骨折
頭の骨折
2020.08.11
①頭蓋骨線状骨折
(1)概要
頭蓋骨に線状のひびが入った状態の骨折です。頭部に外力が加わっていることによる骨折なので、痛みや出血、腫れなどの症状が生じます。ただし、「陥没骨折」と比較すると、脳実質への損傷は少ないので、比較的に重篤な後遺障害を残すことは少ないとされています。
(2)症状
骨折部位の疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)
(3)認定されうる後遺障害等級
後遺障害等級第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
後遺障害等級第2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
後遺障害等級第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
後遺障害等級第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害等級第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害等級第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
まず、頭蓋骨の骨折を確認するために、レントゲン写真の撮影が行われます。
しかしながら、レントゲンだけでは、脳実質(「脳自体」と思っていただいて結構です。)への損傷があるかは、判断できません。
そのため、CT画像で脳実質への影響をみるのが一般的です。
一方で、たとえ線状骨折だったとしても、頭蓋内に血種が形成されて脳が圧迫されることもありますので、MRIの撮影も依頼されていたほうが安全だと思います。
イ 意識障害の確認
線状骨折の場合、陥没骨折に比しては脳実質が損傷しているケースは少ないので、意識障害があることは少ないと考えられています。しかしながら、頭部を受傷していることは事実なので、必要に応じて意識障害の有無とその程度を確認しておいてください。
(5)注意点
① 「脳実質の損傷」がキーワード
頭部外傷一般の話ですが、頭部外傷においては、「脳実質に損傷があるか」が重要なポイントです。
具体的にみていくと、
・頭蓋骨が骨折したが、頭蓋内に血種もなく、脳内に達する異常もなかった(例:単純頭蓋骨線状骨折)
→このような場合は、脳実質に損傷がないので、高次脳機能障害という症状の発現は考えられにくいとされています。「脳」を「挫傷」したわけでもないので、後遺障害等級としては非該当か、脳が揺さぶられたことによる頭痛や吐き気の残存で14級9号、ということが予想されます。
・頭蓋骨が骨折し、頭蓋内に血種がある。外傷によって脳実質の損傷が行ったわけではない(例:頭蓋骨骨折及び急性硬膜外血種のうち軽度のもの)
→このような場合は、脳実質は、直接損傷ではなく、頭蓋骨骨折により生じた血種によって圧迫されているものと考えられます。この血種が長時間続けば、血種による圧迫を原因として脳実質の損傷(脳神経障害)に至る可能性があるので、注意が必要です。脳神経障害が起こると、重度の後遺障害が残存する可能性があります。
一方で、この血種が吸収されたり取り除かれたりすると、もはや脳実質を圧迫するものはなくなったので、脳実質の損傷が生じていない状態となります。脳実質の損傷が無い状態になれば、後遺障害等級としては上述のとおり非該当なることもありますし、14級9号となることもあります。
・頭蓋内が骨折し、頭蓋内に血種どころか骨折による脳実質の損傷が認められる(例:重度陥没骨折)
→このような場合には、脳実質が損傷されているため、生命維持や身体機能の確保が緊要です。治療で抜本的な改善が認められない限り、基本的には重度後遺障害となるケースが多く見られます。。
② 症状固定時に、MRI・CT画像で血種や癒合状態を確認する。
高次脳機能障害が惹起された場合には、脳室拡大の有無や経過の確認のために、MRIやCTを撮影されているケースが多くあります。
しかしながら、高次脳機能障害が残存しなかった場合でも、頭痛や吐き気がある場合には、念のために血種の有無などを確認するため、症状固定時に、MRIやCTの撮影をお願いしていたほうがよいと思われます。
③ 高次脳機能障害が疑われる場合には、症状固定時に高次脳機能障害に関係する書類を複数枚主治医の先生や被害者のご親族に記載していただく必要がある。
高次脳機能障害が疑われる場合には、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書のほかに、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的所見を医師の先生に記載していただく必要があるほか、被害者の方を支えてくださっているご親族の方や介護職員の方に、日常生活状況報告書を記載していただく必要があるなど、必要書類が多岐に及びます。頭部外傷後の意識障害についての所見は初診時の先生に書いていただく必要があったり、場合によっては救急搬送記録を取り寄せたほうがいい場合もあったりします。
どの先生にどの書類を依頼するか、定式の書類以外に何の書類が必要かは、しっかりと交通整理をされる必要があります。
②頭蓋骨陥没骨折
(1)概要
頭蓋骨が内側にへこんだ状態の骨折です。
(2)症状
・骨折部位の疼痛、腫脹
・脳の圧迫や損傷による頭痛、嘔吐、意識障害、半身麻痺、言語障害など
(3)認定されうる後遺障害等級
後遺障害等級第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
後遺障害等級第2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
