裁判手続
交通事故の損害賠償請求で民事裁判を選ぶべきケースについて弁護士が解説!
2025.01.28
このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、
- 交通事故における民事裁判とは
- 交通事故の損害賠償請求で民事裁判を検討すべきケース
- 民事裁判を成功させるためのポイント
等について解説します。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。
交通事故被害に遭い、お困りの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
交通事故被害者側損害賠償請求専門弁護士による交通事故解決サポートの詳細についてはこちら。
交通事故における民事裁判とは
民事裁判と刑事裁判の違い
交通事故に関連する裁判には、大きく分けて「民事裁判」と「刑事裁判」の2種類があります。
民事裁判は、交通事故の被害者が加害者や加害者契約の保険会社に対して、事故により発生した損害の賠償を請求するための手続です。
一方、刑事裁判は、事故における加害者の刑事責任を追及するために行われます。
加害者に重大な過失がある場合や、被害者に甚大な被害が発生しているような場合には、加害者が刑事責任を問われ、罰金や懲役などの刑罰が科されることがあります。
民事裁判の目的はあくまで被害者の損害を補填し、加害者から適切な慰謝料や損害賠償金を得ることにあります。
一方で刑事裁判では、加害者の刑罰が主な争点となり、被害者自身の損害賠償請求は主な目的には含まれません。
しかし、刑事裁判で提出された証拠や意見を民事裁判で利用することで、間接的に被害者の損害賠償請求に資する場合があります。
刑事裁判への被害者参加のメリット
被害者参加制度とは、平成19年の刑事訴訟法の改正で導入された制度であり、
従来裁判官・検察官・被告人の三者で行われていた刑事裁判に被害者やそのご遺族の方が参加できる制度をいいます。
交通事故の人身事故も刑事訴訟法第316条の33に規定がある被害者参加対象事件に含まれているため、
公判請求が行われ刑事裁判が開かれる場合には被害者参加を行うことができます。
被害者参加を行うことの最大のメリットは、
被害者やそのご遺族の声を直接裁判官や被告人に伝えられることです。
被害者らが行う心情意見陳述の有無は、判決の中で触れられることもありますし、
被害者参加を行った場合は行わない場合と比べて被告人の刑事責任が重いものとなる傾向があります。
また、刑事裁判が開かれる場合には事故態様について厳密な審査がされることになりますから、
民事の損害賠償請求の過失割合の交渉についても詳細な検討資料を得ることになります。
さらに、心情意見陳述を行う際に提出する陳述書は、法廷で被害者らが事故により受けた精神的苦痛や日常を奪われた悲しみ、加害者に対する怒りを述べた証拠になりますから、
刑事裁判で提出された証拠を民事裁判でも提出することで、慰謝料額を増額できる場合もあります。
このように、一見すると民事裁判と刑事裁判は全く別物のように思われますが、
連動して動くことでどちらも被害者にとって優位に進めることができるようになります。
この被害者参加制度の利用は、比較的最近導入された制度ということもあり、
被害者の方に利用を勧めない弁護士の方もいらっしゃいます。
刑事裁判が開かれるような事故の場合は専門弁護士に相談することでより大きなメリットを受けられるでしょう。
民事裁判で請求できる損害賠償の内容
交通事故における民事裁判で被害者が請求できる損害は以下のようなものになります。
- 治療関係費
- 通院交通費
- 入院雑費
- 装具費用
- 損害賠償請求関係費用
- (葬儀費用)
- 休業損害
- 逸失利益
- 慰謝料(入通院・後遺症・死亡)
ただし、実際のところこれらの損害については、
民事裁判を提起したから請求できるといったものではなく、示談交渉の段階から裁判基準に基づいた請求が可能です。
ですから、実際に民事裁判が提起されるのは、新たな損害を請求するためということは少なく、
ほとんどの場合で、被害者側と加害者側の金額(過失割合なども含む)の折り合いがつかない場合になります。
ですが、民事裁判を提起した場合には、示談交渉時にはほぼ認められない2つの費目について別途請求が可能になります。
それが、「弁護士費用」と「遅延損害金」です。
弁護士費用
