後遺障害等級の解説

脊髄損傷

腰髄損傷の症状と後遺障害【医師監修】|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

こちらの記事では、【交通事故で腰髄損傷を負った場合の症状や後遺症及び後遺障害】について、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)監修のもと整理しています。

腰髄について

脊髄は中枢神経の一つであり、脳から連続的に存在しています。

脊髄は脳と身体各部との信号伝達経路という非常に重要な役割を担っているため、脊椎(一般的に背骨と呼ばれる部分)によって厳重に守られています。

そんな脊髄ですが、その部位によって、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の大きく4つに区分されています。

その中でも腰髄は、第11胸椎~第1腰椎(Th11~L1)のあたりに通っている脊髄を指しており、

その高位(レベル)に応じて第1腰髄~第5腰髄の5節に細分されます。

腰髄の髄節は、一般に、第1腰髄から順にL1、L2、…、L5と呼ばれることが多いです。

各髄節からは左右に脊髄神経が伸びてでており、そこから身体各部に更に細かい神経が伸びています(末梢神経)。

また、腰髄は脊髄の末端近く、円錐上部と呼ばれる部分に位置していますが、腰髄の各髄節は頚髄や胸髄と比べて幅があまり大きくありません。

つまり、一度の外傷によって複数の腰髄髄節を損傷する可能性もあり、複数箇所に症状や筋萎縮がみられることもあります。

腰髄損傷の症状

脊髄損傷の症状について、次の2点がポイントとなります。

脊髄を損傷すると、損傷高位(レベル)以下の髄節支配領域に障害が生じる

損傷高位によって現れる症状が異なる

もちろん、腰髄損傷の場合も例外ではありません。

以下では、腰髄損傷の場合に現れる可能性がある症状を見ていきます。

⑴運動機能障害(下半身麻痺)

大きく分けて、頚髄は頭部や上肢を、胸髄は胸部や背部を、腰髄は下半身の運動神経や感覚神経を司っています。

すなわち、腰髄損傷を負うことにより、損傷の程度に応じて下半身に完全麻痺または不全麻痺を生じることとなります。

足を動かすなどの運動神経は、脳から信号が出て、これが神経伝達経路である脊髄を通り、下肢に伝達される流れであり、これによって私たちは体を動かすことができます。

しかし、脊髄を損傷することにより、脳からの信号が損傷した髄節より先に届かなくなってしまうため、運動機能麻痺の症状が現れることになります。

腰髄損傷の場合、下半身麻痺になるケースがよく見られます。左右どちらかの下肢のみに麻痺が現れることもあれば、損傷の程度が大きい場合だと両下肢に麻痺が現れることもあります(下肢対麻痺)。

⑵感覚神経障害

感覚神経は、大きく分けて2つの種類があります。それが表在感覚と深部感覚です。

表在感覚は、痛覚や温冷覚、触覚など、皮膚組織により刺激を受け取り感知するもので、

深部感覚は、位置覚や振動覚など、皮膚より下の骨や筋組織などで刺激を受け取り感知するものです。

これらはいずれも刺激を受け取った組織から脳に向かって感覚神経の信号が送られ、脳に信号が届くことで、私たちは痛みや温度、振動などを認識することができます。

この信号が脳に向かう際、神経伝達経路である脊髄を経由しますが、脊髄を損傷すると信号が脳に届かなくなってしまいます。それゆえ感覚神経障害が生じることになります。

腰髄は主に下腹部・腰部~下肢といった下半身の大部分の神経を司るので、損傷した髄節に応じてこれらの部位に感覚異常が生じることがあります。

損傷高位(レベル)がL1の場合、その神経支配領域が鼠径部や腰になるので、鼠径部より低い位置にある下肢前面・側面に感覚消失や鈍麻がみられます。

損傷高位(レベル)がL2の場合は大腿内側から下の、L3の場合は大腿前面や膝のあたりから下の、

L4の場合は大腿外側や下腿内側から下の、そしてL5の場合には下腿前面・外側や足の甲の領域に、それぞれ感覚消失や鈍麻の症状が現れます。

⑶神経因性膀胱障害(排尿障害・蓄尿障害)

膀胱機能に関する神経は腰髄、仙髄の支配領域にあります。

膀胱に尿が溜まると、脳に向かって信号が送られ、これにより尿意を感知します。

また、膀胱や尿道括約筋の収縮・弛緩を制御する信号が脳から送られます。

こうした働きにより排尿・蓄尿が不随意的にコントロールされていますが、腰髄損傷によって脳と膀胱や尿道との神経伝達経路が障害されることにより、排尿や蓄尿の制御にも異常を来すことになります。

尿意を感知できなくなったり、随意的な排尿ができなくなったり、膀胱に尿を溜めきれずあふれてしまうことにより起きる溢流性尿失禁が起きたりします。

また、膀胱から尿管への尿の逆流や、尿路感染症などの二次的な症状が現れる恐れもあります。

⑷神経因性大腸機能障害(排便障害)

腰髄を損傷すると、排便機能についても障害が生じる可能性があります。

通常、直腸に便が貯まってくると、直腸壁から脳に向かって信号が送られ、便意を感知します。

また、排便時には肛門括約筋を弛緩させる信号が脳から送られ、これにより排便がなされます。

しかし、腰髄を損傷することで、これらの信号伝達が上手くできなくなり、便意を感知することができなくなったり、上手く排便ができなくなったりします。そのため便秘が生じる恐れもあります。

腰髄損傷と後遺障害等級

交通事故によって腰髄損傷を負い、後遺症が残ってしまった場合、自賠責に、後遺障害に関する自賠責保険金請求を行うことができる場合があります。

腰髄損傷が生じた場合の後遺障害認定及び等級の判断は、基本的に麻痺の程度や範囲並びに介護の要否や程度に着目して行われますが、それだけではなく神経因性膀胱障害や脊柱の障害(脊柱変形障害、脊柱運動障害など)、その他体幹骨の変形障害等の併発している症状も含めて総合的に判断されます

腰髄損傷の場合に該当する可能性が考えられる後遺障害は以下のとおりとなります。

⑴別表第一第1級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

⑵別表第一第2級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

⑶別表第二第3級3号

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷別表第二第5級2号

「脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸別表第二第7級4号

「脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

⑹別表第二第9級10号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

⑺別表第二第12級13号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの

おわりに

自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、

自賠責に申請する際に後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、自賠責に申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

腰髄損傷を負ってしまい下半身不随が残ったがこれからどうしたらいいのか、自分の場合は自賠責に請求できるのか…

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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また、脊髄損傷の症状や治療・リハビリ、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷に関する詳しいことは以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。