脳損傷 神経症状
高次脳機能障害は何級?後遺障害等級・精神障害者手帳における等級について解説

交通事故で頭部に大きな衝撃を受けた場合、脳に重篤な障害(高次脳機能障害)が遺ってしまうことがあります。
交通事故によって負ってしまった後遺障害は、後遺障害等級に分類されることになりますが、
高次脳機能障害は何級になるのでしょうか?
このページでは、交通事故後遺障害被害を専門としている弁護士が、
- 高次脳機能障害とは?
- 高次脳機能障害の症状
- 高次脳機能障害で認定される後遺障害等級
- 高次脳機能障害で取得できる障害者手帳・障害年金
- 高次脳機能障害で等級認定を得るためのポイント
- 高次脳機能障害で請求できる損害賠償金
等について解説します。
なお、医学的事項につきましては医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)にご監修をいただいております。
交通事故に強い弁護士法人小杉法律事務所では、交通事故後遺障害被害を専門としている弁護士によるサポートを実施しております。
ご自身やご家族が交通事故被害に遭い、高次脳機能障害を負ってしまいご不安をお抱えの方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
交通事故後遺障害専門弁護士のサポートの内容についてはこちら。
- 高次脳機能障害とは
- 高次脳機能障害の症状について
- 高次脳機能障害にて認定される後遺障害の等級
- 自賠責保険の等級認定システム
- 高次脳機能障害で取得できる障害者手帳の等級
- 高次脳機能障害で受給できる障害年金の等級
- 高次脳機能障害における等級認定のポイントとは
- 高次脳機能障害における等級認定申請時に必要な資料とは
- 高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けるまでの流れ
- 高次脳機能障害の等級認定により支払われる金額(自賠責保険金額)
- 高次脳機能障害にて等級認定を受けた場合の損害賠償金額は億単位になることもあります
- 高次脳機能障害の損害賠償金額を高める上で注目すべき損害賠償費目について
- 高次脳機能障害の慰謝料(精神的損害)について
- 高次脳機能障害等級認定に関するその他の注意点
- 高次脳機能障害に関する等級や賠償金額については専門の弁護士に相談を
- 高次脳機能障害の等級に関するよくある質問
高次脳機能障害とは

そもそも高次脳機能とは、人間が社会生活を営む中で学習し身につける、「言語」、「空間や対象の認知」、「記憶」、「計画的行動」、「論理的思考」等を意味するとされています。
そして、高次脳機能障害は、病気や頭部外傷などの原因により脳に損傷をきたしたために生じる、
これらの能力の障害、つまり言語能力や記憶能力、空間認知能力などの認知機能や精神機能の障害を指します。
日常生活における具体的症例としては、
- 今朝の朝食の内容を思い出せない(記憶障害)、
- 仕事や作業に集中することができない(注意障害)、
- 計画が立てられなくなる(遂行機能障害)、
- 言葉を上手く話すことができなくなったり人の話が理解できなくなった(失語症)、
- お箸や歯ブラシの使い方が分からなくなった(失行症)、
- 左側になるおかずが目にとまらず残すようになった(左半側空間無視)
などが挙げられます(参考:「高次脳機能障害者地域支援ハンドブック」(改訂第五版))。
また、高次脳機能障害は交通事故等の頭部外傷で生じることがありますが、必ずしも外傷を原因として発症するとは限りません。
たとえば、通常、頭部外傷とは無関係の脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、脳腫瘍、脳感染症など、
脳に損傷や機能異常をきたすものであれば、いずれも原因になります。
高齢者の場合、既往症に何らかの高次脳機能障害を示す疾患があり、その後に頭部外傷を負うことや、その逆も考えられ、外傷の影響がどこまでなのか悩ましいケースもあります。
厚生労働省が示す高次脳機能障害の診断基準によれば、高次脳機能障害は以下2点を主要症状とするものであるとされています。
- ①脳の器質的病変の原因となる疾病の発症や事故による受傷の事実が確認されている
- ②現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である
これより、高次脳機能障害の診断にあたっては、脳自体(物理的意味での)に何らかの異常があることが必要とされているものといえます。
もっとも、この基準の表現は曖昧なところがあり、また病変原因も複数を含むものであることから、
交通事故等の外傷によって高次脳機能障害が発症したといった場合に、前述のような争いが生じることが多いといえます。
高次脳機能障害の症状について

脳外傷による高次脳機能障害について、原因になる脳外傷は局所性脳損傷かびまん性脳損傷のいずれかです。
なお、びまん性軸索損傷は、びまん性脳損傷の中でも重症な損傷態様の一つであり、
軸索という神経線維の損傷を広範囲に伴うものを指します(詳しくは後述しております。)。
⑴局所性脳損傷による巣症状
| 失語 | 脳の損傷が原因で、読む・書く・話す・聞くなどの言語機能が失われた状態です。前頭葉と側頭葉が関連します。 |
| 失行 | 運動麻痺や感覚障害がなく、記憶等も問題が無いにも関わらず、日常生活の様々な行為が損なわれます。頭頂葉が関連します。 |
| 失認 | 目は見えていて感覚に問題が無いにもかかわらず、眼に見たものを認識できない等の症状が生じます。側頭葉や後頭葉の損傷で生じます。 |
⑵びまん性軸索損傷による症状
| 記憶障害 | 昔のことが思い出せない、新しいことを覚えることができないなどの状態です。主な病巣は海馬などの大脳辺縁系と言われます(大脳辺縁系は脳の内側にありますので上のイラストに記載ありません。)。 |
| 注意障害 | 物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
| 遂行機能障害 | 物事を行うための段取りが悪かったり、臨機応変な対応ができず(こだわりが強くて予定外のことに想定できない)、物事をスムーズに行うことができない状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
| 社会的行動障害 | 易怒性(すぐに怒る)、意欲がわかない、特定のものに固執するなどして社会でうまく生きていくことが阻害される状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
高次脳機能障害にて認定される後遺障害の等級

