後遺障害等級の解説

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脳挫傷について(弁護士法人小杉法律事務所監修)

交通事故態様

こちらの記事では、頭部外傷による脳挫傷について整理しています。

脳挫傷とは

(標準脳神経外科学(医学書院)、267頁、276頁)

脳損傷のうち、脳の損傷が限局的で脳全体への波及が少ないものを脳挫傷(局所性脳損傷)と言います。

他方、脳の広範位にわたる損傷を起こした状態がびまん性軸索損傷と呼ばれます。

びまん性軸索損傷の症状についてはこちらの記事で整理しています。

びまん性軸索損傷の後遺症についてはこちらの記事で整理しています。

脳挫傷の原因

(標準脳神経外科学(医学書院)、266~267頁、275頁)

脳挫傷は穿通外傷のように外力が極めて限局的に加わってできる場合もありますが、多くの場合は頭部に加速あるいは減速の衝撃が生じて発生します。

穿通外傷

銃弾・刃物・ガラス片のほか、傘・針・箸などの日用生活用品によっても生じます。

例えば、箸を加えたまま転倒して箸が頭蓋内へ刺入したり、箸をつかんだ手の上に顔面から転倒した際に箸が瞼を貫通し眼窩から前頭葉まで侵入する等の外傷態様です。

加速による衝撃

脳は頭蓋骨の中で髄液のプールに浮かんだ状態で存在していて、髄液は外部環境の変化や衝撃などから脳を保護する役割を果たしています。

例えば顔面にパンチを受けたりバットでたたかれたときには、加速度的衝撃が加わります。

衝撃後にまずは頭蓋骨全体が後方に移動するのですが、脳は髄液に浮遊して慣性があるために少し遅れる結果、頭蓋骨全体が後方に移動するのとは(相対的に)逆方向へ移動することで、前頭葉先端部が前頭骨内面に衝突し脳損傷が生じます。

また、脳組織は柔らかく、全体が前方に移動する際に脳収縮が起こり、この収縮によっても脳組織内部のズレが生じて脳が損傷されます。

前頭葉の衝突周辺部では陽圧となり、反対側の後頭葉では陰圧になりますが、この圧の変化でも脳が損傷されます。

前頭葉の衝撃後には脳全体が元の位置に戻るために後方へ移動しますが、このとき同様のメカニズムが後方でも働き、後頭葉先端部の衝突による損傷と脳収縮によるズレ損傷を生じます。

減速による衝撃

壁への衝突や転倒・転落時に発生する衝撃では、頭蓋骨が急停止しますが、髄液内を浮遊する脳は慣性によりなお前方に動いていて、頭蓋骨へ衝突し(このとき衝突面では陽圧、対側面では陰圧になり)、脳損傷が生じます。

外力が大きければ、前頭葉の衝突後に脳は元の位置に戻る後方への動きを生じ、加速による衝撃とメカニズムによって脳にはさらなる損傷が加わります。

直撃損傷と対側損傷

頭部を強打したときに生じる脳挫傷には、直撃損傷と対側損傷があります。

外力が作用点の直下に発生する脳損傷を直撃損傷、慣性力によって外力作用点の対極に発生するものを対側損傷といいます。

対側損傷がみられる場合、対側の方が脳の損傷が大きいことが多いと言われます。

前頭部の受傷では、ほとんどが前頭葉への直撃損傷であり、対象損傷は少ないです。

後頭部や頭頂部の受傷では、直撃損傷は少なく、前頭葉や側頭葉先端部に対側損傷がみられます。

脳挫傷による症状

脳のどの部位が損傷したかにより様々な症状が発生しえます。

頭痛はもちろん、高次脳機能障害、身体性機能障害、感覚器等の機能障害、外傷性てんかん、失調、意識障害などの症状があります。

脳挫傷により発生する可能性のある症状はこちらの記事で整理しております。

脳挫傷と意識不明についてはこちらの記事で整理しております。

高次脳機能障害の等級認定についてはこちらの記事でご確認ください。

意識障害の一般論については遷延性意識障害について解説したこちらの頁で説明をしています。

外傷性てんかんについてはこちらの記事で整理しています。

治療について

(標準脳神経外科学(医学書院)、267頁、277~278頁)

頭部外傷による脳損傷では、外傷に直接起因する一次性損傷と、それに引き続いて生じる二次的損傷が存在します。

例えば、頭部外傷で脳挫傷や頭蓋内血腫等の脳損傷を生じた後(一次性損傷)、血腫・浮腫などにより脳が圧迫されて(頭蓋内圧亢進)脳がさらに損傷される(二次的損傷)といった具合です。

脳挫傷(局所性脳損傷)の治療では、外傷によって直接的に損傷をうけた脳実質の修復は困難ですが、二次性損傷に病態に対して適切に対応することが極めて重要だとされます。

脳内血腫は受傷後24時間前後までに増大することがあるため、CTによる画像診断を綿密に追跡します。当初は保存的に脳浮腫軽減のための治療が行われますが、血腫や脳浮腫の増大が明白な場合、外科的手術を考慮します。

認定されうる後遺障害等級

高次脳機能障害、身体性機能障害、感覚器等の機能障害、外傷性てんかん、失調、頭痛等で後遺障害等級の認定区分があります。

脳挫傷後に認定されうる後遺症の詳細についてはこちらの記事でご確認ください。

弁護士に相談を

交通事故や労災事故等による頭部外傷で脳挫傷を受傷してしまうことがあります。治療費や休業損害、慰謝料等の損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、受傷の態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。