脊髄損傷
【胸髄損傷の症状と後遺症】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所
こちらの記事では、【交通事故で胸髄損傷を負った場合の症状や後遺症及び後遺障害】について、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)監修のもと整理しています。
胸髄について
中枢神経の一つである脊髄は、同じく中枢神経である脳から連続的に存在しており、脳と身体各部における信号伝達経路という非常に重要な役割を担っています。
そんな脊髄ですが、部位によって、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の大きく4つに区分されています。
その中でも胸髄は、胸椎のあたりに通っている脊髄を指しており、
その高位(レベル)に応じて第1胸髄~第12胸髄の12個に細分されます。
胸髄の髄節は、一般に、第1胸髄から順にTh1、Th2、…、Th12と呼ばれることが多いです。
各髄節からは特定の位置に末梢神経が伸びていることから、損傷した高位(レベル)によって、どのような症状が現れるのか、また症状が現れる範囲が異なってきます。
以下では、胸髄損傷の場合に現れる症状について説明していきます。
なお、一口に脊髄損傷といっても、損傷の程度や態様によって現れる症状は異なってきますので、
ここでは、現れる可能性のある症状について解説していきます。
胸髄損傷の症状
⑴運動機能障害(下半身麻痺)
一般に脊髄を損傷すると、損傷高位(レベル)から下方の脊髄の神経が司る部位について障害が生じることになります。
大まかなイメージとして、頚髄はや頚部や上肢の、胸髄は胸背部や体幹の、腰髄は下腹部~下半身の運動神経・感覚神経をそれぞれ司っています。
これより、胸髄損傷を負うと、下半身に麻痺を生じることとなります。
手足を動かすなどの運動神経は、脳から信号が出て脊髄を通り上下肢や体幹に伝達される流れであるため、
胸髄が損傷されることにより腰髄までその信号が届きにくくなり(届かなくなり)、結果として下半身を動かすことが困難になったり(不全麻痺)、完全に動かすことができなくなったりします(完全麻痺)。
下半身の運動神経を主に司っているのが腰髄であることから、胸髄損傷の場合、その損傷高位(レベル)に関わらず、一般的には下半身麻痺(下肢の対麻痺)が生じます。
⑵表在感覚障害
損傷高位より下方の髄節支配領域において、温度感覚や痛覚、触覚などの表在感覚に障害が生じます。
たとえば足で雪を踏んだとき、足の皮膚組織が刺激を受け、そこから脊髄を通り脳に対して信号が伝達されることにより、私たちは「冷たい」と感じることができるしくみになっています。
しかし、脊髄が損傷されることにより、損傷高位から下の髄節支配領域の感覚神経から脳に対して信号が届かなくなるため、結果、これらの表在感覚に障害が生じることになります。
胸髄損傷の場合は、主に胴体(体幹)や下半身に表在感覚の障害が現れます。
損傷高位(レベル)がT1~T4あたりの場合、胸部から下の感覚消失や鈍麻がみられます。
損傷高位(レベル)がT5~T8あたりになると、胸郭~胸郭下口から下の感覚消失や鈍麻が現れます。
損傷高位(レベル)がT9~T12あたりの時は、おへそより下に感覚消失や鈍麻の症状が出ることが多いです。
⑶深部感覚障害
表在感覚が存する皮膚より更に下、筋や腱、靭帯などに対する接触や刺激、運動から生じる感覚を深部感覚といい、これによって私たちは手足の位置や運動方向、振動などを感じることができます。
表在感覚と同様に、深部感覚の信号伝達についても、上下肢などの感覚神経から脳に対して行われるものであることから、
脊髄を損傷すると、損傷高位(レベル)より下の髄節支配領域にある感覚神経から脳に対する信号伝達に支障が生じ、位置覚や振動覚、立体識別感覚に障害が生じます。
胸髄損傷の場合、主に胴体(体幹)や下半身について、これらの深部感覚の障害が現れます。
⑷自律神経障害
人間の体は、常に一定の体温を保つために、自律神経によって体温調節がなされます。例えば暑い時には汗を分泌して体温を下げたり、寒い時には血管を収縮させて熱が逃げないようにするなど、体温調節においても自律神経は非常に重要な役割を持っています。
交感神経の中枢は、上位胸髄から腰髄にかけて存在するため、胸髄損傷によって、損傷高位より下位の領域における自律神経の働きが障害されてしまいます。そのため発汗障害や血圧以上、体温調節異常などの症状が現れます。
⑸神経因性膀胱障害(排尿障害・蓄尿障害)
膀胱機能に関する神経は胸髄、腰髄、仙髄の支配領域であるため、胸髄損傷によって脳との伝達経路が障害されることにより、結果として排尿障害・蓄尿障害が生じる可能性があります。
たとえば、尿道の弛緩が上手くできず排尿が困難になったり、逆に尿道が緩くなってしまい不随意的に尿漏れしてしまう(溢流性尿失禁)等があります。
⑹神経因性大腸機能障害
排便機能は、主に仙髄が司っているとされています。
そのため、胸髄損傷により、排便機能にも障害が生じる可能性があります。
具体的には、便意を認識することができなくなってしまったり、胸髄損傷による肛門括約筋の弛緩によって不随意的に便失禁してしまったりするなどがみられます。随意的な排便が困難になるため、便秘につながる恐れもあります。
胸髄損傷の後遺障害等級
交通事故によって胸髄損傷を負い、これらの症状が残ってしまった場合、自賠責に、後遺障害に関する自賠責保険金請求を行うことができる場合があります。
胸髄損傷により後遺症が残った場合の後遺障害等級認定の判断は、基本的に麻痺の程度や範囲並びに介護の要否や程度に着目して行われますが、それだけではなく、神経因性膀胱障害や脊柱の障害(背骨の変形や体幹の動かしづらさ等)、その他体幹骨の変形障害等の併発している症状も含めて総合的に評価・判断がなされます。
胸髄損傷の場合に該当する可能性が考えられる後遺障害は以下のとおりとなります。
⑴別表第一第1級1号
「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 高度の四肢麻痺が認められるもの
b 高度の対麻痺が認められるもの
c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
⑵別表第一第2級1号
「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 中等度の四肢麻痺が認められるもの
b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
⑶別表第二第3級3号
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)
b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)
⑷別表第二第5級2号
「脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 軽度の対麻痺が認められるもの
b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
⑸別表第二第7級4号
「脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。
⑹別表第二第9級10号
「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。
⑺別表第二第12級13号
「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。
また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの
例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの
おわりに
自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらう可能性を上げるためには、
必要書類である『後遺障害診断書』に症状をもれなく記載してもらったり、
医学的に後遺症を証明する所見を得るために検査を受けたりと、数多くのポイントがあります。
つまり、自賠責に申請する段階から等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、
そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。
弁護士法人小杉法律事務所では、後遺障害専門弁護士による無料相談を実施しております。
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お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。
また、脊髄損傷の症状や治療・リハビリ、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷に関する詳しいことは以下のページで解説いたしておりますので、こちらも合わせてご覧ください。