後遺障害等級の解説

脳損傷 口・顎・歯・舌 骨折 神経症状

頭蓋底骨折(弁護士法人小杉法律事務所監修)

こちらの記事では、頭蓋底骨折について整理しています。

頭蓋底骨折の場合、程度によっては脳神経損傷を合併して聴覚や嗅覚、視覚や味覚に影響がでることが考えられますので、注意が必要です。

頭蓋骨以外の部位(上肢下肢、脊椎や骨盤など)の骨折はこちらの記事でまとめております。

頭蓋底とは

こちらが頭蓋骨のイラストになります。

頭蓋骨を構成する骨のうち、脳を入れる部分を神経頭蓋といいますが、前頭骨、頭頂骨、後頭骨、篩骨(しこつ)、蝶形骨、側頭骨の6つで構成されます。

※篩骨は内部に入り込んでいるので上のイラストでは描写されていません。右側の図で「側頭骨」「蝶形骨」「眼窩」が線でつないだあたりの内側にあります。

眼窩(がんか)の上の部分を眼窩上縁、後頭骨の後方に出っ張った部分(上のイラストで右図の「側頭骨」と書いてあるすぐ上あたり)を外後頭隆起と呼び、神経頭蓋について眼窩上縁と外後頭隆起をつないだ線から上側を頭蓋円蓋部(ずがいこつえんがいぶ)、下側を頭蓋底(ずがいてい)といいます。

頭蓋底には神経や血管が通る小さな穴が多く存在し、構造的に骨折をきたしやすい部分で、脳神経麻痺を合併すれば視覚、嗅覚、聴覚、味覚の障害や顔面神経麻痺等が発生することがあります。

脳神経について

脳神経とは主には脳幹(中脳+橋+延髄)から左右に12対伸びた末梢神経系のことを指します。

末梢神経系や中枢神経系についてはこちらの記事で整理しています。

中枢神経系から出る高さの順にⅠ~Ⅻの番号がついていて、次のように整理されます。

嗅神経(Ⅰ) 脳幹より上部から出る 前頭蓋底の篩板孔を通る
視神経(Ⅱ) 脳幹より上部から出る 中頭蓋底の視神経管を通る
動眼神経(Ⅲ) 中脳から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
滑車神経(Ⅳ) 中脳から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
三叉神経(Ⅴ)(眼神経V1+上顎神経V2+下顎神経V3) 橋から出る 中頭蓋底の上眼窩裂(V1)、正円孔(V2)、卵円孔(V3)を通る
外転神経(Ⅵ) 橋から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
顔面神経(Ⅶ) 橋から出る 後頭蓋底の内耳孔を通る
内耳神経(聴神経)(Ⅷ) 橋から出る 後頭蓋底の内耳孔を通る
舌咽神経(Ⅸ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚静脈孔を通る
迷走神経(Ⅹ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚静脈孔を通る
副神経(Ⅺ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚動脈孔を通る
舌下神経(Ⅻ) 延髄から出る 後頭蓋底の舌下神経管を通る

頭蓋底の位置による分類(前頭蓋底、中頭蓋底、後頭蓋底)

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、7~9頁、)

頭蓋底は位置によりさらに、前頭蓋底、中頭蓋底、後頭蓋底の3部位に分類されますが、損傷個所によって発生しやすい神経麻痺が変わります。

前頭蓋底

前頭骨、篩骨、蝶形骨で構成されます。

嗅神経(Ⅰ)は篩骨の篩板孔を通っていますので、篩骨を損傷した場合等には嗅神経を損傷する懸念があります。

嗅覚障害については鼻骨骨折後の後遺障害の解説記事でも記載しております。

中頭蓋底

蝶形骨、側頭骨で構成されます。

中頭蓋底にある孔からは視神経(Ⅱ)、動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、三叉神経(Ⅴ)、外転神経(Ⅵ)が出ていますので、中頭蓋底損傷時にはこれらの脳神経を損傷する懸念があります。

後頭蓋底

後頭骨と側頭骨で構成されます。

後頭蓋底にある孔からは顔面神経(Ⅶ)、内耳神経(Ⅷ)、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)、舌下神経(Ⅻ)がでていますので、後頭蓋底損傷時にはこれらの脳神経を損傷する懸念があります。

頭蓋底骨折の原因

交通事故や転倒・転落時に頭部に衝撃が加わり、骨折することがあります。

頭蓋骨円蓋部に発生した骨折の骨折線が頭蓋底にまで伸びて頭蓋底骨折になることが一般的だといわれていますが(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、272頁)、下あごに加わった衝撃が波及した場合や尻もちをついたときに脊柱と後頭蓋底がぶつかって頭蓋底骨折になることもあります。

診断・検査

診察・後遺障害診断

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、270頁)

