後遺障害等級の解説

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【脳と神経】医師監修記事|後遺障害被害専門の弁護士法人小杉法律事務所

後遺症専門弁護士小杉晴洋

本記事は、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)監修のもと、【脳と神経】について整理しています。

 

脳について

脳は大脳、脳幹(中脳+橋+延髄)、小脳から構成されます。

大脳

知的活動に関連する新皮質、本能や情動、記憶に関連する旧皮質(大脳辺縁系等)、感覚情報の中枢であり自律神経機能に関連する間脳に分かれます。

大脳の大脳半球は4つの葉(よう)と島(とう)からなります。

4つの葉は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉を指します。

前頭葉と側頭葉の境目には外側溝という大きな溝がありますが、ここをぱかっと開けば内部に島(とう)がでてきます。

前頭葉は主に精神活動や運動性言語に関連します。

頭頂葉は体性感覚に関連し、体性感覚や視覚、聴覚の統合を行います。

側頭葉は主に聴覚や聴理解、視覚性認知に関連します。

後頭葉は主に視覚に関連します。

随意運動(自分の意志で行う運動)を例に各部位の役割を俯瞰すると、次の通りです。

視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚などの情報が頭頂葉の頭頂連合野で統合され(「何がどこにどういう状態であるか」)、統合された情報は前頭葉の前頭連合野で思考・判断し(「では、こうしよう。」)、前頭葉運動野に運動の指令を行います。運動野からでた命令は錐体路と末梢神経を伝わって身体各部の骨格筋(四肢や体幹を構成し、随意運動に係わる筋)に伝えられることで、随意運動が可能になっています。

脳幹(中脳+橋+延髄)

呼吸・循環など、生命維持機能の中枢です。

嗅覚、視覚、聴覚、味覚等を司る脳神経は主に脳幹から出てそれぞれの感覚器に繋がっています。

小脳

運動の調節に関連する部位です。

 

中枢神経系と末梢神経系

神経系は中枢神経系と末梢神経系に分かれます。

中枢神経系は脳それ自体と脊髄末梢神経系は脳神経と脊髄から伸びる脊髄神経に分かれます。

本記事では中枢神経系と末梢神経系のうち脳神経の問題を取扱います。

中枢神経系(脳+脊髄)

脳と脊髄からなり、運動、感覚、自律機能などの生体の諸機能を統括します。

脳の延長として伸びる神経の束(脳幹の延髄より下)を脊髄といい、椎骨(脊椎)が上下に連なってできた脊柱管のなかを走行します。

末梢神経系(脳神経+脊髄神経)

脳神経

脳神経とは主には脳幹(中脳+橋+延髄)から左右に12対伸びた末梢神経系のことを指します。

出る高さの順にⅠ~Ⅻの番号がついていて、脳幹のうちどこから出るのか、頭蓋底のどの孔を通るのかは次のようになっています。

嗅神経(Ⅰ) 脳幹より上部から出る 前頭蓋底の篩板孔を通る
視神経(Ⅱ) 脳幹より上部から出る 中頭蓋底の視神経管を通る
動眼神経(Ⅲ) 中脳から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
滑車神経(Ⅳ) 中脳から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
三叉神経(Ⅴ)(眼神経V1+上顎神経V2+下顎神経V3) 橋から出る 中頭蓋底の上眼窩裂(V1)、正円孔(V2)、卵円孔(V3)を通る
外転神経(Ⅵ) 橋から出る 中頭蓋底の上眼窩裂を通る
顔面神経(Ⅶ) 橋から出る 後頭蓋底の内耳孔を通る
内耳神経(聴神経)(Ⅷ) 橋から出る 後頭蓋底の内耳孔を通る
舌咽神経(Ⅸ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚静脈孔を通る
迷走神経(Ⅹ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚静脈孔を通る
副神経(Ⅺ) 延髄から出る 後頭蓋底の頚動脈孔を通る
舌下神経(Ⅻ) 延髄から出る 後頭蓋底の舌下神経管を通る

 

