死亡事故で慰謝料請求できる家族は何人まで?賠償金はいくらになる?
死亡事故被害者Cさん 30代・男性・現場作業員・北九州市小倉南区
交通事故 労災事故 死亡事故
Cさんは福岡県北九州市小倉南区での交通事故によって帰らぬ人となってしまいました。
Cさんには妻や子供のほか、兄弟や父母もいました。
死亡事故が生じた場合、損害賠償請求ができる家族の範囲というのは何人までなのでしょうか?
また、慰謝料額などの損害賠償金はいくらになるのでしょうか?
小杉法律事務所における実際の解決事例に沿って代表弁護士小杉晴洋が解説していきます。
他にも、Cさんの事例に沿いながら、①弁護士選びの注意点、②死亡事故における弁護士との委任契約の内容や注意点、③加害者の刑事処分への遺族の関与などについても解説しています。
小杉法律事務所では、死亡事故被害に遭われたご遺族の方の法律相談を専門的に取り扱っております。
無料の法律相談を行っておりますので、お問い合わせください。
死亡事故の内容(福岡県北九州市)
Cさんは、仕事現場に向かうべく、同僚の運転する車に乗車していました。
福岡県北九州市内の高速道路を走行していたところ、ふらつきながら走行するDの車に衝突されてしまい、Cさんは亡くなられてしまいます。
弁護士選び
どこがいいか分からないので近くの弁護士に依頼
加害者Dからはろくに謝罪もなく、Cさんのご家族は悲しみに暮れます。
Cさんのご家族は、自分たちではどうしたらよいのか分からなかったので、弁護士に依頼をすることにしました。
ただ、弁護士の選び方というのが分からず、家族で悩みます。
悩んでいても進まないので、近くの法律事務所に問い合わせをして、そこの弁護士に依頼をすることにしました。
弁護士に依頼しても何も進まない
Cさん家族は、近所の弁護士に依頼をし、ようやく少し安心することができました。
ところが、依頼した弁護士からは、全然連絡がなく、依頼した死亡事故についてどう進んでいるのか・何が行われているのかまったく分からない状況が続きました。
法律相談の際「これは弁護士が入った方がいいですね」という説明を受け、相談料も着手金も無料であったためお願いをしましたが、今後の流れについて教えてもらうこともなかったため、これからどう進んでいくのかも分からない状況でした。
加害者は謝罪をしないどころかウソをつきはじめた
依頼した弁護士から連絡がないだけでなく、加害者Dからも謝罪の連絡はありませんでした。
こんな不安な状況で過ごしていたところ、労働基準監督署から1通の手紙が届きます。
そこには、加害者Dから衝突したのではなく、Dは追突事故の被害者である旨記されていました。
Cさんサイドが、追突事故の加害者であるというのです。
Cさんの父親は、死亡事故の状況を運転手から聞いて知っていましたので、このDのウソに激怒しました。
弁護士を変えたい
「弁護士に依頼したのにいったいどうなってんだ」と不安に感じたCさんの父親は、死亡事故に強い弁護士に依頼しなければダメだと思い、市外の法律事務所まで視野に入れた弁護士選びを始めます。
他のご家族は「一度弁護士さんに依頼をしてしまったのに変更できるのか?」と不安に思っていましたが、動いてみないとわからないと考えたCさんの父親は、いくつかの法律事務所に電話で問い合わせをしてみました。
何日も市外に出ている時間もなかったので、1日のうちに何軒かの法律事務所の相談予約を行いました。
Cさんのご家族は、みなCさんのことが大好きで、この死亡事故事件に強い関心を有していましたので、Cさんの父親だけでなく、妻や母親・兄弟も法律相談に一緒に行くことにしました。
弁護士小杉晴洋による法律相談
Cさんご家族からの質問に一つ一つ回答
Cさんご家族は大勢でいらっしゃり、みなさんそれぞれに、不安や疑問があったようでしたので、それらに一つ一つ回答していきました。
Q:加害者が交通事故の内容でウソをついているがどうしたらいい?
A:労働基準監督署に虚偽である旨の手紙を出し、かつ、刑事裁判に被害者参加する。
Cさんのご家族より、労働基準監督署より届いたという手紙を見せてもらいました。
確かに、そこには加害者Dが追突事故被害に遭ったという交通事故態様が記されていました。
死亡事故というのは「死人に口なし」の状況となりますので、被害者が直接交通事故内容を説明することができません。
それを良いことに、加害者の側が自身に都合の良い交通事故内容を説明するといった事態が生じることがあります。
この加害者の言い分がウソである場合は、亡き被害者が浮かばれませんので、断固として戦う必要があります。
そこで、まず労働基準監督署に対して、加害者Dの言い分がウソであることの手紙を出した方が良いと説明しました。
また、まだ起訴はされていないということでしたので、捜査担当の警察官や検事と密に連絡を取り、捜査状況を把握するべきという説明をしました。
その上で、刑事裁判に被害者参加をして、謝罪もなく虚偽説明までする加害者Dの悪質性を話すべきであるとい提案をしました。
Q:今後の流れはどうなるの?
