やお母様と適切な「日常生活状況報告」を作り上げることに成功しました。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定に必要な資料3:「頭部外傷後の意識障害についての所見」

高次脳機能障害というのは、後遺障害等級別にいうと、8種類があります。

後遺障害等級別表一第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常時介護を要するもの」
後遺障害等級別表一第2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
後遺障害等級別表二第3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
後遺障害等級別表二第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
後遺障害等級別表二第7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
後遺障害等級別表二第9級10号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
後遺障害等級別表二第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
後遺障害等級別表二第14級9号「局部に神経症状を残すもの」
これらの8種類は程度問題なのですが、自賠責保険実務の運用では、上位7種類が程度問題とされています。

すなわち、最後の後遺障害等級14級9号というのは、別の尺度で判定されているのです。具体的には、①脳損傷の画像所見があって、かつ、②交通事故時の意識障害がある場合に初めて、高次脳機能障害としての後遺障害等級認定の土台に乗り、そこから高次脳機能障害の後遺症の程度によって等級分けがなされます。ですので、程度問題に進む前に、まずはこの2つの要件をクリアしないといけません。

程度問題の証拠としては一切使われないということはないですが、上記②の意識障害に関する証拠としてあるのが「頭部外傷後の意識障害についての所見」です。アメリカなどでは、MTBI(軽度外傷性意識障害)の研究が進んでおり、実務での理解もありますが、日本の交通事故損害賠償請求実務では、未だこのMTBIについての理解は浅く、交通事故時に意識障害が生じていないと、どんなに重たい後遺症が残ってしまったとしても、後遺障害等級14級9号か非該当の認定しかなされません。

念のため当該資料も準備しましたが、Bさんの事例では、交通事故時に意識がなくなっていましたので、この要件をクリアすることは明らかな状況にありました。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定申請と審査期間

自賠責保険へ被害者請求(保険会社の事前認定はNG)

Bさんのご家族や主治医の先生のご協力も得て、適切な証拠をそろえ、自賠責保険へ後遺障害等級申請を行うことができました。

後遺障害等級申請は、①事前認定(加害者請求)と②被害者請求の2種類がありますが、高次脳機能障害の場合は、必ず後者の②被害者請求によるべきと考えています。

①事前認定(加害者請求)というのは、加害者側の保険会社が後遺障害等級申請をやってくれますので、被害者側としては手続の煩雑さがなく、とても楽ですが、「この被害者は大した症状じゃない」というニュアンスのことを記した意見書を出すなどされることがありますので、利用を控えましょう。

Bさんの事例ですと、後遺障害等級2級なのか5級なのかで、損害賠償金に1億円程度の差が出ますので、絶対に事前認定を利用してはいけない状況にありました。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定にはどのくらいの期間がかかるのか?

被害者請求というのは事前認定よりも認定期間が若干長くなります。事例によって異なりますが、相場観でいうと、事前認定だと2か月程度で後遺障害等級認定が出されるのに対して、被害者請求ですと3か月程度を要します。

そして、高次脳機能障害の場合ですと、更に認定期間は長くなります。これは、通常の自賠責保険の審査機関ではなく、本部に回付され、高次脳機能障害の特定部会が審査を行うからです。なお、事前認定の場合であっても長くなります。相場観的には、高次脳機能障害の場合、半年程度を要すると考えていいでしょう。Bさんの事例では、証拠がキレイにそろっていたこともあり、5か月弱で後遺障害等級認定の結果がでました。

症状固定後の治療・リハビリ継続

「症状固定」というのは、これ以上治療やリハビリを継続しても症状が良くなることはないと判断された状態のことですので、法的には、症状固定後の治療費は支払われないのが原則となります。

しかし、後遺症が残っているにもかかわらず、治療費が支払われない可能性があるからといって、病院でのリハビリをやめてしまうと、症状はより悪化するなどしてしまいます。

特に高次脳機能障害の場合は、症状固定後もリハビリを続けることが大事です。Bさんも、ご家族の献身的な付添いのもと、症状固定後も治療・リハビリを続けました。また、病院でのリハビリだけでなく、主治医と相談の上、医療機関ではない施設にも通い、運動機能の維持・改善に努めました。

そして、高次脳機能障害の場合は、例外的に、症状固定後の治療費や、平均余命までの将来治療費も認められることがありますので、これらを加害者側の保険会社に支払わせることが弁護士の仕事ということになります。

交通事故加害者との面談(取り返しのつかない事故)

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故加害者の刑事処分についても関与しています。具体的には、警察・検察といった捜査機関との連携、刑事裁判への被害者参加などです。被害者やそのご家族の方がお持ちの、加害者に対する適切な処罰を受けてほしいという感情を裁判で直接伝えることは、お気持ちの面でも、量刑の面でも大きいものです。