脊髄神経

脊髄からは左右で31対の脊髄神経が伸び、脊髄神経がでている部位によって頚神経(C1~8)、胸神経(T1~12)、腰神経(L1~5)、仙骨神経(S1~5)、尾骨神経(Co)と分かれ、身体中に分布し、身体末梢と脳(中枢)の間で情報のやりとりをします。

末梢神経(主に脊髄神経)について、構造の詳細や損傷の原因、神経損傷の症状、必要な検査、認定されうる後遺障害等はこちらの記事でまとめています。

脊椎(椎骨)については、椎骨損傷の原因や態様、認定されうる後遺障害等級等、こちらの記事でまとめています。

 

頭部外傷後の画像検査について

脳の疾患を診断するうえで、CTとMRIの二つは重要な検査です。

ただ、頭部外傷の急性期画像診断法としてはCTが第一選択となり、MRI撮影は撮影までに時間がかかることが多いです。

頭部外傷急性期に対応する医師の視点で必要な情報は、脳挫傷や脳挫傷部の脳内血腫や浮腫、急性硬膜下血腫などの主として局所性脳損傷であり、その他のダメージを受けていない脳が圧迫されていないかを判断し、緊急で血腫を取り除く手術が必要であるかなど、救命のための治療選択をしなければいけないことが理由に挙げられます。

他方でMRIは、CTに比べて撮影時間が長く(MRIは数分~数十分、CTは数秒~数分)、撮影中に患者の姿が見えにくく観察困難になるため患者の状況把握や急変時の人俗な対応が困難になります。また、MRIは強い磁場が発生する機器なので体内電子機器(心臓ペースメーカーなど)の破損や誤動作など、撮影上の禁忌・注意事項があるのですが、急性期にその確認をする余裕がない点も理由に挙げられます。

骨折や脳損傷のうち局所性脳損傷の把握にはCTで足りることが多いですが、特に脳損傷のうちびまん性軸索損傷では急性期のCTのみでは画像上異常所見が発見できないため、早期のMRI撮影が重要だといわれています。

 

脳の損傷(中枢神経系の損傷)

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、266~267頁、275~276頁、283頁)

大部分の外傷性脳損傷は頭部の急激な加速または原則の結果として生じると言われています。

局所性脳損傷(脳挫傷)とびまん性軸索損傷の2種に大別されます。

加速:顔面に真正面からパンチを受けた際、頭全体が後方に振られれば、脳も後方に「加速」します。

減速:転倒して額を壁に打ち付ければ、頭全体の動きが急に止まるので脳の動きも「減速」します。

 

局所性脳損傷(脳挫傷)

局所性脳損傷(脳挫傷)とは、脳の損傷が限局的で脳全体への波及が少ないものを言います。

最も多い局所性脳損傷は頭蓋内で脳が移動して脳の先端部が頭蓋骨と衝突して生じるもので、前頭葉先端や側頭葉先端に多いです。

運動機能や言語機能など重要な機能を司る脳の部位(皮質)が局所的に損傷されると、それらによる神経局所症状(巣症状(そうしょうじょう))が現れます。

神経局所症状のうち、四肢(上下肢)に発生する運動障害等については、脳の損傷による身体性機能障害として審査・認定の対象になります。

打撃部位に生じる直接損傷と、その反対側で生じる対側損傷があります。

頭部CT画像で確認することが可能です。

脳挫傷に続発して脳内血腫が発生することも多いと言われます。

その他、外傷等で発生した血腫で頭蓋内圧が亢進し、脳実質が圧迫されることによっても生じえます。

脳挫傷についての詳細はこちらの記事をご覧ください。

外傷性くも膜下血腫についてはこちらの記事をご覧ください。

急性硬膜下血腫についてはこちらの記事をご覧ください。

硬膜外血腫についてはこちらの記事をご覧ください。 

巣症状による身体性機能障害については頭蓋骨骨折の記事で整理しております。

 

びまん性軸索損傷

頭部に外力が加わったとき、衝撃の結果による加速と減速により脳の移動、回転、変形がおこり、脳にズレ外力が加わり、神経線維が断裂(軸索損傷)して脳の広範な領域に損傷が及びます。

