前掲の判例タイムズでは、歩行者が被害者となる場合のみが定められています。
従いまして、歩行者が急に飛び出したため自転車と衝突して交通事故になったというケースで、自転車が転倒などにより破損してしまったとしても、自転車の所有者を被害者とする物損の請求をする際の過失割合の認定には前掲の判例タイムズの基準は用いられないというのが建前となります。
ただし、実際の実務では、この判例タイムズの考え方を無視して、前掲判例タイムズの基準にしたがって、歩行者の損害賠償請求のみならず、自転車の物損の損害賠償請求の際の過失割合も定められる傾向にあります。
歩行者は、道路を徒歩で通行する人のことをいいますが、被害者となる歩行者には小走りをしている人、ジョギングをしている人、路上で工事をしている人、遊んでいる人、立っている人、寝ている人、時速10㎞以下の低速度で走行している自転車も含まれるとされています。また、バイクや自転車を押して歩いている人も、歩行者として扱われます(道路交通法第2条3項1号,2号)。
加害者となる自転車は、普通の速度が時速15㎞程度とされていますが、それより低速の走行で歩行者と衝突してしまった場合でも、加害者として扱われます。
これよりも高速の場合で、時速30㎞を超えるような場合には、自転車ではなく、四輪車・バイクと同様に扱われますので、「歩行者vs四輪車・バイク」の類型が妥当することになります。
歩行者vs自転車の事故は、大きく分けると3つの類型に分けて考えられています。
なお、①安全地帯のある道路を横断中の歩行者と直進自転車との事故、②歩車道の区別のある道路において歩行者が車道通行を許されていない場合に車道の端以外の場所を通行している歩行者と対向又は同一方向に走行している自転車との事故、③歩車道の区別のない幅員8m以上の道路の中央部分を通行している歩行者と対向又は同一方向に走行している自転車との事故、④路上に寝ている人などと自転車との事故、⑤バックする自転車による事故についは、「歩行者vs四輪車・バイク」の基準を参考にして、事案に応じて過失相殺率を検討することとされています。
横断歩行者の事故
横断歩行者が、横断歩道上を歩行していた場合に事故に遭ったというケースでは、原則として歩行者に過失は認められません。
ただし、歩行者側の信号が赤であったり黄(歩行者青信号の点滅を含む。)であった場合には、歩行者に過失が認められてしまうことがあります。
また、横断歩道のない場所を横断しようとした歩行者が事故に遭ったというケースも、歩行者に過失が認められてしまうことがあります。
横断歩行者の事故の過失割合は、横断歩道の有無や渡ろうとした道路場所と近くの横断歩道との距離、信号の有無や横断開始時の信号の表示、横断中の信号の変化、横断途中の安全地帯の有無、道路幅、歩道や十分な幅員のある路側帯の有無、歩道内の事故か車道内の事故か、歩行者が右側通行をしていたか左側通行をしていたか、歩行者の年齢、歩行者の身体障害の有無、横断禁止規制の有無、交通事故の時間帯、急な飛びたし・後退・ふらふら歩きなどの歩行者の歩行態様、交通事故現場の人通りの多さ、歩行者が集団であったか否か、渋滞車両の間や駐停車車両の陰からの歩行者横断であったか否か、道路上・歩道上・路側帯上・横断歩道上・自転車横断帯上など自転車が進行した場所、二段階右折違反(道路交通法第34条3項)・飲酒(道路交通法第59条,第117条の2第1号)・2人乗り(道路交通法第55条,第57条)・無灯火(道路交通法第52条)・並進(道路交通法第19条)・傘をさすなどしてされた片手運転(道路交通法第70条)・脇見(道路交通法第70条)・携帯電話を使用ながらの運転(道路交通法第71条5号の5)・車が歩行者のために停止していたところをその側方から追い抜こうとした・右側通行(道路交通法第17条4項,第18条1項本文)・制動装置不良(道路交通法第63条の9第1項)などといった自転車の運転手の態様など種々の要素の総合で判断されます。
すべての要素を丁寧に分析し、横断歩行者の過失を0にする努力が大事です。
対向又は同一方向進行歩行者の事故