民事裁判を提起した場合、被害者に発生したと認められる損害の一割程度を、弁護士費用相当額として請求に上乗せすることが可能です。
それは、被害者が自己の権利を擁護するために十分な訴訟活動を行うためには弁護士に依頼することが通常必要と認められ、
事故と相当因果関係を有する損害として認められるとされているからです。
最高裁判所第一小法廷昭和44年2月27日判決(民集第23巻2号441頁)では、以下のように判示されています。
「現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
この判決に基づき、民事裁判を提起した場合には弁護士費用を上乗せして請求することができます。
遅延損害金
遅延損害金とは、まさに「遅延したことにより発生した損害」です。
交通事故などの不法行為により発生した損害について、被害者にその損害の賠償を請求できる権利が発生するということは、
同時に加害者にその損害を賠償しなければならない義務(債務)が発生するということになります。
この債務の履行については、「損害の発生と同時になんらの催告を要することなく遅滞に陥る」とされています(最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(民集第16巻9号1834頁)。
つまり被害者は、損害発生の瞬間から本来であれば受け取れる賠償金を受け取ることができないという状態になっています。
この時、例えば損害賠償金として支払われるべき金額が1000万円であったとします。
事故被害に遭い、治療を続け、後遺症が残り、示談交渉をしたものの金額の折り合いがつかず、民事裁判になり、裁判を経てようやく1000万円の賠償が認められ、お支払がありました。
被害者の手元にこの1000万円の支払があったのは事故発生から3年後のことでした、となった場合に被害者にはこの1000万円以外にも損害が発生しています。
それは利息です。
被害者が事故の瞬間にこの1000万円を受け取っていた場合、そのまま銀行に預けていれば法定利率年3%の利息が付きます。
事故日から支払済までの3年間で、約90万円ほどの利息がついていたはずですが、損害賠償金の中にこの利息分が含まれていません。
このついていたはずの利息を遅延損害金と言います。
民法上はこの遅延損害金についても請求が認められているため、民事裁判を提起した場合にはこの遅延損害金についても請求が可能となります。
なお、請求ができるできないという点でいえば「弁護士費用」や「遅延損害金」が訴外で一切請求が不可能というわけではありませんが、
まず示談交渉では認められません。
簡易裁判所と地方裁判所の役割
交通事故の民事裁判は、請求額によって扱う裁判所が異なります。
損害賠償の請求額が140万円以下の場合、簡易裁判所が管轄し、それを超える場合には地方裁判所での審理が行われます。
簡易裁判所は手続が比較的早く、費用も抑えられるため、軽微な事故や請求金額が少額な場合に利用されることが多いです。
一方、地方裁判所では専門的な審理が行われ、交通事故の被害者や加害者の利益を丁寧に検証します。
請求額が大きい場合や、後遺障害の認定など複雑な問題が絡んでいる場合には、地方裁判所での審理が適しています。
どちらの裁判所を選ぶ場合も、適切な証拠の提出や弁護士の協力が重要になります。
民事裁判手続の概要
民事裁判に進む際には、主に以下の手順を経ることになります。
まず、被害者(原告)が裁判所に訴状を提出することで手続が始まります。
訴状には、交通事故の詳細、請求額、損害賠償請求の根拠などを明記する必要があります。
これに基づき裁判所から被告(加害者または保険会社)に通知が送られ、口頭弁論が行われます。
手続の中では、証拠提出や主張の整理が重要となるため、弁護士のサポートを得ることが有益です。
また裁判中に和解案が提示される場合もあり、状況次第では判決を待たずに解決できることもあります。
裁判を進める上では、費用や時間、精神的負担を考慮することが必要です。
裁判で期待できる結果とリスク
交通事故における民事裁判では、裁判所が公正な判断を下すため、適正な賠償金が得られる可能性があります。
保険会社が提示した低額な賠償金を上回る判決が得られることが多いため、被害者にとっては大きなメリットと言えます。
また、後遺障害等級認定に不満がある場合、裁判を通じて等級の変更や再評価を求めることも可能です。
一方で、民事裁判には一定のリスクも伴います。