脳外傷による高次脳機能障害について、自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される等級を整理すると以下のようになります。
なお、脳を損傷すると認知障害が残る高次脳機能障害と、四肢に麻痺が残るような身体性機能障害とが併発することもありえますが、
その場合はそれらの障害による就労制限や日常生活制限の程度に応じて総合的に等級判断がなされます。
また、脳損傷により神経局所損傷(巣症状)(中枢神経系)が引き起こされて感覚器などに障害を生じる場合もあります。
これも「高次脳機能障害」とは別の病態ではありますが、該当する等級があるときはその等級が認定されます。
1級・2級(要介護)の認定基準
自動車損害賠償保障法施行令には、別表第一と別表第二とがあります。
別表第一は介護を要するような後遺障害が、別表第二はそれ以外の後遺障害が該当するとされており、
非常に重篤な高次脳機能障害が残存する場合には、この介護を要する別表第一の1級または2級に該当する可能性があります。
認定基準は以下のとおりです。
| 別表第一第1級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、
「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。 |
| 別表第一第2級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、
「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。 |
3級・5級・7級・9級の認定基準
3級以下は介護を要するとまではいえない後遺障害ということになります。
とはいえ、交通事故により生じた後遺障害について等級認定の審査を行っている損害保険料率算出機構が公開しているデータ(「自動車保険の概況」2025年版)では、
全後遺障害等級認定件数における割合が、
- 3級:0.57%
- 5級:0.75%
- 7級:1.94%
- 9級:3.49%
とされており、重篤な後遺障害であることがご理解いただけると思います。
各後遺障害等級の認定基準は以下のとおりです。
| 別表第二第3級3号 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、
「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。 しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。 |
| 別表第二第5級2号 | 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、
「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。 このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。 |
| 別表第二第7級4号 | 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、
「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。 |
| 別表第二第9級10号 | 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、
「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。 |
自賠責保険の等級認定システム

自賠責保険では、「脳外傷による高次脳機能障害」の等級認定に関し、高次脳機能障害認定システムを確立し、平成13年1月以降これを実施・運営しています。
認定システムが確立されて以降、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例については特定事案として、
脳神経外科医や精神科医、弁護士等の外部の専門家で構成される自賠責保険(共済)審査会高次脳障害専門部会により、慎重な検討を経て等級認定が行われるようになりました。
(損害保険料率算出機構自賠責損害調査センター発行「自賠責保険(共済)損害調査のしくみ」)参照)。
脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例とは、具体的には、
後遺障害診断書で高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められている場合(高次脳機能障害と診断されている場合を含む)と、そのような症状や診断が認められない場合の両方があります。
後者については、「軽度外傷性脳損傷(MTBIと呼ばれることもあります)」の診断名がある場合が該当します
(が、実際に「軽度外傷性脳損傷(MTBI)」で自賠責保険が高次脳機能障害を認定するケースは少ないと思われます。)。
高次脳機能障害で取得できる障害者手帳の等級

