後遺障害等級の解説

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MTBI(軽度外傷性脳損傷)と高次脳機能障害|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本ページでは、MTBI(軽度外傷性脳損傷)とその後遺障害について解説しております。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしてもらっています。

MTBI(軽度外傷性脳損傷)とは

MTBI( Mild Traumatic Brain Injury の略称。軽度外傷性脳損傷と訳されることが多い。)は、主に交通事故やスポーツ中の衝撃、または急激な頭部の揺れによって引き起こされる脳への損傷をいいます。

自賠責保険においては、MTBIとは「軽症頭部外傷後の脳外傷」と定義されています。ここでいう「軽症頭部外傷」とは、「通常脳損傷を伴わずに起こる可能性が大きい脳震盪」よりも重症なものとして位置づけられるものであり、頭部外傷による重症度分類の指標であるGCS(グラスゴーコーマスケール)では、GCS13~15程度のものと考えることができるでしょう。また、「脳外傷」は、脳の器質的損傷を意味します。

なお、参考として、WHOが示すMTBIの診断基準もご紹介しておきます。

Ⅰ.①混乱や失見当識、②30分或いはそれ以下の意識喪失、③24時間以下の外傷後健忘期間または④その他一過性の神経学的異常のうちいずれか一つ以上を満たす

Ⅱ.外傷後30分或いはそれ以上経過している場合は急患室到着時点でのGCSが13~15程度である

Ⅲ.これらの所見が、薬物・酒等や他の外傷治療、他の問題或いは穿通性能外傷などによって起きたものではない

WHOが示す定義は、脳の器質的損傷が生じていない場合も包含する概念であることから、自賠責における「脳の器質的損傷」発生の判定には用いられていません。したがって、WHOの基準上ではMTBIと認められたとしても、必ずしも自賠責保険上においてもMTBIと認められるとは限らないということです。実際に、自賠責のいわゆる平成23年報告書において、「WHOのMTBIの診断基準に該当することのみをもって、…(中略)…自賠責保険における高次脳機能障害に該当すると判断することはできない」と示しています。

1.MTBIの原因

MTBIの主な原因は、強い衝撃や急な動きによる頭部へのダメージです。交通事故においては、急停止や衝突がきっかけとなって脳が損傷を受けるケースが多く報告されています。また、スポーツ中の転倒や打撲、さらには日常生活での事故も原因となり得ます。

2.MTBIの症状

MTBIの負った場合、注意力の低下、記憶障害、頭痛、めまい、易疲労、遂行機能障害などといった高次脳機能障害と同様の症状がみられることが多いです。これらの症状は、多くの場合3か月~1年以内に正常化する傾向にありますが、一部のケースでは長期にわたり症状が遷延することもあります。

①認知障害

新しいことを覚えられない、計画して実行することができない、複数のことを同時に処理できない、注意・集中力の低下などの障害がみられます。

②行動障害

周囲の状況に合わせた行動ができない、職場や社会のルールやマナーを守れない、危険予測や回避行動がとれない、行動抑制ができないなどの障害がみられます。これらの症状が継続する場合、社会生活への適応能力の低下につながる恐れもあります。

③人格変化

易怒(怒りやすくなる)、易疲労、自発性低下、衝動性、自己中心性、気力低下などがみられます。人間関係や社会参加に影響を及ぼす恐れもあります。

後遺障害と自賠責保険

1.高次脳機能障害との関係と画像の撮影

前述のとおり、MTBIにより高次脳機能障害を引き起こす可能性があり、これが後遺症として残存することがあります。そのため、MTBIにより注意障害、人格変化、行動障害などの後遺症が残存した場合は、自賠責において、高次脳機能障害と同様の基準で後遺障害等級認定がなされるものと考えられます。

ここで気を付けなければならないのが、画像所見の存在です。自賠責は、高次脳機能障害の等級認定判断を行うにあたり、「MRIやCTなどの画像によって脳の器質的損傷が確認されること」を要件の一つと定めています。MTBIについても同様に、脳の器質的損傷があったことについて画像により証明される必要があります。

しかしここで問題なのが、MTBIは受傷直後であっても、画像によって脳の器質的損傷を確認できない場合があるということです。近年の医療技術の進歩や医学の発展はめざましいものであり、画像撮影についても日々進化の一途を辿っているものと思います。それでもやはり、画像によって脳損傷が確認できないケースも中にはあります。びまん性脳損傷の場合には、外傷直後のCTにおいて脳出血が明らかでないこともあります。