A:まずは刑事手続。その後民事の損害賠償請求を行う。最後に労災保険申請。
一般的な死亡事故の解決までの流れ
交通事故や死亡事故において弁護士が被害者・ご遺族から依頼を受ける場合というのは、基本的には民事の「損害賠償請求事件」の依頼を受けるということになります。
民事の損害賠償請求というのは、まず示談交渉を行って示談解決を目指し、示談解決できない場合には訴訟を提起して、裁判解決を行うという流れになります。
他方、刑事手続面では、交通事故はわざと人を傷つけたというものではないので、殺人罪や傷害罪などと比べ、加害者(加害行為)の悪質性が低いものとされています。
従いまして、刑事手続では「不起訴処分」となることが多く、悪質な事例でも「略式命令」という罰金刑に科せられるにとどまるということが多いです。
こうした事例では、検察庁から閲覧謄写可能な捜査資料などを取り付け(実況見分調書など)、それを民事の損害賠償請求の証拠として利用していくという流れで進みます。
ただし、死亡事故では被害者の命が失われていますので、「起訴」される事例もございます。
起訴がされると刑事裁判が開かれますが、そこに被害者遺族が参加することができますので、刑事裁判で遺族側の主張を伝えて、刑事裁判の判決に影響を及ぼすことができます。
そして、この刑事裁判の判決は、民事の損害賠償請求にも影響を与えます。
従いまして、死亡事故においては、まずは刑事裁判への参加を検討して、その後、民事の示談交渉、示談が決裂したら民事の裁判と進んでいくことになります。
被害者Cさんの事例における刑事手続への参加
Cさんの事例でも、刑事裁判への参加の後に、民事の損害賠償請求を行った方が良いという一般論が当てはまります。
特にCさんの事例では、加害者Dは追突事故の被害者であるかのように振る舞っている危険性が高いといった事情がありますので、この虚偽情報を元に捜査が進められないよう捜査担当警察官や検事とコミュニケーションをとっておくことが重要ということになります。
また、警察官や検事が真の事故態様を元に捜査活動をしてくれたとしても、加害者Dがウソをついていたという情報は警察官や検事に共有しておかないといけません。
他方、警察官や検事が、加害者Dの供述どおりDは追突事故の被害者であるという心証を持っていた場合は、起訴されることはありませんので、そうした事態に陥ってしまった場合には、こちらで資料を集めて検察審査会への申立てを行う必要が出てきます。
小杉法律事務所では、死亡事故において当初の不起訴判断に対して検察審査会への申立てを行い、「不起訴不当」の議決を得た上で、その後加害者を起訴したという解決事例がございますが、これは最終手段で、長い年月を要してしまいますから、まずは捜査担当検事に不起訴判断をさせないことが重要です。
刑事裁判→民事損害賠償請求と続き最後は労災保険申請
刑事裁判が終わったら、その結果や資料を元にして民事の損害賠償請求(示談or裁判解決)を行います。
民事の損害賠償請求が終わったら、それで解決となるのが通常ですが、仕事中の死亡事故や通勤中の死亡事故の場合には、労災保険に対して遺族(補償)給付の申請ができます。
民事の損害賠償請求を解決する前に労災保険の遺族(補償)給付の受給をすることもできますが、労災保険から受給された遺族(補償)給付は、結局損害賠償請求の中の死亡逸失利益から引かれてしまうので、民事の損害賠償請求を解決する前に労災保険の遺族(補償)給付申請をしておくメリットはありません。
小杉法律事務所では、支給調整期間は7年とされていますので、示談書の文言や裁判上の和解文言などに留意しつつ、民事の損害賠償請求の解決後に、労災保険に対する遺族(補償)給付の申請を行うことを推奨しています。
また、小杉法律事務所では、弁護士資格+社会保険労務士(社労士)資格を有する木村治枝がおりますので、労災保険の申請手続も行うことができます。
Q:誰が慰謝料請求できるの?
A:相続人(配偶者と子供)以外の親や兄弟や祖父母も慰謝料請求できます
被害者本人の損害賠償請求権を相続分に応じて相続人が取得
死亡事故で1番精神的苦痛を被っているのは、お亡くなりになられた被害者ご本人です。
日本の損害賠償請求の原則的な考え方では、被害者ご本人に慰謝料請求権が発生し、それを相続人が取得するとされています。
被害者Cさんの事例では、妻と子供がいますので、被害者Cさんに発生した損害賠償請求権を、妻子で相続分に応じて分け合うということになります。
被害者本人の慰謝料とは別に近親者にも慰謝料が発生
以上が原則的な考え方となりますが、死亡事故の場合は、被害者本人のみならず、「被害者の父母、配偶者及び子」にも独自の慰謝料請求権が発生するとされています(民法第711条)。
そして、民法第711条に規定されている①父母・②配偶者・③子供以外の者であっても、これらの者と実質的に同視できる身分関係が存在し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者については、民法第711条を類推適用することにより、独自の慰謝料請求権が発生するとされています(最高裁判所昭和49年12月17日民事裁判例集28巻10号2040頁参照)。
従いまして、①父母・②配偶者・③子供については、民法の規定上、独自の近親者慰謝料を請求することができ、また、それ以外の兄弟姉妹・祖父母といった家族についても、「①父母・②配偶者・③子供」と実質的に同視できるほど近い関係であることを立証することができれば、独自の近親者慰謝料を請求することができます。
被害者Cさんの事例では7名の近親者慰謝料請求が可能
被害者Cさんには、父・母・妻・子供3名がいますが、被害者Cさん自身の慰謝料請求権を相続できるのは妻と子供3名ということになります。
そして、独自の近親者慰謝料については、民法第711条の規定によって、父・母・妻・子供3名の計6名が請求していくことが可能となります。
また、法律相談にはCさんのお兄様が同席されておりましたが、Cさんのとの関係性を聞くと、幼い頃からずっと一緒に過ごしており、仕事も一緒に行っていたという関係で、父母の関係性と実質的に同視できるほどの濃い関係性であることが分かりました。
また、刑事裁判には兄弟姉妹も被害者参加できますので、Cさんのお兄様には、刑事裁判への被害者参加にも加わってもらった上で、近親者慰謝料請求の原告にも加わってもらうことを提案しました。
Q:損害賠償金はいくらもらえるの?
この点については、Cさんご遺族から直接質問をされたわけではありませんが、こちらから損害賠償請求金額の概算の説明をさせていただきました。
なお、死亡事故における損害賠償金の種類や内容の説明はこちらのページをご覧ください。
また、詳細は後に述べますが、Cさんの事例における損害賠償金は合計1億円を超える内容となりました。
Q:弁護士は途中で変えられるの?