ところで、交通事故被害で高次脳機能障害が残存してしまった場合、等級申請を行えるのは自賠責保険だけではありません。
自賠責保険への申請は、当然損害賠償請求を行う上では非常に重要な手続きですが、事故後の日常生活を送る上では障害者手帳の等級を取得しておくことも有用になります。
高次脳機能障害とは、脳が損傷を受けることによって生じる認知障害≒精神障害のことを言いますから、
基本的には「精神障害者保健福祉手帳」の対象となります。
ただし、身体性機能障害や感覚器の障害が出ているケースでは、身体障害者手帳の対象(または両方)となる可能性もあります。
障害者手帳を取得することで、
- 公共料金の割引
- NHK受信料の減免
- 所得税控除
- 住民税控除
- 相続税控除
- 贈与税控除
- 自動車税控除
などや、自治体によっては、
- 公共交通機関の割引
- 公共施設入場料などの割引
などを受けることができます。
ただし、障害者手帳の等級によってその対象や金額が異なりますので、
ここでは精神障害者保健福祉手帳の障害等級認定基準(厚生労働省ホームページ「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」を参照)についてみてみましょう。
まず前提として、精神障害者保健福祉手帳の判断においては、高次脳機能障害は、「器質性精神障害」の中に含まれています。
そして、高次脳機能障害については以下のように定義されています(平成七年九月一二日 健医発第一、一三三号 「精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準」より)
| 高次脳機能障害とは、1)脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認され、2)日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等の認知障害であるものをいう。ICD―10コードでF04、F06、F07に該当する。
F04:器質性健忘症候群(記憶障害が主体となる病態を呈する症例) F06:他の器質性精神障害(記憶障害が主体でない症例、遂行機能障害、注意障害が主体となる病態を呈する症例) F07:器質性パーソナリティおよび行動の障害(人格や行動の障害が主体となる病態を呈する症例) |
これを踏まえて等級認定基準をみていきます。
| 1級 | (機能障害の状態):器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうちひとつ以上が高度なもの
(活動制限の状態): 1 調和のとれた適切な食事摂取ができない。 2 洗面、入浴、更衣、清掃等の身辺の清潔保持ができない。 3 金銭管理能力がなく、計画的で適切な買物ができない。 4 通院・服薬を必要とするが、規則的に行うことができない。 5 家族や知人・近隣等と適切な意思伝達ができない。協調的な対人関係を作れない。 6 身辺の安全を保持したり、危機的状況に適切に対応できない。 7 社会的手続をしたり、一般の公共施設を利用することができない。 8 社会情勢や趣味・娯楽に関心がなく、文化的社会的活動に参加できない。 |
| 2級 | (機能障害の状態):器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうちひとつ以上が中等度のもの
(活動制限の状態): 1 調和のとれた適切な食事摂取は援助なしにはできない。 2 洗面、入浴、更衣、清掃等の身辺の清潔保持は援助なしにはできない。 3 金銭管理や計画的で適切な買物は援助なしにはできない。 4 通院・服薬を必要とし、規則的に行うことは援助なしにはできない。 5 家族や知人・近隣等と適切な意思伝達や協調的な対人関係づくりは援助なしにはできない。 6 身辺の安全保持や危機的状況での適切な対応は援助なしにはできない。 7 社会的手続や一般の公共施設の利用は援助なしにはできない。 8 社会情勢や趣味・娯楽に関心が薄く、文化的社会的活動への参加は援助なしにはできない。 |
| 3級 | (機能障害の状態):器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、いずれも軽度のもの
(活動制限の状態): 1 調和のとれた適切な食事摂取は自発的に行うことができるがなお援助を必要とする。 2 洗面、入浴、更衣、清掃等の身辺の清潔保持は自発的に行うことができるがなお援助を必要とする。 3 金銭管理や計画的で適切な買物はおおむねできるがなお援助を必要とする。 4 規則的な通院・服薬はおおむねできるがなお援助を必要とする。 5 家族や知人・近隣等と適切な意思伝達や協調的な対人関係づくりはなお十分とはいえず不安定である。 6 身辺の安全保持や危機的状況での対応はおおむね適切であるが、なお援助を必要とする。 7 社会的手続や一般の公共施設の利用はおおむねできるが、なお援助を必要とする。 8 社会情勢や趣味・娯楽に関心はあり、文化的社会的活動にも参加するが、なお十分とはいえず援助を必要とする。 |
これをご覧いただければお分かりいただけるように、自賠責保険における後遺障害等級とは別の制度・基準になります。
とはいえ、対象とする障害自体は同じですから、いずれの申請であっても、障害の内容・程度をしっかりと伝えることは重要になります。
高次脳機能障害で受給できる障害年金の等級

ところで、障害者手帳と障害年金は、申請先や受けられるメリットが全く異なるのをご存知でしょうか。
障害者手帳は地方公共団体に申請し、交付を受けるものであり、税金の控除などのメリットがあります。
他方で、障害年金は、日本年金機構に申請し、交付を受けるものであり、文字どおり年金を受けられるというメリットがあります。
ですから、障害者手帳を取得していなくとも、障害年金を受け取れる場合もあります。
申請先が違うということで、認定基準も若干異なります(日本年金機構ホームページ「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」より)
| 1級 | 高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明 なため、常時の援助が必要なもの |
| 2級 | 認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が 著しい制限を受けるもの |
| 3級 | 1 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、 労働が制限を受けるもの 2 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの |
「日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。」
という注意書きがついています。
高次脳機能障害における等級認定のポイントとは

