脳損傷
外傷性てんかん(弁護士法人小杉法律事務所監修)
こちらの記事では、外傷性てんかんについて整理しています。
てんかんとは
てんかんとは、「種々の成因によりもたらされる慢性脳疾患で、大脳神経細胞の過剰な発射に由来する反復性てんかん発作を主徴とし、種々の臨床症状ならびに検査所見をきたす」ものと定義されています(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、338頁)。
「突発性/症候性」と「部分発作/全般発作」のそれぞれの組み合わせで、大きく4つに分類できます。
突発性部分てんかん、突発性全般てんかん、症候性部分てんかん、症候性全般てんかんの4つです。
その他、意識障害を伴うのか否か、けいれん発作の有無等でも違い(てんかん=けいれんではない場合がある。)があります。
→てんかんの発作で死亡にいたるケースについてはこちらの記事で整理しております。
突発性と症候性
突発性てんかんとは病因が不明の場合のてんかんです。
症候性てんかんとは、脳の先天奇形、脳腫瘍、脳血管障害などの器質性病変が原因です。
交通事故等の頭部外傷後のてんかんであれば、症候性てんかんの一種ということになります。
部分発作と全般発作
臨床的な発作所見や脳波に基づいて、症状である発作を分類したものです。
部分発作とは、神経細胞(ニューロン)の過剰興奮が大脳の局所(焦点)で起こる場合で、異常脳波は焦点付近に出現します。
全般発作とは、神経細胞(ニューロン)の過剰興奮が両側大脳半球の広範囲で同時に始まる場合で、異常脳波は頭蓋表面の広い範囲で出現します。
部分発作の症状
意識障害がないケースでは、身体の一部のけいれんなどが生じます。
意識障害のあるケースでは、一点凝視・動作停止で始まり、発作中に自動症を伴います。
自動症とは、徘徊する、口をもぐもぐさせる、舌なめずりおする、ボタンや衣類をいじる等の症状です。
全般発作の症状
全般発作で発生するのは強直間代発作です。
意識障害とともに、全身の筋肉を硬直させた状態(強直相)から、全身の筋肉の収縮・弛緩を繰り返す状態(間代相)へ移行します。
泡沫状の唾液や、転倒による外傷、舌咬傷、失禁を伴うことが多いです。
発作は通常5分以内に終わり、その後、筋肉は弛緩し睡眠またはもうろう状態になることが多い(全経過で30分程度)です。
外傷性てんかん
(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、281頁)
てんかんについては、受傷後24時間以内のてんかん発作を直後てんかん、受傷後1週間以内に生じるものを早期てんかん、その後に初発するものを晩期てんかんと分類します。
このうち晩期てんかんが本来の意味の外傷性てんかんとされ、通常受傷後6か月までに約半数が、2年までに80%が発症します。
外傷性てんかんの発生には脳の局所損傷が関与しており、特に次の5つのケースでは、外傷性てんかんの発生リスクが高いと言われています。
1 | 開放性脳損傷および感染を合併した場合 |
2 | 脳挫傷および6時間以上の意識障害、24時間以上の外傷性健忘を合併し、GCS10点未満のもの |
3 | 急性頭蓋内血腫のあるもの |
4 | 陥没骨折、硬膜損傷のあるもの |
5 | 早期てんかん発症が認められたもの |
→GCSとは何かを含め、意識障害一般については遷延性意識障害の記事でまとめています。
→急性頭蓋内血腫のうち、急性硬膜下血腫はこちらの記事をご覧ください。
→急性頭蓋内血腫のうち、急性硬膜外血腫はこちらの記事をご覧ください。
→陥没骨折その他の頭蓋骨骨折についてはこちらの記事で整理しています。
外傷性てんかんの後遺障害認定について
必要な検査等
自賠責保険が認定対象とする「外傷性てんかん」とは、「脳の損傷によりてんかん発作を起こすもの」と言われます。
外傷性てんかんは、薬物の継続服用によって、発作を完全に抑制することが治療の目標になりますので、専門の医師の治療によっても医療効果が期待できないと認められた場合、および治療により症状が安定した場合を症状固定時期とします。
てんかんの診断には、脳波所見が重要な意味を持ちます。てんかんを示す異常脳波にはスパイク波(棘波)・鋭波などがあります。
てんかんの診断については、発作の型の特定や脳波検査が重要ですが、MRI、CT等の画像診断は、発作の原因等を判断するのに有用です。
認定区分
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理しました。
外傷性てんかんの認定区分は次のとおりです。
1ヶ月に2回以上の発作がある場合には通常、高度の高次脳機能障害を伴うので、脳の高次脳機能障害の別表第二第3級以上の認定基準により後遺障害等級を認定するとされています。
→高次脳機能障害の等級認定基準についてはこちらの記事で整理しています。
別表第二第5級2号 | 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が『意識障害の有無を問わず転倒する発作』または『意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作』(以下『転倒する発作等』といいます。)であるもの |
別表第二第7級4号 | 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの、または転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの |
別表第二第9級10号 | 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの、または服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
別表第二第12級13号 | 発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの |
ここでいう「転倒する発作」の例としては、次のようなものがあります。
① 意識消失が起こり、その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き、次第に短時間の収縮と弛緩を繰り返す間代性のけいれんに移行する強直間代発作
② 脱力発作のうち、意識は通常あるものの、筋緊張が消失して倒れてしまうもの
また、「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」の例としては、「意識混濁を呈するとともに、うろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し、発作中は周囲の状況に正しく反応できないもの」があります。
弁護士に相談を
交通事故等の頭部外傷で外傷性てんかん症状が発生した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、骨折の受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。