後遺障害等級の解説

脊髄損傷

【頚髄損傷(頸髄損傷)の症状と後遺症】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

こちらの記事では、【交通事故で頚髄損傷(頸髄損傷)を負った場合の症状や後遺症及び後遺障害】について、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)監修のもと整理しています。また、損害賠償請求とのかかわりについても解説いたします。

なお、書籍やネットでは、頚髄の漢字表記について「頚髄」と「頸髄」の異なる2つの表記が見られますが、

この漢字表記の違いには特段の意味はなく、どちらも同じものを指します。

本稿では、日本医学会医学用語管理委員会が「頚」を使用することを推奨していることから、以下では「頚髄」表記で統一いたします。

「頚髄」とは

人間の背中には、脊髄という大きな神経が走っています。

脊髄は脳から連続的に存在する中枢神経であり、脊髄からは神経根が伸び出ており、そこから全身に細かい神経(末梢神経)が伸びているかたちになります。

そして、脊髄はその位置によって、上から、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄(及び仙髄から下に伸びている馬尾神経)と区分されています。

頚髄は、概ね人間の首のあたりに位置する脊髄を指し、頚髄からは主に首や肩回り、上肢に末梢神経が伸び出ています。

症状

脊髄損傷を負傷した際の症状の程度について、一般的には損傷高位(レベル)が高ければ高いほど、重篤になる傾向にあります。

頚髄は脊髄の中で最も高位(レベル)に位置するため、頚髄損傷で現れる症状は重いことが多く、場合よっては死に至る可能性すらあります。

また、脊髄が損傷された場合、損傷高位(レベル)以下の髄節支配領域の機能が消失したり、障害が生じることが多いです。

そのため、頚髄損傷では四肢や体幹、臓器といった全身に障害が生じることが多いです。

以下では、頚髄損傷の場合に現れる症状について、損傷高位(レベル)との関連も合わせて解説していきます。

⑴運動機能障害(四肢麻痺、下半身麻痺)

頚髄を損傷することにより、運動神経に関する脳からの信号が損傷高位より先に行かなくなる(手足などに信号が届かなくなる)ため、運動機能に障害が生じ、手足や体幹の動かしにくさの症状が出ます。

麻痺が生じる範囲については、損傷した頚髄の高位によって異なります。頚髄の高位は8つの髄節に分けられ、脳から近い順にC1~C8とされています。

C1~C3髄節を損傷した場合、上半身・下半身すべてに信号が届かなくなるため、四肢麻痺が生じる可能性が非常に高いです。

C4、C5髄節損傷の場合も四肢麻痺が生じることが多く、やはり完全麻痺した場合には死亡に至るケースもあります。

不全麻痺の場合には、上腕の筋肉に信号を伝える神経に障害が出るため、ひじの曲げ伸ばしに影響が出ることが多いです。

C6、C7髄節を損傷した場合にも四肢麻痺が生じます。

具体的には、肩を動かしたり、ひじの曲げ伸ばしは多少可能であるものの、手や指には麻痺が残るケースがみられます。

 

なお、上述のように、頚髄損傷の場合、その損傷高位がいずれであっても下半身麻痺(下半身不随)になる可能性が非常に高いです。理由としては、下半身や骨盤周辺の臓器との伝達を司る腰髄は頚髄よりも高位が低いため、頚髄を損傷した場合には腰髄まで脳からの信号を伝達できなくなる(もしくは伝達が困難になる)ためです。

⑵呼吸障害・呼吸停止

頚髄を損傷すると、呼吸障害が生じることが多いです。

理由としては、呼吸において重要な役割を果たす器官である横隔膜に信号を送る脊髄の高位がC3~C5にあるためです。

このため、C5以上の高位において損傷した場合は自力での呼吸が困難または全くできなくなります

自発的呼吸が困難になるため生命活動にも危機が生じることとなり、最悪の場合、死に至るケースもあります。

⑶自律神経障害(発汗障害、体温調節異常など)

人間の体は、常に一定の体温を保つために、自律神経によって体温調節がなされます。例えば暑い時には汗を分泌して体温を下げたり、寒い時には血管を収縮させて熱が逃げないようにするなど、体温調節においても自律神経は非常に重要な役割を持っています。

ですが、頚髄損傷により、損傷高位より下位では自律神経の働きが障害されてしまいます。そのため発汗が正常に行われなくなったり、上手く体温調節ができなくなってしまう等の症状が現れます

⑷神経因性膀胱障害(排尿障害・蓄尿障害)

排尿や蓄尿に関わる膀胱や陰部は、脳からの指令によって制御が行われています。そのため頚髄が損傷されると、排尿などに関する脳からの信号がこれらの器官に届かなくなります。

神経伝達経路が断たれたことで、尿意を感じなくなったり、排出することができなくなります

また、排尿のみならず、蓄尿にも障害が生じます。具体的には、膀胱の機能に異常が生じることによって膀胱に尿を溜めることができなくなり、不随意的に失禁してしまうなどが挙げられます。