自賠責保険が脳外傷による高次脳機能障害を等級認定する際のポイントは次の3つです。
- 交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
- 一定程度の意識障害が継続したこと
- 一定の異常な傾向が生じていること
これらを総合考慮して、脳外傷による高次脳機能障害として等級認定できるか否か、認定できるとして程度は「等級として何級なのか」が判断されます。
最も重視されているのは1の画像所見の有無です。
1:交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
前記のとおり、高次脳機能障害の原因になる脳損傷には、局所性脳損傷とびまん性脳損傷があります。
局所性脳損傷は脳挫傷や各種頭蓋内出血(脳内血腫や急性硬膜下血腫など)を指します。
びまん性脳損傷は、外傷後より意識障害などの症状があるにも関わらず、頭部CT上、脳を破壊もしくは圧迫するような出血(局所性脳損傷)が明らかではない点に特徴があります。
- 関連記事:脳挫傷についての詳細な解説はこちら。
- 関連記事:急性硬膜外血腫についての詳細な解説はこちら。
- 関連記事:びまん性軸索損傷についての詳細な解説はこちら。
①撮影方法
CTやMRI画像での経時的観察による脳出血(硬膜下出血、くも膜下出血などの存在とその量の増大)像や脳挫傷痕の確認があれば、
外傷に伴う脳損傷の存在が確認されやすいです。
CTで所見を得られない患者について頭蓋内病変が疑われる場合は、CTよりも多くの情報を得られるMRI画像の撮影を早期にすることが望ましいとされています。
また、受傷後時間が経過した場合には、それでも鋭敏に微細な出血痕等を描出することができるMRIのSWI撮影により確認することができる可能性があります。
もっとも、どのような検査を行うか、また画像診断の方法等については、担当医の方針によって異なる面もありますので、医師の判断に委ねたほうがよいのではないかと思います。
- 関連記事:外傷性硬膜下血腫についての詳細な解説はこちら。
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②画像所見の評価
撮影方法は上記のとおりですが、局所性脳損傷の場合はともかく、
びまん性軸索損傷についてはこれらの撮影結果のみで発症を確認することは困難であり、あくまで補助的な診断にとどまります。
びまん性軸索損傷の病態は、「外傷によりミクロレベルで脳細胞間の情報伝達を行う軸索(神経線維)が断裂して機能障害をきたしている状態」だと考えられていますが、
ミクロレベルの軸索の断裂それ自体を現在の画像撮影技術で撮影することが困難だからです。
そこで、自賠責保険の障害認定実務においては、MRIやCT検査により、脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮がみられ、
およそ3か月程度でその固定が確認されれば、軸索組織の障害が生じたことを合理的に疑うことができ、
出血や脳挫傷の痕跡が乏しい場合であっても、びまん性軸索損傷の発症を肯定しうるものとされています。
上記で「経時的な」と記載したニュアンスはここからきています。
③新しい画像検査について
近時、CT、MRI以外に脳外傷の発生の有無を確認するものとして、
- SPECT検査
- PET検査
- 拡散テンソルMRI
- MRS
等の新しい画像検査が現れています。
ただ現在のところ、CT、MRI以外の画像検査について、外傷性脳損傷の発見の性能についての評価が固まっている状態ではなく、
自賠責保険での審査においては「補助的な検査方法として参考になる場合がある」という程度の扱いにとどまっています。
2:一定程度の意識障害が継続したこと
脳外傷による高次脳機能障害は、一般に、意識障害を伴うような頭部外傷後に起こりやすいとされています。
意識障害は、事故に伴う脳損傷の場合は事故直後から発生することが多く、頭蓋内血腫や脳腫脹など脳がむくんでしまうような病態の場合は、事故から一定期間経過後に発生しやすいと言われています。
そこで自賠責保険の等級認定実務においては、
| 「初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例」 |
を「認定システム」の対象とする特定事案として抽出し、自賠責保険(共済)審査会高次脳障害専門部会で等級認定の検討がなされることになります。
(損害保険料率算出機構ホームページ2018年5月31日付「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの拡充について」(報告書)16頁より)
JCS(Japan Coma Scale ジャパン・コーマ・スケール)
JCSは、日本において用いられている意識障害の評価指標をいいます。
覚醒の程度によって、Ⅰ(1桁)、Ⅱ(2桁)、Ⅲ(3桁)の三段階に大きく分け、さらにそれを3段階に分けます。
点数は「Ⅱ-20」、「Ⅲ-100」などと表記します。健常者(意識清明)は「0」と表記されます。
点数が高いほど状態が悪いということになります。
Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態
| 0 | 意識清明 |
| 1(Ⅰ-1) | 意識清明とは言えない |
| 2(Ⅰ-2) | 当見識障害がある |
| 3(Ⅰ-3) | 自分の名前、生年月日が言えない |
Ⅱ:刺激すると覚醒
| 10(Ⅱ-10) | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
| 20(Ⅱ-20) | 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する |
| 30(Ⅱ-30) | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する |
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態
| 100(Ⅲ-100) | 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
| 200(Ⅲ-200) | 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる |
| 300(Ⅲ-300) | 痛み刺激に全く反応しない |
GCS(Glasgow Coma Scale グラスゴー・コーマ・スケール)
GCSは、主に海外において用いられている意識障害の評価指標のことです。
開眼機能(E)、言語機能(V)、運動機能(M)の3要素に分けて意識状態を指標化し、合計点数により評価します。
合計点は「7(E1 V2 M4)」などと表記します。健常者だと15点(満点)、最低点は3点です。
点数が高いほど状態が悪いということになります。
開眼(E:eye opening)
| 自発的に開眼 | 4 |
| 呼びかけにより開眼 | 3 |
| 痛み刺激により開眼 | 2 |
| なし | 1 |
言語(V:verbal response)
| 見当識あり | 5 |
| 混乱した会話 | 4 |
| 不適切な単語を使う | 3 |
| 無意味な発声 | 2 |
| 発語が無い | 1 |
運動機能(M:motor response)
| 指示に従う | 6 |
| 痛み刺激の部位に手足を持ってくる | 5 |
| 痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲) | 4 |
| 痛みに上肢を異常屈曲させる(徐皮質姿勢) | 3 |
| 痛みに上肢を異常伸展させる(徐脳姿勢) | 2 |
| 全く動かない | 1 |
3:一定の異常な傾向が生じていること
脳外傷による高次脳機能障害の残存を疑わせる異常な傾向(多彩な認知障害、行動障害および人格変化や身体障害(起立障害・歩行障害、痙性片麻痺))が、
頭部外傷を契機として発生していることが必要になります。
人格変化と身体障害を除く異常な傾向については神経心理学的検査で一定の評価が可能で(逆に言えば、人格変化は周囲にいる人しか気づけない、気づきにくい症状だと言えます。)、
後遺障害申請時の必須資料である「神経系統の障害に関する医学的意見」の作成時に必要になります。(下記「等級認定申請時に必要な資料等」をご覧ください。)
代表的な神経心理学的検査
| スクリーニング
(高次脳機能障害がありそうかどうかの選別) |
ミニメンタルステート検査(MMSE) |
| 改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) | |
| 知能 | WAIS-Ⅲ |
| コース立体組み合わせテスト | |
| 注意 | 標準注意検査法(CAT) |
| Trail Making Test(TMT) | |
| BIT 行動性無視検査(BIT) | |
| 注意機能スクリーニング検査(D-CAT) | |
| 遂行機能 | 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) |
| ウィスコンシンカード分類検査(WCST) | |
| Frontal Assessment Battery(FAB) | |
| 記憶 | ウィクスラー記憶検査(WMS-R) |
| リバーミード行動記憶検査(RBMT) | |
| 三宅式記銘力検査 |
高次脳機能障害における等級認定申請時に必要な資料とは

