後遺障害等級の解説

脳損傷 神経症状

【高次脳機能障害の等級と金額】弁護士法人小杉法律事務所

こちらの記事では、高次脳機能障害で認定されうる等級や慰謝料等の金額について整理しています。

なお、医学的事項については医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)が記事監修を行っています。

 

目次
  1. 高次脳機能障害とは
  2. 交通事故等が原因で発生します
  3. 高次脳機能障害の症状について
    1. 局所性脳損傷による巣症状
    2. びまん性軸索損傷による症状
  4. 高次脳機能障害にて認定されうる後遺障害等級
  5. 自賠責保険の認定システム
  6. 後遺障害等級認定のポイントとは
    1. 1:交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
    2. 2:一定程度の意識障害が継続したこと
    3. 3:一定の異常な傾向が生じていること
  7. 等級認定申請時に必要な資料とは
    1. 1:CT、MRIなどの脳画像検査記録
    2. 2:頭部外傷後の意識障害についての所見
    3. 3:神経系統の障害に関する医学的意見
    4. 4:日常生活状況報告書
    5. 5:学校生活の状況報告書(被害者が学生の場合)
  8. 高次脳機能障害の等級認定により支払われる金額(自賠責保険金額)
  9. 高次脳機能障害にて後遺障害等級認定を受けた場合の損害賠償金額は億単位になることもあります
    1. 高次脳機能障害の後遺障害等級や損害賠償金額に関する解決事例
  10. 交通事故・自賠責保険以外の高次脳機能障害の等級認定について(障害年金・障害者手帳・労災・スポーツ振興センター等)
  11. 高次脳機能障害の損害賠償金額を高める上で注目すべき損害賠償費目について
    1. 将来介護費
    2. 将来治療費、家屋の改造、福祉車両、その他将来発生が予想される費用
  12. 慰謝料(精神的損害)について
    1. 高次脳機能障害被害者本人の慰謝料金額
    2. 高次脳機能障害被害者家族固有の慰謝料
  13. 高次脳機能障害等級認定に関するその他の注意点
    1. 画像所見は最重要です
    2. 高次脳機能障害被害者が高齢者の場合
    3. 高次脳機能障害被害者が子ども(小児)の場合
  14. 高次脳機能障害に関する等級や賠償金額については専門の弁護士に相談を

高次脳機能障害とは

高次脳機能とは、社会生活を営む人間が発達させてきた、理解する、判断する、論理的に物事を考える等の認知機能で、知覚、言語、記憶、学習、思考、判断、感情等がこれにあたります。

何らかの原因で脳に損傷や機能異常が生じれば、高次脳機能に障害が発生する可能性があります。

 

交通事故等が原因で発生します

高次脳機能障害は交通事故等の頭部外傷で生じることがありますが、必ずしも外傷性のものとは限りません。

たとえば、頭部外傷とは無関係の脳血管障害、脳腫瘍、脳感染症など、脳に損傷や機能異常をきたすものであればいずれも原因になります。

高齢者の場合、既往症に何らかの高次脳機能障害を示す疾患があり、その後に頭部外傷を負うことや、その逆も考えられ、外傷の影響がどこまでなのか悩ましいケースもあります。

 

高次脳機能障害の症状について

脳外傷による高次脳機能障害について、原因になる脳外傷は局所性脳損傷かびまん性軸索損傷のいずれかです。

高次脳機能障害による症状についてはこちらの記事で詳しく記載しております。

局所性脳損傷による巣症状

失語 脳の損傷が原因で、読む・書く・話す・聞くなどの言語機能が失われた状態です。前頭葉側頭葉が関連します。
失行 運動麻痺や感覚障害ががなく、記憶等も問題が無いにも関わらず、日常生活の様々な行為が損なわれます。頭頂葉が関連します。
失認 目は見えていて感覚に問題が無いにもかかわらず、眼に見たものを認識できない等の症状が生じます。側頭葉後頭葉の損傷で生じます。

びまん性軸索損傷による症状

記憶障害 昔のことが思い出せない、新しいことを覚えることができないなどの状態です。主な病巣は海馬などの大脳辺縁系と言われます(大脳辺縁系は脳の内側にありますので上のイラストに記載ありません。)。
注意障害 物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。
遂行機能障害 物事を行うための段取りが悪かったり、臨機応変な対応ができず(こだわりが強くて予定外のことに想定できない)、物事をスムーズに行うことができない状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。
社会的行動障害 易怒性(すぐに怒る)、意欲がわかない、特定のものに固執するなどして社会でうまく生きていくことが阻害される状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。