また、捜査機関との連携や、刑事裁判に参加することによって、民事裁判で有利になる(過失割合、近親者慰謝料など)証拠を引き出せる可能性もあります。

Bさんの交通事故では、刑事裁判への被害者参加を望まれなかったため、この制度は利用しませんでした。また、交通事故加害者であるトラック運転手から謝罪に伺いたい旨の連絡をもらっていましたが、Bさんご家族は交通事故以来、そんな対応をしている余裕もありませんでしたし、刑事裁判において謝罪に動いたということを有利な事情として斟酌されるための行動という可能性もありましたので、面会を断っていました。

しかし、Bさんの件の交通事故加害者は、刑事裁判が終わった後も、謝罪したい旨の連絡をしてきたため、弁護士小杉晴洋同席の下、BさんやBさんご家族との面談をすることにしました。交通事故加害者は、スーツ姿で現れ、神妙な面持ちで、謝罪の言葉を口にしました。

それに対して、Bさんのご主人が口を開きます。
淡々と話し始めましたが、次第に語気が強くなっていきます。Bさんが交通事故後に生死を彷徨う状況にあったこと、Bさん家族は本人・夫・父母・子の全員が大きく生活状況が変わったこと、職を変え・住居を変えるなどして何とか生活していること、子育てにも大きな影響を及ぼしていること、いまも将来の不安が拭えないことなどをお話されました。
Bさんのご主人は非常にクレバーな方で、冷静でいらっしゃることが多いのですが、この日は、これまで積もりに積もってきた精神的な負担が爆発したかのように、お話されていました。

交通事故加害者は、高次脳機能障害となった被害者本人やその家族の大変さやエピソードを知り、事の深刻さをより理解したように思いました。この加害者は、面談の後も、Bさんの様子を伺いに、弁護士小杉まで電話してくるなど、本当に被害者Bさんのことを心配し、交通事故加害者としての十字架を背負っているように感じました。言い方は悪いですが、交通事故加害者の事故後の態度としては、マシな方です。

しかし、この加害者は刑務所にも入らず(交通事故加害の場合は実刑になることはほとんどありません。)、交通事故の前と同じような生活ができています。他方で、Bさんは、一命をとりとめた後も懸命にリハビリを続けて退院できるまでになりましたが、
排泄もままならないような介護状態は続き、のみならず、子どもから「お母さんには学校に来てほしくない」と言われるなどの目に遭っています。「取り返しのつかない事故」という表現がされることがありますが、加害者との面談を通じて、まさにその表現をそのまま説明したような面談内容となりました。

弁護士の見立てどおり、高次脳機能障害での後遺障害等級2級1号認定

症状固定後の通院や加害者との面談をして、自賠責保険から後遺障害等級の結果が出るのを待っていましたが、無事に見立てどおり後遺障害等級別表一第2級1号の認定を受けることができました。

後遺障害等級別表一第2級1号の認定がされると、逸失利益は100%の請求ができて、後遺症慰謝料額も上がり、その他、ご家族の介護付添いも認められやすくなり、車いすや家屋改造などの費用や、これらの将来の買換え、そのほか将来治療費なども認められやすくなります。

法律相談時よりBさんご家族には、資料を証拠として取っておいてもらうようお願いしてありましたので、自賠責保険による後遺障害等級認定後の損害積算はスムーズに行うことができました

加害者側保険会社との示談交渉(被害者側3億の請求vs保険会社側1億の回答)

弁護士小杉晴洋による損害積算と示談交渉方針決定

Bさんにとって有利な根拠となる裁判例を洗い出し、損害賠償請求額を約3億円に設定しました。理論的に説明が付く限りの最高金額です。

他方で、Bさんにとって不利な根拠となる裁判例の洗い出しも行いました。これによれば、損害賠償金は約1億円程度となるのですが、Bさんご本人や、そのご家族の状況をずっと見てきた担当弁護士としては、不利な裁判例が軒並み採用されるような事例ではないと考えました。

そこで、損害賠償請求額を3億円として加害者側保険会社へ表示しつつ、示談交渉の結果として、2億円を超えるか否かを裁判するか否かの基準として設定することにしました。

なお、損害賠償金3億円というのは、後遺障害等級別表一第1級1号であったとしても高額な部類に属し、歴代の判決の中でも上位に入るような水準となります。当該示談交渉方針をBさんやBさんご家族に説明して、示談交渉を開始しました。

保険会社の回答は1億円強で示談交渉決裂

交通事故における保険会社との示談交渉は、おおむね1か月程度の期間で終わることが多いですが、Bさんの件は、億単位の損賠賠償金となっていますので、社内決裁に時間がかかります。

電話や書面で示談交渉を続けましたが、社内稟議がおりるのは、どうしても1億円を少し上回ったところという回答までしか引き出せませんでした。事案によっては「上司出せ」スタンスをとって、上司に了解を得させるなどすることもあるのですが、Bさんの件では、その方法をとったとしても埋まらない金額の差がありましたので、民事裁判を起こす方針としました。

早期解決の点では示談が良いが、損害賠償金は民事裁判をした方が高い?

