後遺障害等級の解説

精神障害

交通事故とPTSDの症状|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故によるPTSDと自賠責の後遺障害等級の関係について解説しております。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。

PTSDとは?

⑴PTSDの概要

PTSD(Post Traumatic Stress Disorderの略)は、命の危険を感じるような強いショック体験やトラウマをきっかけに発症する心の病気です。日本では心的外傷後ストレス障害と呼ばれることもあります。この病気は、外傷性の高次脳機能障害や脊髄損傷とは異なり、中枢神経の器質的損傷を伴わずに発症するものであるため、非器質性精神障害の一つとされていあす。

PTSDは、過去の衝撃的な出来事が心に深い傷を残し、その影響が長期間続くことが特徴です。主な原因として自然災害や暴力等の犯罪被害などが挙げられますが、交通事故もまたPTSDを発症する原因となることが多いです。PTSDの症状は、時間が経過しても自然に軽減せずに、継続的に被害者の生活に影響を与える可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。

⑵交通事故によるPTSDの発症メカニズム

前述のとおり、交通事故はPTSDの発症原因となる出来事の一つです。交通事故の被害者は、突然の衝撃や生命の危機を経験することで、恐怖や無力感に苛まれることがあります。このような体験が神経系に過剰なストレスを与え、脳が危険に敏感な状態になってしまうことで、PTSDの発症につながります。

⑶PTSDの症状

PTSDにはいくつかの特徴的な症状がありますが、その中でもよく見られる三つの特徴があります。それが以下①~③に示す、持続的再体験症状・持続的覚醒亢進症状・持続的回避症状になります。

①持続的再体験症状(フラッシュバック)

持続的再体験症状は、一般にフラッシュバックと呼ばれる症状のことです。これは、トラウマ体験がまるで繰り返されているかのように感じられる現象で、事故当時の映像や音などが不意に頭をよぎり、当時の恐怖が蘇る症状をいいます。

②持続的覚醒亢進症状(過覚醒)

持続的覚醒亢進症状(過覚醒)は、何らかのきっかけで事故当時の不安、恐怖、緊張が蘇り、交感神経系が過活動となり、あらゆる物音や刺激に対して過敏に反応してしまい過度の緊張状態が継続する症状をいいます。具体的症状としては、不眠、神経過敏による苛立ちや怒り、集中力の低下、注意過剰や必要以上の怯懦、少しの刺激への過敏な反応等が挙げられます。

③持続的回避症状

持続的回避症状は、交通事故等の体験に関連する記憶や恐怖感が蘇ったり、またフラッシュバックや過覚醒が起こらないように、出来事を思い出すような場所や人物を回避する症状をいいます。また、このために感情の麻痺が生じることがあります。具体的には、表情が少なくなる、話をしなくなる、記憶力や集中力の低下、事物への関心の低下、日常生活全般にわたる活動の低下等が挙げられます。

PTSDの診断基準

PTSDの一般的な診断基準としては、アメリカ精神医学会が発行するDSM-Ⅴと、WHO(世界保健機関)が採択したICD-10があります。

⑴DSM-Ⅴ

DSM-Ⅴは前述のとおりアメリカ精神医学会が発行する診断マニュアルで、精神疾患の基本的な定義を記したものとなります。世界共通の診断基準として用いられており、日本の医療機関においてもよく用いられています。その診断基準は以下のA~Hのとおりとなります。なおこの基準は成人や6歳を超える子供について適用されるものであり、6歳以下の子供については若干内容が異なる診断基準が用いられます。

A:危うく死ぬ又は重傷を負う、性的暴力を受けるような出来事を体験もしくは直面し、かつ強い恐怖や無力感又は戦慄に関する反応を示すような外傷的出来事に曝露されたこと

B:外傷的な出来事が苦痛な記憶や夢などのかたちで再体験され続けていること

C:外相と関連した刺激の持続的回避がみられること

D:外傷的出来事に関連して認知や気分の消極的・陰性的変化がみられること

E:外傷的出来事に関連して覚醒度と反応性に著しい変化があること(苛立ち・怒り、自己破壊的行動、過度の軽快、過剰な驚愕反応etc)

F:B、C、Dの障害が1か月以上持続していること

G:障害により社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていること

H:障害が、物質(アルコール又は医薬品)又は他の医学的疾患の生理学的作用によるものではないこと

⑵ICD-10

ICD-10はWHOが作成した国際疾病分類であるICDの第10版という意味であり、1990年に適用されました。DSM-Ⅴとともにこちらも日本で用いられています。診断基準は翻訳の仕方によって表現が若干異なるところもありますが、おおむね次の①~⑤のとおりです。

①大きな苦悩を引き起こすような驚異的・破局的ストレスに曝露させるような出来事があったこと

②持続的な再体験症状によってストレス的苦痛がしつこく蘇る

③持続的回避症状があること

④過敏性・過覚醒の増大

⑤外傷的出来事から1か月後も持続(ただし遅くとも6か月以内に発症していること)

PTSDの治療法と回復へのステップ

⑴専門医による治療の進め方と選択肢

交通事故やその他のトラウマによって発症したPTSDの治療において、専門医の診断と治療法の選択が非常に重要です。精神科や心療内科の医師は、被害者の症状や背景を詳細に評価し、個々の状態に適した治療プランを立てていきます。主な選択肢としては、心理療法や薬物療法、またこれらを組み合わせた治療方法が挙げられます。それらの治療によってPTSDの根本的な症状を軽減し、被害者が日常生活に戻るためのサポートを行います。

