精神障害
PTSDとは|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、PTSDと自賠責の後遺障害等級の関係について解説しております。
なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の概要
⑴PTSDの定義と診断基準
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、生命の危機を感じるような強いトラウマが原因で発生する精神的な障害です。アメリカ精神医学会から発行されている精神疾患に係る診断マニュアルであるDSM-Ⅴによると、PTSDは外傷的な出来事に遭ったのちに4つの主要な症状が1か月以上持続することによって診断されます。具体的症状については後述します。
診断のためには、症状が本人の日常生活や社会活動に著しい影響を及ぼしていることも重要です。また、PTSDは問診や精神科医による評価を通じて診断されることが多いです。特に、初期の段階で症状に気づき、適切な治療を受けることがその後の回復において重要です。
⑵PTSDの主要な症状 (再体験、回避、否定的認知、過覚醒)
PTSDの主な症状は、次の4つが挙げられます。
1つ目は持続的再体験症状です。これは、トラウマの記憶が意図せずに繰り返される状態を指します。フラッシュバックや悪夢として現れることが一般的です。これにより、当時の恐怖感や不安が鮮明に蘇りやすくなります。
2つ目は持続的回避症状です。これは、トラウマを思い出させる状況や自身の感情を避けようとする行動です。この結果、人間関係や日常生活が制限される場合があります。
3つ目は否定的認知と感情の変化です。例えば、自己肯定感の低下や周囲への不信感、自分や他者への責任を過度に感じるといった否定的な認知が見られることがあります。また、感情の麻痺や世間的な興味喪失も含まれます。
4つ目は持続的覚醒亢進症状(過覚醒)で、不眠や過剰な警戒心、集中力の低下が特徴です。
PTSDの治療法と対処法
⑴心理療法の種類
PTSDの治療において、心理療法は非常に重要な位置を占めています。特に広く使用されているのが認知行動療法(CBT)です。この療法では、トラウマ体験による否定的な思考パターンや行動を認識し、それを建設的かつ適応的なものへと変えていきます。また、眼球運動による脱感作と再処理(EMDR)も注目されています。この方法では、トラウマ記憶を伴う感情を軽減し、過去の出来事をより冷静に捉えられるようサポートします。これらの心理療法は、専門の心理士や精神科医による指導のもとで行われるため、適切な医療機関へのアクセスが必要です。
⑵薬物療法とその効果
心理療法と併用して行われることが多いのが薬物療法です。PTSD治療においては主に抗うつ薬が用いられ、不安感や抑うつ症状を軽減する効果があります。また、場合によっては抗不安薬や睡眠薬が処方されることもあります。これらの薬物療法は、過覚醒状態の緩和や睡眠障害の改善に有効です。ただし、薬物療法は個別の症状や体質に応じて慎重に調整されるため、専門医の診断と指導が欠かせないものとなります。
⑶感情調整とリラクゼーション技法
PTSDでは、感情のコントロールが困難になることがよくあります。そのため、感情調整を目的としたリラクゼーション技法が治療の一環として推奨されます。例えば、深呼吸や瞑想、マインドフルネスを取り入れることでストレスを緩和し、不安を和らげる効果があります。また、運動や趣味に取り組むことも気分転換の手助けとなります。こうした技法は、専門家による指導のもとでも実施できるほか、日常生活で自主的に取り入れることも可能です。
PTSDと交通事故・自賠責の後遺障害等級の関係
これまで述べてきたとおり、PTSDは生命の危機を感じるような強いトラウマが原因で発生する非器質性精神障害であるところ、交通事故が発症原因となるケースも非常に多く見られます。自賠責では、PTSDをはじめとする非器質性精神障害の後遺症についても等級を定めているため、交通事故とPTSDの発症について因果関係が認められ、PTSDの後遺症が残存していることを証明することができれば、後遺障害等級が認定されることとなります。具体的な等級認定基準は後記の⑴に示すとおりとなり、認定される可能性がある等級は⑵のとおりとなります。
⑴非器質性精神障害の等級認定基準
PTSDをはじめとする非器質性精神障害の後遺症が残存しているというためには、以下の①の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、②の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。
①精神症状
a 抑うつ状態
持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、何をするのも億劫になる(億劫感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態。
b 不安の状態
全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態。
c 意欲低下の状態
全てのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。
d 慢性化した幻覚・妄想性の状態
自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が以上に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)等の幻覚、妄想を持続的に示す状態。
e 記憶又は知的能力の障害
記憶障害としては、解離性(心因性)健忘が代表例。自分がだれであり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や、生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態。
知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害が代表的。日常身辺生活は普通にしているのに、改めて質問すると自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態。
