後遺障害等級の解説

脳損傷 神経症状

硬膜外血腫(弁護士法人小杉法律事務所監修)

こちらの記事では、急性硬膜外血腫について整理しています。

急性硬膜外血腫(AEDH)とは

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、282~283頁)

急性硬膜外血腫は、急性頭蓋内血腫の一形態です。

英語表記は acute epidural hematoma でして、AEDHが略称です。

急性頭蓋内血腫とは

頭部について、外側から順に構造を整理してみると、下のようなイメージになります。

外側>>>皮膚>頭蓋骨>硬膜>くも膜>軟膜>脳>>>内側

硬膜、くも膜、軟膜は3つ合わせて髄膜と言います。くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔というスペースがあり、髄液で満たされています。

強い外力が頭部に働くことで頭蓋内に血腫が発症することを急性頭蓋内血腫と言いますが、損傷部位と血腫の位置から、次の3つに分類されます。

硬膜外血腫(頭蓋骨と硬膜の間で出血)
硬膜下血腫(硬膜とくも膜の間で出血)
脳内血腫(脳実質内の出血)

原則的に頭蓋骨は変形しませんので、頭蓋内血腫の出現等により頭蓋内容積が増加すると、頭蓋内圧が亢進し、頭痛、嘔吐・嘔気、外転神経麻痺、意識障害をきたし、脳ヘルニアや生命の危険につながる可能性があります。そのため、早期に診断して血腫を除去する手術を行うなど適切に対応する必要があり、緊急度が高い病態です。

急性硬膜下血腫についてはこちらの記事で整理しています。

急性硬膜外血腫の原因(頭蓋骨骨折を伴うことが多い)

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、283頁)

交通事故や労災事故等による頭部外傷によって頭蓋骨と硬膜の間に生じる血腫を急性硬膜外血腫と言います。

頭蓋骨骨折を伴って、直下を走行する中硬膜動脈の損傷をきたして生じることが多いですが、静脈洞や頭蓋骨内を走行する板間静脈の損傷による場合もあります。

出血した血腫が頭蓋骨と硬膜の付着を剥がすように広がり、硬膜内の脳実質を圧迫することになります。

頭部単純CTでは、打撲痕・骨折線を認める部位の直下で、内側に凸レンズ型の血腫が高吸収域として白っぽく確認できます。

頭蓋骨骨折についてはこちらの記事をご覧ください。

急性硬膜外血腫の症状

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、283~284頁)

意識障害

受傷直後、受傷の衝撃による意識障害(初期意識障害)に陥りますが、いったん意識が回復(意識清明期)した後、今度は血腫出現に伴う脳の圧迫などで再度意識障害に陥ります。

(初期意識障害からいったん回復した後、再び意識障害が生じるまで意識が回復している期間を意識清明期と言い、通常は数分から数時間と言われます。)

これが、急性硬膜外血腫(他の病態を合併しない場合)による意識障害の典型的なケースです。

脳挫傷や急性硬膜下血腫などを合併していると、受傷後から意識障害が出現して回復しない場合もあります。

意識障害の一般論は遷延性意識障害の記事で整理しております。

局所神経症状(神経局所症状:巣症状)

急性硬膜下外血腫による脳の圧迫によって、(あるいは脳挫傷等で脳実質の損傷を伴うケースではそれ自体によって、)局所の脳機能に関連する症状が出現することがあります。

最も把握しやすい症状は運動麻痺や言語障害ですが、けいれん発作を伴って一過性に症状が悪化する場合もあります。

生命徴候

血腫が増大すると、圧迫や障害を受ける脳局所の症状の増悪はもちろん、頭蓋内圧の亢進により脳ヘルニアにつながります。

テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)では、急速に昏睡に陥って、瞳孔不動(血腫圧迫側の瞳孔散大)と対光反射の消失、血腫と反対側の片麻痺などを生じます。

脳ヘルニアがさらに進行すると、血圧や脈拍といった様々な生命徴候の異常がみられるようになり、生命が脅かされる状況になります。

※脳ヘルニア

頭蓋内は、硬膜でできた大脳鎌と小脳テントによって大まかに3つのコンパートメント(区画)に分けられています。

通常、硬膜で仕切られたコンパートメントに納まっている脳が、血腫や腫瘍などの占拠性病変や部分的な浮腫によって本来の位置から押し出される状態を脳ヘルニアと言います。

押し出された部位も、それにより圧迫された先の組織まで圧迫・変形するため、様々な神経症状をきたします。

脳ヘルニアが起きると、逸脱した組織の循環障害や脳幹の圧迫などによって生命維持が困難になる危険があるため、早期の診断・治療が重要です。

先ほど記載した「テント切痕」とは、小脳テントの開口部を指します。

治療指針と予後について

診察・後遺障害診断

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、284~285頁)

治療の基本は開頭手術による血腫の除去で、早い段階で血腫を除去して止血を行えば、予後は比較的良好です。

特に、治療前に意識清明期がみられるような、他の病態の合併が無い典型的な硬膜外血腫では良好な予後が期待できます。

他方で、診断・治療の対応が遅れると、急速に進行する頭蓋内圧亢進による脳ヘルニアをきたして、予後不良になります。

また、脳挫傷などの合併がある場合には、その程度が後遺障害に影響します。

必要な検査

診断・治療法の選択にはCT検査が必須です。

受傷直後には血腫が形成されていなかったり、少量のこともあるので、経過を追って繰り返し撮影を行い、再出血の有無を観察する必要があります。

認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級

自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理すると以下のようになります。

先ほども記載しましたが、脳損傷など他の病態の合併が無い硬膜外血腫の場合、早期に血腫の除去が行われれば予後は良好で、硬膜外血腫の原因となることが多い頭蓋骨骨折自体による症状での等級認定がなされることになると思われます。

