後遺障害等級の解説

精神障害

身体表現性障害|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故による身体表現性障害と後遺障害等級について解説いたします。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしてもらっています。

そもそも身体表現性障害とは?

⑴身体表現性障害の定義と特徴

身体表現性障害は、ストレスや心理的要因がきっかけとなり、身体的な症状となって現れる非器質性精神障害の一種です。この障害では、症状が実際の身体的損傷や病変に基づかず、医学的な検査を行ってもその原因が特定できないことが特徴です。たとえば、激しい痛みや感覚の異常、運動機能の低下が生じても、その背後に明確な身体的異常が見つからない場合があります。

身体表現性障害は、患者本人が「本当に身体的異常がある」と認識しているケースが多く見られるため、その症状が詐病であると誤解されることもあります。しかし、この障害は心理的要因が身体に具体的な症状をもたらしている点から、適切な診断と治療が欠かせません。

⑵DSM-5における身体症状症との関係

身体表現性障害は、以前の診断基準であるDSM-IVにおいて「身体表現性障害群」として位置づけられていましたが、DSM-5では「身体症状症(Somatic Symptom Disorder)」として再編されています。この変更に伴い、以前の診断基準で使われていた複数の診断名が統合され、より患者の全体的な状態を捉える形に整理されました。

DSM-5では、身体症状症の診断において、症状の深刻さに加え、患者がその症状に対して過剰な関心を抱いているか、また生活の中で機能的な障害が生じているかが重視されます。この改訂により、診断基準が明確化されただけでなく、個々の症例に応じた適切な治療計画を作成しやすくなりました。

⑶身体表現性障害の典型的な症状

身体表現性障害の症状は多岐にわたりますが、その中でも特に典型的な症状として、持続的な痛みや四肢の感覚異常、運動機能の低下が挙げられます。また、不安やストレスを原因として、心臓の動悸や呼吸困難などの自律神経に関連した症状が現れる場合もあります。これらの症状はどれも患者にとって非常に困難であり、日常生活や仕事に支障をきたす場合が少なくありません。

⑷交通事故が引き金となる心身の影響

交通事故は被害者に大きな身体的ダメージを与えるだけではなく、心身にも深刻な影響を及ぼすことがあります。ストレスや精神的ショックが原因となり、身体表現性障害が引き起こされるケースが報告されています。この障害は、事故による直接的な外傷では説明できない身体症状が現れる特徴があり、例えば疼痛やしびれ、疲労感、不眠症、不安感などによって日常生活に支障をきたすような事例も含まれます。これらの症状は、事故直後に顕著に現れる場合もあれば、一定期間を経て心身の負担が表面化してくる場合もあります。

⑸身体表現性障害と他の後遺障害との区別

身体表現性障害と他の後遺障害を区別することは診断の際に重要です。通常、後遺障害では医学的な検査で器質的な損傷が確認されますが、身体表現性障害の場合は身体的に異常がないにもかかわらず症状を訴えることが特徴です。一見すると区別がつきにくいため、専門医による詳細な診断が必要となります。また、交通事故では複数の症状が重なることも多く、診断プロセスの中で適切な認定が求められます。

⑹正確な診断のための検査方法

身体表現性障害の診断には、個別の症状や背景を多角的に評価することが重要です。交通事故による身体症状と心理的影響が交差する場合、以下の検査が用いられることがあります。

まず、身体的な疾患の有無を確認するために、医療機関での身体検査や画像診断が実施されます。この際、症状が器質的要因によるものではないことを確認することが第一歩となります。その上で、精神科医や臨床心理士による心理状態の評価が行われます。DSM-5基準を基にした詳細な問診や心理テストが、身体症状に影響をもたらしている精神的要因を見極める方法として活用されます。

⑺心理療法と薬物療法の役割

心理療法薬物療法は、身体表現性障害の治療における中心的な柱となります。心理療法では、患者の不安やストレスを和らげるためのアプローチが取られます。認知行動療法(CBT)は、身体症状の原因となる誤った認識や行動パターンを修正する方法として広く用いられています。また、トラウマ治療を目的としたEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)等が治療の一環として用いられることもあります。