A:弁護士は途中で変えられる。
弁護士との契約というのは、「委任契約」という契約類型に位置付けられます(民法第643条以下)。
この委任契約については「各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と定められています(民法第651条1項)。
従いまして、既に弁護士に依頼していたとしても、委任契約を解除することができます。
そして、委任契約解除後は、弁護士を依頼していないという状態に戻りますので、他の弁護士に依頼しなおすことが可能となります。
なお、当事務所では、これまで依頼していた弁護士さんを変更して、小杉法律事務所に依頼しなおしたという事例が多数ございます。
委任契約というのは信頼関係に基づくものとされています。
また、弁護士との委任契約の対象というのは、紛争解決です。
そこで、いま現在依頼している弁護士よりも①信頼関係を築けそうか、②依頼の対象について専門性を有しているかといった視点で、弁護士を変えるかどうかを判断するのが良いと考えます。
①信頼関係を築けるか否かについては、人と人との相性というものがありますから、実際法律相談をしてみて、ご自身の目で確かめられると良いと思います。
②専門性を有しているかどうかは、弁護士から受けた法律相談の説明内容を聞いて判断されるのが良いと思います。
「弁護士を変えたい」というご相談に対しては、我々弁護士もある程度の警戒心をもって臨みますが、Cさんのご家族の事例は、こちらも力になりたいと思うような事例であり、かつ、小杉法律事務所の専門性の活きる分野でしたので、弁護士変更によって依頼を受けることが可能と判断しました。
依頼手続
被害者Cさんのご遺族からの依頼
Cさんご家族からの質問に対して一つ一つ弁護士小杉の見解を伝えていったところ、「よく分からずにモヤモヤしていたところが、すっきりした。ぜひ刑事手続含めて一緒に戦ってほしい」とおっしゃっていただきました。
ご依頼(委任契約の締結)にあたっては、どのような種類の事例であっても、①委任契約書と②委任状の取り交わしが必要となります。
①委任契約書は、依頼者と法律事務所との間で弁護士費用の基準などを決めるもので、対内的なものとなります。
②委任状は、加害者側の任意保険会社や裁判所に対して、代理人であることを示すために必要となるもので、対外的なものとなります。
死亡事故の委任契約書
弁護士費用特約ありの事例の弁護士費用
弁護士費用特約が使える事例ですと、着手金・弁護士報酬・実費などの弁護士費用は、保険会社が支払ってくれます。
そして、保険会社の多くは、日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)と協定を結んでおりますので、どこの保険会社であったとしても日弁連リーガル・アクセス・センター統一の着手金・報酬金基準が設けられています。
従いまして、弁護士費用特約ありの事例ですと、どこの法律事務所に依頼しても、弁護士費用基準は一緒になることが多いです。
具体的には、下記の着手金・報酬金水準とされることが多いです。なお、日弁連リーガル・アクセス・センターに加入していない大手損害保険会社としては東京海上日動火災保険株式会社が挙げられますが、タイムチャージ方式の契約ができない(その代わり最低報酬22万円)といった些細な違いがあるだけで、基本的には下記着手金・報酬金水準と同じと考えていただいて構いません。
着手金(消費税込)
経済的利益が125万円以下の場合 | 11万円 |
経済的利益が125万円を超え300万円以下の場合 | 経済的利益の8.8% |
経済的利益が300万円を超え3000万円以下の場合 | 経済的利益の5.5%+9万9000円 |
経済的利益が3000万円を超え3億円以下の場合 | 経済的利益の3.3%+75万9000円 |
経済的利益が3億円を超える場合 | 経済的利益の2.2%+405万9000円 |
報酬金(消費税込)
経済的利益が300万円以下の場合 | 経済的利益の17.6% |
経済的利益が300万円を超え3000万円以下の場合 | 経済的利益の11%+19万8000円 |
経済的利益が3000万円を超え3億円以下の場合 | 経済的利益の6.6%+151万8000円 |
経済的利益が3億円を超える場合 | 経済的利益の4.4%+811万8000円 |
弁護士費用特約なしの事例の弁護士費用
弁護士費用特約なしの事例では、特に弁護士費用のルールというのはありませんので、依頼する弁護士ごとに着手金や報酬金の算定基準は異なります。
相談料や着手金を0円とする法律事務所もあれば、相談料30分5500円・死亡事故の着手金は330万円とする法律事務所など様々です。
また、弁護士報酬基準というのは、以前は日本弁護士連合会が定めていたのですが、平成16年4月より弁護士ごとに自由に弁護士報酬を決めてよいというルールに変更されました。
上述の日弁連リーガル・アクセス・センターの弁護士費用基準というのは、この日本弁護士連合会が定めていた基準に依拠しています。
従いまして、弁護士費用特約がない事例であっても、弁護士費用特約がある事例と同様の基準で弁護士報酬を定めている法律事務所も多いです。
小杉法律事務所の死亡事故弁護士費用
小杉法律事務所では、死亡事故の弁護士費用について、弁護士費用特約ありの場合、上述した日本弁護士連合会の基準に依拠しております。
また、弁護士費用特約なしの事例では、相談料0円・着手金0円とさせていただいており、弁護士報酬は原則として「19万8000円+獲得した損害賠償金の9.9%」(消費税込み)とさせていただいております。
この弁護士報酬というのは成功報酬ですので、ご遺族から直接弁護士報酬を支払ってもらうということは原則ございません。
Cさんの事例では、弁護士費用特約に加入されておりませんでしたので、当該弁護士報酬基準によって委任契約を締結することになりました。
なお、死亡事故における小杉法律事務所の弁護士費用の詳細はこちらのページをご覧ください。
実費等
弁護士報酬以外にも、弁護士が裁判・現地調査・医師面談などの移動に要した交通費や、裁判所に納める訴訟貼用印紙代や予納郵券代、そのほか証拠の謄写代(コピー代)などの実費が発生します。
また、片道1時間以上の遠方へ出張する際には、日当も発生することになっています。
そこで、委任契約書には、実費等についての説明も記されることになっています(なお、小杉法律事務所の遠距離出張の日当基準は日本弁護士連合会の基準に基づいています。)。
弁護士費用特約がある事例では、こうした費用も保険会社が支払ってくれます。
弁護士費用特約がない事例では、事前に依頼者から実費を預かっておく事例と、法律事務所が実費立替えを行い損害賠償金が入金されたタイミングで精算する事例とに分かれます。
なお、2020年4月より民事裁判IT化が進められており、弁護士の移動を要する事例というのは少なくなってきていますから、交通費や日当といった実費は0円で終わる事例もありますし、数千円にとどまるといった事例もございます。
かかる実費等は事例によって異なります。法律相談の段階である程度の見込みをお伝えすることはできますので、気になる方はお気軽にお問い合わせください。
小杉法律事務所における無料相談の流れはこちらのページをご覧ください。
その他委任契約書の規定
着手金・報酬金といった弁護士費用や、実費等のお金の話が委任契約書におけるメインの内容となりますが、法律事務所によっては他の内容についても規定が置かれていることがあります。
代表的なものとしては、①弁護士業務の適正確保の規定、②委任契約解除の規定が挙げられます。
弁護士業務の適正確保の規定
これはマネーロンダリング防止のための規定で、下記のような定めが委任契約書上に記されます。
- 委任者は、本件事件等の処理の依頼目的が犯罪収益移転に関わるものではないことを、表明し保証する。
- 前項の内容の確認等のため、受任者が委任者に対し、本人特定事項の確認のための書類を提示又は提出するよう請求した場合、委任者はそれに応じなければならない。
- 委任者は、前項により確認した本人特定事項に変更があった場合には、受任者に対しその旨を通知する。
小杉法律事務所では、受任時に運転免許証などの本人確認資料を頂いておりますが、弁護士業務の適正確保の規定でトラブルが生じたことはございません。
弁護士サイドからしますと、この規定の関係で疑義が生じるような事例ではご依頼を受けられないことになりますが、普通に生活されている方については気にする必要のない規定といえます。
委任契約解除の規定
弁護士の変更のパートでご説明差し上げましたが、委任契約というのはいつでも解除することができます。
ただし、示談や裁判の解決直前に委任契約を解除して、弁護士報酬を1円も払わずに損害賠償金を全額取得するといったことは許されませんので、中途解約の場合の弁護士報酬の処理についての規定が設けられていることが多いです。
委任状とは
委任契約書は依頼者と法律事務所との間で弁護士費用などの内部的な取決めを行うものですが、委任状というのは、加害者側の任意保険会社や裁判所に対して、代理人を付けたことを示すためのものですから、対外的な書面ということになります。
委任状は、死亡事故損害賠償請求に限らず、定型的なものを用意している法律事務所が多いです。
委任契約書と委任状は依頼前によく確認した方が良い?