第一に提訴時に裁判所に訴額に応じた収入印紙を納付する必要があります。
請求する金額が高ければ高いほど納付すべき収入印紙額も高くなりますから、提訴の段階で一定程度の負担が被害者側にかかることになります。
また、訴訟が長期化する場合、被害者にとって精神的・経済的な負担が大きくなる可能性があります。
そしてそもそもの問題として、訴えが認められない場合や一部しか請求が通らない場合ももちろんあります。
このため、裁判に踏み切る際には、リスクを理解した上で専門的な弁護士に相談し、戦略を練ることが重要です。
民事裁判を検討するべきケース
示談交渉が不成立の場合
交通事故における損害賠償請求では、加害者や保険会社との示談交渉が最初のステップとなります。
しかし、示談交渉が不成立となった場合、円満な解決が難しくなり、裁判の選択を検討する必要があります。
特に、賠償金額や責任割合について意見が食い違い、妥協点を見いだせない場合には、民事裁判に進むことで公正な裁定を得ることが可能です。
裁判所での判決が被害者にとって納得のいく結果となるケースも多いです。
後遺障害等級認定で争いが生じた場合
交通事故によって後遺症が残る場合、後遺障害等級の認定が損害賠償額に大きく影響します。
しかし、その等級について加害者や保険会社と意見が対立する状況も少なくありません。
適切な等級が認定されないと、慰謝料や逸失利益が大きく減額される恐れがあります。
この場合、民事裁判を通じて医学的証拠や主治医の意見を提出し、裁判所に公平な判断を求めることができます。
損害賠償の額が大きい場合
被害者に重篤な後遺症が残ってしまうような場合や、被害者が亡くなってしまうような場合には、
賠償されるべき損害額が非常に高額になることがあります。
とりわけ将来にわたって家族や職業介護人の介護が必要となるような賠償金額が数億円に上る可能性もあり、
示談交渉段階で保険会社内部での決済がどうしても下りないという場合もあります。
損害賠償金というのは受けた精神的苦痛等に対する慰謝はもちろん、
今後の被害者やご家族の生活を守るためにも重要ですから、適切な金額の支払を受けなければいけないものであり、
このような場合には裁判で適切な金額を認定してもらうことが非常に重要です。
加害者の主張に問題がある場合
加害者が交通事故における責任を否認したり、自らの主張に基づく不合理な弁明を繰り返したりするケースも考えられます。
このように加害者側の態度に問題がある場合には、被害者として感情的な負担が増えるだけでなく、適切な賠償を受け取れないリスクが高まります。
このような状況下では、民事裁判を起こして裁判所に事実関係を明らかにし、公正な判断を下してもらうことが適切です。
民事裁判の進行手順と費用
裁判の大まかな流れ
交通事故における民事裁判の基本的な流れは、まず裁判所に訴状を提出するところから始まります。
その後、被告である加害者やその保険会社に訴状が送達され、被告側から答弁書が提出されます。
口頭弁論や証拠の提出、尋問などを経て、裁判所が最終的な判決を下します。
ただし、途中で和解が成立するケースも多いです。
民事裁判は、被害者として自らの損害賠償請求を明確に主張する場ですが、時間と労力がかかる点も考慮する必要があります。
訴状の提出にあたり必要な書類
先ほども述べたように、民事裁判を始めるためには、まず訴状を裁判所に提出する必要があります。
訴状には、請求金額や事故原因、損害賠償額の根拠などを具体的に記載することが求められます。
裁判手続は証拠に基づいて進行するため、
- 損害賠償請求権が発生する根拠となる証拠(交通事故証明書、刑事記録など)
- 発生した損害の大きさを示す証拠(診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書、後遺障害等級証明書、源泉徴収票、休業損害証明書など)
といった多くの証拠を提出したうえで、それらの証拠から適切な主張を行う必要があります。
どの証拠をどのように用いるべきかは経験のある弁護士のサポートを受けることが重要でしょう。
民事裁判にかかる期間の目安
民事裁判にかかる期間は、通常1年から1年半程度が目安とされています。
ただし、裁判内容や争点の複雑さによっては、この期間がさらに延びる場合もあります。
特に、高額の損害賠償請求や後遺障害等級に関する争いが絡む場合は、調査や証拠の検討に時間がかかることがあります。
弁護士費用や裁判費用の負担