被害者にとって交通事故に遭ったこと自体は決して納得のいくものではありませんが、早期に適正な示談金を受け取って、将来もかかる治療費やオムツ代などの心配をすることなく、後遺症と共に歩む生活をスタートさせるのが、精神衛生上は良いと考えています。

なので、適正な示談解決ができるのであれば、それに越したことはありません。ただし、あくまで適正な示談解決でなくてはなりませんから、不当に低い損害賠償金を受け取っても、新しい生活はスタートできません。また、民事裁判を提起すると、通常は示談解決では認められることのない2つの損害費目が追加されます。

1つ目は、民事裁判をすると、加害者側に弁護士費用を請求できるようになります。これは実際の弁護士費用とは別で、損害賠償金の10%を弁護士費用として加算請求できるのです。例えば、2億円の損害賠償金の場合は、2000万円が追加されますので、高次脳機能障害のような重い後遺症の場合は、大きな金額の追加となります。

2つ目は、民事裁判をすると、加害者側に遅延損害金を請求できるようになります。遅延損害金の割合は民法の法定利率に従いますので、令和2年4月の民法改正以降の交通事故の場合は3%、それ以前の交通事故の場合は5%なります。Bさんの交通事故被害は令和2年4月よりも前でしたので、2億円の損害賠償金の場合は、毎年1100万円が追加されていくことになります(※2000万円の弁護士費用についても遅延損害金の元本となります)。

以上の考え方の背景がありますので、BさんやBさんのご家族に事情を説明し、民事裁判を起こす方針をとらせていただくことにしました。

民事裁判(交通事故損害賠償請求訴訟)

東京地方裁判所・さいたま地方裁判所・福岡地方裁判所が候補

民事訴訟法には「管轄」というパートの規定があります。

この「管轄」の規定によって、どの裁判所に民事裁判を起こせるのかが書いてあります。管轄の原則は被告の住所地とされていて(普通裁判籍 民事訴訟法第4条)、今回の交通事故では、トラック会社および加害者ともに東京都が住所地ですので、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することができます。

東京地方裁判所は日本で最も規模の大きい裁判所であり、交通事故のみを専門的に審理する、交通専門部があります(東京地方裁判所民事27部)。

また、交通事故のような不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、「不法行為があった地」を管轄としてよいとされていて(特別裁判籍 民事訴訟法第5条9号)、Bさんの件の交通事故現場は埼玉県戸田市でしたので、さいたま地方裁判所にも損害賠償請求訴訟を提起することができます。

さいたま地方裁判所には、交通事故のみを専門的に審理する交通専門部や、交通事故を多く取り扱う交通集中部というのはありません。

最後に、損害賠償金の請求など、財産権上の訴えは、「義務履行地」を管轄とすることができます(特別裁判籍 民事訴訟法第5条1号)。この義務履行地については民法に定めがあり、債権者の現在の住所において支払いをしなければならないということになっています(民法第484条)。

BさんやBさんのご家族は、交通事故の後に福岡県に引越しを行っていますが、訴え提起時点現在の住所を基準としますので、福岡地方裁判所にも損害賠償請求訴訟を提起することができます。

福岡地方裁判所にも、交通事故のみを専門的に審理する交通専門部や、交通事故を多く取り扱う交通集中部というのはありません。

福岡地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起

弁護士法人小杉法律事務所では、全国どこの裁判所でも対応しますので、交通事故被害者にとって有利な裁判所を選択していくことになります。

交通事故のみを専門的に扱う交通専門部に審理してほしいという場合は、東京地方裁判所民事第27部宛に損害賠償請求訴訟を提起することになります。

たしかに東京地方裁判所の交通専門部は交通事故損害賠償請求に詳しい裁判官が多いですが、チャレンジングな判決を出すことは少なく、どちらかというと、手堅い判決の方が多いような印象です。

Bさんの件では、長崎―埼玉―福岡の引っ越しがあり、その引っ越し費用や住居費用の請求も行うという特殊な面もありましたので、東京地方裁判所は対象から外しました。

次に、交通事故の遭った地を管轄するさいたま地方裁判所に提訴するか、現在Bさん家族が住んでいる地を管轄する福岡地方裁判所に提訴するかですが、両裁判所ともに交通部もありませんし、大きな差はありません。

担当する裁判官によりけりということになります。

規模の小さな裁判所でもない限り、訴え提起をする前から、どの裁判官が担当するか予測できるということもありません。

Bさんの例では、過失割合が争点になることはなく(Bさんは青信号横断歩行の一方的な被害者)、稀に行われる、交通事故目撃者の証人尋問などが開催される可能性がありませんでした。

他方で、どこまでの介護費用が必要なのかといったあたりは主要な争点となることが予想され、介護状況の現場を裁判官にみてもらうという可能性が0ではありませんでした。

また、さいたま地方裁判所よりも福岡地方裁判所の方が、知っている裁判官も多く、裁判官の傾向はつかみやすい状況にありました。

そこで、Bさんの件は、福岡地方裁判所を管轄として選択し、損害賠償請求訴訟を提起することにしました。

3億円を超える損害賠償請求を記した訴状とは?