委任契約書と委任状には、署名・捺印をもらうことがほとんどですが、一般論で言えば、署名捺印の前によく内容を確認された方が良いです。
特に、委任契約書は、弁護士費用としていくらかかるのかといったお金の話が書いてありますので、よく確認されてください。
他方、委任状というのは、主には裁判所に提出するための手続的書面ですので、委任契約書と比較しますと、確認する必要性は低くなります。
信頼できる弁護士・法律事務所の委任状であれば、内容は気にしなくてよいでしょう。
死亡事故固有の委任契約の注意点
委任契約をする当事者が多くなりがち
交通事故被害における損害賠償請求事例では、当該交通事故の被害者さんと弁護士との間で、直接委任契約を締結します。
しかしながら、死亡事故被害においては、被害者本人がお亡くなりになられていますので、その相続人が委任契約を締結しなくてはなりません。
他の相続人が相続放棄をしているであるとか、遺産分割合意によって1人の相続人が損害賠償請求権の全部を取得しているといった事情がない限りは、相続人全員が弁護士と委任契約を結ぶ必要があります。
また、先ほどご説明したとおり、相続人でなくとも近親者慰謝料を請求できるご遺族というのはいらっしゃいますので、その方も弁護士と委任契約を締結する必要がございます。
被害者Cさんの事例では、合計7名の方と委任契約を締結することになりました。
なお、当事務所の弁護士費用なしの原則的な報酬基準は、「19万8000円+獲得した損害賠償金の9.9%」(消費税込み)となっていますが、例えば、7名の方それぞれから19万8000円を頂くということはありませんのでご安心ください。死亡事故1件につき全体で19万8000円+獲得した損害賠償金の9.9%となっています。
また、上記7名の中には未成年の子供もいましたが、未成年の子供であっても委任契約が必要となります。この場合は、親権者の方が代わりに委任契約を締結することになります。
刑事裁判の被害者参加には独自の委託届出書が必要
損害賠償請求について弁護士に代理したということを示すのが「委任状」ですが、弁護士が刑事裁判の被害者参加手続に代理人として参加するという場合は、委任状とは別に「委託届出書」が必要となってきます。
検察庁・裁判所によって統一書式があるわけではありませんので、その書式については、弁護士から検察庁・裁判所に確認してもらった方が良いです。
被害者Cさんの事例の刑事裁判は福岡地方裁判所小倉支部が管轄でしたので、こちらに問合せの上、委託届出書の取り交わしを行いました。
捜査担当警察官との連絡(福岡県警察小倉南警察署)
捜査担当警察官とは仲良くすべき
被害者Cさん遺族からの依頼を受け、すぐに福岡県警察小倉南警察署の捜査担当警察官と連絡を取りました。
捜査情報というのは機密事項ですので、すべてを教えていただくことはできませんが、将来刑事裁判に被害者参加予定であることを伝えると、親切に色々と教えて下さる警察官の方も多くいらっしゃいます。
「この遺族のために力を尽くそう」「話しやすい良い弁護士さんだな」などと思っていただけると、こちらの動きに対して協力的な活動をしてくれるので、基本的には、捜査担当警察官とは仲良くするのが良いと考えています。
加害者の虚偽供述情報の提供
被害者Cさんの遺族のもとに、労働基準監督署から、加害者Dが追突事故の被害者であるかのように供述している手紙が届いていましたので、そうした事実があることを警察官に伝え、また、当該手紙を捜査資料として提供することにしました。
後続車両のドライブレコーダー搭載
捜査担当警察官と話していくうちに、後続車両がドライブレコーダーを搭載していたことが判明しました。
警察捜査段階では、このドライブレコーダー映像を見せてもらうことはできませんでしたが、Cさんの遺族側の主張のとおり、加害者Dは追突事故の被害者などではなく、ふらふらと蛇行運転を続けた末に、被害者Cさんらが乗る車に側面から衝突していったことが映し出されているようでした。
検事との連絡(福岡地方検察庁小倉支部)
警察の捜査が終わると検事の補充捜査が行われる
捜査のプロは警察ですので、死亡事故においても、捜査というのは警察官がメインで行います。
被害者Cさんの事例ですと、後続車両のドライブレコーダーの映像捜査報告書なども警察官が作成してくれます。
そして、警察の捜査が一通り終わると、捜査資料の一式が検察庁へと送られます。
加害者Dは逮捕・勾留されていませんでしたので、こうした在宅捜査の事例では、「書類送検」という言葉で表現されることが多いです。
警察から捜査資料を送られた検事側は、当該捜査資料を確認するとともに、補充で捜査を行います。
捜査自体は警察官がプロなのですが、検事というのは裁判官や弁護士と同様「法律家」ですので、警察官とは別の「法律家」の視点で刑事裁判にかけてもいいか=起訴してもよいかを判断します。
具体的には、検事は、刑事裁判にかけた場合に有罪判決を得るための証拠が揃っているかを精査して、補充捜査を行うことになります。
検事とも仲良くすべき
捜査担当警察官のみならず、検事とも仲良くすべきです。
起訴するかどうかであるとか、起訴後の刑事裁判での動きというのは、検事がメインで行います。
検事との関係性を良好に保っておかないと、普段は検察庁の判断だけで動いているところに、被害者遺族が割って入ってくるわけですから、仕事のルーティンが崩れ、被害者参加を鬱陶しがられてしまいます。
そうした検事は問題だと思いますが、「この遺族のために力を尽くそう」「話しやすい良い弁護士さんだな」などと思っていただけると、こちらの動きに対して協力的な活動をしてくれるので、基本的には、担当検事とも仲良くしておいた方が良いと考えています。
なお、地方の死亡事故ですと、捜査担当検事と公判担当検事が同じ人ということもよくありますが、大きな検察庁の場合ですと、捜査担当検事と公判担当検事は分かれていることが多いです。
この場合も、捜査担当検事と仲良くしておくことで、公判担当検事への引継ぎをスムーズに行ってもらえるなどのメリットがありますので、検事が捜査段階と裁判段階とで別れるとしても、いずれの検事とも仲良くしておいた方が良いです。
なお、小杉法律事務所では、多くの被害者参加を行っておりますので、顔なじみの検事が多くなっています。
起訴(公判請求)と裁判資料入手
捜査担当検事と連絡を取り合っていたところ、こちらの遺族サイドの動きや後続車両のドライブレコーダー映像といった証拠から、加害者Dを起訴してくれることになりました。