f その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
多動症、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴といったa~gに分類できない障害。
②能力に関する判断項目
能力の有無及び必要となる助言・援助の程度に着目し評価が行われます。
a 身辺日常生活
入浴や更衣など清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて評価。
b 仕事・生活に積極性を・関心を持つこと
仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて評価。
c 通勤・勤務時間の厳守
規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて評価。
d 普通に作業を持続すること
就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて評価。
e 他人との意思伝達
日常生活や職場等において他人とのコミュニケーションが適切にできるかを評価。
f 対人関係・協調性
日常生活や職場等において、円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかなどについて評価。
g 身辺の安全保持、危機の回避
危険等から適切に身を守れるかどうかを評価。
h 困難・失敗への対応
ストレスを受けた時に、ひどく緊張したり混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかについて評価。
⑵認定される可能性がある後遺障害等級
PTSDは非器質性精神障害の一つとして後遺障害等級認定が行われ、認定される可能性がある等級は以下の3つになります。
別表第二第9級10号
「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、次のa又はbに該当する場合に認められます。
a 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目のうちb~hのいずれか1つの能力が失われているもの又は4つ以上についてしばしば助言・援助が必要とされる障害を残しているもの
b 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの
別表第二第12級13号
「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、次のa又はbに該当する場合に認められます。
a 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要とされる障害を残しているもの
b 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)を適切又は概ねできるもの
別表第二第14級9号
「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、②の判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当します。
⑶自賠責への申請にあたっての注意点
PTSDをはじめとする非器質性精神障害は、「どの時点をもって症状固定とするか」の判断が難しい症状とされます。切り傷や骨折などのように、外見で回復の程度が判断できるものではないからです。
そのため、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、症状固定の状態にあるものとして後遺障害等級の認定が行われます。この目安としては2年が妥当であると考えられ、つまり事故後6か月以内にPTSDを発症してから2年治療を続けてもなお症状が残存してしまった場合には、その時点をもって症状固定を行い、その時点での症状に基づいて後遺障害等級の認定判断を行う、ということです。
もちろん、治療開始から2年が経過する前に症状固定を迎えることもあるでしょうから、その場合は基本どおり、その時点の症状をもって症状固定として自賠責に申請することとなるでしょう。
また、非器質性精神障害として評価するにあたっては、精神科専門医による診断および治療がなされていることが必要不可欠となります。そのため、精神科専門医による精神科的治療がなされていない場合は、自賠責保険における後遺障害としての非器質性精神障害として取り扱うことはできないとされています。なお、ここでいう「精神科専門医」とは、たとえば精神科や精神神経科、心療内科、メンタルクリニック等があります。
また、自賠責への請求に際しては、後遺障害診断書のほか、『非器質性精神障害にかかる所見について』という書面についても主治医に作成してもらう必要があります。非器質性精神障害は多因的であることから、交通事故とPTSDの発症との因果関係の判断に当たっては、事故の状況や受傷状況といった客観的な事実関係、精神症状発症時期の確認、精神科専門医受診に至る経緯、精神医学的な診断名等、交通事故と発症との関連についての調査を行った上で総合的に判断していくことが重要とされており、また、治療経過・期間、身体的障害の状況、事故外要因、予後状況等もまた総合的に判断して等級評価を行うこととされているためです。

おわりに

PTSDは骨折や擦り傷などのように目に見える傷病ではないため、交通事故によりPTSDを発症した場合に後遺障害等級の認定を目指したり損害賠償請求を行うにあっては、交通事故とPTSDの因果関係を証明することが非常に重要となります。そのためには専門医による診断と客観的な証拠が必要不可欠となり、この証明が不十分な場合、後遺障害等級の認定が下りず、適切な賠償を受けられないリスクが高まります。
そのため、少しでも適切な賠償を得ることを考えるならば、事故後なるべく早い段階から専門家に相談することを推奨します。
弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております。
交通事故によってPTSDを発症してお悩みの方や、賠償請求のこと等でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。
弁護士