醜状障害
傷跡の盛り上がりを消す場合の後遺障害と損害賠償請求|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、交通事故による傷跡の盛り上がりを消す場合の後遺障害等級や損害賠償請求との関係について解説しております。
なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。
ケロイド・肥厚性瘢痕の基礎知識
⑴ケロイドと肥厚性瘢痕の違い
交通事故等による損傷で皮膚の線維組織が破壊されてしまった場合、皮膚を回復させるために、創傷部位に肉芽組織が形成され、やがて膠原線維と呼ばれるタンパク質からなる線維や、線維結合組織に置き換わり修復がなされていきます。こうして傷が修復されていくにつれ経時的に創傷部位の炎症も治まっていくことが殆どです。
しかし、創傷の大きさや程度によっては、傷痕が残ってしまう場合があります。よく見られる傷痕として肥厚性瘢痕があります。これはミミズ腫れのようなぷっくりと盛り上がった形状の瘢痕を意味しており、特に瘢痕が線状に残存している場合は線状痕などと呼ばれることもあります。
また、損傷した範囲を超えて赤く盛り上がり、広がりを見せるものはケロイドと呼ばれています。ケロイドの主な症状は痛みや痒みがありますが、進行すると皮膚が引きつる感覚や周辺の運動機能に影響を及ぼすケースも見られます。例えば、関節付近にケロイドができた場合、関節の可動域が制限される場合もあります。
ケロイドは腫瘍ではないためそれ自体が直接的に命を脅かすようなことはありませんが、皮膚の異常な盛り上がりや皮膚色の変化等から目につきやすい様相をしていることや、痛みや痒み等による不快感から、日常生活に影響を及ぼすことも多いです。特に、人目につきやすい顔面部などに残ってしまった場合などには、ケロイドが悩みとなり、社会生活にも負の影響が生じる恐れがあります。
ケロイドと肥厚性瘢痕はどちらも傷跡が盛り上がる症状ですが、それぞれの特徴には違いがあります。肥厚性瘢痕は主に傷の範囲内にとどまり、深い傷や動きの多い部位で発生しやすい特徴があります。一方、ケロイドは傷の範囲を超えて盛り上がり、さらに広がる場合も多く、比較的小さな傷からでも発生することがあります。ケロイドは肥厚性瘢痕が炎症を引き起こし、進行した形とも言われています。
⑵なぜ傷跡が残るのか?
傷跡が残る理由は、皮膚が損傷を治そうとする過程で過剰にコラーゲンを生成することにあります。通常、傷が治癒する際にはコラーゲンが適度に生成され、皮膚が元通りになるように修復されます。しかし、何らかの要因でこのコラーゲン生成のバランスが崩れると、盛り上がったり変色したりする傷跡が形成されます。肥厚性瘢痕やケロイドでは、このコラーゲンが過剰に生成されてしまうため、目立つ傷跡が残りやすいのです。
⑶主な原因とリスク要因
ケロイドや肥厚性瘢痕の主な原因として挙げられるのは、遺伝的な体質、傷の深さや大きさ、炎症の持続時間などです。また、体の部位によってもリスクが異なり、胸や肩、耳たぶ、顔などが特に形成されやすい場所と言われています。さらに、治療が不十分であったり、不適切なケアを行った場合、傷跡が盛り上がったり治癒が遅れたりすることがあります。外傷や手術後、早い段階で適切に治療を開始することが重要です。
傷跡の盛り上がりを消す治療法
⑴シリコンゲルシート
シリコンゲルシートは、傷跡の治癒を促すために使用される医療用品のひとつです。このシートは柔らかいシリコン素材でできており、肌に優しく、特にケロイドや肥厚性瘢痕の改善に効果的とされています。傷跡の赤黒い変色を抑えたり、盛り上がりを目立たなくするために広く使われており、市販されているものもあるため治療の一環として始めやすいところかと思います。
その効果のメカニズムは、シートが傷跡部分を覆うことで水分の蒸発を防ぎ、皮膚の保湿状態を保つことにあります。この保湿効果によって瘢痕組織の柔軟性が保たれ、盛り上がりが抑えられるとともに、見た目の改善が期待できます。
⑵ステロイド注射
ステロイド注射は、ケロイドや肥厚性瘢痕などの盛り上がった傷跡の治療において非常に効果的な方法の一つです。この治療法は、炎症を抑え、傷跡の厚みを減少させる役割を果たします。特に、自然治癒が難しいとされるケロイドは放置すると増大するリスクがあるため、早期に適切な治療を開始することが重要です。
ステロイド注射の最大の特徴は高い即効性であり、短期間でケロイドや肥厚性瘢痕の赤みや盛り上がりが改善される傾向にあります。しかしながらステロイド注射には一定のリスクを伴うものであり、例えば、皮膚が薄くなる、色素沈着が起こる、そして繰り返し注射を行う場合には周辺組織の萎縮を引き起こす可能性があります。