捜査担当検事と密にコミュニケーションを取っていたことから、すみやかに起訴状の交付を受けることができ、また、検事が刑事裁判に提出する予定の証拠の閲覧・謄写手続を実施いたしました。
起訴状や刑事裁判証拠の入手も、事前に捜査担当検事とコミュニケーションをとっておかないと時間がかかることが多いので、注意が必要です。
やっと刑事裁判の証拠が見られるようになったと思ったらすぐに刑事裁判が始まるといった具合では、刑事裁判の被害者参加の準備が不十分なものとなってしまいます。
また、手続的には、公判期日への出席(刑事訴訟法第316条の4)、検察官の権限行使に関する意見申述(刑事訴訟法第316条の35)、証人尋問(刑事訴訟法第316条の37)、事実又は法適用についての意見陳述(刑事訴訟法第316条の38)について委託届出書を提出することも必要です。
死亡事故における被害者参加の関連法令解説についてはこちらのページをご覧ください。
公判担当検事との打合せ
被害者Cさんの事例では、捜査担当検事と公判担当検事が分かれていましたので、起訴後、公判担当検事との打合せを行いました。
刑事裁判開始後の打合せも合わせると、合計4回の打合せを実施しております。
公判担当検事は、公益の代表者として起訴状記載どおりの犯罪事実を裁判所に認定してもらうことに努めますが、我々Cさんの遺族サイドは、それのみならず、加害者Dの悪質性や遺族がいかに深い悲しみに暮れているかなどの情状面を強調して主張していきたいという点と、民事の損害賠償請求を意識した主張を展開していく必要があります。
公判担当検事と目指す方向性は同じなのですが、その細部は異なりますので、証人尋問の仕方や被告人質問の仕方、心情意見の陳述内容、論告意見の陳述内容などすり合わせを事前に行っておくことが大事となります。
福岡地方裁判所小倉支部での刑事裁判
死亡事故における刑事裁判の流れや解決までの流れについての一般的な説明はこちらのページをご覧ください。
ここでは、加害者Dを被告人とする福岡地方裁判所小倉支部での刑事裁判の流れを紹介していきます。
第1回期日:冒頭手続と検事立証
起訴状の内容を認める被告人
被告人Dは、以前は追突事故の被害者であると虚偽の供述をしていましたが、後続車両のドライブレコーダー映像から、その弁解は通らないと悟り、起訴状の内容を認める主張を行いました。
起訴状の内容を認める事例のことを「認め事件」と言ったりしますが、自動車運転過失致死罪の認め事件の場合は、刑事裁判は1回結審とされることが多いです。
具体的には、1回の期日ですべての審理を終え、次の期日において判決を宣告して、(控訴がない限り)刑事裁判を終えるという流れになります。
ですが、被害者Cさんの事例では、追突事故の被害者であるかのように装った被告人Dを遺族の立場として追及していく必要があったのと、遺族2名の心情意見の申し出をしていたため、判決期日を除き全3回の裁判期日を開くことを要望しており、こちらの要望どおりの進行で行われる予定となっておりました。
そこで、第1期日では起訴状朗読などの冒頭手続と、検事提出の書面による証拠(書証)の立証のみが行われる進行となりました。
被害者側の道路交通法違反に言及する弁護人
裁判長は、被告人に対して起訴状の内容に間違いがないか確認した後、次は、弁護人に意見を求めます。
そうしたところ、被告人Dの弁護人は、被害者Cさんが乗車していた車の運転手に、追越し方法の違反や速度超過といった道路交通法違反があると意見してきました。
この意見についてはこちらも言いたいことがありましたが、冒頭手続では被害者参加人は発言できないため我慢をしておきます。
検事の書証による立証
検事提出証拠については、事前に開示を受けていたため、こちらとしては既に知っていることが刑事裁判で明らかにされたに過ぎません。
本番は第2回期日以降ということになります。
第2回期日:弁護人立証
書証による立証:遺族への損害賠償が見込まれる
第1回期日では、主に検事から証拠の説明がなされましたが、第2回期日では、被告人Dの弁護人から立証がなされます。
まずは、書面による証拠が提出され、被告人Dの側では東京海上日動火災の任意保険に加入しており、遺族への損害賠償が見込まれることなどの説明がなされました。
なお、加害者側が任意保険に加入していて、遺族への損害賠償が見込まれるという点は、加害者の量刑上有利に考慮されることになっています。
死亡事故における加害者の刑期に関する詳細はこちらのコラムをご覧ください。
情状証人による立証:妻の監督
書面の証拠による立証が終わると、次に人の証拠(=証人による証言)による立証が行われます。
2名の情状証人の申請があり、まずは被告人Dの妻の証人尋問が行われました。
弁護人からの主尋問では、夫が大変なことをしでかし申し訳ないという遺族への反省や、今後は私が監督していくといった誓い、幼い子供がいるので被告人Dは今後も仕事を頑張っていかないといけないといったことが述べられました。
主尋問が終わると検事からの反対尋問が行われ、その後、被害者参加弁護士から反対尋問を行うことができます(刑事訴訟法第316条の36)。
弁護士小杉は、①なぜこれまで一度も謝罪に来なかったのか、②被告人Dのこれまでの交通違反歴を知っているのか、③これまでも交通違反歴を把握せずに何の監督もできていなかったのだから今後もどうせ監督なんてできないのではないかなどを追及していきました。
死亡事故における加害者の刑期に関する詳細はこちらのコラムでも述べていますが、日本の刑事裁判では、妻や親などの家族が情状証人として監督を誓っただけで被告人の刑期が短くなったり、執行猶予がつきやすくなるといった傾向があります。
被告人の家族が、被害者遺族に対して真に反省していたり、本当に監督しなければならないと誓っているのであればいいのですが、中には、弁護人から頼まれて渋々刑事裁判に出てきたような人がいたりするので、被害者参加弁護士としては、その点を注意深く見ていく必要があります。
要は、たいして監督する意志を有していないにもかかわらず、情状証人として出廷したという事実だけをもって被告人の刑期が軽くなるのでは、何のための刑事裁判なのか分からなくなります。
被害者Cさんの事例では、こうした事態を防ぐべく、本当に遺族への反省の気持ちがあるのであればこれまで謝罪に来ていたはずでしょう・本当に監督する意志を持っているのであればDの過去の交通違反歴くらい把握しているはずでしょうといった厳しい態度で臨みました。
情状証人による立証:上司の監督
被告人Dの妻の証人尋問が終わると、次は被告人Dの上司の証人尋問が行われました。