 

高次脳機能障害にて認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級

脳外傷による高次脳機能障害について、自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理すると以下のようになります。

身体性機能障害と高次脳機能障害の両方が発生することもありえますが、その場合はそれらの障害による就労制限や日常生活制限の程度に応じて総合的に等級判断がなされます。

また、脳損傷により神経局所損傷(巣症状)(中枢神経系)が引き起こされて感覚器などに障害を生じる場合もあります。これも「高次脳機能障害」とは別の病態ではありますが、該当する等級があるときはその等級を認定が認定されます。

身体性機能障害との関係、脳損傷による感覚器などの障害との関係はこちらの記事で整理しています。

別表第一第1級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。
別表第一第2級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。
別表第二第3級3号 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。
別表第二第5級2号 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第7級4号 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第9級10号 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。

 

自賠責保険の認定システム

自賠責保険では、「脳外傷による高次脳機能障害」の後遺障害認定に関し、高次脳機能障害認定システムを確立し、平成13年1月以降これを実施・運営しています。

認定システムが確立されて以降、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例については特定事案として、脳神経外科医や精神科医、弁護士等の外部の専門家で構成される自賠責保険(共済)審査会高次脳障害専門部会により、慎重な検討と、後遺障害認定が行われるようになりました。

脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例とは、具体的には、後遺障害診断書で高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められている場合(高次脳機能障害と診断されている場合を含む)と、そのような症状や診断が認められない場合の両方があります。後者については、「MTBI」や「軽度外傷性脳損傷」の診断名がある場合が該当します(が、実際に「MTBI」や「軽度外傷性脳損傷」で自賠責保険が高次脳機能障害を認定するケースは少ないと思われます。)。

 

後遺障害等級認定のポイントとは

自賠責保険が脳外傷による高次脳障害を認定する際のポイントは次の3つです。

これらを総合考慮して、脳外傷による高次脳機能障害として認定できるか否か、認定できるとして程度は(何級なのか)が判断されます。

最も重視されているのは1の画像所見の有無です。

1:交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること

2:一定程度の意識障害が継続したこと

3:一定の異常な傾向が生じていること

 

1:交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること

高次脳機能障害の原因になる脳損傷には、局所性脳損傷とびまん性脳損傷があります。

局所性脳損傷は脳挫傷や各種頭蓋内出血(脳内血腫や急性硬膜下血腫など)を指します。

びまん性軸索損傷は、外傷後より意識障害などの症状があるにも関わらず、頭部CT上、脳を破壊もしくは圧迫するような出血(局所性脳損傷)が明らかではない点に特徴があります。

脳挫傷についてはこちらの記事で整理しております。

急性硬膜外血腫はこちらの記事で整理しております。

びまん性軸索損傷についてはこちらの記事で整理しております。

撮影方法

CTやMRI画像での経時的観察による脳出血(硬膜下出血、くも膜下出血などの存在とその量の増大)像や脳挫傷痕の確認があれば、外傷に伴う脳損傷の存在が確認されやすいです。

CTで所見を得られない患者について頭蓋内病変が疑われる場合は、受傷後早期にMRI(T2、T2*(T2スター)、DWI、FLAIRなど)を撮影することが望ましいです。

受傷後時間が経過した場合、それでも鋭敏に微細な出血痕等を描出することができるMRIのSWI撮影を検討すべきです。

外傷性硬膜下血腫についてはこちらの記事で整理しております。

くも膜下出血についてはこちらの記事で整理しています。

画像所見の評価

撮影方法は上記のとおりですが、局所性脳損傷の場合はともかく、びまん性軸索損傷についてはこれらの撮影結果のみで発症を確認することは困難であり、あくまで補助的な診断にとどまります。

びまん性軸索損傷の病態は、「外傷によりミクロレベルで脳細胞間の情報伝達を行う軸索(神経線維)が断裂して機能障害をきたしている状態」だと考えられていますが、ミクロレベルの軸索の断裂それ自体を現在の画像撮影技術で撮影することが困難だからです。