またステロイド注射は単独で用いられるだけでなく、他の治療法と組み合わせて使用されることが多いです。例えば、シリコンゲルシートとの併用は、傷跡の平坦化をさらに促進する相乗効果が期待できます。また、レーザー治療と併せて行うことで、傷跡の赤みや目立ちやすい部分を効率的に改善するケースも少なくありません。
⑶レーザー治療
レーザー治療は、盛り上がった傷跡を平らにし、赤黒い変色を目立たなくすることが可能です。特に、顔や首など目立ちやすい部位の傷跡を消すために有効とされ、形成外科でも広く採用されています。
使用されるレーザーの種類には、瘢痕組織を削る炭酸ガスレーザーや、血管に作用して赤みを軽減するVビームレーザーなどがあります。これらは、瘢痕の状態によって選択され、治療が進むにつれ、見た目や柔らかさの変化を実感できることが期待されています。ただし、術後には発赤や腫れ等の副作用が生じるリスクがあるため、この点は留意しておく必要があります。
⑷医薬品を用いた治療
市販されているクリームやジェルは、傷跡の目立ちにくさをサポートするための選択肢として多く利用されています。特に、ケロイドや肥厚性瘢痕の改善を目指す場合、炎症を抑える成分や保湿効果を持つ製品が役立つことがあります。これらの製品では、ケロイドや傷跡の盛り上がりを和らげ、皮膚組織を柔らかく保つことで治癒を促進することが期待されます。ただし、効果の程度は個々の傷跡の状態や大きさに大きく依存します。軽度の瘢痕や傷跡であれば、市販の塗り薬でも目立ちにくくなるケースがありますが、使用前に商品の成分や使用方法を確認することが重要です。
⑸外科的治療
外科的治療は、肥厚性瘢痕やケロイドが重度の場合や他の治療法で十分な効果が得られない場合に選択される治療法です。特に、傷跡が目立つ部位や機能に制限を及ぼすような瘢痕の場合には、外科的手法による治療が必要となることがあります。この治療法では、傷跡を切除し、周囲の皮膚や組織を利用して修復することが主な目的となります。
外科手術は非常に精密な作業が求められるため、治療の難易度は傷跡の位置や大きさにより異なります。たとえば、顔など目立つ部分や、関節部位のように動きの多い箇所の傷跡を治療する場合には、特に慎重な処置が必要とされます。他にも、ケロイドや瘢痕拘縮が日常生活に影響を及ぼしている場合に適用されることがあるため、医師との綿密な相談が重要です。
また形成外科では、外科的治療だけでなく、手術後の傷跡を最小限に抑えるための最新技術が活用されています。たとえば、傷跡を目立たなくするためにレーザー治療を補助的に用いることや、微細な縫合技術を駆使して皮膚の張力を軽減する方法が採用されています。このような方法により、盛り上がりや変色を抑えることができ、治療後もより自然な仕上がりが期待できます。
また、皮膚移植や脂肪注入などの技術も、重度の傷跡に対して効果を発揮することがあります。これらの治療方法は、特に大きな傷跡や異常な盛り上がりがあるケロイドに適用されることが一般的です。形成外科の分野は日々進化しており、新たな技術やアプローチが次々と開発されているため、専門医との相談を通じて最適な治療法を選択することが重要です。
傷跡と自賠責保険における醜状障害の後遺障害等級
自賠責は、自動車損害賠償保障法施行令において、自賠責保険の補償対象となる後遺症について定めています。
醜状障害は、ケロイドが残ってしまった部位に応じて認定基準や認定される後遺障害等級が異なっています。この部位は大きく3つに分けることができ、下図のとおり、外貌・露出面・露出面以外(日常露出しない部位)となります。以下では、それぞれ部位別に後遺障害等級や認定基準を見ていきましょう。

⑴外貌醜状
「外貌」とは、頭部・顔面部・頚部といった日常露出している部分をいいます。頭部は通常髪の毛が生えている部分を指します。顔面部はいわゆる顔の部分を指し、下顎の骨の稜線と髪の毛の生え際で囲まれた部分をいいます。頚部は顔面部より下の日常露出している部分を指し、顎の下の部分は頚部に含まれます。
①別表第二第7級12号
「外貌に著しい醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。
まず頭部については、てのひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損が残った場合に該当します。
次に顔面部については、鶏卵大面以上の瘢痕、又は10円銅貨大以上の組織陥没が残った場合に該当します。
そして頚部については、てのひら大以上の瘢痕が残った場合に該当します。
なお、てのひらの大きさは個人差がありますので、通常、被害者本人のてのひらを目安にします。