民事裁判でも示談交渉と同様、約3億円の損害賠償請求内容を訴状に記しました。弁護士費用や遅延損害金が乗る分、示談交渉時の請求額よりも高くなります。

訴状の概要は下記のとおりとなります。

交通事故の内容を刑事記録に基づいて詳細に説明し、被害者に過失割合がないことと慰謝料増額事由を主張立証

民事裁判を起こす前に、検察庁より交通事故の刑事記録を取り寄せて置き、これを利用して、被害者に過失割合がないことと、平均的な交通事故よりも加害者の運転が悪質で、かつ、被害者があまりに無念であることを主張立証していきました。

具体的には、被害者は対面信号が青表示に変わってからベビーカーをひいて横断歩道上を進行していたところ、まったく横断歩道上の歩行者の動静を確認しなかった加害者運転のトラックが一度もブレーキをかけることなく漫然進行し、被害者の頭部を轢過したことや、とっさの判断で、子どものベビーカーを投げ出し、自身の脳損傷と引き換えに子どもを守ったことなどを説明しました。

この刑事記録上の立証に加えて、Bさんのご主人の陳述書も提出し、命がけで子どもを守ったにもかかわらず、子どもからは「お母さんは学校にこないで」と言われるなどしているエピソードを紹介し、いかに交通事故被害者Bさんの精神的苦痛が大きいかの説明も行いました。

カルテや陳述書に基づいて交通事故後の家族が生活状況が一変したことや家族による付添介護の必要性を主張立証

交通事故後、何度も手術が繰り返されたこと、ご主人が泣き崩れていたことなどをカルテから立証し、傷害慰謝料の増額事由や、近親者慰謝料の根拠自由を整理して主張立証しました。

そして、膨大なカルテ量の中から、Bさんが看護師に行った、暴力・暴言・ナースコール連打・突然叫び出すなどの奇行をすべてピックアップして、Bさん自身の精神的苦痛の慰謝料を裏付けると共に、家族が24時間付き添わなければ精神的にもたなかったことなどを主張立証して、Bさんのお父様・お母様の飛行機代・埼玉県での家賃などの請求根拠をそろえました。

様々取り付けた後遺障害関係資料から後遺症の内容と将来も治療費や介護関係費用がかかることを主張立証

自賠責保険より高次脳機能障害として後遺障害等級別表一第2級1号の認定を受けていることを説明したうえで、主治医やBさんご家族作成証拠から、今後も治療・リハビリや、介護用品の購入等をしていかないと、後遺症の状態が悪化することなどを主張立証していきました。

オムツ代から入浴用品といった細かい損害費目についてまで、今後の約50年以上にわたる期間分をすべて計算

法律相談時のアドバイスに従い、オムツ代から入浴用品といった細かい損害費目まで、すべてレシートを保管してもらっていましたので、これを計算して、雑費や装具・器具等購入費の請求を行いました。

そして、これらについては、それぞれの損害費目について、買替回数が異なりますので、買替回数ごとに中間利息控除を行って、向こう50年以上にわたる平均余命期間の計算を行い、将来分の主張立証も行いました。

家屋改造・自動車購入などの大きな損害費目についても丁寧に主張立証

Bさんの症状からして、その家を選ぶ必要があった、その改造を施す必要があった、その自動車を買う必要があった点を細かく丁寧に主張立証していきました。

交通事故がなければ訪れたであろう被害者や被害者家族の未来についても丁寧に主張立証

Bさんは薬剤師資格をお持ちですので、お子様が大きくなった後は、薬剤師に復帰することを考えていました。

この交通事故以前に抱いていたライフプランを丁寧に立証し、お子様が大きくなるまでは主婦としての家事従事者休業損害・逸失利益を請求し、お子様が大きくなった後は、薬剤師の給与をベースとした基礎収入額にて逸失利益の計算を行いました。

また、主に近親者慰謝料の裏付けとして、お父様お母様の長崎でのライフプランや、ご主人の公務員としてのキャリア形成プランが失われたことについての説明も行いました。

お子様の面倒部分についても損害賠償請求化

交通事故後は、Bさんの介助のため、ご主人のお父様・お母様がお孫さんの面倒を見ざるを得ない状態となりました。

当該部分についても、お子様の監護料を認めている裁判例をもとにして損害賠償請求を行いました。

弁護士小杉晴洋の勝訴確信

担当パラリーガルの協力を得て、以上の内容を記載した訴状を完成させ、Bさんやご家族への説明も行い、福岡地方裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起致しました。

