交通事故コラム

後遺障害

後遺障害等級の認定が厳しいケースとは?|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

2025.03.14

交通事故により怪我を負い、治療を続けた結果、後遺症が残ってしまった場合、

自賠責に後遺障害等級の申請を行うことができるときがあります。

申請を行うと、自賠責は、被害者が訴える自覚症状について、

自動車損害賠償保障法施行令に定められた後遺障害等級に該当するかどうか調査を行い、

該当すると判断された場合には、等級認定並びに等級に応じた保険金の支払がなされることとなります。

 

この予め定められた後遺障害等級について、

その多くは厳密に数値的な要件が定められているため、認定基準が判然としているものが多いです。以下2例を示します。

例1:眼の視力障害…①視力低下が残っている眼が1眼か両眼か、②低下後の視力により判断。

第1級1号:両眼が失明

第2級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下

第2級2号:両眼の視力が0.02以下

第3級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下

第4級1号:両眼の視力が0.06以下

第5級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下

第6級1号:両眼の視力が0.1以下

第7級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下

第8級1号:1眼が失明or1眼の視力が0.02以下

第9級1号:両眼の視力が0.6以下

第9級2号:1眼の視力が0.06以下

第10級1号:1眼の視力が0.1以下

第13級1号:1眼の視力が0.6以下

例2:下肢の機能障害…①可動域制限が残る下肢が1下肢か両下肢か、②可動域制限が残る関節の数、③可動域制限の程度により判断。

第1級6号:両下肢の全関節の廃用

第5級7号:1下肢の全関節の廃用

第6級7号:1下肢の2関節の廃用

第8級7号:1下肢の1関節の廃用

第10級11号:1下肢の1関節の著しい機能障害

第12級7号:1下肢の1関節の機能障害

※「廃用」=関節強直 or 関節の完全弛緩性麻痺等 or 人工関節・人工骨頭挿入関節につき可動域角度が健側の2分の1以下

※「著しい機能障害」=関節の可動域角度が健側の2分の1以下 or 人工関節・人工骨頭挿入関節につき可動域角度が健側の2分の1以下でないもの

※単なる「機能障害」=関節の可動域角度が健側の4分の3以下

 

これらの他にも、耳の聴力障害、歯牙障害、胸腹部臓器の障害、脊柱の運動障害、上肢の欠損障害・機能障害などなど、

多くの後遺障害について数値的要件や明確な要件が定められているのです。

 

他方、要件がいまいち判然としない後遺障害は、神経系統の障害が多くがこれに該当します。

高次脳機能障害や非器質性精神障害など、数値のような絶対的指標によってその程度を計測することが困難なものです。

そして、交通事故でよくみられるむち打ち損傷や頚椎捻挫、腰椎捻挫などを負った場合に該当可能性がある第14級9号も、そのひとつです。

第14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と定めているのみであり、どのような要件を満たせば認定されるのかが殆ど分かりません。

本稿では、そんな第14級9号の認定要件について、等級認定が厳しくなるケースの一例と合わせて以下に述べていきます。

 

さて、これまで自賠責で第14級9号が認定されたケース及び非該当であったケースから傾向を抽出してみたところ、

認定のための要件はおおむね次のとおりとなるといえます。

①事故態様の大きさ及び身体に加わった衝撃の程度

②症状の継続性・一貫性

③通院頻度

④治療内容

⑤他覚的所見がないわけではないこと

 

まず①ですが、事故態様が大きく、身体に加わった衝撃も相当に大きかったことを示す必要があります。

一般的には、刑事記録や物損資料(見積書、事故後の車両写真etc)等をもとに説明・立証することが多いです。

この点で争いとなりやすいのが、軽微な事故態様のケースです。

例えば、ミラー同士の接触事故の場合、身体に加わる衝撃や外力は小さいため、

交通事故とむち打ち損傷等の受傷との相当因果関係から争いになることも少なくありません。

 

