上肢
上肢の機能障害の後遺障害等級認定基準(弁護士法人小杉法律事務所監修)
上肢の機能障害に認められる後遺障害等級
第1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
第5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの |
第6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
さらに、特殊な後遺障害等級として、前腕の回内・回外可動域制限(後遺障害等級10級もしくは12級に準ずる)、動揺関節(後遺障害等級10級、12級に準ずる)と習慣性脱臼(後遺障害等級12級に準ずる)が規定されており、これについては後述する。
上肢の機能障害の後遺障害等級認定の要件
上肢の機能障害は、一定の例外を除き、下肢の関節のうちいくつの関節が障害されたか、また、その程度によって等級が変化する。
(1)「上肢の用を全廃したもの」とは、3大関節(肩関節、ひじ関節及び手関節)のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したものをいう。上腕神経叢の完全麻痺もこれに含まれる。
(2)「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当するものをいう。
ア 関節が強直したもの。ただし、肩関節にあっては、肩甲上腕関節がゆ合し骨性強直していることがエックス線写真により確認できるものを含む。
※肩関節は、肩甲上腕関節が強直しても、肩甲骨が胸郭の上を動くことによりある程度屈曲又は外転が可能であるため、関節可動域の測定要領に基づく肩関節の可動域の測定結果にかかわらず、上記のとおり取り扱うものとされている。
イ 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
※なお、「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものをいう。「10%程度以下」の判断にあたって、10%程度とは、健側の関節可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度とする。
ウ 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
※主要運動が複数ある関節に人工関節又は人工骨頭をそう入置換した場合は、主要運動のいずれか一方の可動域が健側の可動域角度が1/2以下に制限されていれば、「関節の用を廃したもの」として認定する。
(3)「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいう。
ア 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
イ 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、上記(2)のウ以外のもの
(4)「関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているものをいう。
上肢の機能障害の特殊な後遺障害等級認定の要件
(1)前腕の回内・回外可動域制限
前腕の回内・回内について、
ア その可動域が健側の1/4以下に制限されているものを第10級
イ その可動域が健側の1/2以下に制限されているものを第12級
に準ずる後遺障害等級として扱うものとされている。
(2)動揺関節
上肢の靱帯が損傷・断裂した場合などは、可動の安定性を保つ人体組織が損傷していることにより当該関節が不安定性を呈することがある。
動揺関節の等級認定の要件は、以下のとおりである。なお、動揺性を呈する医学的要因が必要であることは大前提である。
ア 常に硬性補装具を要するもの:第10級に準ずる後遺障害等級として扱う
イ 時々硬性補装具を要するもの:第12級に準ずる後遺障害等級として扱う
(3)習慣性脱臼
外傷による脱臼に続発して、反復的に生じる脱臼を指す。脱臼する方向によるが、前下方に脱臼する反復性の肩関節脱臼では、外転・外旋する動作に不安感を持ち、肩関節前方の不安定感があり、同部に圧痛があることが多い。
なお、習慣性脱臼は若年者ほど多いとする統計結果が出ている。
交通事故に伴う習慣性脱臼の後遺障害等級は、第12級に準ずる関節の機能障害として扱うとされている。
上肢の機能障害の後遺障害等級認定の注意点
(1)上肢の可動域制限は、「高度な可動域制限を生じる原因」を医学的に立証しなければならないとされている。単に可動域制限の数値が出ているだけでは、後遺障害等級は認定されない。
(2)一定に例外を除き、可動域制限は他動値で確認する。
(3)動揺関節の確認には、手技による動揺性テストや、ストレスレントゲンによって確認されなければならない。また、動揺関節が生じるに足る靱帯損傷などの原因が特定されなければならない。
(4)習慣性脱臼は、それが生じるに足る外傷による脱臼が認められる必要がある。単に結果として反復して脱臼しているだけでは習慣性脱臼の後遺障害等級は認定されにくく、併発する関節包や関節唇の損傷が所見として認められる必要がある。