被害者側に不利な裁判例からすると、損害賠償金が1億円程度にとどまることもあり得ましたが、弁護士小杉としては、訴状の出来に満足していましたので、損害賠償金2億円は固いと確信していました。

加害者側保険会社の顧問弁護士からの反論

裁判になると保険会社の担当者は代理人として登場できませんので(弁護士法違反として犯罪となります。)、裁判が開始されてからは、保険会社の顧問弁護士が相手になります。

加害者側の保険会社顧問弁護士は、こちらの訴状に対して、徹底的に反論をしてきました。

反論の概要は下記のとおりです。

1.通常の交通事故の範疇であり慰謝料増額事由などない。
2.入院中は看護師が付き添うものであり家族の付添いは法的に無意味である。
3.関東に行ったり福岡に行ったりする医学的な必要性はなく、ただの引っ越しである。
4.症状固定後のリハビリで回復傾向にあり後遺障害等級は5級2号が妥当である。
5.被害者の後遺症の程度からすれば、将来の治療費や介護関係費は一切認められない。
6.オムツ代などが請求されているが、これは被害者の父母の購入費ではないのか。
7.被害者の後遺症の程度からすれば、家屋を改造する必要はないし、自動車を買う必要もない。
8.被害者の後遺症の程度からすれば、家族の精神的苦痛は認められない。
9.監護料の損害賠償請求など認められず、ただの孫の面倒である。

6.など失礼な内容の反論も含まれ、真っ向対立となりました。

原告側(被害者Bさん側)・被告側(加害者保険会社側)で準備書面のラリーが続き、いよいよ裁判所和解案が示される裁判期日を迎えることになります。

裁判所和解案:「被害者の後遺障害等級は5級2号である」(被害者側弁護士vs証拠を読まない裁判官)

原告側・被告側提出の主張書面や証拠を見て、裁判所が出した結論は、「被害者の後遺障害等級は5級2号である。」というものでした。

和解金の提案は1億円ちょっとで、示談交渉時の保険会社側示談提案額とさほど変わりませんでした。

私の勝訴見立ては外れたわけですが、まっったく理解ができず、怒りがこみ上げてきました。

別冊判例タイムズ38号によれば、自賠責の後遺障害等級認定を受けている場合には、加害者側から十分な反証がない限りは、自賠責保険認定の後遺障害等級を前提に損害賠償請求訴訟の審理・判断を行うといったことが記されています。

ところが、この訴訟では、被告側からの医学的意見書などの新たな証拠提出はなく、被告側の主張は、専らカルテに基づく主張のみでした。

どの証拠からそういう和解案になるのかを法廷の場で尋ねましたが、ごにょごにょとした返答内容で、何を話しているかよくわかりません。話を聞いていくうちに、「この裁判官は証拠を読んでいないな」ということの確信が持てました。

原告側の提示する証拠を甲号証といいますが、提訴時の段階から甲号証は150近くとなり、そのうちの1つの号証を取って見ても、数千枚にも及ぶカルテ量などでしたから、確かに証拠量は膨大なものとなっていました。

ですが、交通事故によって突如生活を一変させられた被害者本人やその家族の民事裁判を、「裁判官も忙しいからしょうがないですね」では片づけることはできません。

ここで、頭をよぎった方針は大きく3つです。

1つ目は、「この裁判官が異動になるまで審理を引き延ばす」です。証拠も読まない裁判官にBさんの件の判断を任せるわけにはいきません。そして、裁判官というのは3年(早ければ2年程度)で他の裁判所へ異動となります。ですので、この証拠を読まない裁判官が異動するまで裁判審理を続け、異動後に赴任した裁判官に改めて審理・判断をしてもらうという方針が考えられるのです。

しかし、異動期間が2年であれば、もうすぐ異動となりますが、原則どおり3年だとすると、まだ1年以上この裁判官の審理が続きます。和解案が出た状況から1年以上引き延ばせない可能性もあり、この方針は却下としました。

2つ目は、「早く判決を出してもらって、速やかに控訴する」です。第一審の福岡地方裁判所の判決が不当な場合は、第二審(控訴審)の福岡高等裁判所が一審判決を破棄してくれます。私は暫定的にこの方針をとることにしました。そこで、「この和解案は依頼者に確認するまでもなく飲めませんので、早く判決出してください。控訴します。」と裁判官に詰め寄ったところ、裁判官はたじろいでいて、「まあ暫定的な和解案なので」「たたき台みたいなものですので」と言い訳のような口調を始めるようになりました。

「これは?」と思い、3つ目の方針でいくことにしました。

3つ目は、「追加証拠を提出して、和解案を変更させる」です。

証拠を読まない裁判官と揶揄していますが、一切読んでいないわけではありません。また、この裁判官はいわゆる部長クラスの裁判官で、裁判官歴は30年近くになります。裁判官も一度出した和解案について、何の追加証拠もなしに、判断を変えるようなことはしません。