弁護人からの主尋問では、被告人Dの普段の勤務態度が真面目であったことや、今後も会社で被告人Dの面倒をみていくといった誓いが述べられました。
弁護人の主尋問・検事の反対尋問が終わり、被害者参加弁護士小杉の反対尋問の順番となります。
ここでは、妻の反対尋問と同様、被告人Dのこれまでの交通違反歴を知っているのか、③これまでも交通違反歴を把握せずに何の監督もできていなかったのだから今後もどうせ監督なんてできないのではないかといった追及を行いました。
また、被告人Dは、仕事中に交通事故を起こしたのですが、被告人Dの運転する車の後部座席には大量の荷物が載せられていました。
これでは、ルームミラーによって後方確認がしづらくなってしまいます。
そこで、おたくの会社では積載物の量や、それによる後方確認の支障について教育しないのかといった点を質問していきました。
被告人質問(主質問)
証人尋問が終わると、次は被告人質問へと進みます。
被告人質問は、証人尋問と同様、「弁護人からの主質問→検事からの反対質問→被害者参加弁護士からの反対質問」という流れで行われることが多いですが、被告人Dについては、追突事故の被害者であるかのように装うなど虚偽供述や自身に都合の良い供述をしてくることが考えられましたので、こちらからすると「何を言うか分からない」といった状況にありました。
また、被告人の発言に対して、被害者Cさんのご遺族たちも被告人に質問したいことが出てくると思うといった要望をおっしゃっていたので、裁判戦略上、被告人質問は、反対質問まで行かず主質問だけで第2回期日を終わらせるという期日進行にしてもらっていました。
被告人は、弁護人からの質問に対して、車線変更をする際にきちんと左方や後方の確認を行った・ふらついて運転していたのは後部座席の荷物が片方に寄っていたからだと思うなど、捜査段階ではしていなかった新しい自己弁護供述を展開し始めました。
第2回期日の後、ご遺族との打合せを行いましたが、ご遺族は「追突事故被害者を装うことに失敗したら、次はちゃんと運転していたとか、後部座席の荷物のせいでふらついたとか新たな弁解を考えてきよった」と怒っていました。
そうした気持ちをお伺いして、第3回期日に臨みます。
第3回期日:被告人反対質問・心情意見・論告意見等
被告人質問(反対質問)
第2回期日において弁護人による主質問は終わっていましたので、第3回期日は反対質問からのスタートとなります。
検事の反対質問が終わり、被害者参加弁護士の反対質問を行いました。
ここでは、進路変更の際の道路交通法のルールを知っているのかの質問や、捜査段階での左方・後方確認の供述と変わっていることの追及、なぜ追突事故の被害者であると装ったのかの追及、後続車両にドライブレコーダーが付いていなければ終始追突事故の被害者であるとの主張を続けていたのではないかという追及、車がふらついた原因について捜査段階の供述と変わっていることの追及、これまで後部座席の荷物の影響で車がふらついたことがあるのかの追及、なぜこれまで遺族に直接謝罪をしてこなかったのか、将来また車を運転する可能性があるのか等の追及を行いました。
ウソは十中八九崩れます。
また、ウソが通らないと感じると、次のウソをついてリカバリーを図ろうとしますが、裁判官というのは不合理な供述変遷を嫌います。
被告人質問では、被告人Dの供述の変遷がいかに不合理であるかを印象付けるように行いました。
兄の心情意見陳述
被害者参加制度では、兄弟姉妹も参加することができます。また、心情意見を述べることもできます。
被害者Cさんの事例では、お兄さんにも被害者参加してもらい、心情意見を述べてもらいました。
先に述べましたとおり、民事の損害賠償請求では、民法第711条の近親者慰謝料の規定に兄弟姉妹は挙げられていませんが、裁判例上、実質的に親・配偶者・子と同視できるほど近い関係であることを立証することができれば、兄弟姉妹であっても近親者慰謝料の請求が認められることになっています(民法第711条類推適用)。
ですので、戦略的には、この民法第711条類推適用の裏付けのため刑事裁判に被害者参加してもらったという側面もありますが、実際は、被害者Cさんのお兄さんは、慰謝料額のことなどは微塵も気にしておらず、ただ、幼い頃から死亡事故のその日まで、ずっと一緒に生活してきた弟を失った悲しみ・無念さを、裁判官や加害者に知ってもらわないといけないという気持ちから刑事裁判に参加されました。
お兄さんの心情意見は、小さい頃からの被害者Cさんの明るい生活や、兄弟の楽しい思い出を語ると共に、交通事故後の悲惨な家族の現状を説明するもので、傍聴席からもすすり泣く声が聞こえました。
また、被害者Cさんの今後の仕事の予定についても言及してもらいました。
妻の心情意見陳述
被害者Cさんの妻は、死亡事故の後、弁護士小杉との法律相談の場に同席するなどしてはいましたが、心ここにあらずといった感じで、コミュニケーションをとることも難しい状態でした。
精神科にも通っており、刑事裁判への被害者参加も精神的に耐えられるのかどうか不安な状況でしたが、刑事訴訟法第292条の2第6項・157条の4の規定を使うことにより、証言台の前に義姉に付き添ってもらうことで、何とか心情意見をしてもらいました。
被害者Cさんの妻は、中学生の頃にCさんと知り合いました。
カップルであった頃の出来事や、プロポーズのエピソード、結婚して子供(3人)が生まれてからのエピソードなど、これまでいかに幸せな生活を送っていたかを話してくれました。
そして、そうした幸せな生活が、被告人Dのせいで一気に絶望に追いやられたこと、精神疾患を患い無気力状態が続いていること、被告人Dの虚偽供述が許せないこと、被告人Dの妻が子供がいるので刑を軽くして欲しいという趣旨のことを言っていたことが許せないこと等を述べ、こちらにも子供が3人いるのに、加害者側だけが守られて被害者遺族側は何も守られないのかという話をしてくれました。
加えて、被告人Dが、刑事裁判の場において、一礼もせず憮然とした態度でいることへの憤りの気持も裁判官へ伝えました。
傍聴席からは嗚咽する声も聞こえ、法廷内は悲しみに包まれました。
検事の論告求刑
遺族の心情意見が終わると、次に検事からの論告求刑が行われます。
検事は、過去の裁判例等に照らし、禁錮2年半の求刑を行いました。
弁護士小杉の論告意見
検事の論告求刑の後、弁護士小杉が論告意見を述べました(事実又は法律の適用についての意見陳述:刑事訴訟法第316条の38)。
論告意見の構成
- 被告人Dの供述は信用できない
- 再犯可能性が高い
- 謝罪や反省をしていない