他方、診断・治療のタイミングが遅れたケースや、脳挫傷などの合併がある場合には、脳損傷等により様々な後遺障害が残存する可能性があります。

疼痛等の神経症状

骨折部位に痛み等の神経症状が残存した場合です。

別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

高次脳機能障害

外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じた場合、認定の可能性があり、次のような目安で後遺障害等級の認定がなされます。

高次脳機能障害の等級認定に必要な検査や書式等は「高次脳機能障害の等級認定と金額について」の記事で整理しています。

別表第一第1級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。
別表第一第2級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。
別表第二第3級3号 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。
別表第二第5級2号 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第7級4号 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第9級10号 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。

身体性機能障害

外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じた場合、次のような目安で後遺障害等級の判断が行われます。

身体性機能障害の認定区分の詳細について(「高度」、「中程度」、「軽微」が何を指すのか等)は、脳挫傷の後遺症についての記事で整理しています。

別表第一第1級1号 高度の四肢麻痺、中程度(常時介護)の四肢麻痺、高度(常時介護)の片麻痺
別表第一第2級1号 中程度(随時介護)の四肢麻痺、高度の片麻痺
別表第二第3級3号 中程度(除く介護)の四肢麻痺
別表第二第5級2号 軽度の四肢麻痺、中程度の片麻痺、高度の単麻痺
別表第二第7級4号 軽度の片麻痺、中程度の単麻痺
別表第二第9級10号 軽度の単麻痺
別表第二第12級13号 軽微の四肢麻痺、軽微の片麻痺、軽微の単麻痺

四肢麻痺とは左右の上肢と下肢に麻痺が出ているものを言います。

片麻痺とは一側の上肢と下肢に麻痺が出ているものを言います。右上肢と右下肢、あるいは左上肢と左下肢の2種です。

単麻痺とは、左右の上肢と下肢のどれか1肢にのみ麻痺が出ている場合を言います。

感覚器の機能障害

外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じた場合、認定の可能性がありますが、各感覚器の機能障害に準じての等級認定になります。

脳神経損傷によって生じる場合と同様の区分になりますので、脳神経損傷を合併することの多い頭蓋底骨折の記事で詳細を記載しております。

頭蓋底骨折の記事はこちらをご覧ください。

外傷性てんかん

外傷性てんかんの発生には脳の局所損傷が関与しており、急性硬膜外血腫を含む急性頭蓋内血腫が認められる場合、外傷性てんかんの発症リスクが高まります(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、281頁)。

脳の損傷によりてんかん発作を起こすものが認定の対象になりますが、1ヶ月に2回以上の発作がある場合には、通常、高度の高次脳機能障害を伴うので、脳の高次脳機能障害にかかる別表第二第3級以上の認定基準により後遺障害等級を認定するとされています。

外傷性てんかんの後遺障害認定で必要な検査等についてはこちらの記事で整理しています。

別表第二第5級2号 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が『意識障害の有無を問わず転倒する発作』または『意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作』(以下『転倒する発作等』といいます。)であるもの
別表第二第7級4号 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの、または転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの
別表第二第9級10号 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの、または服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの
別表第二第12級13号 発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの

ここでいう「転倒する発作」の例としては、次のようなものがあります。

意識消失が起こり、その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き、次第に短時間の収縮と弛緩を繰り返す間代性のけいれんに移行する強直間代発作
脱力発作のうち、意識は通常あるものの、筋緊張が消失して倒れてしまうもの

また、「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」の例としては、「意識混濁を呈するとともに、うろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し、発作中は周囲の状況に正しく反応できないもの」があります。

失調

外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じ、小脳損傷が生じた場合、認定の可能性があります。

小脳は両側の半球と中央の虫部で構成されていますが、小脳虫部の障害では、平衡機能や起立、歩行が障害され、体幹運動失調を伴います。

他方、小脳半球の障害では同側の上下肢の運動失調や協調運動障害がみられ、測定以上、筋緊張低下、反跳運動、構音障害、眼振などの症状が現れます。

運動失調とは、明らかな麻痺がないにもかかわらず、随意運動や姿勢を正常に保つための協調運動ができない状態のことを指します。

協調運動障害とは、いくつかの筋の協調運動がスムーズに行えない状態を指します。

(標準脳神経外科学(医学書院)、40頁)

失調、めまい及び平衡機能障害として、次のような区分があります。

別表第二第3級3号 生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡機能障害のために労務に服すことができないもの
別表第二第5級2号 著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力が極めて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの
別表第二第7級7号 中等度の失調または平衡機能障害のために、労働能力が一般人の1/2程度に明らかに低下しているもの
別表第二第9級10号 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
別表第二第12級13号 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他の平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの
別表第二第14級9号 めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見がみとめられないものの、めまいのあることが医学的に見て合理的に推測できるもの

遷延性意識障害

外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じた場合、認定の可能性があります。

遷延性意識障害の詳細はこちらの記事で整理しています。

別表第一第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの。→生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの

頭痛

次のような区分がありますが、外傷性硬膜外血腫に合併して脳挫傷等の脳損傷が生じた場合でなければ、12級以上の認定は困難だと考えられます。

別表第二第9級10号 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

弁護士に相談を

交通事故等の頭部外傷で急性硬膜外血腫を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

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脳と神経全般のまとめについてはこちらの記事で整理しています。

急性硬膜外血腫の原因になることが多い頭蓋骨骨折についてはこちらの記事をご覧ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。