⑸神経因性大腸機能障害(排便障害)

脊髄を損傷したとき、膀胱機能のみならず、排便についても障害が生じることがあります

胃や十二指腸で消化され、小腸や大腸で栄養や水分を吸収された食物は、固形となって便となり直腸に到達します。便が直腸に到達した時に、直腸壁が刺激され、この信号が脳に届くことによって人は便意を感じることができます。便意を感じ、排便するとなった時には、肛門の括約筋を弛緩させ、腹部に力を入れて腹圧を高めることにより排便を促すことになります。

これが排便までの大まかな一連の流れとなりますが、脊髄損傷を負うと、直腸壁からの信号が上手く脳へと届かなくなってしまいます。そのため、便意を感じることができなくなってしまって自力での随意的な排便ができなくなったり、損傷後の麻痺による括約筋の弛緩が原因で便失禁が起きてしまったりします。またこれらの症状と、自律神経障害によって生じる消化管の蠕動の異常とが相まって、便秘麻痺性イレウスといった二次的な症状が現れることもあります。

⑹感覚機能障害

熱さ・冷たさや痛みといった皮膚組織で感じ取る表在感覚や、骨や筋肉などの内部組織で感じ取る位置覚、振動覚等の深部感覚について、感覚消失や鈍麻が生じます。

通常、表在感覚や深部感覚は、その刺激を感じ取った組織から脊髄を経由して脳に向かって感覚神経の信号が送られ、脳で信号を受け取ることによりこれらを認識することができるしくみになります。

そのため、脊髄を損傷すると、この信号が損傷高位より先には届かなくなってしまい、脳で感覚神経の信号を受け取ることができなくなってしまいます

これにより感覚機能に障害が生じることとなり、痛みを感じなくなったり、熱い・冷たいなどの温度感覚や、手足の位置感覚が失われるなどの感覚異常が生じます。

頚髄損傷の後遺障害等級

交通事故によって頚髄損傷を負い、治療やリハビリを続けた結果後遺症が残ってしまった場合、自賠責に、後遺障害に係る自賠責保険金の支払請求をできることがあります。

頚髄損傷が生じた場合の後遺障害認定及び等級の判断は、基本的に麻痺の程度や範囲並びに介護の要否や程度に着目して行われますが、神経因性膀胱障害や脊柱の障害(脊柱変形障害、脊柱運動障害など)、その他体幹骨の変形障害等の併発している症状も含めて後遺症の評価や等級認定がなされます

頚髄損傷による症状は、損傷高位や横断面における損傷の程度などによって大きく異なるため、「こういう症状があれば1級」というような画一的な判断ではなく、したがって認定される可能性がある等級も事案により異なってきます。そのため、以下では、頚髄損傷に関する障害として認定される可能性のある後遺障害等級を解説していきます。

⑴別表第一第1級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

⑵別表第一第2級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

⑶別表第二第3級3号

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷別表第二第5級2号

「脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸別表第二第7級4号

「脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

⑹別表第二第9級10号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

⑺別表第二第12級13号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの

損害賠償とのかかわり

交通事故により頚椎骨折などとともに頚髄損傷を負傷した場合の損害賠償請求について、以下のようなものを請求できる可能性があります。

・車いすや介護ベッドの購入費用

・介護施設の利用料金

・将来介護費

・将来治療費

・介護を行うための住宅改造費(手すり取付、スロープ増設など)

・家族の入通院付添費

これらの請求が損害と認められるには、これらの支出の必要性や相当性があったことが認められる必要があり、その判断については、後遺症の状況や生活状況などを個別具体的に検討することが求められます。また、それらの判断にあたり、医師の見解などが重要になってくることもあります。

賠償請求できる損害はどのようなものがあるか?どうすれば請求できる?詳しくはこちら

おわりに

交通事故により頚髄損傷を負い、後遺症が残存した場合に、

自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級認定を行ってもらうためには、

画像による損傷高位診断、横断面診断、MRI画像上の脊髄内病変等の画像所見や、深部腱反射、病的反射検査、知覚検査、徒手筋力検査、筋萎縮検査などの神経学的所見は必要不可欠なものとなってきます。

加えて、形式的要件として『脊髄症状判定用』という書式や、脊髄損傷後の被害者の日常生活状況を記した書面なども場合に応じて必要となります。

 

このように、自賠責に申請する際には、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、自賠責に申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺障害専門・被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

交通事故により頚髄損傷を負うと、重篤な症状が現れる恐れが非常に高く、

ご本人やご家族の生活も大きく一変してしまうことが多いです。

「これからどうしていけばいいのかわからない…」

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

後遺症被害者専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

また、交通事故による脊髄損傷に関して以下のページで解説いたしておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。