等級認定時に総合考慮されるポイントは上記のとおり3つですが、
これらについて判断するため、後遺障害診断書とは別に、次のような資料が要求されます。
被害者側で弁護士に委任して等級申請を行う場合、多くは事前認定ではなく被害者請求の手法で行うのではないかと思われますが、
被害者請求をする弁護士の側で以下の資料について不足なく集め、内容についてしっかり確認し、必要であれば医師面談や医療照会等で不明部分等の確認をとることが重要です。
なお、2~5について、例えば、「2 頭部外傷後の意識障害についての所見」であれば、実際に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という専用の書式があります。
| 1:CT、MRIなどの脳画像検査記録 | 病院で作成 |
| 2:頭部外傷後の意識障害についての所見 | 医師が作成 |
| 3:神経系統の障害に関する医学的意見 | 医師が作成 |
| 4:日常生活状況報告書 | 被害者の家族や介護者が作成 |
| 5:学校生活の状況報告書(被害者が学生の場合) | 受傷前後の担任教師それぞれが作成 |
1:CT、MRIなどの脳画像検査記録
治療期間中に転院がある場合、すべての病院から取り付けます。
2:頭部外傷後の意識障害についての所見
意識障害について医師が作成する文書で、事故後の意識障害の有無・推移、外傷後健忘の有無・長さ、その他意識障害の所見につき特記すべき事項が詳細に記載されます。
転院をしている場合、初診や初期治療を担当した医療機関であればすべて作成していただく必要があります。
当時の担当医が異動等でいなくなることも懸念されますので、場合によっては症状固定前に依頼作成することも考慮します。
3:神経系統の障害に関する医学的意見
認知障害や人格の変化、問題行動などについて医師が作成する文書です。
- 脳CTや脳MRIなどの画像
- 脳波
- 神経心理学検査
- 運動機能
- 身の回り動作能力
- てんかん発作の有無
- 認知・情緒・行動障害
- 社会生活・日常生活への影響
- 全般的活動および適応状況
を具体的に記載していただきます。
4:日常生活状況報告書
被害者の日常生活の状況を把握することができる家族や介護者等が作成する文書です。
詳細は次の通りですが、事故前後を通じて被害者の様子を知っている方に作っていただくのがベターです。
同居のご家族が一番よい(信用性も高い)のではないかと思いますが、
同居でなくても連絡を取り合っていた親族の方や、それもいなければ付き合いのあった職場の同僚や友人など、協力者をなるべく探してみましょう。
- 受傷前と受傷後の日常生活の能力・程度
- 問題行動の頻度
- 家庭・地域社会・職場・学校などにおける日常の活動状況や適応状況
- これら症状が社会生活・日常生活に与える影響
- 事故前後の生活状況の変化
- 現在支障が生じていること
- 就労・就学状況
- 身の回り動作能力
- 声掛け、見守り、介助が必要な理由
- それらの内容、頻度
- を具体的に記載していただきます。
5:学校生活の状況報告書(被害者が学生の場合)
被害者が学生である場合、日常生活報告書を補充する資料として、受傷前の担任教師と受傷後の担任教師にそれぞれ作成してもらいます。
高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けるまでの流れ

