醜状障害
傷痕の色素沈着|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故の傷痕と色素沈着、そして自賠責の後遺障害等級との関係について解説しております。
なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。
なぜ色素沈着が起きるのか?
交通事故等によって皮膚を損傷したとき、その治癒の過程においてはまず肉芽組織が形成され、その後コラーゲン等のタンパク質からなる膠原線維や線維結合組織に置き換わっていき、こうして傷痕の修復がなされていきます。回復の途上では特に肥厚性瘢痕が見られます。これはミミズ腫れのようなぷっくりと盛り上がった形状の瘢痕をいいますが、回復が進めばこの盛り上がりや炎症も治まっていき、元通りになることが多いです。
ですが、傷痕が回復していく過程において、傷痕が紫外線などの強い刺激を多量に受けてしまうと、色素沈着を起こしてしまう恐れがあります。というのも、人間の皮膚にはメラノサイトという組織が存在しており、通常メラノサイトは肌を守るためにメラニン色素を分泌しています。このメラノサイトは、紫外線や衣服の擦れ等によって強い刺激を受けると、活性化してより多くのメラニン色素を分泌していきます。通常、皮膚の新陳代謝によってメラニンは皮膚の外に排出されますが、過剰な量のメラニンが分泌されると新陳代謝による排出が間に合わず、皮膚に蓄積されてしまいます。この結果、傷痕にメラニン色素が蓄積され、黒色や茶色のような色素沈着が生じてしまうのです。
そのため、交通事故等で顔や上下肢等の露出する部分に傷を負ってしまった場合には、色素沈着を予防するために十分な紫外線対策を行うことが重要になるでしょう。また、傷痕を必要以上に触ったり、あるいは掻いたりするような動作も、メラノサイトを活性化させメラニン色素を多量に分泌することにつながってしまいますので、できるだけ刺激を与えないように保護すること重要となります。
自賠責保険における醜状障害の後遺障害等級
自賠責は、自動車損害賠償保障法施行令において、自賠責保険の補償対象となる後遺症について定めています。
この自賠責保険の補償対象となる後遺症のことを後遺障害と呼びますが、交通事故で傷痕が残存してしまった場合には、醜状障害という後遺障害が認定される可能性があります。そのため、自賠責保険で醜状障害と認定されれば、等級に応じた保険金を受け取ることができます。

醜状障害は、傷痕が残ってしまった部位に応じて認定基準や認定される後遺障害等級が異なっています。この部位は大きく3つに分けることができ、上図のとおり、外貌・露出面・露出面以外(日常露出しない部位)となります。以下では、それぞれ部位別に後遺障害等級や認定基準を見ていきましょう。
なお、後述の等級認定要件を見ていただけると分かりますが、後遺障害に該当するかどうかは傷痕の形状や大きさがポイントとなっており、瘢痕や線状痕などの傷痕は修復したものの色素沈着が残存しているような場合には、醜状痕に該当しないとして等級認定されない可能性もあります。
⑴外貌醜状
「外貌」とは、頭部・顔面部・頚部といった日常露出している部分をいいます。頭部は通常髪の毛が生えている部分を指し、顔面部はいわゆる顔の部分すなわち下顎の骨の稜線と髪の毛の生え際で囲まれた部分を指します。そして頚部は、顔面部より下の日常露出している部分を指し、顎の下の部分は頚部に含まれます。
①別表第二第7級12号
「外貌に著しい醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。
まず頭部については、てのひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損が残った場合に該当します。
次に顔面部については、鶏卵大面以上の瘢痕、又は10円銅貨大以上の組織陥没が残った場合に該当します。
そして頚部については、てのひら大以上の瘢痕が残った場合に該当します。
なお、てのひらの大きさは個人差がありますので、通常、被害者本人のてのひらを目安にします。
②別表第二第9級16号
「外貌に相当程度の醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう外貌の相当程度の醜状とは、顔面部に5㎝以上の線状痕が残った場合が該当します。
③別表第二第12級14号
「外貌に醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。
まず、頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損が残った場合に該当します。
次に顔面部については、10円硬貨大以上の瘢痕又は3㎝以上の線状痕が残った場合に該当します。
そして頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕が残った場合に該当します。
⑵露出面の醜状障害
①別表第二第14級4号
「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう「上肢の露出面」とは、肩関節以下(手部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について肘関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がある点に注意しておきましょう。例えば通勤中の交通事故(通勤労災)で後遺症を残した場合、自賠責に後遺障害等級の申請を行うこともできますし、労災を使用すれば、障害給付の支給請求を行うこともできます。前述のとおり自賠責と労災では「露出面」の定義が異なります(自賠責のほうが範囲が広い)ので、自賠責では等級に該当するものの労災では等級に該当しないという結果になる可能性もあります。
②別表第二第14級5号
「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう「下肢の露出面」とは、股関節以下(足背部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について膝関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がありますので、上肢露出面の醜状障害と同様に、自賠責と労災とで認定される等級が異なる可能性があります。
③別表第二第12級相当
上肢又は下肢の露出面に、てのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕を残した場合には、別表第二第14級4号又は第14級5号ではなく別表第二第12級相当が認定されます。複数の瘢痕や線状痕が残存する場合にはそれらの面積を合計して認定しますが、この場合、少なくともてのひら大以上の瘢痕に該当する程度の瘢痕や線状痕が1個以上残存している必要があります。裏を返すと、てのひら大に満たない瘢痕や線状痕のみが複数残存している場合は、仮にその合計がてのひら大の3倍程度以上であったとしても、第12級相当は認定されません。
⑶日常露出しない部位の醜状障害
自賠責の後遺障害等級認定において日常露出しない部位とは、胸部・腹部、背部・臀部を指します。これらの部位の醜状については、別表第二備考6を適用し、相当等級が定められます。なお、日常露出しない部位の定義についても自賠責と労災で異なっており、労災では胸部・腹部、背部・臀部に加えて上腕部と大腿部も日常露出しない部位になります。この差異は、上肢・下肢の露出面の定義が異なることからくるものであり、つまるところ「日常露出しない部位」=外貌及び上下肢の露出面以外の部位と考えてよいでしょう。
①別表第二第14級相当
胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の4分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第14級相当が認定されます。
②別表第二第12級相当
胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の2分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第12級相当が認定されます。
⑷等級認定に関する留意点
等級認定を行うに際し、2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算して等級が認定されます。ここでいう「相隣接」は、複数の醜状間の距離がおおむね1㎝以下であることとされています。つまり、1つ1つの瘢痕の大きさでは認定基準の大きさに届かなくても、それらが1㎝以下の距離で近接していれば、大きさを合算して等級認定判断がなされるため認定される可能性も出てくるということです。
また、眉毛や頭髪等に隠れ、人目につかない部分については、醜状として取り扱われません。
おわりに

本稿では、交通事故の傷痕と色素沈着、そして自賠責の後遺障害等級について解説いたしました。
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