他方で、暫定的な和解案なのであれば、追加証拠さえありさえすれば、和解案を変更することが容易になります。「私の当時の判断は決して間違っていなかったが、新しい証拠が出たため、和解案を変えたのである。」と裁判官に正当性を保たせてあげることができます。

証拠を読まない裁判官にそこまでの配慮をする必要はないかもしれませんが、交通事故被害の適切な解決のためには、裁判官とのケンカだけでなく、裁判官に花を持たせることが必要な時もあります。

そこで、どの点が暫定的な心証なのかを裁判官から聴き取り、当該争点に向けた新たな証拠づくりをすることにしました。

逆転勝訴和解のための新たな証拠を入手する

1:主治医から医学的意見書を取り付ける

リハビリーテーション病院へ医師面談

逆転勝訴和解のための新たな証拠として、主治医の医学的意見書を訴訟戦略として考えました。

そのためには、主治医と裁判上の争点に付いて共有を行い、当該争点に関する主治医の医学的な見解を聞かないといけません。

事前に病院と大まかな話をつけた上で、弁護士小杉、Bさん、Bさんのご主人、Bさんのお父様・お母様の5人で医師面談に赴きました。

医師面談では悪い意味で予想外の見解というものはなく、むしろ、私の知らなかったような医学的知見も教えていただき、非常に有意義な医師面談となりました。

この医師面談で伺ったお話を医学的意見書にまとめる作業があるのですが、主治医の先生というのはお忙しく、また、おっしゃったことを忘れていることもあるので、弁護士法人小杉法律事務所では、医師から伺ったお話のメモを元にたたき台原稿を弁護士が作るという運用を取ることが多いです。

これにより、争点に対する法的に的確な証拠を作る基本形ができますし、お忙しい医師の先生のお手を煩わせることも防げるので一石二鳥です。

なお、医学的意見というのは医師にしか書けないものですから、医師面談で医師が話していないことを弁護士が勝手に書くのはご法度です。

万が一こちら側に記憶違いがあったり、若しくは、医師の方でここまでは書面では表現できないという部分があった場合には、医師に訂正してもらっています。

この医学的意見書作成のやり取りは、医師―弁護士間で、メール・郵送・FAXのいずれかで行うことが多いのですが(電話を併用することもあり。)、Bさんの件では、郵送とメールにて医学的意見書作成のやり取りを行いました。

裁判官の和解意見を変える医学的意見書(高次脳機能障害)の完成

弁護士小杉が作成した意見書案について、主治医の先生が加筆意見をくださり、証拠として提出できる医学的意見書が完成しました。

概要は下記のとおりです。

1.当院での入院における近親者付添いの必要性について当院入院中の近親者付添いについて、医学的必要性があったと判断しております。

Bさんは、入院時は今現在よりも落ち着きがなく絶え間なく話し続けるなど情緒不安定な状況であり、院内において転倒事故を起こすリスクも高かったことから、当院が完全看護とは言え、24時間の見守りは困難であり、近親者の方の付添いが必要であったと判断しております。

2.歩行関連介助なしで自立して歩行が可能となったという事実はありません。

Bさんは、現時点においても、左下肢に麻痺があるという点、注意抑制障害が存在するという点で転倒リスクがより高まっており、慣れた室内整地歩行は見守り~修正自立となってきましたが、不慣れ、不整地などでは夫もしくは親の介助が必要です。

特に膝折れによる転倒リスクが高く、これについては介助が必要な状況となっています。

3.判断力・持続力関連Bさんには、判断力や持続力の低下が見られました。これは現在も続いております。

判断力・持続力は、脳挫傷からの注意抑制障害から生じる症状です。入院中の診療録の記載で言いますと、

・注意が逸れることで体幹の動揺著明
・持続的な課題に対しての集中困難
・タオルをたたむことはなんとか可能であるが服など複雑になると難しい状態
・更衣について前後反対
・失禁に落ち込む様子もなく多弁に話す
・下半身全裸でベッドで臥床したまま
・指示がないと状況判断困難であり2重課題を要する物品操作が困難である場面が多々見られる
・床上動作において指導された動作を自己流でやってしまい転倒の危険があり母親の監修が必要

このあたりの記載が注意抑制障害の表れということができます。

これらは現在も続いていて、端的に言うと、小さい子どもと同様と考えてもらえれば分かりやすいと思います。ずっとそばにいて、これをやりなさいと言い続ければ服をたたむなどの作業もできますが、本人1人にやらせても、中断したり不充分だったりなどやり遂げることはできません。これはBさんのような右半球障害の患者さんに残りやすい障害です。自身をコントロール(抑制)できない状態になっています。