そこで、自賠責保険の障害認定実務においては、MRIやCT検査により、脳室拡大や脳溝拡大などの脳委縮がみられ、およそ3か月程度でその固定が確認されれば、軸索組織の障害が生じたことを合理的に疑うことができ、出血や脳挫傷の痕跡が乏しい場合であっても、びまん性軸索損傷の発症を肯定できるものとされています。上記で「経時的な」と記載したニュアンスはここからきています。

新しい画像検査について

近時、CT、MRI以外に脳外傷の発生の有無を確認するものとして、SPECT検査、PET検査、拡散テンソルMRI、MRS等の新しい画像検査結果が挙げられます。

ただ現在のところ、CT、MRI以外の画像検査について、外傷性脳損傷の発見の性能についての評価が固まっている状態ではなく、自賠責保険での審査においては「補助的な検査方法として参考になる場合がある」という程度の扱いにとどまっています。

 

2:一定程度の意識障害が継続したこと

脳外傷による高次脳機能障害は、一般に、意識障害を伴うような頭部外傷後に起こりやすいとされており、意識障害は、事故後が外力による(一次性)びまん性脳損傷の場合は事故直後から発生しますが、頭蓋内血腫な脳腫脹の増悪による(二次性)脳損傷の場合は事故から一定期間経過後に深まるという特徴があると言われています。

そこで自賠責保険の実務においては、

「初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例」

を「認定システム」の対象とする特定事案として抽出し、自賠責保険(共済)審査会高次脳障害専門部会で等級認定の検討がなされることになります。

(2018年5月31日付「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの拡充について」(報告書)16頁)

JCS(Japan Coma Scale)

覚醒の程度によって、Ⅰ(1桁)、Ⅱ(2桁)、Ⅲ(3桁)の三段階に大きく分け、さらにそれを3段階に分けます。

点数は「Ⅱ-20」などと表記します。健常者(意識清明)は「0」と表記されます。

点数が高いほど状態が悪いということになります。

Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態
意識清明
1(Ⅰ-1) 意識清明とは言えない
2(Ⅰ-2) 当見識障害がある
3(Ⅰ-3) 自分の名前、生年月日が言えない
Ⅱ:刺激すると覚醒
10(Ⅱ-10) 普通の呼びかけで容易に開眼する
20(Ⅱ-20) 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する
30(Ⅱ-30) 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態
100(Ⅲ-100) 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200(Ⅲ-200) 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる
300(Ⅲ-300) 痛み刺激に全く反応しない

GCS(Glasgow Coma Scale)

開眼機能(E)、言語機能(V)、運動機能(M)の3要素に分けて意識状態を指標化し、合計点数により評価します。

合計点は「7(E1 V2 M4)」などと表記します。健常者だと15点(満点)、最低点は3点です。

点数が低いほど状態が悪いということになります。

開眼(E:eye opening)
自発的に開眼
呼びかけにより開眼
痛み刺激により開眼
なし
言語(V:verbal response)
当見識あり
混乱した会話
不適切な単語を使う
無意味な発声
発語が無い
運動機能(M:motor response)
指示に従う
痛み刺激の部位に手足を持ってくる
痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲)
痛みに上肢を異常屈曲させる(徐皮質姿勢)
痛みに上肢を異常伸展させる(徐脳姿勢)
全く動かない

 

3:一定の異常な傾向が生じていること

脳外傷による高次脳機能障害の残存を疑わせる異常な傾向(多彩な認知障害、行動障害および人格変化や身体障害(起立障害・歩行障害、痙性片麻痺))が、頭部外傷を契機として発生していることが必要になります。

人格変化と身体障害を除く異常な傾向については神経心理学的検査で一定の評価が可能で(逆に言えば、人格変化は周囲にいる人しか気づけない、気づきにくい症状だと言えます。)、後遺障害申請時の必須資料である「神経系統の障害に関する医学的意見」の作成時に必要になります。(下記「等級認定申請時に必要な資料等」をご覧ください。)

代表的な神経心理学的検査

スクリーニング

高次脳機能障害がありそうかどうかの選別

ミニメンタルステート検査(MMSE)
改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
知能 WAIS-Ⅲ
コース立体組み合わせテスト
注意 標準注意検査法(CAT)
Trail Making Test(TMT)
BIT 行動性無視検査(BIT)
注意機能スクリーニング検査(D-CAT)
遂行機能 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)
ウィスコンシンカード分類検査(WCST)
Frontal Assessment Battery(FAB)
記憶 ウィクスラー記憶検査(WMS-R)
リハーミート行動記憶検査(RBMT)
三宅式記銘力検査

