眼 骨折 醜状障害 神経症状
眼窩底骨折の後遺症(弁護士法人小杉法律事務所監修)
本記事では頭蓋骨骨折のうち、眼窩底骨折について整理します。
→上肢下肢や脊椎(背骨)、骨盤等、頭蓋骨以外の部位の骨折はこちらの記事でまとめております。
眼窩底骨折とは
眼が入っているところの骨のくぼみが、「眼窩(がんか)」と言います。
眼窩には眼球のほかにも、筋肉、脂肪、涙を流す線、神経、血管などが豊富に詰まっています。
眼窩は円錐形をいていますが、一番奥まったところに視神経管という骨の孔があいていて、これを視神経管(脳神経Ⅱ)といいます。
周囲には副鼻腔という空気が入る鼻のスペースがあり、眼窩の周囲を取り囲むように存在しますが、眼窩の内側の骨と下側の骨は非常に薄い骨になっています。
交通事故などで眼球に急激な外力がかかると、眼窩内での圧力が高まり、構造的に薄い内側や下側の壁が骨折して圧力を逃がし、眼球破裂というという最悪のリスクから眼球を守ります。
このようにして発生する眼窩の内側と下側の骨の骨折を眼窩吹き抜け骨折といいますが、特に眼窩下方が骨折した場合を眼窩底骨折といいます。
なお、眼球周囲の筋肉は外眼筋と呼ばれ、上直筋、下直筋、内直近、上斜筋、下斜筋の6つで構成されます。各筋肉が正常に動作することで、眼球を上下左右に動かしたり、回転させることができています。
交通事故等の外傷で発生します。
交通事故等で眼球に正面から圧力が加わると発症することがあります。
その他、野球やソフトボール等で球が目に当たるなどした際に発症します。ただ、硬球の場合は球自体が硬いので眼窩の骨折は起こしても内部にまで圧力を加えることがないため眼窩底骨折含めた吹き抜け骨折の受傷はしにくく、他方で柔らかいボールの場合はボール自体が眼窩の中にまで入り込んできて眼窩内の圧力を高める結果、眼窩底骨折を含めた吹き抜け骨折を起こしやすいと言われます。
骨折後の症状
眼窩底の骨折部から眼窩内の脂肪組織や眼を動かす外眼筋などがはみ出すことにより、眼が落ちくぼんだり目の動きに障害がでて複視(物が二重に見える)になることがあります。眼窩の下壁には正円孔があり、そこを上顎神経(脳神経V:三叉神経の一つ)が走っていますので、これが損傷されると頬~上唇のしびれが生じます。
その他、骨折部位の痛みや腫脹、鼻血が出るなどの症状が発生します。
認定されうる後遺障害
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理しました。
骨折部位に痛み等が残った場合の神経症状、眼窩底骨折により神経や筋肉等が損傷した場合の目の障害、顔面の醜状障害等が考えられます。
神経症状
骨折部位に痛み等が残存したものです。上顎神経損傷による頬~上唇部のしびれもここに含まれます。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
眼の障害
骨折受傷時に眼球自体が損傷する、外眼筋自体が損傷する、あるいは脳神経損傷を合併することで生じます。
脳神経損傷と目の障害を簡単に整理すると次のようになります。
→脳神経については頭蓋底骨折時によく損傷しますので、頭蓋底骨折の記事でも説明をしています。
視神経Ⅱの損傷 | 視力障害、視野欠損 |
動眼神経Ⅲの損傷 | 眼球運動障害、複視
まぶたの下垂(上がらない) 散瞳 調節機能障害 |
滑車神経Ⅳの損傷 | 眼球運動障害、複視 |
外転神経Ⅵの損傷 | 眼球運動障害、複視 |
顔面神経Ⅷの損傷 | 兎目(とがん)(まぶたが下がらない) |
眼球の障害(視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害)
検査方法については次項「必要な検査について」をご覧ください。
視力障害
別表第二第1級1号 | 両眼が失明したもの |
別表第二第2級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
別表第二第2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
別表第二第3級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
別表第二第4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
別表第二第5級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
別表第二第6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
別表第二第7級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
別表第二第8級1号 | 一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの |
別表第二第9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
別表第二第9級2号 | 一眼の視力が0.06以下になったもの |
別表第二第10級1号 | 一眼の視力が0.1以下になったもの |
別表第二第13級1号 | 一眼の視力が0.6以下になったもの |
調節機能障害・運動障害
別表第二第10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
別表第二第11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
別表第二第12級1号 | 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
別表第二第13級2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
視野障害
別表第二第 9級3号 | 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
別表第二第13級3号 | 一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
まぶたの欠損または運動障害