原因としては交通事故が圧倒的に多いと言われています。

受傷時に頭部CTを撮影しても目立った病変が認められませんが、MRI画像のうち、FLAIR画像、T2強調画像、 T2*(T2スター)強調画像で脳幹、脳梁、大脳皮質などの部位に異常所見をとらえることができます。

受傷後より強い意識障害が持続し、高次脳機能障害をきたしやすいと言われます。

意識障害の時間が長いほど予後は不良になります。

びまん性軸索損傷の症状についてはこちらの記事でご確認ください。

びまん性軸索損傷後の後遺症についてはこちらの記事でご覧ください。

 

高次脳機能障害

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、280~281頁)

近年、頭部外傷後の後遺症として社会的問題になっています。特に問題になるのは、重症頭部外傷例よりもむしろ軽傷や中等症のいわゆる身体障害がなく、本病態のみを残す場合で、十分な社会復帰が難しいと言われます。

高次脳機能は認知機能とも置き換えられ、知覚から判断に至るすべての情報処理の過程が正常に作動することが重要です。

頭部外傷後にみられる高次脳機能障害は、前向健忘、注意障害、遂行機能障害、行動と情緒の障害などがあげられ、特に記銘力の障害は社会復帰への大きな妨げになります。

高次脳機能障害についての詳細はこちらの記事でご確認ください。

 

外傷性てんかん

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、281頁)

てんかんについては、受傷後24時間以内のてんかん発作を直後てんかん、受傷後1週間以内に生じるものを早期てんかん、その後に初発するものを晩期てんかんと分類します。

このうち晩期てんかんが本来の意味の外傷性てんかんとされ、通常受傷後6か月までに約半数が、2年までに80%が発症します。

外傷性てんかんの発生には脳の局所損傷が関与しており、特に次の5つのケースでは、外傷性てんかんの発生リスクが高いと言われています。

外傷性てんかんについてはこちらの記事で整理しています。

開放性脳損傷および感染を合併した場合
脳挫傷および6時間以上の意識障害、24時間以上の外傷性健忘を合併し、GCS10点未満のもの
急性頭蓋内血腫のあるもの
陥没骨折、硬膜損傷のあるもの
早期てんかん発症が認められたもの

 

遷延性意識障害

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、280頁)

遷延性意識障害(遷延性植物状態)とは、頭部外傷や脳内出血などのために昏睡状態に至り、生命の危機を脱したのちに開眼できる状態まで回復したものの、周囲との意思疎通能力を喪失した状態を言います。

病理学的には大脳半球がびまん性(広範に)に障害されていますが、脳幹機能は保たれていて、自発呼吸があり、栄養補給や褥瘡予防などの適切な看護により、数年~十数年の間生存が可能だといわれています。

遷延性意識障害についての詳細はこちらの記事をご覧ください。

 

脳神経損傷(末梢神経系の損傷)

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、289頁、25頁)

外力が頭部に加わることで、脳実質外で脳神経が損傷をうけることがあります。

嗅神経、顔面神経、視神経、動眼・滑車・外転神経の順で損傷が認められる頻度が高いです。

原因としては、外力により頭部の加速減速で脳槽内を走行する神経自体が損傷される場合と、脳神経が通過する頭蓋底が骨折した場合に損傷される場合があります。

※脳槽:髄液で満たされた脳とくも膜の間の空間をくも膜腔といいますが、くも膜腔のうち特に開けた区画を脳槽と言います。

脳神経損傷を生じることが多い頭蓋底骨折についてはこちらの記事でまとめています。

 

脳に障害を負ってしまった被害者の方やご家族の方は後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をご活用ください

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交通事故や労災事故等の外傷で頭部外傷を負い、脳に障害を残してしまうことがあります。治療費や休業損害、慰謝料等の損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、受傷の態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

 

【脳】についての関連ページ

高次脳機能障害についてはこちらの記事をご覧ください。

頭部外傷後の器質性精神障害についてはこちらの記事で整理しております。

脳梗塞についてはこちらの記事で整理しております。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。