一方薬物療法は、心理療法だけでは対応が難しい症状や、日常生活に支障をきたす重度の症状への補助的な治療として重要です。例えば、身体症状として現れる痛みや不眠に対処するため、抗うつ薬や睡眠薬が処方されることがあります。これらの治療は、あくまで医師の診断を基に行われるべきであり、患者自身の健康状態を総合的に判断して選択されます。

身体表現性障害の後遺障害等級

身体表現性障害は、交通事故後に発生する可能性がある症状の一つとして挙げられており、治療を行った結果として身体表現性障害が残存してしまった場合には、自賠責に後遺障害等級の申請を行うことができるときがあります。

⑴非器質性精神障害の等級認定基準

非器質性精神障害の後遺障害が残存しているというためには、以下の①の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、②の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。

①精神症状

a 抑うつ状態

持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、何をするのも億劫になる(億劫感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態。

b 不安の状態

全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態。

c 意欲低下の状態

全てのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。

d 慢性化した幻覚・妄想性の状態

自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が以上に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)等の幻覚、妄想を持続的に示す状態。

e 記憶又は知的能力の障害

記憶障害としては、解離性(心因性)健忘が代表例。自分がだれであり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や、生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態。

知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害が代表的。日常身辺生活は普通にしているのに、改めて質問すると自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態。

f その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)

多動症、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴といった a ~ e に分類できない障害。

②能力に関する判断項目

能力の有無及び必要となる助言・援助の程度に着目し評価が行われます。

a 身辺日常生活

入浴や更衣など清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて評価。

b 仕事・生活に積極性を・関心を持つこと

仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて評価。

c 通勤・勤務時間の厳守

規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて評価。

d 普通に作業を持続すること

就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて評価。

e 他人との意思伝達

日常生活や職場等において他人とのコミュニケーションが適切にできるかを評価。

f 対人関係・協調性

日常生活や職場等において、円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかなどについて評価。

g 身辺の安全保持、危機の回避

危険等から適切に身を守れるかどうかを評価。

h 困難・失敗への対応

ストレスを受けた時に、ひどく緊張したり混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかについて評価。

⑵認定される可能性がある後遺障害等級

身体表現性障害は非器質性精神障害の一つとして後遺障害等級認定が行われ、認定される可能性がある等級は以下の3つになります。

別表第二第9級10号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、次のアまたはイに該当する場合に認められます。

ア 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目のうち b ~ h のいずれか1つの能力が失われているもの又は4つ以上についてしばしば助言・援助が必要とされる障害を残しているもの

イ 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

別表第二第12級13号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、次のアまたはイに該当する場合に認められます。

ア 就労意欲している者又は就労の意欲のある者の場合は、②の判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要とされる障害を残しているもの

イ 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の場合は、②の判断項目のa(身辺日常生活)を適切又は概ねできるもの

別表第二第14級9号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、②の判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当します。

 

等級の認定要件について、表にまとめると次のとおりとなります。

⑶自賠責への申請にあたっての注意点

身体表現性障害をはじめとする非器質性精神障害は、「どの時点をもって症状固定とするか」の判断が難しい症状とされます。切り傷や骨折などのように、外見で回復の程度が判断できるものではないからです。

そのため、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、症状固定の状態にあるものとして後遺障害等級の認定が行われます。この目安としては2年が妥当であると考えられ、つまり事故後に身体表現性障害を発症してから2年治療を続けてもなお症状が残存してしまった場合には、その時点をもって症状固定を行い、その時点での症状に基づいて後遺障害等級の認定判断を行う、ということです。

もちろん、治療開始から2年が経過する前に症状固定を迎えることもあるでしょうから、その場合は基本どおり、その時点の症状をもって症状固定として自賠責に申請することとなるでしょう。

また、非器質性精神障害として評価するにあたっては、精神科専門医による診断および治療がなされていることが必要不可欠となります。そのため、精神科専門医による精神科的治療がなされていない場合は、自賠責保険における後遺障害としての非器質性精神障害として取り扱うことはできないとされています。なお、ここでいう「精神科専門医」とは、たとえば精神科や精神神経科、心療内科、メンタルクリニック等があります。

おわりに

本稿では、交通事故と身体表現性障害の関係、そして自賠責保険における身体表現性障害の後遺障害等級について解説いたしました。

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております

交通事故を原因とする非器質性精神障害にお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

後遺症被害者専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。