道路横断の際の事故とは異なり、歩行者が歩いている向かいから進行してきた自転車と衝突した場合や、歩行者が歩いている後ろから進行してきた自転車と衝突した場合は、別に類型が設けられています。
これは交通事故が起きた地点が、歩行者用道路であったか、歩道上であったか、路側帯上であったか、歩車道の区別のある道路の車道上であったか、歩車道の区別のない道路の車道上であったかによって分類されています。
歩行者用道路における交通事故の場合は、歩行者用道路の通行を許可されている自転車が徐行運転(時速6~8㎞)によって走行している前に急に飛び出したような場合でない限り、歩行者に過失が認められることはありません。
また、歩道上の事故も、自転車通行の許された歩道上を進行する自転車の前に歩行者が急に飛び出したような場合でない限り、歩行者に過失が認められることはありません。
路側帯上の事故も、自転車の前に歩行者が急に飛び出したような場合でない限り、歩行者に過失が認められることはありません。
車道上の事故の場合は、歩道がなく、かつ、歩行者が道路交通法第10条1項に従って右側通行をしていたという場合には、歩行者がふらつきながら歩いていたなどの事情がない限り、歩行者に過失が認められることは、基本的にはありません。
歩道があるのに車道を通行していた、歩道はないが道路の左側を通行していた、道路の端ではなく真ん中付近を通行していたなどといった場合には、歩行者にも過失が取られることがあります。
ただし、歩行者の年齢、歩行者の身体障害の有無、交通事故現場の人通りの多さ、歩行者が集団であったか否か、二段階右折違反(道路交通法第34条3項)・飲酒(道路交通法第59条,第117条の2第1号)・2人乗り(道路交通法第55条,第57条)・無灯火(道路交通法第52条)・並進(道路交通法第19条)・傘をさすなどしてされた片手運転(道路交通法第70条)・脇見(道路交通法第70条)・携帯電話を使用ながらの運転(道路交通法第71条5号の5)・車が歩行者のために停止していたところをその側方から追い抜こうとした・右側通行(道路交通法第17条4項,第18条1項本文)・制動装置不良(道路交通法第63条の9第1項)などといった自転車の運転手の態様などの事情によっては、原則的には歩行者に過失が認められる場合であっても、歩行者の過失が0とされることもありますので、すべての要素を丁寧に分析し、横断歩行者の過失を0にする努力が大事です。
自転車による歩道通行可の歩道において、歩行者が急に進路を変更したため、自転車に衝突されたというケースで歩行者の過失が0と判断された解決事例 >>
車から降りて歩道に進入した歩行者やお店などから出て歩道に進入した歩行者の事故
歩行者が、タクシーなどの車から降りて車道から歩道に進入した際に自転車と衝突した場合や、お店から出て歩道に進入した際に自転車と衝突した場合、原則として、歩行者に過失が認められることはありません。これは歩道ではなく路側帯の場合でも同様です。
ただし、歩道通行可能な歩道を走行していた自転車が、時速6~8㎞での徐行運転をしていて、かつ、歩道の中央から車道寄りを走行しているとか、普通自転車通行指定部分を走行しているといった場合に、歩行者がわずかな注意をすれば交通事故を回避することができたのに、予想外にふらつくなどして、自転車の進路前方に急に飛び出し事故になったという場合には、歩行者に10%程度の過失が取られることがあります。これが歩道ではなく、路側帯の場合には、歩行者に20%程度の過失が取られることがあります。
これら例外的に歩行者に過失が取られるようなケースにおいても、歩行者の年齢、歩行者の身体障害の有無、交通事故現場の人通りの多さ、歩行者が集団であったか否か、飲酒(道路交通法第59条,第117条の2第1号)・2人乗り(道路交通法第55条,第57条)・無灯火(道路交通法第52条)・並進(道路交通法第19条)・傘をさすなどしてされた片手運転(道路交通法第70条)・脇見(道路交通法第70条)・携帯電話を使用ながらの運転(道路交通法第71条5号の5)・制動装置不良(道路交通法第63条の9第1項)などといった自転車の運転手の態様などの事情によっては、歩行者の過失が0とされることもあります。