⑵認知行動療法(CBT)や薬物療法の効果

PTSD治療の中心となるのは、認知行動療法(CBT)や必要に応じた薬物療法です。認知行動療法は、特にトラウマの記憶と向き合いながら、不安やフラッシュバックなどの症状への対処法を学ぶために有効です。また、PTSDに伴う不安感や睡眠障害には、抗不安薬や抗うつ薬が処方される場合もあります。これらの治療を適切に組み合わせることで、症状が緩和され、被害者が持つトラウマの影響を最小限にすることが可能です。

⑶治療と並行して実施すべき生活環境の調整

PTSDの治療を進める上では、患者が安心して生活できる環境を整えることも非常に重要です。たとえば、トラウマの記憶を想起させるような状況を避けたり、リラックスや安定を促す生活リズムを構築することが効果的です。また、ストレスを軽減するため、被害者が自分自身のペースで社会復帰を進められるような環境を作ることも大切です。これらの生きやすい環境調整が、治療効果を高める一助となります。

PTSDの後遺障害等級

治療を行った結果としてPTSDの症状が残存してしまった場合には、自賠責保険に後遺障害等級の申請を行うことができる場合があります。

⑴非器質性精神障害の等級認定基準

PTSDをはじめとする非器質性精神障害の後遺症が残存しているというためには、以下の①の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、②の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。

①精神症状

a 抑うつ状態

持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、何をするのも億劫になる(億劫感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態。

b 不安の状態

全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態。

c 意欲低下の状態

全てのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。

d 慢性化した幻覚・妄想性の状態

自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が以上に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)等の幻覚、妄想を持続的に示す状態。

e 記憶又は知的能力の障害

記憶障害としては、解離性(心因性)健忘が代表例。自分がだれであり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や、生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態。

知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害が代表的。日常身辺生活は普通にしているのに、改めて質問すると自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態。

f その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)

多動症、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴といったa~gに分類できない障害。

②能力に関する判断項目

能力の有無及び必要となる助言・援助の程度に着目し評価が行われます。

a 身辺日常生活

入浴や更衣など清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて評価。

b 仕事・生活に積極性を・関心を持つこと

仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて評価。

c 通勤・勤務時間の厳守

規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて評価。

d 普通に作業を持続すること

就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて評価。

e 他人との意思伝達

日常生活や職場等において他人とのコミュニケーションが適切にできるかを評価。

f 対人関係・協調性

日常生活や職場等において、円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかなどについて評価。

g 身辺の安全保持、危機の回避

危険等から適切に身を守れるかどうかを評価。

h 困難・失敗への対応

ストレスを受けた時に、ひどく緊張したり混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかについて評価。

⑵認定される可能性がある後遺障害等級

PTSDは非器質性精神障害の一つとして後遺障害等級認定が行われ、認定される可能性がある等級は以下の3つになります。

別表第二第9級10号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、次のa又はbに該当する場合に認められます。

a 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目のうちb~hのいずれか1つの能力が失われているもの又は4つ以上についてしばしば助言・援助が必要とされる障害を残しているもの

b 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

別表第二第12級13号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、次のa又はbに該当する場合に認められます。

a 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要とされる障害を残しているもの

b 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)を適切又は概ねできるもの

別表第二第14級9号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、②の判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当します。

⑶自賠責への申請にあたっての注意点

PTSDをはじめとする非器質性精神障害は、「どの時点をもって症状固定とするか」の判断が難しい症状とされます。切り傷や骨折などのように、外見で回復の程度が判断できるものではないからです。

そのため、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、症状固定の状態にあるものとして後遺障害等級の認定が行われます。この目安としては2年が妥当であると考えられ、つまり事故後にPTSDを発症してから2年治療を続けてもなお症状が残存してしまった場合には、その時点をもって症状固定を行い、その時点での症状に基づいて後遺障害等級の認定判断を行う、ということです。

もちろん、治療開始から2年が経過する前に症状固定を迎えることもあるでしょうから、その場合は基本どおり、その時点の症状をもって症状固定として自賠責に申請することとなるでしょう。

また、非器質性精神障害として評価するにあたっては、精神科専門医による診断および治療がなされていることが必要不可欠となります。そのため、精神科専門医による精神科的治療がなされていない場合は、自賠責保険における後遺障害としての非器質性精神障害として取り扱うことはできないとされています。なお、ここでいう「精神科専門医」とは、たとえば精神科や精神神経科、心療内科、メンタルクリニック等があります。

また、自賠責への請求に際しては、後遺障害診断書のほか、『非器質性精神障害にかかる所見について』という書面についても主治医に作成してもらう必要があります。非器質性精神障害は多因的であることから、交通事故とPTSDの発症との因果関係の判断に当たっては、事故の状況や受傷状況といった客観的な事実関係、精神症状発症時期の確認、精神科専門医受診に至る経緯、精神医学的な診断名等、交通事故と発症との関連についての調査を行った上で総合的に判断していくことが重要とされており、また、治療経過・期間、身体的障害の状況、事故外要因、予後状況等もまた総合的に判断して等級評価を行うこととされているためです。

おわりに

PTSDは骨折や擦り傷などのように目に見える傷病ではないため、交通事故によりPTSDを発症した場合に後遺障害等級の認定を目指したり損害賠償請求を行うにあっては、交通事故とPTSDの因果関係を証明することが非常に重要となります。そのためには専門医による診断と客観的な証拠が必要不可欠となり、この証明が不十分な場合、後遺障害等級の認定が下りず、適切な賠償を受けられないリスクが高まります。

そのため、少しでも適切な賠償を得ることを考えるならば、事故後なるべく早い段階から専門家に相談することを推奨します

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております

交通事故によってPTSDを発症してお悩みの方や、賠償請求のこと等でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。