後遺障害等級第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
後遺障害等級第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害等級第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害等級第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
まず、頭蓋骨の骨折を確認するために、レントゲン写真の撮影が行われます。
しかしながら、レントゲンだけでは、脳実質(「脳自体」と思っていただいて結構です。)への損傷があるかは、判断できません。
そのため、CT画像で脳実質への影響をみるのが一般的です。
陥没骨折の場合には、文字通り骨が陥没してしまっているので、折れた骨が脳実質を損傷してしまっていたり、折れた骨が軟部組織を傷つけてその出血が脳実質を圧迫してしまっている場合があります。
イ 意識障害の確認
陥没骨折の場合、脳実質が損傷しているケースが多く見られます。意識障害の有無は、初診時の医師の先生や、救急搬送記録などから確認できます。
(5)注意点
① 「脳実質の損傷」の程度を確認する
陥没骨折では、脳実質に損傷が見られる場合が少なくありません。
脳実質の損傷の原因が、単なる出血による圧迫にあって、除圧が可能であれば、重篤な後遺障害を残すとは考えられない一方で、脳実質が骨折などによって直接損傷してしまうと、損傷部位は再起不能な障害を受けたものと考えられます。脳実質の損傷の程度と原因は、早期に確認しておくことをお勧めします。
② 症状固定時に、MRI・CT画像で血種や癒合状態を確認する。
高次脳機能障害が惹起された場合には、脳室拡大の有無や経過の確認のために、MRIやCTを撮影されているケースが多くあります。
しかしながら、当初は脳実質は血種により圧迫されていたが血種は吸収され脳実質の圧迫が解消された場合等でも、頭痛や吐き気がある場合には、念のために血種の有無などを確認するため、症状固定時に、MRIやCTの撮影をお願いしていたほうがよいと思われます。
③ 高次脳機能障害が疑われる場合には、症状固定時に高次脳機能障害に関係する書類を複数枚主治医の先生や被害者のご親族に記載していただく必要がある。
高次脳機能障害が疑われる場合には、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書のほかに、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的所見を医師の先生に記載していただく必要があるほか、被害者の方を支えてくださっているご親族の方や介護職員の方に、日常生活状況報告書を記載していただく必要があるなど、必要書類が多岐に及びます。頭部外傷後の意識障害についての所見は初診時の先生に書いていただく必要があったり、場合によっては救急搬送記録を取り寄せたほうがいい場合もあったりします。
どの先生にどの書類を依頼するか、定式の書類以外に何の書類が必要かは、しっかりと交通整理をされる必要があります。
④ 頭蓋骨骨折に伴う傷病を理解する
頭蓋骨骨折に伴う傷病は、多岐に及びます。これらの傷病の理解が不正確だと、無駄な検査をしてしまったり、または必要以上に不安に駆られることになります。一方で、本当は重篤になる可能性があるのにみかかわらず症状が軽いからと安心していたところ、後になって症状が重篤となり、行うべき時期に検査を行っていなかった、確認不足だった、ということもあり得ます。人間の脳は神秘であり、その傷害も分類できるものではありませんが、下記のとおり皆様がよく混同する傷病名を大別します。
・脳挫傷、外傷性脳内出血
→脳組織の挫滅が起こっている状態を指します。脳組織の挫滅には通常出血を伴うので、その出血が血種を作って脳実質を圧迫すれば、脳神経障害が生じてしまう可能性があります。また、脳挫傷痕が脳組織内に残存しているようなケースでは、脳組織への衝撃は強度だったことが推認されます。
→出血が原因で脳組織が圧迫されている場合には、除圧に成功すれば、症状は軽快します。
→主たる症状は、激しい頭痛、嘔吐、意識障害です。
・慢性硬膜下血種
→軽微な頭部打撲をきっかけにして、のちに血種が大きくなる病態です。血種がメインですので、除圧に成功すれば症状は軽快します。
→自然吸収されることも多い病態です。
→主たる症状は、頭痛、嘔吐、意識障害です。圧迫の程度によっては、半身麻痺になることもありますが、それはどの血種でも同様です。
・外傷性くも膜下出血
→硬膜の内側にある薄いくも膜と脳の間に出血が広がった病態を指します。
→出血は自然に吸収されます。手術で取り除くことに効果はほとんどありません。
→主たる症状は、激しい頭痛、片麻痺、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作です。
・急性硬膜下血種
→頭部外傷により脳表に脳挫傷が起こり、その部分の血管が損傷されて硬膜下に出血が貯留する状態です。
→基本的には、開頭血種除去術もしくは脳圧降下薬の点滴注射で対処します。
→主たる症状は、激しい頭痛、嘔吐、意識障害に加えて、半身麻痺、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作です。
→数時間経ってから意識障害が発生する場合があり(遅発性意識障害)、注意が必要です。
・急性硬膜外血種
→頭蓋骨と硬膜の間に血種ができる病態です。
→基本的には、開頭血種除去術もしくは脳圧降下薬の点滴注射で対処します。
→主たる症状は、激しい頭痛、嘔吐、意識障害です。
→遅発性の意識障害もあり、注意が必要です。