交通事故被害で高次脳機能障害を負ってしまった場合に、後遺障害等級の認定を受けるまでの流れは以下のようなイメージです。
- 治療~症状固定
- 後遺障害診断書等の作成
- 自賠責保険への後遺障害等級認定申請
- 認定or異議申立て
1 治療~症状固定
高次脳機能障害になるような脳損傷を負う場合、入院が長期化することもあります。
退院した後も、しばらくは通院が必要になります。
一般的な傷病の場合には、症状固定(これ以上治療を続けても良くならないと医師が判断する時期)は、事故から概ね6か月が一つの目安とされます。
他方で、高次脳機能障害は社会活動に復帰して以後の状態などを慎重にみながら治療を続けていく必要があるため、症状固定が事故から1年~1年半くらいになることも多いです。
後述するように、高次脳機能障害の後遺障害等級認定は、日常生活における支障などが大きく影響するため、
被害者ご家族や周りの方は、日常生活で感じた被害者の方の性格の変化などを日記に書き留めておくと有用です。
2 後遺障害診断書等の作成
自賠責保険における後遺障害等級認定の審査は書面による審査であり、後遺障害診断書をはじめとする書類の内容は極めて重要です。
診断書の作成は主治医が行うものですが、主治医は被害者の日常生活状況のすべてを把握しているわけではありません。
他方で高次脳機能障害の認定に重要になるのは日常生活の状況です。
だからこそ、先ほどもみたように、書き留めておいた日記や、前もって作成しておいた日常生活状況報告書などを主治医に見せ、
日常生活における支障を正確に把握してもらってから後遺障害診断書の作成をしてもらうと良いでしょう。
また、このタイミングで弁護士に依頼することで、後遺障害等級認定のポイントを熟知したアドバイスを受けながら、
後遺障害診断書等の作成を行うことができます。
場合によっては一度作成いただいた後遺障害診断書の修正を依頼する等して、より適切な等級に該当する可能性を高めて申請を行うこともできます。
3 自賠責保険へ後遺障害等級認定申請
適切な記載をいただいた後遺障害診断書等が揃ったら、いよいよ自賠責保険へ後遺障害等級の認定申請を行います。
上でみたように、高次脳機能障害は専門部会での審査となるので、結果が出るまでに半年近くを要することもあります。
4 認定or異議申立て
無事適切な後遺障害等級が認定されれば示談交渉へ、残念ながら認定がされなかった場合は、
異議申立て等により後遺障害等級の変更を目指すことになります。
異議申立てにあたっては、初回申請よりもさらに認定基準の熟知が必要になりますから、
専門弁護士への相談をお勧めします。
高次脳機能障害の等級認定により支払われる金額(自賠責保険金額)
自賠責保険金額は、認定された等級によって下記のとおり区分されています。
| 別表第一第1級1号 | 自賠責保険金額4000万円 |
| 別表第一第2級1号 | 自賠責保険金額3000万円 |
| 別表第二第3級3号 | 自賠責保険金額2219万円 |
| 別表第二第5級2号 | 自賠責保険金額1574万円 |
| 別表第二第7級4号 | 自賠責保険金額1051万円 |
| 別表第二第9級10号 | 自賠責保険金額 616万円 |
高次脳機能障害にて等級認定を受けた場合の損害賠償金額は億単位になることもあります

上記表にて説明した自賠責保険金額というのは、あくまで最低補償の金額であり、
交通事故にて高次脳機能障害の後遺障害を残してしまった場合の損害賠償金額としてはおよそ十分ではありません。
などを併せると、重篤な高次脳機能障害の場合には、億単位の損害賠償金になることがあります。
弁護士法人小杉法律事務所では、高次脳機能障害に関する多くの案件を解決してきており、億単位の解決事例や、裁判例・新聞・専門誌に掲載された解決事例が数多くございます。
以下はその一部です。
- 関連記事:自賠責保険が非該当の判断をした後に、弁護士小杉が医師面談を実施して医学的意見書を取り付け、高次脳機能障害にて後遺障害等級1級を獲得した事例(損害賠償金額0円から1億5400万円に増額)
- 関連記事:高次脳機能障害5級という裁判官の判断を医学的意見書をもって覆し、後遺障害等級2級にて損害賠償金額約2億5000万円で解決した事例
- 関連記事:自賠責保険が高次脳機能障害3級と判断した事案にて、介護状況を丁寧に立証して、裁判で後遺障害等級2級に上げた事例(約2200万円の示談提示から裁判をすることで約8300万円まで増額)
- 関連記事:自賠責保険後遺障害等級併合4級(高次脳機能障害は5級)と判断した事案において、医学的意見書を取り付けて、裁判で後遺障害等級1級に変更させた事例
- 関連記事:事前認定12級13号の高次脳機能障害の事案において、弁護士介入後の異議申立てにより、後遺障害等級併合5級まで上げた事例
高次脳機能障害の損害賠償金額を高める上で注目すべき損害賠償費目について