 

等級認定申請時に必要な資料とは

認定時に総合考慮されるポイントは上記のとおり3つですが、これらについて判断するため、後遺障害診断書とは別に、次のような資料が要求されます。

被害者側で弁護士に委任して後遺障害申請を行う場合、多くは事前認定ではなく被害者請求の手法でおこなうのではないかと思われますが、被害者請求をする弁護士の側で以下の資料について不足なく集め、内容についてしっかり確認し、必要であれば医師面談や医療照会等で不明部分等の確認をとることが重要です。

なお、2~5について、例えば、「2 頭部外傷後の意識障害についての所見」であれば、実際に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という専用の書式があります。

1:CT、MRIなどの脳画像検査記録 病院で作成
2:頭部外傷後の意識障害についての所見 医師が作成
3:神経系統の障害に関する医学的意見 医師が作成
4:日常生活状況報告書 被害者の家族や介護者が作成
5:学校生活の状況報告書(被害者が学生の場合) 受傷前後の担任教師それぞれが作成

1:CT、MRIなどの脳画像検査記録

治療期間中に転院がある場合、すべての病院から取り付けます。

2:頭部外傷後の意識障害についての所見

意識障害について医師が作成する文書で、事故後の意識障害の有無・推移、外傷後健忘の有無・長さ、その他意識障害の所見につき特記すべき事項が詳細に記載されます。

転院をしている場合、初診や初期治療を担当した医療機関であればすべて作成していただく必要があります。当時の担当医が異動等でいなくなることも懸念されますので、場合によっては症状固定前に依頼作成することも考慮します。

3:神経系統の障害に関する医学的意見

認知障害や人格の変化、問題行動などについて医師が作成する文書です。

脳CTや脳MRIなどの画像および脳波、神経心理学検査、運動機能、身の回り動作能力、てんかん発作の有無、認知・情緒・行動障害、社会生活・日常生活への影響、全般的活動および適応状況を具体的に記載していただきます。

4:日常生活状況報告書

被害者の日常生活の状況うぃ把握することができる家族や介護者等が作成する文書です。

詳細は次の通りですが、事後前後を通じて被害者の様子を知っている方に作っていただくのがベターです。

同居のご家族が一番よい(信用性も高い)のではないかと思いますが、同居でなくても連絡を取り合っていた親族の方や、それもいなければ付き合いのあった職場の同僚や友人など、協力者をなるべく探してみましょう。

受傷前と受傷後の日常生活の能力程度、問題行動の頻度、家庭・地域社会・職場・学校などにおける日常の活動状況や適応状況、これら症状が社会生活・日常生活に与える影響、事故前後の生活状況の変化、現在支障が生じていること、就労・就学状況、身の回り動作能力、声掛け、見守り、介助が必要な理由、それらの内容、頻度を具体的に記載していただきます。

5:学校生活の状況報告書(被害者が学生の場合)

被害者が学生である場合、日常生活報告書を補充する資料として、受傷前の担任教師と受傷後の担任教師にそれぞれ作成してもらいます。

 

高次脳機能障害の等級認定により支払われる金額(自賠責保険金額)

自賠責保険金額は、認定された後遺障害等級によって下記のとおり区分されています。

別表第一第1級1号 自賠責保険金額4000万円
別表第一第2級1号 自賠責保険金額3000万円
別表第二第3級3号 自賠責保険金額2219万円
別表第二第5級2号 自賠責保険金額1574万円
別表第二第7級4号 自賠責保険金額1051万円
別表第二第9級10号 自賠責保険金額 616万円

 

高次脳機能障害にて後遺障害等級認定を受けた場合の損害賠償金額は億単位になることもあります

弁護士小杉晴洋

弁護士小杉晴洋

上記表にて説明した自賠責保険金額というのは、あくまで最低保証の金額であり、交通事故にて高次脳機能障害の後遺症を残してしまった場合の損害賠償金額としては十分ではありません。

弁護士法人小杉法律事務所では、高次脳機能障害に関する多くの案件を解決してきており、億単位の解決事例や、裁判例・新聞・専門誌に掲載された解決事例が数多くございます。

交通事故などで高次脳機能障害となってしまったという方については、無料の法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

