脳損傷 神経症状
【高次脳機能障害の症状】医師監修|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所
こちらの記事では、【高次脳機能障害により発生する症状】について、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)のもと整理しています。
→高次脳機能障害一般についてはこちらの記事で整理しております。
高次脳機能障害とは
高次脳機能とは、社会生活を営む人間が発達させてきた、理解する、判断する、論理的に物事を考える等の認知機能で、知覚、言語、記憶、学習、思考、判断、感情等がこれにあたります。
何らかの原因で脳に損傷や機能異常が生じれば、高次脳機能に障害が発生する可能性があります。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害には、脳の特定の部位に病巣や損傷が生じ(局所性脳損傷)、その部位が行ってた機能が脱落して症状として出る巣症状(そう症状)(神経局所症状とも。)と、広範囲の脳損傷(びまん性軸索損傷)によって生じる症状があります。
外傷に伴う高次脳機能障害は主に後者が問題になる事案が多いです。
以下、発生する症状ごとに損傷部位や病巣の説明がありますが、よろしければ下のイラストを一緒にご確認ください。
局所性脳損傷による巣症状(失語、失行、失認)
脳の特定の部位に病巣や損傷が生じ(局所性脳損傷)、その部位が行ってた機能が脱落して症状として出る巣症状(そう症状)(神経局所症状とも。)としては、以下のものがあります。
失語
脳の損傷が原因で、読む・書く・話す・聞くなどの言語機能が失われた状態です。
人から言われたこと、本当で読んだことを理解できない、言いたいことを伝えられない、書けないなどの症状で、一口に「失語」と言っても多様な症状があります、対応する損傷部位も様々です。
前頭葉のBroca野(運動性言語中枢)が損傷されれば、話す、書く等の言語表出に支障がでます。また、側頭葉のWernicke野(感覚性言語中枢)が損傷されれば聞く、読む当の言語理解に支障がでます。
失行
運動麻痺や感覚障害ががなく、記憶等も問題が無いにも関わらず、日常生活の様々な行為が損なわれます。
こちらも症状は多様ですが、頭頂葉のうちどこが損傷されたかで発生する症状が異なります。
観念失行 | ハサミ等、普段使い慣れているはずの道具の使用や、日常の一連の動作を正しく行えない。 |
観念運動失行 | 自発的には可能だが、「やってみてください」「真似してみてください」と指示されるとできなくなる。 |
構成失行 | 図の模写ができない、積み木を行えないなど。 |
指節運動失行 | 大豆を橋でつかむ、ボタンを縫い付けるなどの細かい動作ができない。 |
着衣失行 | ズボンに腕を通して着ようとするなど、衣服を着たり脱いだりができない。 |
失認
目は見えていて感覚に問題が無いにもかかわらず、眼に見たものを認識できない等の症状が生じます。
症状は様々ありますが、側頭葉や後頭葉の損傷で生じます。
相貌失認 | 人の顔や表情が認識できず、個人の判別ができない。 |
身体部位失認 | 触られている場所がどこかわからない(触られているというのはわかる)。
身体の半分を認識できず障害物にぶつかったりする(半側身体失認)。 |
病態失認 | 麻痺など自身の体に異常があるのにそれに気づかない。 |
地誌的記憶障害 | 知っているはずの道で迷ってしまう。 |
びまん性軸索損傷による症状(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害)
広範囲の脳損傷(びまん性軸索損傷)によって生じる主な症状は以下の4つです。
記憶障害(思い出せない、覚えられない)
昔のことが思い出せない、新しいことを覚えることができないなどの状態です。
食事したのに食べたことを覚えておらず再度要求する、通いなれた職場への道順がわからなくなるなどの症状が具体例です。
主な病巣は海馬などの大脳辺縁系と言われます。
大脳辺縁系は前頭葉と同じく大きくは大脳の中に含まれる部位ですが、大脳の内側にあるので上部のイラストでは図示されていません。
注意障害(気が散る)
物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの状態です。
周囲のことが気になって仕事を途中でやめてしまう、逆に仕事中に優先事項ができてもそちらにうまく移行できないなどの症状が具体例です。
主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。
遂行機能障害(計画的に行動できない)
物事を行うための段取りが悪かったり、臨機応変な対応ができず(こだわりが強くて予定外のことに想定できない)、物事をスムーズに行うことができない状態です。
料理をするときの手順がわからない、不測の事態に応じた計画変更ができない、録画装置で番組予約ができない、計画的に買い物できずに浪費するなどが具体的な症状です。
主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。
社会的行動障害(人間関係をうまくつくれない)
易怒性(すぐに怒る)、意欲がわかない、特定のものに固執するなどして社会でうまく生きていくことが阻害される状態です。
すぐにカッとなり大声を出す、ギャンブルにはまる、他人や物事に関心を示さず家に引きこもる、あまり親しくない人に異常に親密に接するなどの症状が具体例です。
主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。
認定されうる後遺障害
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害を整理すると以下のようになります。
→認定区分の詳細や必要な検査等は「高次脳機能障害の等級認定と金額について」の記事でご確認ください。
別表第一第1級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。 |
別表第一第2級1号 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。 |
別表第二第3級3号 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。 |
別表第二第5級2号 | 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。 |
別表第二第7級4号 | 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。 |
別表第二第9級10号 | 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。 |
高次脳機能障害の後遺障害等級認定や慰謝料請求については専門の弁護士に相談を
交通事故等で頭部外傷を負い外傷性の高次脳機能障害を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所では無料相談を実施しておりますので、所属弁護士に是非ご相談ください。