そのため、弁護士目線(後遺障害等級認定という観点)においては、受傷後なるべく早めにCT画像に加えてMRI画像も撮影することが望ましいと考えています。なお、ひとくちにMRIといっても、撮影方法には多くの種類があります。中には、多少時間が経過していても、出血部を捉えることができる場合がある撮影方法もあるため、受傷から時間が経過している場合でも、まずは主治医等に相談して意見を仰いでみるのがよいでしょう。

2.画像所見がない場合はどうなるのか

これまでの話を踏まえると、「画像所見が認められなかった場合には、MTBIでの高次脳機能障害が後遺障害として絶対に認められないのか?」と考える方もいると思います。この点について弁護士の視点で答えるならば、必ずしもそうとは限らない、です。CTやMRI画像で確認できない場合は、「当該事故が、脳外傷が生じる可能性があるほどのものであった」ことを、立証していく必要があります。すなわち、事故態様や事故による車両の損傷状況、救急搬送記録やカルテ等の記録等において、事故後の意識障害や外傷性健忘の有無及びその程度などといった情報を集め、事故によって脳外傷を負った蓋然性を証明していくということです。また、事故後の被害者の日常生活等における変化を記録にとどめておくことも重要になるので、たとえば診察時に違和感や症状をきちんと主治医に伝えたり、ご家族がいる場合は被害者の普段の様子や症状の経時的変化をエピソード形式で記しておくのもよいでしょう。記録に残す際には、以下に添付している「日常生活状況報告」の内容に沿いつつ行うのを勧めます(この「日常生活状況報告」は、高次脳機能障害で自賠責保険の請求を行う際に必須の書類となります)。

また、画像所見がある場合と同様に、主治医に相談の上、必要があれば医療機関にて神経心理学的検査を施行してもらうことも重要になるでしょう。

ここまで、画像所見がない場合の闘い方について説明してきました。お気づきかもしれませんが、画像所見がある場合と比較すると、この闘いは幾分険しい道になります。どうやっていけばいいのかお悩みの場合は、弁護士など後遺障害の専門家にご相談いただくことも一つの手だと思います。

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺障害専門・被害者専門の弁護士が、一緒に闘わせていただきます。

画像の有無関係なく、ご自身やご家族の方が交通事故でMTBIや高次脳機能障害を負われたなどでお悩みの方は、お気軽にご相談下さい。

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3.高次脳機能障害の後遺障害等級

高次脳機能障害の場合に認定される可能性がある後遺障害等級と、その時に支払われる保険金額は以下のとおりです。

なお、自賠責の運用方針や裁判例の傾向等も鑑みると、これらの等級が必ずしもMTBIの場合にも認定される可能性があるとは言い難い面もあることをご承知おきください。

なお、別表第二第3級以下の等級については、他に後遺障害が残っていた場合には併合処理がなされ、最終等級が上がることもあります。

・別表第一第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」:4000万円

・別表第一第2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」:3000万円

・別表第二第3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」:2219万円

・別表第二第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」:1574万円

・別表第二第7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」:1051万円

・別表第二第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」:616万円

また、9級以上の高次脳機能障害としての後遺症の残存は認めがたいものの、脳挫傷の画像所見がある等によって神経症状の残存が認められる場合には、12級が認定されることもあります。

・別表第二第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」:224万円

4.自賠責保険請求のための必要書類

MTBIによる高次脳機能障害について自賠責に請求する場合、必要な書類をしっかりそろえることが非常に重要となります。交通事故や外傷性脳損傷に関する医療記録、診断書、MRIやCTスキャンなどの画像検査結果が求められます。特に、MTBI(軽度外傷性脳損傷)の場合は、意識障害の記録や高次脳機能障害に関する神経学的評価の詳細な報告が重要です。

①自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書

自賠責への請求にあたって必須の書類であり、これがないと基本的に自賠責は請求を受け付けてくれません。

症状固定日、傷病名、自覚症状、その他後遺障害の内容を主治医に記載してもらうものになります。傷病名について「MTBI」、「軽度外傷性脳損傷」などと記載してもらう、自覚症状についてもれなく記載してもらう、後遺障害の内容について医学的所見や検査所見などを記載してもらうことが重要となります。