高次脳機能障害の後遺障害等級や損害賠償金額に関する解決事例

自賠責保険が非該当の判断をした後に、弁護士小杉が医師面談を実施して医学的意見書を取り付け、高次脳機能障害にて後遺障害等級1級を獲得した事例(損害賠償金額0円から1億5400万円に増額)

高次脳機能障害5級という裁判官の判断を医学的意見書をもって覆し、後遺障害等級2級にて損害賠償金額約2億5000万円で解決した事例

自賠責保険が高次脳機能障害3級と判断した事案にて、介護状況を丁寧に立証して、裁判で後遺障害等級3級に上げた事例(約2200万円の示談提示から裁判をすることで約8300万円まで増額)

自賠責保険後遺障害等級併合4級(高次脳機能障害は5級)と判断した事案において、医学的意見書を取り付けて、裁判で後遺障害等級1級に変更させた事例

事前認定12級13号の高次脳機能障害の事案において、弁護士小杉介入後の異議申立てにより、後遺障害等級併合5級まで上げた事例

 

交通事故・自賠責保険以外の高次脳機能障害の等級認定について(障害年金・障害者手帳・労災・スポーツ振興センター等)

交通事故により高次脳機能障害となった場合は、まずは自賠責保険による後遺障害等級認定をうけることになりますが、高次脳機能障害に関する等級認定は自賠責保険以外のものもあります。

具体的には、障害年金の等級、障害者手帳の等級、労災の等級、スポーツ振興センターの等級などです。

等級認定の元は、昭和2年の工場法施行令から出発していて、基本的にはどれも同じ考えとなっています。

ただし、この中で最も等級認定要件が厳しいとされているので、自賠責保険による後遺障害等級認定ですので、自賠責保険による高次脳機能障害の等級認定の手法を熟知していれば、他の分野での等級認定は容易です。

弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故以外においても、高次脳機能障害に関する事案を数多く取り扱っております。

学校事故の高次脳機能障害の解決に関するページはこちら

労災事故の高次脳機能障害の解決に関するページはこちら

 

高次脳機能障害の損害賠償金額を高める上で注目すべき損害賠償費目について

加害者側に損害賠償請求すべき損害費目は多岐にわたりますが、こちらでは高次脳機能障害事案で特に問題になることが多いものについて記載します。

慰謝料(精神的損害)については次項で整理しています。

将来介護費

概要

高次脳機能障害について3級以上に認定された事例では、多くの裁判例が将来介護費の必要性を認めており、5級以下の事例では個別の事情により判断がわかれています。

職業付添人による介護の必要性については、現に施設を利用して介護を行っている事実や、ヘルパーまたは職業付添人に依頼している事実が認められる場合には、以降も同様の状況での介護の必要性を認知している裁判例が多いです。

現在の介護状態が近親者による介護である場合には、今後も近親者による介護がされることを前提に介護費が認定されることが多いですが、被害者の要介護状態、介護者の介護能力、介護者の就労状況・就労の意思等から、将来的に職業付添人による介護が必要と判断される場合には、これを考慮した将来介護費が認定されています。

なお、2024年版の民事交通事故訴訟損害賠償算定基準(俗に「赤本」)上巻(基準編)28頁によれば、次のように記載されていて、金額算出時の目安になります。

「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円。但し、具体的看護の状況により増減することがある」

介護保険給付との関係

介護保険法において、申請者の申請を経て認定を受けた「要介護者」および「要支援者」に対し、介護保険の支給が行われます。

65歳以上の者の場合、要介護あるいは要支援の原因は限定されていないので、65歳以上の者が交通事故に遭い高次脳機能障害を残した場合には介護保険給付がなされることになります。

将来の介護保険給付との損益相殺

口頭弁論終結時までに金額が確定し、支払いがなされている介護保険給付は損益相殺の対象となり、既払扱いで損害額から控除されますが、口頭弁論終結時以降の金額が確定していない将来の介護保険給付は損益相殺の対象にはならないというのが一般的な考え方です。「口頭弁論終結時」というのはあくまで紛争が裁判に発展した場合の話になりますので、示談交渉等で解決する場合は双方協議で基準日を決めていくことになります。

将来介護費の日額算定

基準となるのは自己負担額なのか介護保険適用部分を含むのかという議論ですが、将来も現行の介護態勢が維持されるとは限らないとして、介護保険適用部分も含めて日額を算出している裁判例が比較的多いです。