加害者側に損害賠償請求すべき損害費目は多岐にわたりますが、
こちらでは高次脳機能障害事案で特に問題になることが多いものについて記載します。
⑴将来介護の費用
①概要
高次脳機能障害について3級以上に認定された事例では、多くの裁判例が将来介護費の必要性を認めており、
5級以下の事例では個別の事情により判断がわかれています。
職業付添人による介護の必要性については、現に施設を利用して介護を行っている事実や、
ヘルパーまたは職業付添人に依頼している事実が認められる場合には、以降も同様の状況での介護の必要性を認知している裁判例が多いです。
現在の介護状態が近親者による介護である場合には、今後も近親者による介護がされることを前提に介護費が認定されることが多いですが、
被害者の要介護状態、介護者の介護能力、介護者の就労状況・就労の意思等から、将来的に職業付添人による介護が必要と判断される場合には、これを考慮した将来介護費が認定されています。
なお、2024年版の民事交通事故訴訟損害賠償算定基準(俗に「赤本」)上巻(基準編)28頁によれば、次のように記載されていて、金額算出時の目安になります。
「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円。但し、具体的看護の状況により増減することがある」
②介護保険給付との関係
介護保険法において、申請者の申請を経て認定を受けた「要介護者」および「要支援者」に対し、介護保険の支給が行われます。
65歳以上の者の場合、要介護あるいは要支援の原因は限定されていないので、65歳以上の者が交通事故に遭い高次脳機能障害を残した場合には介護保険給付がなされることになります。
i 将来の介護保険給付との損益相殺
口頭弁論終結時までに金額が確定し、支払いがなされている介護保険給付は損益相殺の対象となり、既払扱いで損害額から控除されますが、
口頭弁論終結時以降の金額が確定していない将来の介護保険給付は損益相殺の対象にはならないというのが一般的な考え方です。
「口頭弁論終結時」というのはあくまで紛争が裁判に発展した場合の話になりますので、示談交渉等で解決する場合は双方協議で基準日を決めていくことになります。
ii 将来介護費の日額算定
基準となるのは自己負担額なのか介護保険適用部分を含むのかという議論ですが、
将来も現行の介護制度が維持されるとは限らないとして、介護保険適用部分も含めて日額を算出している裁判例もあります。
| 東京地方裁判所平成16年6月29日判決(交通事故民事裁判例集37巻3号838頁)では、
頭部外傷に伴う歩行障害、外傷性てんかん等で併合1級の認定を受けた大学院生(症状固定時27歳)につき、 今後の介護保険制度の動向や遠い将来の介護費を的確に予測することは困難等として、実際の介護サービス単価表によらず、 母親が介護可能な5年は日額8000円、その後家族介護と職業介護を併用の6年は日額1万5000円、その後職業介護のみとなる40年は日額2万円の合計1億0765円余りを将来後の費用として認定しています。 |
⑵将来治療費、家屋の改造、福祉車両、その他将来発生が予想される費用
高次脳機能障害に限った話ではありませんが、症状固定日以降の治療費(将来治療費)については支払われないのが原則です。
ただ、治療によって症状が悪化することを防止する必要がある場合には、例外的に相当な支払いが認められることがあります。
家屋の改造費は、被害者に生じている障害の内容及び従来の家屋の構造から、
家屋の改造の必要性が認められる場合には、損害として認められます。
ただ、家屋の改造が、他の家族にとっても利便性が向上する性質のものであるときは、割合的な認定がなされます。
福祉車両の費用、その他将来発生することが予想される費用については、
被害者の介護状況から必要性が認められる場合には、平均余命まで相当な費用が損害として認定されます。
高次脳機能障害の慰謝料(精神的損害)について

慰謝料は基本的には被害者が受けた精神的苦痛に対する損害の賠償ですが(民法第710条)、
被害者が死亡した事案では被害者の父母、配偶者及び子について固有の慰謝料請求権が認められています(民法第711条)。
そのうえで、被害者に後遺障害等級第1級や2級に該当するような極めて重大な高次脳機能障害が残ってしまうようなケース(死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたケース)では、
「死亡の場合でなくとも、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、近親者にも慰謝料請求権が認められる」と判示した最高裁判所昭和33年8月5日判決(民集12巻12号1901頁及び判例時報157号12頁)
をもとに、近親者固有の慰謝料が認められています。
⑴高次脳機能障害被害者本人の慰謝料金額
被害者本人に発生する慰謝料としては、事故日から症状固定日までの治療期間に対応する慰謝料(傷害慰謝料)と、残存した後遺障害の等級に応じた後遺症慰謝料の2つがあります。
いずれについても赤本記載の基準額を原則とし、事案に応じて調整がなされることがあるという印象です。
①傷害慰謝料の金額(治療期間に対応する入通院慰謝料金額)
赤本の基準では、入院期間、通院期間に応じて目安となる基準額が決まります。
たとえば入院3か月+通院9か月の事案なら226万円、入院のみ12か月の事案なら321万円となっています(2024年版赤本上巻212頁の別表Ⅰ)。
- 重傷の場合
- 生死が危ぶまれる状態が継続したとき
- 麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき
- 手術を繰返したとき
などは入通院期間の長短にかかわらず別途増額がされますので、もう少し高い金額になる場合があります。
②後遺症慰謝料の金額
弁護士基準(裁判基準)における後遺症慰謝料の金額は以下のとおりであり、基本的には認定された後遺障害等級に応じて金額が決まります。
| 第1級 | 2800万円 |
| 第2級 | 2370万円 |
| 第3級 | 1990万円 |
| 第4級 | 1670万円 |
| 第5級 | 1400万円 |
| 第6級 | 1180万円 |
| 第7級 | 1000万円 |
| 第8級 | 830万円 |
| 第9級 | 690万円 |
| 第10級 | 550万円 |
| 第11級 | 420万円 |
| 第12級 | 290万円 |
| 第13級 | 180万円 |
| 第14級 | 110万円 |
高次脳機能障害において該当可能性があるのは第1,2,3,5,7,9,12級です。
例えば3級と5級の間では、590万円もの差があります。
このほかにも、後遺症逸失利益の金額なども等級に応じて大きく変わりますから、適切な後遺障害等級の認定を得ることの重要性がご理解いただけると思います。
⑵高次脳機能障害の被害者の家族固有の慰謝料金額
「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」(2024年版赤本上巻234頁)とされており、
この場合では被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です。
高次脳機能障害について認定した裁判例では、後遺障害等級2級以上の事案では近親者固有の慰謝料が認められることが一般的で、
3級の事案でも認められるものが多いです。他方、4級以下の事案では個別の事情により判断が分かれています。
固有の慰謝料を請求できる「近親者」の範囲ですが、基本的には民法第711条規定の父母、配偶者及び子になっていますが、
兄弟姉妹や事実上の母親(事故時から実父と内縁関係にあった女性でその後正式に婚姻した)で認められたケースもあります。
どのような近親者にそれぞれどのくらいの固有慰謝料が認められるかについては、被害者との関係、後遺障害の程度、要介護状態等によって個別に判断されており、
被害者の後遺障害の程度が重く、被害者と密接な関係を有し、介護の負担が大きい近親者ほど固有慰謝料の金額が高く認められる傾向があります。
高次脳機能障害等級認定に関するその他の注意点

