上肢 神経症状
肩の腱板損傷|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故による腱板損傷と後遺障害等級について解説いたしております。
なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしてもらっています。
腱板損傷とは?
⑴腱板の構造と役割

腱板は、肩関節を安定させるために重要な役割を果たす構造です。具体的には、肩関節を支える棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉の腱から構成されています。腱板は、上腕骨頭を肩甲骨の受け皿(関節窩)に保持する構造となっており、肩の多方向の動きを支える一方で、肩関節が脱臼しないように安定させるストッパーのような役割も果たしています。このため、腱板は日常動作やスポーツを行う上で欠かせない重要な部位といえます。
⑵腱板損傷が起こる原因と症状
腱板損傷の主な原因には、交通事故や転倒事故などの外傷によるもののほか、加齢変性による劣化や、スポーツや仕事等で負担がかかることによる経時的劣化が挙げられます。また、日常生活で肩関節に負担がかかっていたところに交通事故などの外傷が加わって腱板損傷が発生するなど、複合的要因により生じることもあります。
腱板損傷の症状としては、肩の強い痛みが挙げられます。肩を動かしたときの可動時痛や、じっとしている状態でも痛みがする(安静時痛)が挙げられます。また、肩関節に可動域制限が生じ、腕を上げる、物を持ち上げるといった基本的な動作が困難になることがあります。治療において肩関節を酷使しないよう固定されることがありますが、この関節固定により肩関節周辺の筋力が低下し、肩関節が拘縮してしまい、その結果として肩関節の可動域制限が生じることとなります。このほか、可動時に肩関節あたりから異音がするなどの症状がみられることもあります。
⑶自然治癒の困難さと放置のリスク
腱板損傷は、放置して自然治癒することが極めて困難な傷病です。損傷の度合いが軽度の場合でも適切なリハビリが必要ですが、重度の場合は手術が推奨されるケースが多くあります。治療を受けなければ、肩関節の機能が回復せず、慢性的な痛みや可動域制限が固定されてしまうリスクが生じたり、損傷が悪化して腱板断裂につながる恐れもあります。
また、放置により症状が悪化すると、後遺障害認定を受ける際にも不利に働く可能性があります。そのため、交通事故で腱板損傷が疑われる場合は早期に医療機関を受診し、適切な検査・治療を受けることが重要です。
⑷腱板損傷の治療
腱板損傷の治療では、主に手術療法と保存療法が行われています。関節鏡視下手術や直視下手術による腱板の縫合がなされることが多い印象です。術後には肩関節機能の回復を目指してリハビリテーションが行われます。
保存療法では、湿布・痛み止めなどの内服が行われたり、痛みがひどい場合には関節内注射による鎮痛などの処置がなされます。
⑸腱板損傷の検査
腱板損傷の診断において用いられる徒手検査について以下に示します。
なお、これらの検査によるスクリーニングと実際の損傷部位は必ずしも一致しないことがあります。
①棘上筋テスト(SSPテスト)
棘上筋は肩関節の外転時に作用する筋肉であり、腱板の中で最も損傷する可能性が高いとされています。肩関節外旋位で挙上する力に対して抵抗を加え評価するFull can testや、内旋位で同様に抗を加え評価するEmpty can testがあります。
②棘下筋テスト(IPSテスト)
棘下筋は、肩関節の外旋時に作用する筋肉です。腕を下におろした状態から肘を90度に曲げ、肘から先を外側に開いていく動きをします。このとき、左右差が見られる場合は腱板損傷が疑われます。
③肩甲下筋テスト(SSCテスト)
肩甲下筋は、肩関節の内旋時に作用する筋肉です。背中に手を回し、その手を背中から離して保持できるか確認するLift off testや、患側の手で健側の方を押し込んだ時の力の強さを確認するBear-hug test、また患側の手で腹部を押し込む力の強さを確認するBelly-press等があります。
④Drop arm sign(ドロップアームサイン)
検者が被検者の腕を外転位90度まで持ち上げ、手を離した時に、被検者が腕を支えられなかったりしたら腱板損傷の疑いがあります。
⑤Painful arc sign(ペインフルアークサイン)
被検者が外転方向に腕を挙上した時に、60度~120度の間で疼痛を感じ、それ以外では疼痛を感じないならば棘上筋の損傷が疑われます。
⑥インピンジメントサイン(インピンジメント徴候)
肩関節のインピンジメント症候群の症状を評価する手法です。Neer testやHawkins test等が有名です。
⑹腱板損傷の画像検査
前述のように徒手検査によってある程度スクリーニングを行うことはできますが、しかし徒手検査のみで損傷部位を確定的に明らかにすることは困難です。
そのため、腱板損傷が疑われる場合には、画像撮影が行われることが殆どです。
腱板は軟部組織ですので、MRI画像が撮影されることが一般的です。MRI画像を確認することによって、腱板損傷の部位や範囲などを視覚的に評価することができます。また、XP画像では直接腱板の状態を確認することはできませんが、腱板損傷の場合には肩峰と上腕骨頭の間の隙間が狭小化することがありますので、これを確認することができるという点では一定の有用性はあると言えるでしょう。
腱板損傷と後遺障害等級
交通事故で腱板損傷を負傷し、治療の結果として後遺症が残存してしまった場合、自賠責に後遺障害等級の申請を行うことができるときがあります。
腱板損傷では、前述のとおり肩の痛みや肩関節の可動域制限といった症状が現れるため、これらが後遺症として残ってしまうことが多いです。ここでは、神経症状と肩関節の機能障害について解説していきます。
⑴神経症状
腱板損傷による肩の痛みなどの神経症状が残存した場合、第12級13号もしくは第14級9号が認定される可能性があります。
①第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
肩の痛みの残存について、画像所見や神経学的所見などにより他覚的に立証できる場合に認定されます。認定にあたってはMRI等の画像所見は必要不可欠であり、画像によって腱板損傷の外傷性異常所見が認められ、その他腱板損傷に係る徒手検査などの神経学的所見からも肩の痛みの残存が肯定されることが要求されます。
②第14級9号 局部に神経症状を残すもの
画像所見や神経学的所見などによって他覚的に症状の残存を立証することはできないものの、事故態様や治療状況、症状経過などによって症状の残存につき説明可能である場合に認定されます。
⑵機能障害
腱板損傷の治療の過程で、肩関節の固定を行ったことにより、肩関節が拘縮してしまい可動域制限が残存してしまった場合に、一定の要件を満たすことができるときに認定されます。なお、機能障害の等級認定を受けるためには、腱板損傷と肩関節可動域制限の相当因果関係を他覚的に立証できることが求められます。すなわち機能障害の認定にあっても画像所見などが非常に重要になってきます。
また、機能障害は、可動域制限のみならず疼痛等の神経症状も含めて後遺障害として評価されているので、神経症状は通常派生の関係となります。したがって、同一部位につき、機能障害と神経症状の二つの等級が認定されることは基本的にはありません。
①第8級6号 上肢1関節の廃用
「一上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」に該当する場合に認定されます。
「1関節の用を廃したもの」とは、具体的には以下のものをいいます。
a 関節が強直したもの
b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
なお「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下になったものをいいます。
c 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
②第10級10号 上肢1関節の著しい機能障害
「一上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。具体的には、次のいずれかに該当するものをいいます。
a 関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの
b 人工関節・人工骨頭を挿入置換したもの(ただし、挿入置換した関節の可動域角度が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合を除く)
③第12級6号 上肢1関節の機能障害
「一上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。具体的には、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものに該当することが要件となります。
おわりに

本稿では、腱板損傷とその症状、そして後遺障害等級について解説いたしました。
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