 

将来治療費、家屋の改造、福祉車両、その他将来発生が予想される費用

高次脳機能障害に限った話ではありませんが、症状固定日以降の治療費(将来治療費)については支払われないのが原則です。ただ、治療によって症状が悪化することを防止する必要がある場合には、例外的に相当な支払いが認められることがあります。

家屋の改造費は、被害者に生じている障害の内容及び従来の家屋の構造から、家屋の改造の必要性が認められる場合には、損害として認められます。ただ、家屋の改造が、他の家族にとっても利便性が向上する性質のものであるときは、割合的な認定がなされます。

福祉車両の費用、その他将来発生することが予想される費用については、被害者の介護状況から必要性が認められる場合には、平均余命まで相当な費用が損害として認定されます。

 

慰謝料(精神的損害)について

慰謝料は基本的には被害者が受けた精神的苦痛に対する損害の賠償ですが(民法第710条)、被害者が死亡した事案では被害者の父母、配偶者及び子について固有の慰謝料請求権が認められています(民法第711条)。

ただ、死亡時案でなくても「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」(2024年版赤本上巻234頁)とされており、この場合では被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です。

高次脳機能障害被害者本人の慰謝料金額

被害者本人に発生する慰謝料としては、事故日から症状固定日までの治療期間に対応する慰謝料(傷害部分慰謝料)と、残存した後遺障害の等級に応じた後遺障害慰謝料の2種があります。

いずれについても赤本記載の基準額を原則とし、事案に応じて調整がなされることがあるという印象です。

傷害慰謝料金額(治療期間に対応する入通院慰謝料金額)

赤本の基準では、入院期間、通院期間に応じて目安となる基準額が決まります。

たとえば入院3か月+通院9か月の事案なら226万円、入院のみ12か月の事案なら321万円となっています(2024年版赤本上巻212頁の別表Ⅰ)。

後遺障害慰謝料金額

赤本記載の基準額(2024年版赤本上巻216頁)

第1級 2800万円
第2級 2370万円
第3級 1990万円
第4級 1670万円
第5級 1400万円
第6級 1180万円
第7級 1000万円
第8級 830万円
第9級 690万円
第10級 550万円
第11級 420万円
第12級 290万円
第13級 180万円
第14級 110万円

なお、高次脳機能障害で認定されうる後遺障害は1,2,3,5,7,9,12級のみで、他の後遺障害と併合されて繰り上がることはあり得ます。

高次脳機能障害で12級以下の認定はありませんが、ここでは参考のため記載しています。

慰謝料金額増額事例

少数ではありますが、予測困難な将来発生する費用や高次脳機能障害以外の後遺障害の内容・程度等を考慮し、赤本の基準額より増額している事例もあります。

自賠責保険の認定上、後遺障害等級別表第1の2級の後遺障害と別表第2の後遺障害が併存しても併合による等級の繰り上げがなされないのですが、慰謝料の算定上はここを考慮して増額すべきだと言われています(2024年版赤本上巻216頁)。

その他、高次脳機能障害の事例に限りませんが、加害者による事故後の著しい不誠実な態度(救護活動を行わずに現場から逃走し、証拠隠滅した事例など)により、被害者の精神的損害が増大した場合には増額理由になりえます。

慰謝料金額減額事例

他方、被害者の収入状況や生活状況に大きな変化がみられないこと等、事故後の実質的な不利益が後遺障害等級に比して小さいとみられる場合には、赤本の基準額よりも低い後遺障害慰謝料が認定されることもあります。

 

高次脳機能障害被害者家族固有の慰謝料

「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」(2024年版赤本上巻234頁)とされており、この場合では被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です(死亡慰謝料の基準が基本的には近親者固有分を含むとしている(2024年版赤本上巻203頁)のとは異なります。)。

高次脳機能障害について認定した裁判例では、後遺障害等級2級以上の事案では近親者固有の慰謝料が認められることが一般的で、3級の事案でも認められるものが多いです。他方、4級以下の事案では個別の事情により判断が分かれています。

固有の慰謝料を請求できる「近親者」の範囲ですが、基本的には民法第711条規定の父母、配偶者及び子になっていますが、兄弟姉妹や事実上の母親(事故時から実父と内縁関係にあった女性でその後正式に婚姻した)で認められたケースもあります。

