後遺障害等級の解説

脳損傷 神経症状

外傷性くも膜下出血(弁護士法人小杉法律事務所監修)

こちらの記事では、外傷性くも膜下出血について整理しています。

脳と神経についてはこちらの記事で整理しております。

くも膜下出血(SAH)とは

くも膜とは

頭蓋骨と脳の間にある髄膜を構成する膜の一つです。

頭部について、外側から順に構造を整理してみると、下のようなイメージになります

外側>>>皮膚>頭蓋骨>硬膜>くも膜>軟膜>脳>>>内側

硬膜、くも膜、軟膜は3つ合わせて髄膜と言います。くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔というスペースがあり、髄液で満たされています。

くも膜下出血とは

髄液が存在するくも膜下腔に出血した状態のことをいいます。SAHはくも膜下出血の略称です。

外傷性くも膜下出血

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、127頁)

くも膜下腔に出血した状態一般をくも膜下出血と言いますが、そのうち外傷により生じたものを外傷性くも膜下出血といいます。

外傷性のものが頻度としては多いですが、脳挫傷からの出血がくも膜下腔に流入してできたもので、程度としては軽度で治療を要さないことが多いと言われています。

その他の原因によるくも膜下出血

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、127、255、292~293頁)

くも膜下出血のうち、外傷性でないものは非外傷性(突発性)くも膜下出血と言います。

非外傷性のくも膜下出血の原因として最も多い脳動脈瘤の破裂は急激な出血に伴うさまざまな症状を起こし、集中治療がしばしば必要になります。

その他の原因としては、脳静脈瘤奇形からの出血、高血圧症脳内出血、もやもや病、頭蓋内腫瘍、出血傾向、血管炎、違法薬物の使用などがあります。

※もやもや病

両側内頚動脈終末部と付近の脳血管の進行性狭窄・閉塞と、脳底部での異常血管網の発達といった脳血管像上の特徴で定義されます。現在でも原因不明の疾患です。

頭部外傷による脳血管障害の可能性

頭部の過伸展・過屈曲や回旋運動、あるいは頭蓋底骨折などにより頚部や頭蓋内の血管が損傷された場合、様々な形の血管障害が生じえます。

急性期の画像診断は頭部CTや単純X線が中心になるため、血管系の異常は見過ごされやすいです。

頭部外傷による脳血管障害のひとつに、外傷性動脈瘤があります。

頭蓋底部を通過する大血管や、大脳鎌やテント面などの解剖学的に硬い構造物の近傍を走行する動脈に動脈瘤が形成されるものですが、受傷後数週間で形成され、破裂しやすい特徴があり、くも膜下出血として発症し、見つかることも多いと言われています。

症状について

外傷性くも膜下出血の場合、症状は軽度で治療を要さないことが多いと言われています。

他方、非外傷性くも膜下出血の原因として最も多い脳動脈瘤破裂の場合、突然の激しい頭痛で発症し、約20%が初回破裂で死亡すると言われています。根治治療がなされない場合は初発後2週間以内に再発することが多く、致命率が高いです。こちらの頭痛の性状としては、突然の激しい頭痛で、ハンマーで殴られたような、いままでに経験したことのないような激痛で、悪心・嘔吐、さらには意識障害を伴うことが多いと言われています。

後遺症について

後遺障害等級

上記の通り、外傷性くも膜下出血の場合、それ自体の症状は軽度で治療を要さないとされています。

ただ、くも膜下出血像等があれば外傷による脳損傷の存在が確認されやすいため、頭部外傷後の高次脳機能障害での画像所見としての有用性は一定程度あると思われます。

なので本項では、頭部外傷後の高次脳機能障害の認定区分と、頭痛についての認定区分のみ記載します。

いずれについても、「どうしても就労できない」、あるいは「日常生活に著しい支障をきたす」等の訴えがあったとして、神経系統の障害が医学的に証明されたもの(他覚所見によって証明されたもの)でなければ、非器質性精神障害の基準により等級評価を行う場合を除き、別表第二第12級以上の等級の適用はできないとされていますので、ご留意ください。

高次脳機能障害の等級認定で必要な画像所見についてはこちらの記事をご覧ください。

高次脳機能障害

別表第一第1級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。
別表第一第2級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。
別表第二第3級3号 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。
別表第二第5級2号 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第7級4号 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第9級10号 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当

頭痛

別表第二第9級10号 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの

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後遺症専門弁護士小杉晴洋

交通事故等で外傷性くも膜下出血を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。