- 妻や上司の監督は期待できない
- 弁護人の道路交通法違反の主張は誤り
1.被告人Dの供述は信用できない
被告人Dは、主質問において、後部座席の荷物が重くて、かつ、偏っていたため、ふらつき運転になってしまったのではないかと供述していました。しかし、後部座席に積まれていた荷物の重量から考察すると、左右どちらかに偏って積まれていたとしても総重量1tの走行車両をふらつかせるほどの重さはないことを指摘しました。また、仮に被告人Dの主張を真実とした場合は、その間ずっとふらつき運転になるはずであるが、今回の交通事故の直前だけふらついているというのは不自然であることを指摘しました。
また、被告人Dは、進路変更の際に、適切に左方や後方の確認をしたと供述していました。しかし、被告人運転車両の速度(1秒間に25m進んでいる)やドライブレコーダーで確認できる被害車両との位置関係を考えると、被告人が左方や後方を確認していたとすれば、被害車両の存在が被告人Dの視界に入っていたはずで、進路変更できる状況になかったことを指摘しました。
加えて、後続車両のドライブレコーダーの存在が明るみに出るまでは追突事故の被害者であると装っており、こうした一連の被告人Dの供述は、一切信用できないことを主張しました。
2.再犯可能性が高い
被告人Dには、前科はないものの、7回の交通違反歴がありました。
どこかの交通違反のタイミングで真摯に反省をしていれば、今回の死亡事故は起きておらず、また、これまで前科がなかったのも、たまたま交通事故に至らなかっただけと言えることを指摘しました。
そして、反対質問の際に、人の命を奪う運転をしておきながら、将来また運転をするかもしれないことを述べており、被告人Dの再犯可能性は極めて高いことを指摘しました。
3.謝罪や反省をしていない
被告人Dは、主質問の際に、一応謝罪や反省の言葉を述べてはいました。
しかしながら、追突事故の被害者であると装うなど、自分の刑を軽くすることしか考えておらず、真の謝罪や反省はない旨を指摘しました。
4.妻や上司の監督は期待できない
2名の情状証人が登場して被告人Dの監督を誓っていました。
しかしながら、妻は、被告人Dの交通違反歴すら把握しておらず、真に監督しようとする者とは評価できないと指摘しました。
また、上司についても、後方確認がしづらくなる量の積載物を運ばせたり、交通違反歴が7回もある被告人Dの仕事ぶりを高く評価しているなど、常識的な会社ではない旨の指摘を行いました。
5.弁護人の道路交通法違反の主張は誤り
冒頭手続において、弁護人は、被害車両の運転者の道路交通法違反を指摘していました。
しかしながら、弁護人の指摘する道路交通法の条文解説や東京高等裁判所昭和28年7月14日判決を見ると、被害車両側には道路交通法違反の事実はないことが分かることの説明を行いました。
また、被害車両の速度違反の言及もありましたが、ドライブレコーダーの映像と整合しない主張であることを説明しました。
最終弁論・結審
弁護士小杉の論告意見が終わると、弁護人の最終弁論が行われます。
論告意見は、事前に検事とは内容を打ち合わせていましたが、弁護人には裁判の当日に交付しますので、こちらが何を言うかは把握できていません。
案の定、道路交通法の条文解説や東京高等裁判所裁判例等に基づく被害者参加人側の意見への手当てはできていませんでした。
弁護人の最終弁論が終わり、被告人Dが最後に一言述べた後に、刑事裁判は結審となりました。
第4回期日:判決(求刑どおり)
刑事裁判の判決では、検事の求刑から若干下げられた刑が下されることが多いですが、被告人Dの事例では、検事の求刑どおりの判決となりました(禁錮2年半)。
量刑の理由としては、被告人は左方や後方の確認義務を怠っていて、過失の程度が大きいことが触れられ、また、遺族の処罰感情が峻烈であるとの指摘もなされました。
加えて、後部座席の荷物のせいでふらついたであるとか、被害車両側に道路交通法違反があったという弁解についても採用されませんでした。
福岡地方裁判所(本庁)での損害賠償請求訴訟(民事裁判)
刑事裁判の後に民事裁判をするのが良い
無事検事の求刑どおりの判決を獲得することができ、当該刑事裁判の判決文や証拠を利用して、次は民事裁判に臨みます。
民事裁判では、加害者側の保険会社顧問弁護士より過失割合の主張がなされることが予想されましたが、これは刑事裁判で弁護人が主張していた被害車両側の道路交通法違反の指摘と通じるところがあります。この被害車両側の道路交通法違反の指摘は、刑事裁判において潰していましたので、民事裁判を有利に展開していくことができます。
また、死亡事故の損害賠償請求で最も高額となる「逸失利益」は、交通事故前年の年収から算定するのが原則になっていますが、被害者Cさんの交通事故前年の年収は250万円弱となっていました。この点は、被害者Cさんのお兄さんに、Cが将来父の事業を継ぐ予定であったことなどを心情意見で述べてもらっていましたので、交通事故前年の年収ではなく、Cさんの父の年収を参考に逸失利益を計算するべきという主張がしやすい状況を作っていました。
加えて、Cさんのお兄さんは、民法第711条の近親者慰謝料請求ができる者には該当しませんが、同条規定の者と実質的に同視できる身分関係が存在することを刑事裁判の心情意見で表していましたので、最高裁判所昭和49年12月17日民事裁判例集28巻10号2040頁の判例法理に従い、民法第711条類推適用によって近親者慰謝料を請求できる状態にしていました。
また、お兄さんや奥さんの心情意見によって、被害者Cさんが、どれほど愛された人物であったかも刑事裁判で明らかにしていました。
加えて、死亡事故後の遺族の絶望も、心情意見で表していました。
以上のような刑事裁判上の戦略が、実際、民事裁判にどのように活きたかをみていきましょう。
裁判基準を超える葬儀関係費用認定
葬儀関係費用というのは、任意保険基準・自賠責基準で上限100万円とされていて、裁判基準で上限150万円とされています。
葬儀関係費用で上限が設けられているのは、加害者側が賠償するということで、高額な葬儀を行うといった遺族側の行動に歯止めをかけるためであると考えられます。
被害者Cさんの事例では、民事裁判を起こしていますので、任意保険基準・自賠責基準の上限100万円ではなく、裁判基準の上限150万円が採用されることになります。
しかしながら、弔問客が多いような事例では、150万円の葬儀費用では足りないことも多く、神戸地方裁判所平成28年10月27日(交通事故民事裁判例集49巻5号1304頁)などでは、裁判基準の150万円を超える葬儀費用を認定した裁判例もあります。
