鼻 骨折 醜状障害 神経症状
鼻骨骨折の後遺症(弁護士法人小杉法律事務所監修)
こちらの記事では、頭蓋骨骨折のうち、鼻骨の骨折について整理しています。
骨折態様によっては嗅覚障害が発生することもあり、注意が必要です。
鼻骨骨折とは
鼻は呼吸器系の気道の通路として機能し、また嗅覚等を司る器官です。
鼻は大きくは外鼻と鼻腔に分かれますが、外鼻は外から見たときのほぼ三角形のピラミッド型構造で顔面の中央に突出している部分(見たままですが…。)、鼻腔は要するに鼻の穴で、外から見える部分は外鼻孔と呼ばれます。
鼻腔の内部は内壁(鼻中隔)によって左右に分かれています。
外鼻の骨格ですが、上部は鼻骨という骨が、下部の可動部は軟骨(↓のイラストでは記載ありません。)で構成されています。
匂いの情報は鼻腔最上部の嗅裂(きゅうれつ)にある嗅上皮の嗅細胞で受容されます。嗅細胞の軸索は束になって(嗅糸)、篩骨の一部である篩板孔を抜けて頭蓋内の嗅球に入ります。
嗅球に入った繊維はシナプスを作り、嗅索と呼ばれる繊維となり中枢に向かいます。嗅索からの繊維は大部分が両側の側頭葉内側の鈎(こう)に達します。
※篩骨は頭蓋骨の内部にあるので↑のイラストでは記載がありません。右側イラストの「眼窩」「側頭窩」「蝶形骨」が指しているあたりにあります。
※篩板孔:脳神経の一つであり嗅神経(Ⅰ)が通る孔です。
※シナプス:情報の伝達や処理を行うニューロン(神経細胞)といい、大脳(中枢)からの指令を抹消に伝達したり、末梢からの感覚入力を大脳(中枢)へ伝えたりします。大脳皮質と末梢は一本のニューロンでつながっていることは殆どなく、基本的には複数のニューロンを介して伝わります。この、ニューロン同士の接続部をシナプスといいます。
交通事故等が原因で受傷します。
鼻骨の構造は薄いので、肘が当たったくらいの軽微な外力でも骨折し、形が変わってしまいます。
転倒時に鼻を地面にぶつける等した際に鼻骨骨折を受傷することがあります。
鼻骨骨折後の症状
骨折部位の痛みや腫脹等、外形上の変形が生じることもあり、多くの場合は鼻出血を伴います。
頭部外傷、特に頭蓋底骨折時などによって嗅糸断裂が生じると、嗅覚脱失を生じることがあります。
嗅糸断裂は、頭部打撲によって起こる嗅覚障害の原因の中で最も一般的なものだと言われます。
呼吸性嗅覚障害
鼻骨あるいは鼻中隔骨折による嗅裂部の閉鎖で生じます。
末梢神経性嗅覚障害
嗅球と篩板との間での嗅糸の断裂によって生じます。
中枢神経性嗅覚障害
前頭葉、側頭葉の挫傷あるいは血腫により生じます。
認定されうる後遺障害
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のものが認定される可能性があります。
神経症状
骨折部に痛み等が残存した場合です。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
鼻の欠損を伴うもの(あるいは醜状障害)
別表第二第9級5号 | 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
「鼻の欠損」とは、鼻軟骨の全部または大部分の欠損をいいます。
「機能に著しい障害を残すもの」というのは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。
醜状障害としての認定可能性もあり、「鼻の欠損」の場合は醜状障害7級としての認定になりますが、いずれか高い方の等級が認定されます。
別表第二第7級12号 | 鼻軟骨の全部または大部分の欠損
→外貌に著しい醜状を残すもの |
別表第二第12級14号 | 鼻軟骨部の一部または鼻翼の欠損
→外貌に醜状をのこすもの |
鼻の欠損を伴わないもの
別表第二第12級相当 | 嗅覚脱失 |
別表第二第12級相当 | 鼻呼吸困難 |
別表第二第14級相当 | 嗅覚の減退 |
なお、1側の嗅覚脱失だけでは、後遺障害として評価されません。
嗅覚脱失及び嗅覚の減退については、T&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅力損失値により、次のように区分されます。
5.6以上 | 嗅覚脱失 |
2.6以上5.5以下 | 嗅覚の減退 |
なお、嗅覚脱失については、アリナミン静脈注射(「アリナミンF」を除く。)による静脈性嗅覚検査による検査所見のみによって確認しても差し支えがないとされます。
後遺障害立証に必要な検査
嗅覚の検査
T&Tオルファクトメーターは、基準となる5臭を用います。
各臭素は、8段階に希釈されており、濃度の薄いものから順に、-2から5までの番号が付けられ、0が嗅覚正常者が検出できる臭素濃度です。検査は臭素を浸したニオイ紙を被検者が嗅ぎ、検知域値(何のニオイかわからないが、やっとかすかにニオイを感じるときの域値)と認知域値(何のニオイか判別できるときの域値)を測定します。測定した結果は、オルファクトグラムに検知域値は○印で、認知域値は×印で記入します。一番濃い濃度でも反応しない場合は、スケールアウトとして↓印で記入します。
静脈性嗅覚検査(アリナミン静脈注射検査)は、静脈に注射されたアリナミン臭素が、静脈血とともに肺におけるガス交換の際に呼気に排出され、その臭素を含んだ呼気が後鼻孔から嗅裂部に達して、ニオイが感じられることを利用したものです。
アリナミン特有のニオイが感じられたら合図してもらいます。静脈注射開始からアリナミン特有のニオイの発現までの時間を潜伏時間、ニオイの発現から消失までを持続時間として測定します。
X線やCT検査等で器質的損傷の立証を
「嗅覚の検査」はもちろん重要なのですが、要はただの結果論になってしまいますので、なぜ嗅覚に障害が起きているのか、そのメカニズムの立証を行わなければ、等級認定には困難が伴うことが予想されます。
先ほど「鼻骨骨折後の症状」の項で、嗅覚障害には呼吸性嗅覚障害、末梢神経性嗅覚障害、中枢神経系嗅覚障害の3種があるとご説明しましたが、たとえばX線やCT検査等の画像検査で篩骨に骨折があるのか、脳のCT画像やMRI画像等で前頭葉や側頭葉の挫傷や血腫があるのか等、裏付けをとる必要性があります。
弁護士に相談を
交通事故等で鼻骨を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うために、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
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