脳損傷 神経症状
びまん性軸索損傷の後遺症(弁護士法人小杉法律事務所監)
こちらの記事では、びまん性軸索損傷を受傷した際の後遺症についてまとめています。
→びまん性軸索損傷を含む脳損傷(中枢神経系損傷)については脳と神経の記事でも整理しております。
びまん性軸索損傷とは
びまん性軸索損傷は、外傷後より意識障害などの症状があるにも関わらず、頭部CT上、脳を破壊もしくは圧迫するような出血(局所性脳損傷)が明らかではない点に特徴があります。
病態としては、外傷によりミクロレベルで、脳細胞間の情報伝達を行う軸索(神経線維)が断裂して、機能障害をきたしている状態だと考えられています。
高次脳機能障害をきたしやすいと言われます。
交通事故により生じることが多いです。
びまん性軸索損傷後は頭部の急激な回転加速度により脳がゆがむことで生じ、原因としては交通事故が圧倒的に多いと言われています。
びまん性軸索損傷の症状
(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、128頁)
急性期・亜急性期には意識障害が主で、せん妄を呈することが多いです。
せん妄は、軽度ないし中程度の意識障害に伴い突然発症し、主に、集中・持続障害などの注意障害、見当識障害、錯覚、幻覚、思考力の欠如、記憶力減退などの認知機能障害、感情障害および睡眠覚醒リズムの障害(昼夜逆転、夜間は不眠で日中は傾眠)などの症状が発生します。
重症になると不穏・興奮状態となり、認識機能が障害されて思考や判断が的確に行われなくなります。
意識回復の過程でこれらの精神症状が発生し、可逆性の場合は通過症候群と呼ばれることがあります。
通常、意識回復しても回復過程の間の記憶はありません。
慢性期には認知障害、情動障害および人格障害が持続し、種々の程度の認知症状態になります。
→びまん性軸索損傷の急性期・亜急性期に生じる「意識障害」全般については、JCSやGCSといった評価方法含め、遷延性意識障害の記事内で解説しております。
検査について
びまん性軸索損傷の注意点
頭部外傷後にびまん性軸索損傷を受傷し、上記のような症状が残存した場合、高次脳機能障害の精神障害として後遺障害等級の認定を視野に入れることになります。
自賠責保険が高次脳機能障害の等級認定をする際に重視するのは次の3要素ですが、特に1の要素が重要です。
1:交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
2:一定程度の意識障害が継続したこと
3:一定の異常な傾向が生じていること
先ほども少し触れましたが、そもそもびまん性軸索損傷は「外傷後より意識障害などの症状があるにも関わらず、頭部CT上、脳を破壊もしくは圧迫するような出血(局所性脳損傷)が明らかではない点」に特徴があり、等級認定時に特に重要になる画像所見を得るのが困難なケースがあります。
画像撮影について
CTやMRI画像での経時的観察による脳出血(硬膜下出血、くも膜下出血などの存在とその量の増大)像や脳挫傷痕の確認があれば、外傷に伴う脳損傷の存在が確認されやすいです。
CTで所見を得られない患者について頭蓋内病変が疑われる場合は、受傷後早期にMRI(T2、T2*(T2スター)、DWI、FLAIRなど)を撮影することが望ましいです。
受傷後時間が経過した場合、それでも鋭敏に微細な出血痕等を描出することができるMRIのSWI撮影を検討すべきです。
撮影方法は上記のとおりですが、びまん性軸索損傷についてはこれらの撮影結果のみで発症を確認することは困難であり、あくまで補助的な診断にとどまります。
びまん性軸索損傷の病態は、外傷によりミクロレベルで脳細胞間の情報伝達を行う軸索(神経線維)が断裂して、機能障害をきたしている状態だと考えられていますが、ミクロレベルの軸索の断裂それ自体を現在の画像撮影技術で撮影することが困難だからです。
そこで、自賠責保険の障害認定実務においては、MRIやCT検査により、脳室拡大や脳溝拡大などの脳委縮がみられ、およそ3か月程度でその固定が確認されれば、軸索組織の障害が生じたことを合理的に疑うことができ、出血や脳挫傷の痕跡が乏しい場合であっても、びまん性軸索損傷の発症を肯定できるものとされています。
その他の検査方法
意識障害について
意識障害の評価を行う際、日本ではJCS(Japan Coma Scale)とGCS(Glasgow Coma Scale)の2種の評価方法が主流です。
→意識障害の一般論については遷延性意識障害についての記事で整理しております。
JCS(Japan Coma Scale)
覚醒の程度によって、Ⅰ(1桁)、Ⅱ(2桁)、Ⅲ(3桁)の三段階に大きく分け、さらにそれを3段階に分けます。
点数は「Ⅱ-20」などと表記します。健常者(意識清明)は「0」と表記されます。
点数が高いほど状態が悪いということになります。
GCS(Glasgow Coma Scale)
開眼機能(E)、言語機能(V)、運動機能(M)の3要素に分けて意識状態を指標化し、合計点数により評価します。
合計点は「7(E1 V2 M4)」などと表記します。健常者だと15点(満点)、最低点は3点です。
点数が低いほど状態が悪いということになります。
異常な傾向について
人格変化と身体障害を除く異常な傾向については神経心理学的検査で一定の評価が可能です。(逆に言えば、人格変化は周囲にいる人しか気づけない、気づきにくい症状だと言えます。)
代表的な神経心理学的検査は以下の通りです。
スクリーニング(高次脳機能障害がありそうかどうかの選別) | ミニメンタルステート検査(MMSE) |
改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) | |
知能 | WAIS-Ⅲ |
コース立体組み合わせテスト | |
注意 | 標準注意検査法(CAT) |
Trail Making Test(TMT) | |
BIT 行動性無視検査(BIT) | |
注意機能スクリーニング検査(D-CAT) | |
遂行機能 | 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) |
ウィスコンシンカード分類検査(WCST) | |
Frontal Assessment Battery(FAB) | |
記憶 | ウィクスラー記憶検査(WMS-R) |
リハーミート行動記憶検査(RBMT) | |
三宅式記銘力検査 |
診断について
次の3つの徴候を認めた場合、びまん性軸索損傷の発生を考えると言われています。
・受傷直後から6時間以上持続する高度な意識障害がある。
・頭部CTで、脳実質内に(高度な意識障害を説明しうる)目立った病変を認めない。
・頭部MRIで、各組織の境界(脳幹、脳梁、大脳皮質)などに高信号域を認める。
認定されうる後遺障害について
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理しました。
高次脳機能障害
びまん性軸索損傷受傷後に上記のような症状が残存した場合、高次脳機能障害としての精神障害として、以下のような区分で認定がなされることになります。
→高次脳機能障害での等級認定に必要な検査や書式等はこちらの記事で整理しています。
別表第一第1級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。 |
別表第一第2級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。 |
別表第二第3級3号 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。 |
別表第二第5級2号 | 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。 |
別表第二第7級4号 | 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。 |
別表第二第9級10号 | 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。 |
遷延性意識障害
びまん性軸索損傷後に遷延性意識障害になった場合、自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理すると次のようになります。
→詳細は遷延性意識障害についてまとめたこちらの記事でご確認ください。
別表第一第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの。→生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの |
弁護士に相談を
交通事故等の頭部外傷でびまん性軸索損傷を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
弁護士法人小杉法律事務所は全国対応可能です。
小杉法律事務所では無料で法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。