被害者Cさんの葬儀費用も150万円を超えていましたが、刑事裁判の心情意見において、被害者Cさんが、とても愛された人物であることを表していましたので、民事裁判の裁判官にも、当該心情意見等の刑事裁判の資料を証拠化して伝え、裁判基準上限150万円を超える葬儀関係費用全額を損害賠償金として認めるべきであるとの主張を行いました。
そうしたところ、福岡地方裁判所の裁判官は、原告側の葬儀関係費用全額を和解案にて認定してくれました。
遺族の休業損害の認定
交通事故の損害賠償請求権というのは、被害者に発生するのが原則です。
死亡事故においても、被害者に発生した損害賠償請求権を遺族が相続によって取得するという構成になっていますので、遺族に損害賠償請求権が発生するわけではありません。
近親者慰謝料については遺族に発生するものといえますが、葬儀の際に近親者が仕事を休んだといった損害などは、基本的には近親者慰謝料の中に含まれるとして処理されることが多いです。
しかしながら、最愛の家族を亡くし、仕事ができなくなったという事例が、死亡事故では起き得ます。
被害者Cさんの事例でも、後を継がす予定であったCさんが亡くなり、Cさんの父は仕事が手につかない状態となりました。
Cさん自身やCさんの父が仕事できなくなったことにより、外注費が増え、Cさんの父の所得は死亡事故後減ってしまいました。
この点については、刑事裁判の心情意見によって、被害者Cさんの死亡後の家族の絶望の状況等を伝えていましたので、民事裁判の裁判官にも、当該心情意見等の刑事裁判の資料を証拠化して、Cさんの父が稼働できなくなったことの裏付けを行いました。
加えて、死亡事故前後の外注費の比較を確定申告書や請求書等から行うことによって、遺族の休業損害として200万円の認定を受けることに成功しました。
遺族7名分の死亡慰謝料を認定
刑事裁判において、最高裁判所昭和49年12月17日民事裁判例集28巻10号2040頁の判例法理に基づく民法第711条類推適用の前提は表していましたので、これを証拠化して、遺族合計7名分の近親者慰謝料の請求を行いました。
そうしたところ、福岡地方裁判所の裁判官は、7名分すべての近親者慰謝料の請求を認めてくれました。
また、刑事裁判において、加害者Dの悪質性や虚偽供述についての裏付けを行っていましたので、そうした点も考慮に入れてくれ、裁判基準を超える合計3000万円の死亡慰謝料の認定をしてくれました。
実年収の倍以上の死亡逸失利益認定
被害者Cさんの交通事故前年の年収は250万円弱でしたが、刑事裁判において、Cさんが将来父親の事業を継ぐ予定であったことなどを表していましたので、これを証拠化して、かつ、Cさんのお父さんの収入資料を提出することで、実年収以上の死亡逸失利益を認めるべきであるとの主張を行いました。
そうしたところ、福岡地方裁判所の裁判官は、実年収の2倍以上の基礎収入額の認定をしてくれました。
過失割合0:100を認定
民事裁判を起こした後、予想どおり、加害者側の保険会社顧問弁護士は、被害者にも過失割合があるという主張を行ってきました。
損害賠償金を1億円と仮定すると、過失割合が10%あるだけでも1000万円の差が出てきますので、過失割合の主張というのは、加害者側の保険会社にとっては大事な主張ということになります。
被害車両側に道路交通法違反があるという反論については、すでに刑事裁判で潰しておきましたので、民事裁判でも採用されることはありませんでした。
また、民事裁判では、被害者Cがシートベルトを装着していなかったという点での過失相殺の主張も行われました。
これについては、刑事裁判で入手した被害車両内の写真から確認できるシートベルトの状況を説明するとともに、被告側に立証責任がある事項であることを指摘して反論を行いました。
そうしたところ、福岡地方裁判所の裁判官は、被害者Cの過失割合は0であって、専ら加害者Dの過失による死亡事故であるとの認定をしてくれました。
合計約1億2000万円での和解解決
以上の主張立証により、裁判官から勝訴的和解案が出され、合計約1億2000万円での裁判上の和解解決となりました。
また、和解条項では、将来の労災遺族年金の支払を考慮した条項としてもらいました。
労働基準監督署への遺族補償年金の申請
被害者Cさんは、業務中の交通事故でお亡くなりになられましたので、労働基準監督署へ遺族補償年金の申請をすることができます。
刑事裁判や民事裁判の前に労働基準監督署へ申請することもできるのですが、そうすると、民事の損害賠償請求における死亡逸失利益の金額が減らされてしまいます。
そこで、Cさんの事例では、損害賠償請求訴訟の後に、労働基準監督署へ遺族補償年金の申請を行っています。
業務中の死亡事故における労災申請の詳細についてはこちらのページをご覧ください。
依頼者の声(Cさんの妻・30代・北九州市小倉南区)
夫が亡くなってから、ずっと時が止まったようでした。
夫が亡くなったという事実を受け入れられない日々が続きました。
付添いの下、刑事裁判に参加させていただき、夫の死や夫という人と向き合うことができました。
正直、刑事裁判の刑は軽すぎると思いましたが、求刑どおりなのでしょうがありません。
民事裁判では、夫の落ち度が否定され、遺族の苦しみも認定していただけたので、結果には満足しています。
交通死亡事故がこの世から亡くなることを願っています。
弁護士小杉晴洋のコメント:死亡事故の刑事裁判と民事の損害賠償請求は連動します
加害者が虚偽供述を行ったり、被害者側の道路交通法違反を指摘されるなど、戦うべきポイントの多い事例でした。
刑事裁判に被害者参加せず、民事の損害賠償請求を行っていたとすると、このような結果にはなっていなかったと思います。
死亡事故においては、刑事裁判と民事の損害賠償請求(示談交渉・裁判)は連動します。
平成16年の刑事訴訟法の改正以降、被害者遺族が刑事裁判に参加できるようになりましたが、まだまだ利用件数は少ないです。
小杉法律事務所では、死亡事故遺族の損害賠償請求や被害者参加を専門に取り扱っております。
死亡事故というのは、いくら損害賠償金をもらっても真の納得というものは得られない類型です。
民事の損害賠償請求と連動するという点もありますが、加害者に適正な刑罰を受けてもらう・遺族の苦しみを裁判所に伝えるという点でも、刑事裁判への被害者参加は重要であると考えています。
ご家族が交通事故でお亡くなりになられたという方については、無料の法律相談を実施しておりますので、お問い合わせください。