後遺障害診断書

②頭部外傷後の意識障害についての所見

意識障害の有無・推移や、外傷性健忘の有無・程度などについて医師に記載してもらう書類です。基本的には初診時の医療機関で作成してもらうことが多いです。

③神経系統の障害に関する医学的意見

精神症状等に関して医師が作成する書類です。画像所見や神経心理学的検査、身の回り動作能力、認知・情緒・行動障害などについて記載されます。

④日常生活状況報告

家族、近親者、介護者など、被害者の日常生活の状況が把握できる人物が作成します。前出の画像のとおり、事故前後での日常活動の変化や問題行動の有無・程度、就労・就学状況、身の回り動作能力、その他日常生活等への影響や介助が必要な理由等に関するエピソードを記載します。

⑤学校生活の状況報告

被害者が学童や学生の場合には、受傷前後での被害者の学校生活における変化を確認するために、受傷前と受傷後の担任教師がそれぞれ作成します。詳しい内容は画像をご覧ください。

⑥画像記録(XP、CT、MRIなど)

基本的に、事故後から症状固定までの間に撮影されたすべての画像の提出が求められることが多いです。また、既往症があり、後遺障害の発生や加重に寄与していると自賠責が判断する場合には、事故前の身体状況等を確認するために、事故前に撮影された画像の追加提出を求められることもあります。

 

このように、MTBIによる高次脳機能障害の場合には、提出する書類や資料の数も非常に多く、そろえるにもかなりの労力がかかります。また、内容についてもしっかりと記載してもらう必要があるため、悩ましい場合には専門家に相談してみるのもよいでしょう。

弁護士法人小杉法律事務所では、これらの書類の作成にあたって、後遺障害専門の観点からアドバイスを行ったり、必要と考えるときには医師面談を行うなどして書類作成のサポートを行わせていただくこともできます。自賠責への請求や書類作成等についてお困りの方がいましたら、まずはお気軽にご相談ください。

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MTBIと裁判

MTBIは、画像所見が確認できないことがあったり、受傷後に一見して明らかに脳損傷がみられるような症状が現れることが少ない等の特徴から、MTBIによる後遺症については争いになることが多いです。自賠責保険の後遺障害等級審査では、どうしても画像所見が偏重される傾向があり、後遺症が適切に判断されないケースもあるため、裁判においてその決着が図られてきたという歴史的経緯があります。

裁判例上、MTBIによる高次脳機能障害を肯定したものもあれば、高次脳機能障害の残存を否定したものもあります。MTBIについて考える上で外せないのが、札幌高裁平成18年5月26日判決(判時1956号92頁)であり、本件はMTBI訴訟において初めて高次脳機能障害を認めたものとなります。高次脳機能障害に関する医師・専門家の意見に基づき、被害者本人の症状や日常生活の状況、当時「高次脳機能障害」というものが社会的に認識され始めていた途上であったこと等を踏まえ、真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護に欠ける場合があることを考慮し、被害者が高次脳機能障害を負ったものと判断することを判示しました。

その後、脳に器質的損傷はみられなかったり事故後意識清明ではあったものの、実際の障害の程度などを考慮して第9級10号を認定した裁判例(神戸地判平成20年1月29日判決 交民41巻1号102頁)、事故後すぐに症状が現れなかったり、画像所見に異常がないとしても発症を否定できないとして、MTBIとしての脳幹部損傷による高次脳機能障害第9級10号を認定した裁判例(東京高判平成22年9月9日判決 交民43巻5号1109頁)のようなMTBIによる高次脳機能障害を肯定するものもある一方、WHOの基準に該当しないことをもってMTBI受傷自体を否定した裁判例(東京高判平成22年11月24日判決 自保1837号1頁)や、画像所見や典型的症状がないことをもってMTBI及び後遺症の残存を否定した裁判例(神戸地判平成28年4月20日判決 自保1976号42頁)もあります。

こうした前例の登場や経時的社会情勢の変容により、MTBIやこれによる高次脳機能障害は少しずつ認識がなされてきているところではあります。しかしながら、裁判においてもMTBIに関して画一的な判断基準が存在するかたちではなく、事故態様や事故後の症状経過などを個別具体的に判断し、MTBIの該当性や後遺症の残存、MTBIと後遺症の相当因果関係を判断して後遺障害該当性を判断しているものといえるでしょう。

おわりに

これまで説明してきたように、MTBIによる高次脳機能障害について自賠責に後遺障害等級認定を受けるのは一筋縄では行かず、非常にハードルが高いといえるでしょう。しかし、後遺症に見合った適切な賠償を得るためには、その前段階として適切な後遺障害等級を獲得することが必須となります。

そして、自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、

自賠責に申請する際に後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、自賠責に申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

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また、高次脳機能障害に関する詳しいことは以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●高次脳機能障害全般の解説や、その他高次脳機能障害に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。