後遺障害等級の解説

醜状障害

治らないケロイドと後遺障害|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故とケロイドの関係、そしてケロイドが治らない場合の後遺障害について解説いたします。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。

ケロイドとは?

交通事故等によって皮膚を損傷したり、又は潰瘍等の病変によって皮膚の線維組織が破壊されてしまった場合、皮膚を回復させるために、創傷部位に肉芽組織が形成され、やがて膠原線維と呼ばれるタンパク質からなる線維や、線維結合組織に置き換わり修復がなされていきます。こうして傷が修復されていくととともに創傷部位の炎症も治まっていきます。

しかし、創傷の大きさや程度によっては、傷痕が残ってしまう場合があります。よく見られる傷痕に、ミミズ腫れのようなぷっくりと盛り上がった形状のものが見られますが、これは肥厚性瘢痕と呼ばれています。瘢痕が線状に残存している場合は、線状痕などと呼ばれることもあります。

また、損傷した範囲を超えて赤く盛り上がり、広がりを見せるものはケロイドと呼ばれています。ケロイドの主な症状は痛みや痒みがありますが、進行すると皮膚が引きつる感覚や周辺の運動機能に影響を及ぼすケースも見られます。例えば、関節付近にケロイドができた場合、関節の可動域が制限される場合もあります。

ケロイドは腫瘍ではないため、直接的に命を脅かすようなものではありませんが、皮膚の異常な盛り上がりや皮膚色の変化等から目につきやすい様相をしていることや、痛みや痒み等による不快感から、日常生活に影響を及ぼすことも多いです。特に、人目につきやすい顔面部などに残ってしまった場合などには、ケロイドが悩みとなり、社会生活にも負の影響が生じる恐れがあります。

ケロイドと自賠責保険における醜状障害の後遺障害等級

自賠責は、自動車損害賠償保障法施行令において、自賠責保険の補償対象となる後遺症について定めています。

この自賠責保険の補償対象となる後遺症のことを後遺障害と呼びますが、交通事故でケロイドが残存してしまった場合には、醜状障害という後遺障害が認定される可能性があります。そのため、自賠責保険で醜状障害と認定されれば、等級に応じた保険金を受け取ることができます。

醜状障害は、ケロイドが残ってしまった部位に応じて認定基準や認定される後遺障害等級が異なっています。この部位は大きく3つに分けることができ、下図のとおり、外貌・露出面・露出面以外(日常露出しない部位)となります。以下では、それぞれ部位別に後遺障害等級や認定基準を見ていきましょう。

⑴外貌醜状

「外貌」とは、頭部・顔面部・頚部といった日常露出している部分をいいます。頭部は通常髪の毛が生えている部分を指します。顔面部はいわゆる顔の部分を指し、下顎の骨の稜線と髪の毛の生え際で囲まれた部分をいいます。頚部は顔面部より下の日常露出している部分を指し、顎の下の部分は頚部に含まれます。

①別表第二第7級12号

外貌に著しい醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。

まず頭部については、てのひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損が残った場合に該当します。

次に顔面部については、鶏卵大面以上の瘢痕、又は10円銅貨大以上の組織陥没が残った場合に該当します。

そして頚部については、てのひら大以上の瘢痕が残った場合に該当します。

なお、てのひらの大きさは個人差がありますので、通常、被害者本人のてのひらを目安にします

一例として、交通事故により顔面部を広範囲で負傷し、顔面部の2分の1程度のケロイドが残存してしまったケースを考えますと、顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕が残存している場合に該当しますので、顔面部のケロイドについて第7級12号が認定されることとなります。

