骨折
胸腰椎の骨折
2020.08.11
①腰椎圧迫骨折
(1)概要
腰部の椎体の骨折の一つであり、椎体の中央から前方に骨折をきたし、単純X線写真側面像で楔状を呈する骨折です。骨折が椎体の前方部分にとどまっている状態であることで、破裂骨折と区分されます。他の不安定型損傷の一所見でもあることから、鑑別に注意を要します。
受傷部位に直接外力が加わる直達外力、頭部・体幹に外力が加わり、体幹に対して頭部に外力が加速度的に加わることによって生じる介達外力の双方によって生じ得ます。車が大破するような事故、自動車と自転車との事故、自動車と歩行者との事故のように、腰部に直接的に外力が加わるような事故態様で発生することが多いとされています。
(2)症状
・腰部痛、腰部運動制限
(3)認定されうる後遺障害等級(疼痛等感覚障害以外)
後遺障害等級第6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
後遺障害等級第6級相当 | 頚部および腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級相当 | 頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
後遺障害等級第11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
腰椎圧迫骨折は、まずはレントゲンの前後像、側面像で確認します。その後、理学所見の精査やMRI撮影を行い、骨挫傷の有無、出血の有無等で複合的に判断し、確定診断を行います。
腰椎圧迫骨折は、レントゲンで経過を追うことが多いのですが、①せき髄を損傷している可能性もあること、②破裂骨折との鑑別診断が必要なことのほか、③圧潰進行の有無と程度を確認するため、主治医の先生と相談し、CT撮影及びMRI撮影も併せて行っていただくことをお勧めします。後述しますが、交通事故による圧迫骨折の場合には、しばしば、事故と圧迫骨折との因果関係が、争点となります。その場合には、事故後の圧潰の進行の有無と程度で、因果関係を立証する必要があるのですが、レントゲンだけでは証明が困難とされる場合があるのです。
イ 臨床所見の確認
検査所見ではないですが、腰椎圧迫骨折の場合には、触診による圧痛、腰部の運動制限、放散痛、麻痺のいずれかもしくは複数が主徴となることが多いとされています。初診時の主訴を確認しておきましょう。なお、腰椎圧迫骨折の場合には、椎体の後方部分が保たれていますので、神経症状は出にくいとする見解もあります。メカニズムを押さえておきましょう。
(5)注意点
① 事故と腰椎圧迫骨折との因果関係は要注意。
高齢者、若年者でも脂肪椎(椎体に脂肪が入り込んでいるものと理解してください。)をお持ちの方及び重労働に従事している方の場合には、事故とは関係なく、不顕性の圧迫骨折が生じていることがあるとされています。このような場合には、事故を契機に症状が発現したことは争いがなくても、事故を契機に腰椎圧迫骨折が発生したとは言い切れず、概して相手方保険会社と因果関係を争う事態となります。
そのため、
・経時的にレントゲン及びCTで事故直後から2~4か月後までの腰椎圧迫骨折後の経過を追う
→新鮮な腰椎圧迫骨折は、骨折後2~4か月間の間は、椎体が徐々に潰れていく(これを「圧潰」といいます。)状態となるとされています。そのため、事故後2~4か月は、レントゲン及びCTで、腰椎の状態を観察し、圧潰の進行があることを立証する必要があります。仮に圧潰が進行していなければ、前からあった古い圧迫骨折、と判断されかねません。
・損傷高位以外の椎体の変性を確認する。
→損傷した椎体以外の椎体が比較的正常であれば、翻って損傷した椎体のみ外力が加わったもの、と推測することができます。一方で、損傷した椎体以外の椎体も変性が進んでいたり圧潰していたりすると、椎体の損傷が外力によるもの、という立証は困難となります。
・損傷した椎体の輝度変化を確認する。
→外力によって椎体骨折が起こった場合、出血などを伴うことがあります。MRIのT2強調画像とT1強調画像を確認して、出血の所見や出血痕があるかを確認しましょう。出血痕があれば、それは新鮮な骨折であると推測することができます。
といった事項を画像や所見上、確認することが重要です。
② 症状固定時には損傷した椎体の上下1個ないしは2個の椎体の前方椎体高及び後方椎体高を測定してもらう。
せき柱の変形障害という後遺障害等級は、その程度により、損傷高位の椎体の上下の椎体高の測定が必要になる場合があります。損傷した椎体は一つでも、その後の圧潰などにより前後の椎体に影響が出ることもあります。損傷した椎体のみをみて後遺障害等級の見立てを立てることは認定基準上も困難ですので、症状固定時には、損傷した椎体の上下1個ないしは2個の椎体の前方椎体高及び後方椎体高を測定し、後遺障害診断書や別紙に記載してもらいましょう。