どのような近親者にそれぞれどのくらいの固有慰謝料が認められるかについては、被害者との関係、後遺障害の程度、要介護状態等によって個別に判断されており、被害者の後遺障害の程度が重く、被害者と密接な関係を有し、介護の負担が大きい近親者ほど固有慰謝料の金額が高く認められる傾向があります。

 

高次脳機能障害等級認定に関するその他の注意点

画像所見は最重要です

高次脳機能障害自体は、必ずしも交通事故等の外傷で生じるものではなく、脳血管障害や脳腫瘍、脳感染症などでも発症しますし、うつ病や統合失調症などの精神疾患でも高次脳機能障害の症状がみられます。

そのような観点から、自賠責保険(あるいは加害者側、あるいは裁判所。)に対し、事故後に発生した高次脳機能障害の症状が事故によって発生したと認めさせるためには、「頭部外傷による」脳損傷を示す画像所見が重要になります。

そのような画像所見が無い場合、高次脳機能障害の(あるいはそのような)症状が事故後に発生したとしても、事故と関係がないか、あるいは非器質性精神障害としての扱いにならざるを得ません。

近年よく目にするMTBI(軽度外傷性脳損傷)は、CTやMRIでの画像上の所見が全くなくても、びまん性脳損傷があり、症状が出現する概念だと言われます。

びまん性脳損傷は確かに高次脳機能障害の原因になりうる脳損傷ですが、急性期のCT撮影だけでは脳損傷を示唆する画像所見の撮影が困難だという特殊性があり、画像所見が無いからと言って外傷と関係ないと言い切れるわけではないはずです。ただ、MTBI自体が医学的に確立した疾患だと言い難いとされていることもあり、適切な賠償を求めるためには画像所見が重要だということに変わりはありません。

 

高次脳機能障害被害者が高齢者の場合

高次脳機能障害の主な原因は頭部外傷だと言われますが、それだけではないのは前述のとおりです。

高齢者の場合は、高次脳機能障害の原因が一つではない可能性もあり、評価には注意が必要だと言われます。

高次脳機能障害の原因になりうる既往症があるところに頭部外傷を受傷することや、その逆もあり得ます。

加害者や裁判所の発想として、本当に事故による高次脳機能障害なのか(受傷否認)、そうだとしてすべてが事故のせいなのか(素因減額)という論点に繋がる部分でして、警戒が必要です。

特に、衝撃が軽度だったとみられかねない事故態様のケース、受傷後しばらくして症状が発現したとか、治療中に悪化した場合などは要注意です。

 

高次脳機能障害被害者が子ども(小児)の場合

小児の場合、能力や発達は人それぞれで、高次脳機能の検査を行うことも困難になります。

日常および学校生活などを観察することも小児の高次脳機能の評価に重要ですが、年少児ほど評価に時間を要するケースがあります。

例えば、中学生になって初めて、高校生になって初めて、とか、成人に近づく周囲の児童と比較することでやっと被害児童の症状が顕在化するケースもあります。

乳幼児の場合はそもそも正常だとしても高次脳機能が発達していないので、神経心理学的検査自体も施工できず、疑う症状があったとしても、年少になるほど、それが頭部外傷によるものか、その子自身の発達の問題なのか等判別が困難になります。

この問題は、治療期間はいつまでなのか(症状固定時期がいつなのか)という問題と関連します。

成人の外傷性高次脳機能障害の場合、受傷後12か月程度は改善を示す可能性があると言われますので、少なくともそのくらいの治療期間が参考になるものと思われますが、小児の場合の「あとでわかるかもしれない」懸念を考慮すると、どのくらいの年数治療をうけなければいけないのか、判断が難しいところです。

早期に示談等で解決するにしても、免責証書や示談書に「後日、本件事故に関する後遺障害が判明した場合には別途協議をする。」等の留保の文言を加えておくべきでしょう。

 

高次脳機能障害に関する等級や賠償金額については専門の弁護士に相談を

後遺症専門弁護士小杉晴洋

交通事故等で頭部外傷を負い外傷性の高次脳機能障害を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所では高次脳機能障害に関する無料相談を実施しておりますので、所属弁護士に是非ご相談ください。

高次脳機能障害事案を弁護士に相談した方がよい理由についてはこちらの記事で整理しています。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。