②別表第二第9級16号

外貌に相当程度の醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

ここでいう外貌の相当程度の醜状とは、顔面部に5㎝以上の線状痕が残った場合が該当します。

交通事故によって5㎝以上にわたる線状のケロイドが残存した場合には、この等級が認定される可能性があるでしょう。

③別表第二第12級14号

外貌に醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。

まず、頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損が残った場合に該当します。

次に顔面部については、10円硬貨大以上の瘢痕又は3㎝以上の線状痕が残った場合に該当します。

そして頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕が残った場合に該当します。

⑵露出面の醜状障害

①別表第二第14級4号

上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。

ここでいう「上肢の露出面」とは、肩関節以下(手部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について肘関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がある点に注意しておきましょう。例えば通勤中の交通事故(通勤労災)で後遺症を残した場合、自賠責に後遺障害等級の申請を行うこともできますし、労災を使用すれば、障害給付の支給請求を行うこともできます。前述のとおり自賠責と労災では「露出面」の定義が異なります(自賠責のほうが範囲が広い)ので、自賠責では等級に該当するものの労災では等級に該当しないという結果になる可能性もあります。

②別表第二第14級5号

下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。

ここでいう「下肢の露出面」とは、股関節以下(足背部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について膝関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がありますので、上肢露出面の醜状障害と同様に、自賠責と労災とで認定される等級が異なる可能性もあります。

③別表第二第12級相当

上肢又は下肢の露出面に、てのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕を残した場合には、別表第二第14級4号又は第14級5号ではなく別表第二第12級相当が認定されます。複数の瘢痕や線状痕が残存する場合にはそれらの面積を合計して認定しますが、この場合、少なくともてのひら大以上の瘢痕に該当する程度の瘢痕や線状痕が1個以上残存している必要があります。裏を返すと、てのひら大に満たない瘢痕や線状痕のみが複数残存している場合は、仮にその合計がてのひら大の3倍程度以上であったとしても、第12級相当は認定されません。

⑶日常露出しない部位の醜状障害

自賠責において日常露出しない部位とは、上図のとおり、胸部・腹部、背部・臀部を指します。これらの部位の醜状については、別表第二備考6を適用し、相当等級が定められることとなります。なお、日常露出しない部位の定義もまた自賠責と労災で異なっており、労災では胸部・腹部、背部・臀部に加えて上腕部と大腿部も日常露出しない部位になります。この差異は、上肢・下肢の露出面の定義が異なることからくるものであり、つまるところ、「日常露出しない部位」=外貌及び上下肢の露出面以外の部位と考えてよいでしょう。

①別表第二第14級相当

胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の4分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第14級相当が認定されます。

②別表第二第12級相当

胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の2分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第12級相当が認定されます。

⑷等級認定に関する留意点

等級認定を行うに際し、2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算して等級が認定されます。ここでいう「相隣接」は、複数の醜状間の距離がおおむね1㎝以下であることとされています。つまり、1つ1つの瘢痕の大きさでは認定基準の大きさに届かなくても、それらが1㎝以下の距離で近接していれば、大きさを合算して等級認定判断がなされるため認定される可能性も出てくるということです。

また、眉毛や頭髪等に隠れ、人目につかない部分については、醜状として取り扱われません

顔の傷が残存した場合の損害賠償請求について

顔に傷痕が残存したケースにおける損害賠償請求について、注意すべき点を解説いたします。

⑴治療費

交通事故による傷痕の中でも、ケロイドは治療が難しいとされています。最新の技術としては、ステロイド注射、局所的な圧迫療法、または放射線療法が有効であるとされており、また美容整形や形成外科では、局所出血を抑える手術技術やレーザーを併用して治療を行っているケースもあります。事故後の傷痕がどのように進行するかは個人差がありますので、医師と症状にあったオーダーメイドの治療プランを立てることが重要となりますが、相手方保険会社が一括対応を行っている場合や、人身傷害保険から治療費対応がなされている等の場合には、こうした治療の費用については対応が難しいと判断される可能性もありますので、対応してもらえるかどうかあらかじめ確認しておきましょう。また、美容目的の治療については保険適用外になるケースも散見されますので、自費で対応することとなった場合にも、保険適用ができるのかどうかを確認しておきましょう。

 

