後遺障害等級の解説

脳損傷 神経症状

器質性精神障害について(弁護士法人小杉法律事務所監修)

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こちらでは、頭部外傷後の器質性精神障害について整理しています。

器質性精神障害とは

脳の損傷や病変によって生じる精神障害のことを言います。

「器質性」という言葉のニュアンスは使用される文脈により一様ではないですが、ひとまずここでは、脳の損傷や病変が原因で、そのことが画像検査等の客観的所見ではっきりわかるもの、くらいで認識していただいて問題ないと思います。

わざわざ「器質性」というからには、逆の概念として「非器質性」精神障害というものもあります。

損害賠償実務の発想からは、「非器質性」精神障害とは、「脳の損傷や病変が原因ではない」か「それらが原因だとしても画像検査等の客観的所見が得られないもの」と言えそうです。

器質性精神障害の原因

交通事故等による頭部外傷のように外傷性のものや、脳血管障害、脳腫瘍、感染症、神経変性疾患など外傷性とは言いにくいものもあります。

どのような症状か

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、128~131頁)

以下、器質性精神障害として生じうる様々な症状について整理しております。

脳の大まかな構造や、局所性損傷、広範性損傷が何かなどは、脳と神経の記事で整理しておりますので、必要に応じてご確認ください。

広範性(びまん性)脳損傷による症状

多発性脳挫傷、広範囲の脳内出血や脳梗塞、脳炎などで発生します。

急性期・亜急性期には意識障害が主で、せん妄を呈することが多いです。

せん妄は、軽度ないし中程度の意識障害に伴い突然発症し、主に、集中・持続障害などの注意障害、見当識障害、錯覚、幻覚、思考力の欠如、記憶力減退などの認知機能障害、感情障害および睡眠覚醒リズムの障害(昼夜逆転、夜間は不眠で日中は傾眠)などの症状が発生します。

重症になると不穏・興奮状態となり、認識機能が障害されて思考や判断が的確に行われなくなります。

意識回復の過程でこれらの精神症状が発生し、可逆性の場合は通過症候群と呼ばれることがあります。

通常、意識回復しても回復過程の間の記憶はありません。

慢性期には認知障害、情動障害および人格障害が持続し、種々の程度の認知症状態になります。

局所性脳損傷(脳挫傷)による症状

局所性脳損傷による精神症状は、比較的損傷部位が明確なものから複雑な精神活動のなかで捉えられにくいものまであります。

症状としては失語、失行、失認に代表される比較的局在が明確な局所巣症状および認知障害から、注意障害、記憶障害、感情障害、人格変化、判断および遂行障害など多様です。

大脳辺縁系の損傷による症状

本能や情動、記憶に関連し、旧皮質とも言います。

精神症状は局所巣症状から多くの高次脳機能障害と相まって出現しますが、情動障害、記憶障害、及び自律神経障害は、主に大脳辺縁系病変で引き起こされます。

大脳辺縁系には記憶に関与する中枢としてパペッツ経路と、情動や感情に関係するヤコブレフ回路がありますので、大脳辺縁系が障害されると行動異常と健忘症状が発せします。

高次脳機能障害の症状等についてはこちらの記事をご覧ください。

前頭葉の損傷による症状

前頭葉は主に精神活動や運動性言語に関連します。

前頭葉のどの部位を損傷したかにもよりますが、次のような症状が発生します。

前頭葉穹窿部 自発性が欠如し、複雑な思考や判断が困難になる。高度な場合は無気力・無関心になる。
前頭葉内側部 自発言語が少なくなり、失禁症状が発生し、無動性無言の状態になる。
前頭葉下面 短期記憶障害や抑制が欠如し、感情失禁がみられ、一見してひょうきん、多幸性で状況にふさわしくない発現などで社会的問題行動をしばしば起こす。

側頭葉の損傷による症状

側頭葉は主に聴覚や聴理解、視覚性認知に関連します。

側頭葉への損傷および刺激における精神症状には、粘着質への性格変化、易刺激性、逆に無気力・無関心があります。

海馬を含む側頭葉前内側部が両側ともに障害されると、高度の記憶障害が起こります。

認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級

交通事故による頭部外傷等で脳が損傷するなどして発生した精神障害であれば、通常は高次脳機能障害による精神障害として、高次脳機能障害〇級という認定を受けることになり、下のような区分がなされます。

高次脳機能障害での等級認定に必要な検査や書式等はこちらの記事で整理しています。

別表第一第1級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。
別表第一第2級1号 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。
別表第二第3級3号 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。
別表第二第5級2号 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第7級4号 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。
別表第二第9級10号 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。

注意すべきポイント:非器質性精神障害との関係

区別の意義・区別の仕方

交通事故等の頭部外傷で脳に損傷が生じ、精神障害が発生すれば、高次脳機能障害と同様の判断スキームで認定が行われるものと思われます。

そのためには 1:画像所見、2:意識障害、3:一定程度の異常な傾向 の3つが重要な要素になりますが、特に1の画像所見が最重要です。

冒頭でも少し触れましたが、「器質性」とか「非器質性」という表現は文脈次第で、賠償実務や自賠責保険の認定上は、「交通事故という外傷で脳が損傷された」結果起こった症状であり、「それが画像所見等の客観的所見で確認できるもの」を「器質性」、そうでないものを「非器質性」と区別しているニュアンスです。

ですので、頭部外傷関係なく生じた精神障害は当然として、頭部外傷後に発生した精神障害でも、頭部外傷による脳損傷を示す(あるいは示唆する)画像所見等の客観的所見が無い限り、器質性の精神障害として扱われることはなく、非該当か、認定がなされるとしても非器質性精神障害としての認定になります。

びまん性軸索損傷の場合、これ自体は脳の器質的損傷であることは間違いないのですが、微細な神経線維の(軸索)断裂それ自体を判断できる画像所見は今のところなく、自賠責保険が頭部外傷による高次脳機能障害としては非該当だと判断する事案のいくつかは、脳損傷があるにもかかわらずそのことが画像所見等で証明できない事案なのかもしれません。

びまん性軸索損傷の特色や、頭部外傷による精神障害であると立証するために必要な検査についてはこちらの記事でご確認ください。

非器質性精神障害での後遺障害認定

非器質性精神障害として認定される場合、次の通り、9級、12級、14級での認定可能性がありますが、認定されても14級での評価にとどまる場合が多い印象です。

別表第二第9級10号 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの

例)非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合

別表第二第12級13号 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの

例)非器質性精神障害のため、日常生活において頻繁に支障が生じる場合

別表第二第14級9号 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの

例)概ね日常生活は可能であるが、非器質性精神障害のため、日常生活において時々支障が生じる場合

弁護士に相談を

交通事故等で頭部外傷を負い、器質性精神障害が発生した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。