4.神経系統の障害に関する医学的意見について画像所見及び脳波所見については1記載のとおりです。

神経心理学的検査については2記載のとおりです。見当識や記銘力は保たれるも前頭葉機能や情報処理能力低下ありという点は、現在も同様です。

運動機能については3記載のとおりで、現在も同じ状態です。

身の回りの動作能力については、4記載のとおりです。現在は、入浴動作については改善の可能性があります。具体的には、「3.ほとんどできない/大部分介助」から、入浴環境の設定状況によっては「2.ときどき 介助・見守り・声かけ」に近づく可能性があります。また、屋内歩行についても若干の改善が見られます。

例えば、当院玄関口から1階診察室までといった、傾斜のない整備された床を歩行する分には、杖・装具使用にて可能となっており、てつなぎをして歩行する必要はありません。ただし、屋内歩行であっても、注意抑制障害があり、他者とぶつかる可能性があり、自立ではありません。特に慣れない環境ですと顕著になります。また、当院玄関口から1階診察室までの歩行であっても、杖の使用や装具装着は必須です。屋外歩行については、「3.てつなぎ/装具/車イス」と記しております。例えば、自宅から当院まで車でお越しになって、院内整地歩行ということであれば、車イスは不要ですが、現在も外出時など刺激の多い場所、不整地では車イスが必要な状況となっています。他の項目については、現在も同じ状況です。

てんかん発作については5記載のとおりです。なお、視界が赤くなったという症状の発現については、てんかん発作の可能性があると考えております。

認知・情緒・行動障害については、6記載のとおりです。現在は、若干の改善が見られます。具体的には、「14 ちょっとしたことですぐ怒る」については、「3中等度/ときどき」から「2軽度/稀に」に程度が下がったように思われます。また、「19 夜、寝つけない、眠れない」についても回復傾向が見られます。その他の点は、現在も同様です。

社会生活・日常生活に与える影響については、7記載のとおりです。先に述べましたとおり、現在も小さい子どもと同様という状況ですので、特に母親の介助なしには生活できない状況となっています。

全般的活動および適応状況については、8記載のとおりです。現在においても、自立した生活すらできていませんので、薬剤師としての復帰は到底不可能です。アルバイト程度の仕事であっても不可能です。まずは、自立した生活に近づけることが必要で、就労は不可能な状態にあります。家事については、本人に絶えず声掛けをすれば一部遂行可能な状態ではありますが、基本は、母親ないし父親が行っているという状況が続いております。

以上のとおりですので、短距離の屋内歩行、すぐ怒ること、睡眠について若干の改善は見られるものの、症状固定時と現在の状況に大きな差はなく、飛躍的な改善があったとは到底いえない状況となっています。

症状固定時以降の印象としましては、歩行訓練に対しては熱心ですが、日常生活全般において改善は見られず、介助・見守り・声掛けが必要な状況が続いています。

5.裸足歩行について当院のリハビリにおいて、Bさんが屋外で裸足歩行をしたことはありません。機能訓練の一部としてリハビリ室内でリハビリスタッフの介助による裸足訓練をすることはありますが、実用レベルではありません。訓練で行っている時以外は常時装具着用が必要です。

6.メディカルフィットクラブの利用について医学的に見て、成果は出ているものと思われます。当院の院内整地を杖の使用及び装具装着のみで歩行できるようになったのは最近のことですので、トレーニングの効果が出ていると考えて差支えないように思います。通所系のリハビリ・トレーニングは、身体機能の維持・向上に対して、効果があるのが一般的です。

Bさんの場合、高齢者のように介護保険を利用できず、また若年者向けの障害者通所系のサービスが少なく、機能訓練も行われていないため、当院と隣接するあいあい倶楽部を利用することは妥当なものであると考えます。

頻度については、介護保険利用の高齢者の方で要介護認定となれば、週4回程度通所系のサービス利用が可能ですので、週3回の利用が、不相当であるとはいえないと考えます。

7.当院以外の病院での治療について当院はリハビリが主ですので、症状が急変した場合や精密な検査を実施する必要がある場合として他の提携先総合病院を受診してもらうことにしております。

8.通院付添いの際の付添人の人数について先に述べましたとおり、現在は、自宅から当院まで車でお越しになって、当院院内移動では車いすは不要となっております。また玄関で降車後ロビーで付き添い者が車を駐車場に入れ、ロビーに来るまで椅子に座って待つことも可能ですので、付き添いは1名で可能かと思います。

ただし、退院時~症状固定時は、外出の際は車イスが必要であり、一ヶ所で1人で待機することが困難な状況でしたので、自宅マンションから車に乗り込む過程、病院に到着して車から降ろす過程を考えると、お父様お母様のいずれか一方では足りず、2名の付添いが必要であったと考えます。

9.父・母との生活から夫・子どもとの生活への切り替えについて現在、家事動作はほぼすべて両親に依存している状態です。

家事や子どもの世話ができる状態ではありません。

お父様お母様共にお元気ではありますが、やがて老化によりBさんの介助は困難になると考えられ、また、将来旦那様とお子様と一緒に暮らすという通常の家族形態に戻ることを考えた場合、家事代行を含め職業付添人への依頼が必須となると考えます。