③ 側彎が生じている可能性がある場合に備え、コブ法により側彎度を測定してもらう。
せき柱の変形障害という後遺障害等級のうち、側彎度によって後遺障害等級が規定されているものがあります。側彎度は、「コブ法」という検査方法により測定すると規定されています。側彎は、画像上測定することは可能ですが、専門家である医師にご測定いただくほうが正確です。せき柱の側彎障害の可能性がある場合には、コブ法により側彎度を測定してもらいましょう。
④ 受傷機転を立証する。
①と重複する理由ですが、腰椎の圧迫骨折は、高所からの転倒の場合が最も多い受傷機転とされています。交通事故によって崖下に転落してしまった場合などは受傷機転が明白ですが、場合によっては車同士の事故で腰椎圧迫骨折という診断がされることもあります。
車同士の事故の場合には、どういう外力が腰部に加わって、ピンポイントに一個ないしは複数個の椎体が損傷したのか、そのメカニズムがよくわからない状態となります。そのため、物損の程度や事故態様などを実況見分調書などから立証して、腰部にどういった力が作用して圧迫骨折に繋がったのかという因果経過を立証する必要があります。
②腰椎破裂骨折
(1)概要
骨折で椎体後壁が破壊され、骨片が椎体の後方(脊柱管方向)に突出している状態です。
圧迫骨折と同様、自動車が大破するような事故や、人対車のような事故のように、椎体に直接外力が加わるような事故で発生します。
(2)症状
・腰部痛、腰部運動制限
・重度の場合、脊髄損傷による麻痺
(3)認定されうる後遺障害等級
後遺障害等級第6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
後遺障害等級第6級相当 | 頚部および腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級相当 | 頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
後遺障害等級第11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
腰椎破裂骨折は、まずはレントゲンで確認します。後方に突出した骨片がどの程度まで脊柱管の狭窄をもたらしているか、またせき髄への侵襲の程度は如何ほどか、などを判断するために、CT画像の撮影も必須と考えます。
また、破裂骨折により、せき髄損傷を合併することもあります。後方の靭帯損傷は稀ですが、脊柱管内に入り込んだ骨片や脊柱管の狭窄により、麻痺などの脊髄症状が発生することがあります。そのため、髄内輝度変化の有無や、損傷高位などを確認するため、MRIの撮影も、行っていたほうがよいです。
イ 臨床所見の確認
圧迫骨折と異なり、通常は腰部の激痛のため、立位を保つことができません。破裂骨折と診断されたにもかかわらず、問題なく独歩している場合には、ほんとうに破裂骨折という診断が正しいのか、正しいとしても相当軽度ではないか、という疑義が生じます。
(5)注意点
① 事故と腰椎破裂骨折との因果関係を今一度確認。
事故と腰椎破裂骨折との因果関係については、腰椎圧迫骨折の箇所をご覧ください。
ただし、腰椎破裂骨折の場合には、基本的には救急搬送され即入院、という治療経過を辿ることが多いため、腰椎圧迫骨折に比べると因果関係が否定されることは少ないと考えられます(ただし、稀に不顕性の破裂骨折もあるために、基本的に、という程度で考えておいてください。)。
② 症状固定時には損傷した椎体の上下1個ないしは2個の椎体の前方椎体高及び後方椎体高を測定してもらう。
せき柱の変形障害という後遺障害等級は、その程度により、損傷高位の椎体の上下の椎体高の測定が必要になる場合があります。損傷した椎体は一つでも、その後の圧潰などにより前後の椎体に影響が出ることもあります。損傷した椎体のみをみて後遺障害等級の見立てを立てることは認定基準上も困難ですので、症状固定時には、損傷した椎体の上下1個ないしは2個の椎体の前方椎体高及び後方椎体高を測定し、後遺障害診断書や別紙に記載してもらいましょう。
③ 側彎が生じている可能性がある場合に備え、コブ法により側彎度を測定してもらう。
せき柱の変形障害という後遺障害等級のうち、側彎度によって後遺障害等級が規定されているものがあります。側彎度は、「コブ法」という検査方法により測定すると規定されています。側彎は、画像上測定することは可能ですが、専門家である医師にご測定いただくほうが正確です。せき柱の側彎障害の可能性がある場合には、コブ法により側彎度を測定してもらいましょう。