一例として、交通事故により顔面部を広範囲で負傷し、顔面部の2分の1程度のケロイドが残存してしまったケースを考えますと、顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕が残存している場合に該当しますので、顔面部のケロイドについて第7級12号が認定されることとなります。
②別表第二第9級16号
「外貌に相当程度の醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう外貌の相当程度の醜状とは、顔面部に5㎝以上の線状痕が残った場合が該当します。
交通事故によって5㎝以上にわたる線状のケロイドが残存した場合には、この等級が認定される可能性があるでしょう。
③別表第二第12級14号
「外貌に醜状を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的な基準については、傷痕の残存箇所が頭部・顔面部・頚部のいずれかによって異なっています。
まず、頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損が残った場合に該当します。
次に顔面部については、10円硬貨大以上の瘢痕又は3㎝以上の線状痕が残った場合に該当します。
そして頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕が残った場合に該当します。
⑵露出面の醜状障害
①別表第二第14級4号
「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう「上肢の露出面」とは、肩関節以下(手部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について肘関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がある点に注意しておきましょう。例えば通勤中の交通事故(通勤労災)で後遺症を残した場合、自賠責に後遺障害等級の申請を行うこともできますし、労災を使用すれば、障害給付の支給請求を行うこともできます。前述のとおり自賠責と労災では「露出面」の定義が異なります(自賠責のほうが範囲が広い)ので、自賠責では等級に該当するものの労災では等級に該当しないという結果になる可能性もあります。
②別表第二第14級5号
「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当する場合に認定されます。
ここでいう「下肢の露出面」とは、股関節以下(足背部を含む)を指します。なお、労災では「上肢の露出面」の解釈について膝関節以下と定めており、自賠責と労災とで露出面の範囲に差異がありますので、上肢露出面の醜状障害と同様に、自賠責と労災とで認定される等級が異なる可能性もあります。
③別表第二第12級相当
上肢又は下肢の露出面に、てのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕を残した場合には、別表第二第14級4号又は第14級5号ではなく別表第二第12級相当が認定されます。複数の瘢痕や線状痕が残存する場合にはそれらの面積を合計して認定しますが、この場合、少なくともてのひら大以上の瘢痕に該当する程度の瘢痕や線状痕が1個以上残存している必要があります。裏を返すと、てのひら大に満たない瘢痕や線状痕のみが複数残存している場合は、仮にその合計がてのひら大の3倍程度以上であったとしても、第12級相当は認定されません。
⑶日常露出しない部位の醜状障害
自賠責において日常露出しない部位とは、上図のとおり、胸部・腹部、背部・臀部を指します。これらの部位の醜状については、別表第二備考6を適用し、相当等級が定められることとなります。なお、日常露出しない部位の定義もまた自賠責と労災で異なっており、労災では胸部・腹部、背部・臀部に加えて上腕部と大腿部も日常露出しない部位になります。この差異は、上肢・下肢の露出面の定義が異なることからくるものであり、つまるところ、「日常露出しない部位」=外貌及び上下肢の露出面以外の部位と考えてよいでしょう。
①別表第二第14級相当
胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の4分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第14級相当が認定されます。
②別表第二第12級相当
胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の2分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すものは、別表第二第12級相当が認定されます。
⑷等級認定に関する留意点
等級認定を行うに際し、2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算して等級が認定されます。ここでいう「相隣接」は、複数の醜状間の距離がおおむね1㎝以下であることとされています。つまり、1つ1つの瘢痕の大きさでは認定基準の大きさに届かなくても、それらが1㎝以下の距離で近接していれば、大きさを合算して等級認定判断がなされるため認定される可能性も出てくるということです。
また、眉毛や頭髪等に隠れ、人目につかない部分については、醜状として取り扱われません。
傷跡を消す治療を行う前に気を付けておきたいことは…
⑴自賠責保険の後遺障害との関係
自賠責は、自動車損害賠償保障法施行令において、自賠責保険の補償対象となる後遺症について定めており、補償対象となる後遺症のことを後遺障害と呼びます。後遺障害の一つに醜状障害があり、これは交通事故受傷によって残存した傷痕(醜状痕)につき一定の要件を満たしたときに認定されます。
傷跡の盛り上がりを消す治療は、醜状障害の等級認定とのかかわりがあるといえます。というのも、前述のとおり醜状障害は傷痕の残存を前提とする後遺障害であるため、レーザー治療や外科的治療等によって傷痕自体がなくなってしまった場合には等級認定されないこととなります。では、自賠責のことを考えると傷跡を消すような治療は行ってはいけないのか、という懸念が生じるかと思いますが、必ずしもそうとは言えません。一つ考えられるのは、自賠責保険への後遺障害等級の申請を先行する方法です。すなわち、事故後に治療をして症状固定(それ以上治療をしても症状が改善しない状態)を迎えた際にまず自賠責保険への請求を行い、傷痕が後遺障害に該当するかどうかを自賠責に判断してもらい、そして自賠責の等級認定判断が確定したのちに、外科的治療等を行い傷痕を消す、ということです。そうすることで、交通事故による後遺症について適切な補償を受けられる可能性が高くなります。
⑵相手方に対する損害賠償請求との関係
傷跡の盛り上がりを消す治療を行うかどうか判断するにあたっては、交通事故の相手方に対する損害賠償請求との関係で気を付けておくべきことがいくつかあります。
まずは治療費についてです。損害賠償請求では通常、治療費を請求することができますが、必ずしもすべての治療費が支払われるとは限りません。何故ならば、必要性及び相当性がないと判断される治療費については否定される可能性があるからです。例えば、症状に見合わない過剰な施術や必要のない検査を繰り返すような過剰診療であったり、診療行為に対する報酬額が特段の事由がないにもかかわらず社会一般の診療費水準に比して著しく高額である高額診療が挙げられます。そして、美容外科的治療もまた必要性・相当性につき疑義が生じることが多く、保険適用外であるケースもあるため否認されることがあります。すべての治療費について支払がなされない可能性もありますので、この点は留意しておく必要があります。
また、傷痕を消す治療を行うタイミングによっては、後遺障害についての賠償がなされない可能性もあります。損害賠償請求の実務上、自賠責保険において等級が認定されれば、治療費や傷害慰謝料などの費目に加えて、後遺症逸失利益や後遺症慰謝料を請求することができるようになります。しかし、示談や裁判等で損害賠償金を受け取る前に美容外科的治療を行い傷痕を消した場合、示談・裁判等の過程において後遺障害(傷痕)の実際の残存状況について確認を求められた際に後遺障害がなくなっていることと判断され、逸失利益や後遺症慰謝料の発生自体が否認される可能性があるのです。そのため、美容外科的治療を行う場合は、自賠責保険の等級認定の申請が終わり、示談や裁判で損害賠償金を受け取り事件が解決してから行うことをおすすめします。
おわりに

本稿では、傷痕の盛り上がりを消す治療と損害賠償請求の関係について解説いたしました。
弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております。
交通事故により醜状障害を残し、後遺障害等級や損害賠償請求のこと等でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。
また、小杉法律事務所では顔の傷に関する後遺障害や損害賠償請求の解決実績もございます。詳しくは下記リンクをご覧ください。
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