10.装具・器具関係手すり・入浴用品・杖・下肢装具・車イスなどの補助具については、生涯必要となるものと考えられます。

ベッド関連については、手すりの備付けは生涯必要ですが、手すりなど補助具がしっかり備え付けられていれば、必ずしも介護用ベッドを使わなければいけないということではありません。

歩行器については現在使用しておらず、今後も買換えながら生涯使用し続ける必要性はございません。

車イスについては、ドアtoドアで短距離の移動のみをするといった場合以外の屋外での中・長距離移動の際には必要ですので、生涯使用することになると思われます。

11 日常生活機能評価表について日常生活機能評価というのは、床上での安静を指示しなければいけないレベルかどうか、どちらかの手を胸元まで持ち上げられるかどうかといった日常生活を送る上での極めて基本的な項目についての評価です。完全介護が必要であるか否かといったか介護レベルを確かめるためのものであって、家事ができるか仕事ができるかといった社会的に自立できるか否かを判断するための評価ではありません。先ほど説明しました神経系統の障害に関する医学的意見についてと看護師記載の日常生活機能評価表は矛盾するものではありません。

Bさんは、障害等級のレベルとしては2級が相当で、これは症状固定時だけでなく現在でも変わりません。

Bさんの運動機能は神経系統の障害に関する医学的意見について記載のとおりで、現在も同じ状況が続いています。左上肢は廃用で、左下肢の筋力は5段階中、股伸展・足伸展が0で、股屈曲・膝屈曲伸展・足屈曲は2という状態です。また、1人での外出は不可能で、外出の際には他人の介護を必要とします。

逆転勝訴和解のための新たな証拠を入手する

2:介護状況の撮影を行い証拠化する

Bさんの介護状況を説明するためのご家族の陳述書は提出していましたが、裁判官により実態を知ってもらおうということで、日頃の介護状況の撮影をさせていただきました。

裁判官と話し合いをした際に、自宅まで赴いてもらって、介護状況を実際に見てもらうことを提案したのですが、裁判官はやや消極であったため、撮影物を証拠として提出する方針へ切り替えました。

我々にとって当たり前の話ですが、当該映像を見た裁判官は、Bさんの生活の大変さに驚いている様子でした。

また、装具・車いす・入浴介護用品・介護用ベッド・手すり・自動車など、介護関係の物についても、その物の様子や使っている様子などを撮影しました。

約2億5000万円の勝訴和解

以上2方面からの新たな証拠を提出したところ、後遺障害等級は5級2号ではなく、2級1号という判断に覆り、無事に勝訴和解となりました。

介護関係費など一部損害は制限を受けたものの、訴状の記載に近い方で認められました。

後遺障害等級以外の和解のポイントは下記の10個です。

1.装具代が全額認められた。
2.家族の付添介護費が認められた(入院付添+通院付添+自宅付添)。
3.家族の移動の際の航空券代などがすべて認められた。
4.両親の転居費用も全額認められた。
5.被害者本人の強い精神的苦痛が認められ慰謝料に反映された。
6.近親者慰謝料のみで1250万円の高額認定となった。
7.逸失利益について、薬剤師資格を有していたという点が評価され、主婦ベースよりも高い算定となった。
8.症状固定後の治療費や将来治療費の認定がなされた。
9.将来介護費の認定もなされた。
10.家屋改造費も認められた。

以上の10個ポイントが重なり、総額としては約2億5000万円の損害賠償金を裁判上の和解にて受け取ることができるようになりました。

交通事故被害者Bさんのご家族の声

旦那様
家族の幸せな生活が交通事故によって大きく変化、妻は変わり果てた姿となり、子どもたちとは離れ離れになり、私自身もう耐えられないと思うことが何度もありました。ただ、一番つらいのは本人ですので、私が気をしっかり持たねばと奮い立ち、引越しや転職の決断をして、新生活をスタートさせました。はじめは子どもたちにも戸惑いが見られ、自分たちの知っているお母さんではないという想いがあったようですが、やはり母子の絆は深く、いまでは一緒に家事をしてみたり、妻も子供も楽しそうに過ごしています。重い後遺症を抱えながらも、懸命に生き、幸せな家庭生活を築こうと頑張ってくれています。損害賠償金をいくらもらっても、私たちの両親も年老いますし、私たち自身も年を重ねますから不安はありますが、小杉先生には、良い解決をしていただいて、感謝しております。

お母様
可愛い一人娘ですから、これからもリハビリに付き添い、私が死ぬまでの間に、少しでも身体の機能を回復させて、旦那や孫たちにバトンタッチしたいと思います。裁判ではストレスのかかるようなこともありましたが、最終的には、私たちの苦労を裁判所が分かってくれてよかったと思います。

逆転勝訴和解のための新たな証拠を入手する