次に②について、初診時から終診時までの症状経過について継続性があることが重要です。

たとえば、事故によって頚椎捻挫を負い、事故後頚部痛を訴えていたところ、

治療によって1か月後には消失したにもかかわらず、2か月後に再度頚部痛が生じるようになったようなケースでは、

症状の継続性について疑義が生じ、等級認定される可能性が大きく下がります

また、後遺障害として認められるためには、基本的には常時痛であることが求められますので、

「たまに腰が痛む」などのようなケースではやはり等級認定が否定される可能性があります。

そして、症状の一貫性とは、文字どおり、一貫して同じ部位に痛みが生じていることをいいます。

たとえば初診時には頚部痛のみの愁訴であったにもかかわらず、その後には首ではなく腰や手足など別部位が痛いと愁訴するようなケースでは、

症状の一貫性が否定される可能性があるため、等級認定される可能性も下がります。

 

③について、むち打ち損傷等の怪我において望ましいのは、週2~3回以上かつ少なくとも半年程度の通院です。

たとえば、2週間に1回程度の通院をしていたようなケースについて、自賠責は、

「2週間に1回くらいしか治療に行かないということは、症状もそれほどのものじゃないんだね」という判断をします。

もちろん、仕事や家事などの都合のため、通院がなかなか難しいこともあるかと思いますが、

他方で、このような判断が等級認定にあっては不利になることもまた事実です。

週1回でもよいのでなるべく通院して適切に治療を受けることが肝要です。

 

④の治療内容ですが、これは、症状改善のため治療の手が尽くされていることが重要となります。

これは、「症状固定」の定義からくるものと考えられます。

すなわち、自賠責は、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」が「症状固定」であると示しています。

つまり、症状に対して医学上一般に承認された治療方法を種々試したものの、症状が残存してしまったというのが一つのポイントとなるわけです。

とはいえ、これは主治医の先生の治療方針や医療費負担の話ともかかわってきますので、

厳密にすべての治療方法を試さないといけないというわけではありません。

この点をもって等級該当性が否定されることは少なく、きちんと病院に通い適切な治療を受けていれば問題ないでしょう。

 

最後に⑤ですが、これは、症状の残存の説明に一定の信憑性を与える程度の画像所見や神経学的所見などの他覚的所見があることをいいます。

換言すれば、「第12級13号が認定される程度の他覚的所見があるわけではないが、とはいえ全く何も所見がないわけでもなく、異常所見はある」ということです。

もっともこれは、主な要件というよりも等級認定可能性を引き上げるための補強的な要素にとどまります。

画像所見や神経学的所見が全くないからといって、絶対に14級9号も認定されないというわけではありません

他覚的所見があったほうがちょっと有利かな、という認識でよいでしょう。

しかしどちらにせよ、XP、CT、MRI等の画像検査を治療期間中に行っておくことは肝要です。

 

まとめますと、以下のようなことが等級認定可能性を上げるポイントになるかと思います。

・事故車両写真や事故現場の写真を撮影するなど、事故の衝撃の大きさを示す証拠を押さえておく。

・理想の通院頻度は週2~3回程度。それが難しい場合でも、できるだけ週1回は通院しておく。

・通院期間は少なくとも半年程度が望ましい。

・治療中は、自覚症状についてはきちんと主治医に伝え、症状に合った治療を受ける。

・画像検査も受けておく。最低限でもXPの撮影が望ましく、可能であるならばMRIも撮影できると理想的。

 

ここまで、14級9号の認定のポイントについて解説してきました。

なぜここまで14級9号の分析や理解が必要かといいますと、

むち打ち損傷や頚椎捻挫、腰椎捻挫等において等級が認定されるかどうかは、

損害賠償請求額の面で大きな分水嶺となるからです。

後遺障害等級が認定されれば、治療費や入通院慰謝料に加えて、後遺症逸失利益や後遺症慰謝料を請求することもできます

 

弁護士を入れたほうがよいかどうかは、

等級が認定される可能性や、弁護士費用特約の加入の有無などによっても大きく異なるところがあります。

被害者の方で、弁護士を入れたほうがよいのかお悩みの方は、

ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故被害者側の損害賠償請求専門弁護士が、適切な後遺障害等級の認定の獲得に向けたサポートを行っております。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。