眼窩底骨折それ自体の症状とは言えないかもしれませんが、まぶたの関連でも後遺障害等級が認められています。
別表第二第 9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
別表第二第11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
別表第二第11級3号 | 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
別表第二第12級2号 | 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
別表第二第13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
別表第二第14級1号 | 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
外傷性散瞳
こちらも眼窩底骨折そのものによる症状ではありませんが、眼球打撲などの外傷により、瞳孔散大筋や瞳孔括約筋などの光の調節に関わる組織を損傷すると、瞳孔を小さくする動きが鈍ったり、瞳孔が開いたままになってしまうことがあり、外傷性散瞳といいます。通常に比してまぶしく感じるようになったり、目のピント調節機能が鈍る症状が現れます。
別表第二第11級相当 | 両眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に著しく支障をきたすもの |
別表第二第12級相当 | 両眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障をきたすもの |
別表第二第12級相当 | 1眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に著しく支障をきたすもの |
別表第二第14級相当 | 1眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障をきたすもの |
流涙
涙腺から分泌された涙は、涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻へ排出されていますが、外傷によりこの涙の通路が断裂したり、狭窄、閉塞などを起こすと、涙が眼から頬にあふれ出るようになり、これを流涙といいます。
一眼 | 別表第二第14級相当 |
両眼 | 別表第二第12級相当 |
醜状障害
眼窩底骨折時に顔面部に醜状(欠損、瘢痕、組織陥没、線状痕)が残った場合です。
→認定区分の詳細は頭蓋骨骨折一般の記事で詳細を記載しています。
別表第二第7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
別表第二第9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
別表第二第12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
必要な検査について
骨折について
X線検査は必須です。場合によってはCT検査も行うべきかDrと相談しましょう。
視力障害
視力は、原則として、「万国式試視力表」によって測定します。
視力には裸眼視力と矯正視力とがありますが、原則として矯正視力での計測です。したがって、近視・遠視・乱視のように屈折異常のあるものについては、眼鏡又は1日に8時間以上の連続装用が可能なコンタクトレンズで矯正した視力を測定し、この視力によって、等級の認定をしなければなりません。
調節機能障害
近点距離や遠点距離の検査には、アコモドポリレコーダー等が調節機能測定装置として利用されています。
調節機能については数回にわたり検査を重ね、その結果がほぼ一定であり、通常の検査の場合の1/2以下であることが確認できれば、著しい調節機能障害に該当します。
また、事故により水晶体を摘出した結果、無水晶体眼となったり、人工水晶体を移植した場合は、調節力は全く失われるので、「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」として取り扱います。
このような場合についても、受傷していない眼の調節力が1.5ジオプトリ以下の場合は調節機能障害の対象とはなりません。なお、無水晶体眼のため不等像視が生じた場合の矯正視力については、前述のとおりです。
眼球の運動障害(複視)
複視を残すものとは、本人が複視のあることを自覚していること、眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること、ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること、のいずれにも該当していることが認定基準上の要件とされます。
「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」とは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたものをいい、また、「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」とは、それ以外のものをいいます。
視野障害
視野の測定は、ゴールドマン型視野計検査によって行ないます。
視野は、指標の色、大きさ、明るさを変えると、その広さが変化します。色では白、赤、緑の順に狭くなり、指標の大きさが大きいほど、明るさが明るいほど、視野は広くなります。これを利用して、ゴールドマン型視野計では、一定の明るさの指標を視野内の周辺から中心に向かって移動させ、それを感じる点を求めていき、同じことを各方向に行ない、同じ感度の点を線で結んで、視野の地図を作るというものです。
小杉法律事務所の弁護士に相談を
交通事故等で眼窩底骨折を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
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→骨折による後遺症全般についてはこちらの記事で整理しています。