また、保険会社が対応しなかった場合において自費でこれらの治療を行い、のちに自己負担分の治療費を請求した時にも、保険会社が治療の必要性・相当性について否定し、当該部分の治療費の支払いを拒否するケースがあります。この場合にも、主治医の意見等でその必要性等を示すことが求められる可能性があります。

⑵後遺症の逸失利益

通常、後遺症が残存し、自賠責によって等級が認定された場合には、後遺症の逸失利益を請求することができます。

ただし、ケロイドを含め醜状障害については、逸失利益の発生について争いが生じるケースがよく見られます。というのも、後遺症逸失利益はそもそも、交通事故がなかった場合に想定される利益状態と交通事故があった場合の利益状態との差であるという考え方(差額説)に基づくものであるところ、醜状障害の場合、身体機能や能力喪失をもたらすものではないため、ただちの減収なども観念しがたいためです。事実、可動域制限による機能障害や、疼痛やしびれなどの神経症状と比べると、醜状障害が労働能力喪失に直結することは考え難いところがあります。それゆえ、俳優やホステス等のような外貌や容姿が重要な要素となる職業の場合を除き、相手方保険会社に損害賠償請求した場合に逸失利益が否定されることがあります(一方で、外貌や容姿が重要な要素となる職業の場合には、醜状それ自体が就労上の支障となり減収に結びつくことについて想定されるため、逸失利益も幾分認められやすい傾向にあります。ただし、この場合にも、そうした職業に就いていることや、仕事上での支障等についてある程度の立証が要されることとなるでしょう。)。

逸失利益が否定された場合、醜状障害が残ったことによる就労状況や労働における支障等をつぶさに検討し、労働能力の喪失や制限があることを示し、逸失利益が発生することについて立証していく必要があります。裁判官講演において「通常の就労者は、職業により程度の差こそあれ、他者との直接的接触・交流の中で就労しているものであるから、醜状障害が円滑な対人関係を構築し、円滑な意思疎通を実現する上での阻害要因になる可能性も容易に理解され、これこそ醜状障害によって喪失する労働能力の実質と考えることができる」との見解が述べられ、また近時の裁判例では接客が業務の中心又は重要な部分を占める業種(生命保険外交員、百貨店勤務、フィットネスジムインストラクター等)につき逸失利益を認めたものもみられていることから、醜状障害によるこうした労働能力の制限について立証することは非常に重要となります。

また、治療と後遺障害の関係についても留意しておく必要があるでしょう。たとえばケロイドについて症状固定し、醜状障害の等級が認定されたのちに、美容の施術を行いケロイドが完全になくなった場合、後遺障害の残存を前提とする逸失利益についても発生しないとして否定される可能性がきわめて高いです。特に裁判の場合では、後遺障害の等級から判断がしなおされることになりますので、ケロイドにつき自賠責で等級認定がされた後、損害賠償請求金を受け取るまでの間に美容目的の治療を受けケロイドが完治してしまうと、ケロイドについての等級は非該当と判断される恐れがあります。そのため、美容目的の治療を行うことを考えている場合には、損害賠償金を受領し、交通事故に関してすべてが解決してから行うのも一つの方途として考えられるでしょう。

⑶弁護士の活用で得られるメリット

交通事故による治療や傷痕に関する補償を適切に受けるためには、専門的な知識が必要です。弁護士を活用することで、後遺障害等級認定の申請手続きや、示談交渉をスムーズに進めることが可能になります。また、慰謝料についても自賠責基準や保険会社の提示額よりも高額な補償を得られる可能性があります。特に、美容整形や特殊な治療が必要な場合や、後遺症逸失利益の発生については弁護士が医療機関や保険会社への説明を代行し、依頼者に適した結果を導くことが期待されます。

おわりに

本稿では、交通事故とケロイドの関係、そしてケロイドが治らない場合の後遺障害について解説いたしました。

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております

交通事故によりケロイド等の傷痕を残してお悩みの方や、賠償請求のこと等でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。