骨折の診断は単純X線像で可能ですが、頭蓋内病変を確認する必要があるため、骨折を確認した場合はCT撮影を行うことが必須だと言われています。

脳神経損傷による視覚、嗅覚、聴覚、味覚の障害や顔面神経麻痺等

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、289頁、25頁)

外力が頭部に加わることで、脳実質外で脳神経が損傷をうけることがあります。

脳神経とは、主には脳幹と呼ばれる部位から左右に12対でる末梢神経系のことを指しますが、嗅神経、顔面神経、視神経、動眼・滑車・外転神経の順で損傷が認められる頻度が高いです。

原因としては、外力による頭部の加速減速で脳槽内を走行する神経自体が損傷される場合と、脳神経が通過する頭蓋底が骨折した場合に損傷される場合があります。

※脳槽:髄液で満たされた脳とくも膜の間の空間をくも膜腔といいますが、くも膜腔のうち特に開けた区画を脳槽と言います。

脳神経麻痺を合併すれば視覚、嗅覚、聴覚、味覚の障害や顔面神経麻痺等が発生することがあります。

また、副神経(Ⅺ)は頚~肩部の胸鎖乳突筋、僧帽筋の運動を支配しますので、損傷時にはこれらの筋肉の筋力低下等の症状が発生しえます。

頭蓋骨骨折後の症状についてはこちらの記事でも整理しています。

認定されうる後遺障害

自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理しました。

本記事のテーマになっている頭蓋底の骨折でいうと、骨折単体か、脳損傷や脳神経損傷等の合併がある場合の2つに大別されます。

骨折単体の場合

神経症状

骨折部位に痛み等が残存したものです。

別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

脳神経損傷を合併した場合(視覚、嗅覚、聴覚、味覚の障害や顔面神経麻痺等)

視覚について

視力障害
別表第二第1級1号 両眼が失明したもの
別表第二第2級1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
別表第二第2級2号 両眼の視力が0.02以下になったもの
別表第二第3級1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
別表第二第4級1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
別表第二第5級1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
別表第二第6級1号 両眼の視力が0.1以下になったもの
別表第二第7級1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
別表第二第8級1号 一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの
別表第二第9級1号 両眼の視力が0.6以下になったもの
別表第二第9級2号 一眼の視力が0.06以下になったもの
別表第二第10級1号 一眼の視力が0.1以下になったもの
別表第二第13級1号 一眼の視力が0.6以下になったもの
調節機能障害・運動障害
別表第二第10級2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
別表第二第11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
別表第二第12級1号 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
別表第二第13級2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
視野障害
別表第二第 9級3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
別表第二第13級3号 一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
まぶたの運動障害
別表第二第11級2号 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
別表第二第12級2号 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

聴覚について

聴力障害(両耳)
別表第二第6級4号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
別表第二第7級2号 両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
別表第二第7級3号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
別表第二第9級7号 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
別表第二第9級8号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
別表第二第10級5号 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
別表第二第11級5号 両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
聴力障害(一耳)
別表第二第9級9号 1耳の聴力を全く失ったもの
別表第二第10級6号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
別表第二第12級6号 1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
別表第二第14級3号 1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
耳鳴
別表第二第12級相当 耳鳴に係る検査によって難聴を伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの
別表第二第14級相当 難聴を伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの
めまい及び並行機能障害

脳神経のうち、内耳神経(Ⅷ)が損傷された場合、並行機能障害が発生することがあります。

3~14級まで幅広くあるのですが、どうしても就労できない、あるいは日常生活に著しい支障をきたす等の訴えがあったとしても、神経系統の障害が医学的に証明されたもの(他覚所見によって証明されたもの)でなければ、別表第二第12級以上の等級の適用は困難を伴います。

別表第二第3級 生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡機能障害のために労務に服することができないもの
別表第二第5級 著しい失調または平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの
別表第二第7級 中等度の失調または平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの
別表第二第9級 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
別表第二第12級 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの
別表第二第14級 めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能障害検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの

嗅覚について

別表第二第12級相当 完全な嗅覚脱失
別表第二第14級相当 嗅覚の減退

こちらで記載しているのは嗅覚関連の等級のみですが、鼻骨骨折等を受傷した際は鼻の欠損や醜状障害として認定の対象になることもあります。

嗅覚障害の検査方法や欠損・醜状障害に関しては鼻骨骨折の記事をご覧ください。

味覚について

別表第二第12級相当 味覚脱失
別表第二第14級相当 味覚減退

脳損傷等を合併した場合(身体性機能障害、高次脳機能障害、外傷性てんかん、頭痛など)

こちらについては頭蓋骨骨折一般の記事で整理しております。

弁護士に相談を

交通事故等で頭蓋骨に骨折を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。頭蓋底骨折の場合は態様によっては脳神経損傷のリスクがありますので、視覚、嗅覚、聴覚、味覚といった感覚に障害がでていないかも注目すべきです。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。