⑴画像所見の確認を優先する
高次脳機能障害自体は、必ずしも交通事故等の外傷で生じるものではなく、脳血管障害や脳腫瘍、脳感染症などでも発症しますし、
うつ病や統合失調症などの精神疾患でも高次脳機能障害の症状がみられます。
そのような観点から、自賠責保険(あるいは加害者側、あるいは裁判所。)に対し、
事故後に発生した高次脳機能障害の症状が事故によって発生したと認めさせるためには、「頭部外傷による」脳損傷を示す画像所見が重要になります。
そのような画像所見が無い場合、高次脳機能障害の(あるいはそのような)症状が事故後に発生したとしても、事故と関係がないか、あるいは非器質性精神障害としての扱いにならざるを得ません。
画像上脳挫傷の所見があるか、またびまん性脳損傷という診断を受けているかは重要になります。
⑵高次脳機能障害被害者が高齢者の場合
高次脳機能障害の主な原因は頭部外傷だと言われますが、それだけではないのは前述のとおりです。
高齢者の場合は、高次脳機能障害の原因が一つではない可能性もあり、評価には注意が必要だと言われます。
高次脳機能障害の原因になりうる既往症があるところに頭部外傷を受傷することや、その逆もあり得ます。
加害者や裁判所の発想として、本当に事故による高次脳機能障害なのか(受傷否認)、そうだとしてすべてが事故のせいなのか(素因減額)という論点に繋がる部分でして、警戒が必要です。
特に、衝撃が軽度だったとみられかねない事故態様のケース、受傷後しばらくして症状が発現したとか、治療中に悪化した場合などは要注意です。
特に認知症の可能性があるような高齢者の方の場合、自賠責保険はすぐに既存障害があったということで差し引いてくることがあります。
⑶高次脳機能障害被害者が子ども(小児)の場合
小児の場合、能力や発達は人それぞれで、高次脳機能の検査を行うことも困難になります。
日常および学校生活などを観察することも小児の高次脳機能の評価に重要ですが、年少児ほど評価に時間を要するケースがあります。
例えば、中学生になって初めて、高校生になって初めて、とか、成人に近づく周囲の児童と比較することでやっと被害児童の症状が顕在化するケースもあります。
乳幼児の場合はそもそも正常だとしても高次脳機能が発達していないので、神経心理学的検査自体も施行できず、
疑う症状があったとしても、年少になるほど、それが頭部外傷によるものか、その子自身の発達の問題なのか等判別が困難になります。
この問題は、治療期間はいつまでなのか(症状固定時期がいつなのか)という問題と関連します。
成人の外傷性高次脳機能障害の場合、受傷後12か月程度は改善を示す可能性があると言われますので、少なくともそのくらいの治療期間が参考になるものと思われますが、
小児の場合の「あとでわかるかもしれない」懸念を考慮すると、どのくらいの年数治療をうけなければいけないのか、判断が難しいところです。
早期に示談等で解決するにしても、免責証書や示談書に「後日、本件事故に関する後遺障害が判明した場合には別途協議をする。」等の留保の文言を加えておくべきでしょう。
高次脳機能障害に関する等級や賠償金額については専門の弁護士に相談を

高次脳機能障害で適切な後遺障害等級の認定を獲得するうえで最も重要になるのが画像所見であることは疑いの余地がありません。
そのうえで、実際に残ってしまった高次脳機能障害の程度をどれだけ適切に主張・立証できるかどうかが、認定される後遺障害等級の別れ目になります。
この主張・立証活動は、専門にやっている弁護士でなければなかなか難しいものです。
ご自身や大切な方が交通事故被害に遭い、高次脳機能障害を負ってしまった方は、ぜひ一度弁護士法人小杉法律事務所にお問い合わせください。
交通事故に強い弁護士法人小杉法律事務所の交通事故後遺障害被害を専門としている弁護士がサポートさせていただきます。
交通事故後遺症被害専門弁護士へのお問い合わせはこちらのページから。
高次脳機能障害の等級に関するよくある質問

高次脳機能障害で請求できる賠償金は何がありますか?
まず、交通事故被害に遭い、お怪我をされた方が請求できる基本的な費目、
- 治療費
- 通院交通費
- 入院した場合の雑費
- 休業した場合の休業損害
- 入通院慰謝料
は当然に請求が可能です。
そのうえで、
- 後遺症逸失利益
- 後遺症慰謝料
が、認定される後遺障害等級に応じて請求可能になります。
さらに重篤な症状が遺ってしまったケースでは、
- 入通院付添費
- 自宅付添費
- 将来介護費
- 将来治療費
- 家屋・自動車改造費
- 近親者固有の慰謝料
などが請求可能なこともあります。
請求可能な費目をもれなく、適切な金額で請求するためには、弁護士のサポートが不可欠です。
高次脳機能障害と認知症の違いは何ですか?
高次脳機能障害と認知症の最大の違いは原因です。
高次脳機能障害は脳外傷をはじめとする突発的な脳損傷に基づき生じる症状ですが、認知症は徐々に進行するのが特徴です。
ただし、症状については似通っているところもあり、高齢者の方の場合には、交通事故による高次脳機能障害がどの範囲なのかを決定するのが難しいケースもあります。
弁護士