民事裁判を行う際に発生する主な費用には、裁判所に支払う印紙代や弁護士費用、証拠書類の準備にかかる実費などがあります。
また、裁判所に支払う印紙代は請求額によって異なりますが、損害賠償額が高額になる場合、その分費用も増加する傾向にあります。
被害者としては、こうしたコストを見据えた上で、損害賠償請求の目標額や裁判の戦略を練ることがポイントになります。
和解の可能性とタイミング
民事裁判では、途中で和解が成立する可能性があります。裁判官から和解を勧められることもあり、これに応じるかどうかは被害者と弁護士が協議して判断します。
和解が成立すれば、裁判そのものの期間を大幅に短縮できます。
和解のタイミングとしては、口頭弁論を経て、ある程度争点が整理された段階が多いです。
裁判を続けた場合(判決になった場合)のリスクや時間を考慮しながら、妥当な慰謝料や損害賠償額の提示を受け入れるかどうかを決断すべき局面となります。
民事裁判で成功するためのポイント
証拠の重要性と収集方法
交通事故に関する民事裁判で勝訴するためには、適切な証拠の収集が欠かせません。
ここでいう適切な証拠というのは、争点になっている部分についてしっかりと主張ができる証拠をいいます。
後遺症の有無が争われているのであれば自賠責保険による後遺障害等級の認定や、主治医の意見書、画像などが有用な証拠になるでしょうし、
後遺症があること自体は争われていないが、その後遺症がどれだけ日常生活に支障を及ぼしているかが争われている場合には、
事故前後の収入の差を示す源泉徴収票や、被害者自身の陳述書などが有用な証拠となるでしょう。
争点に対してどのような証拠を提出すべきかは専門かつ経験のある弁護士に相談することが有用といえます。
専門的な法律知識を持つ弁護士への依頼
交通事故に関する民事裁判では、専門的な法律知識を持つ弁護士の助言と支援が非常に重要です。
被害者自身が法律の知識を完全に網羅することは難しいため、弁護士の専門性が損害賠償額や判決結果に大きな影響を与えます。
たとえば、後遺障害等級の認定が問題となる場合や、保険会社との示談交渉が難航している場合などでは、適切な弁護士の選択が必要不可欠です。
交通事故案件の実績が豊富な弁護士を選び、初期相談や費用について事前に確認することも大切です。
裁判官に訴えかける主張の整理
裁判においては、裁判官に納得してもらうための的確な主張が求められます。
そのためには、請求内容を具体的かつ分かりやすく整理し、論理的に矛盾のない形で伝える必要があります。
慰謝料や損害賠償額の根拠となる事実を明確に整理し、それに基づく主張を行うことが重要です。
また、相手方や保険会社の主張に冷静かつ的確に反論できるよう準備することも欠かせません。
弁護士と相談しながら主張をブラッシュアップすることで、裁判官に説得力のある訴えを行うことができます。
適切な目標額の設定
民事裁判において請求する損害賠償額や慰謝料の目標設定も成功のカギとなります。
過大な金額を請求してしまうと、納付印紙代だけが多くかかってしまったのに賠償金がほとんど得られなかった、という場合もあり得ます。
また、せっかく被害者側に有利な和解案が裁判所から提示されていたにもかかわらず、判決に移行したことで和解案より金額が下がってしまった、ということもあり得ます。
提訴前から裁判手続期間に関しては、弁護士とコミュニケーションを取りながら、目標額を適切に設定することが重要です。
冷静な対応と長期化を見据えた心構え
交通事故の民事裁判は長期間にわたる場合があります。
特に、保険会社が提示する慰謝料や賠償額に争いがある場合、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。
そのため、裁判中は冷静さを保つとともに、結果を焦らずにじっくりと準備する心構えが必要です。
また、裁判内容によっては予期しない展開になることもあるため、弁護士と定期的に連絡を取り合い、状況を共有することが重要です。
冷静な対応と粘り強い姿勢が、裁判成功の礎となります。
弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士による交通事故解決サポートを行っております。
民事裁判を起こすべきか、起こした場合どう進めていけばよいかなどを適切にアドバイス・サポートさせていただきます。
人身事故被害に遭い、お困りの方はぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。