交通事故コラム

企業損害

企業損害

2020.08.11

1 企業損害とは

企業損害とは、事故の被害に遭った被害者が、第一被害を生じたことによって、第一被害と経済的一体にあった第三者が企業であった場合の損害をいいます。

会社が法人化されている場合など、いわゆる「法人格」をもっている企業は、法律的には個人とは別の権利主体として考えられています。つまり、企業の代表者が事故によって仕事ができなくても、企業とは別、と考えられているのです。

ただし、事実上は、企業の代表者が一人で営業のすべてを担うなど、個人=企業という業態もめずらしくありません。その場合、個人が交通事故の被害にあった場合には、企業としての損害にも直結することがありますので、「企業損害」という争点があるのです。

2 企業損害の考え方

最高裁昭和43年11月15日は第二小法廷判決(民集22巻12号2614号)は、「原告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様原告個人に集中して、同人には原告会社の機関としての代替性がなく、経済的に一体をなす関係にあるものと認められるのであって、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、被告の原告個人に対する加害行為と同人の受傷による原告会社の利益の喪失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる原告会社の本訴請求を容認しうべきものとした判断は、正当である」と判断して、企業損害のリーディングケースとなっています。

この判決について、可部恒雄・最高裁判所判例解説民事篇昭和43年度(下)1411頁においては、「原告会社が極めて小規模の個人会社である場合には、会社に生じた損害の賠償請求を認めうるとするのが本判決の判旨の全てである」とされています。

この企業損害の争点については、原則的に否定する説や、一定の範囲で認めるとする説など、いろいろな学説があります。個人が交通事故に遭った場合に、結果的に法人が損害を被った場合には、経済的に一体といえる状況であったかを、過去の営業・経営状況や会計資料等から、綿密に立証していくことが重要です。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。