骨折
前腕の骨折
2020.08.08
①橈骨骨幹部骨折
(1)概要
橈骨(前腕の親指側の骨)の中央部付近を骨折した状態です。
(2)症状
骨折部位の疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、手首の可動域制限、変形癒合、偽関節、橈骨神経麻痺
(3)認定されうる後遺障害等級(疼痛等感覚障害を除く)
後遺障害等級第7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
後遺障害等級第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
後遺障害等級第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
後遺障害等級第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
橈骨骨幹部骨折は、まずはレントゲンで確認します。しかしながら、症状固定時にきちんと癒合しているか、癒合しているとしても不整癒合や変形癒合がないかは、CTで確認する必要があります。また、場合によっては、骨折の転位が高度で、偽関節化してしまっている場合もあります。そのため、医学上の必要性がないなどの事情がない限り、少なくとも初診時付近と症状固定時付近には、CT撮影をご担当医師にご依頼いただくことをお勧めします。
イ 電気生理学的検査
橈骨骨幹部部分には、橈骨神経という神経が走行しており、橈骨の骨折に併発してこの神経が損傷すると、神経損傷の部位によって下垂手(手がだらんとしたに下がってしまう状態)や下垂指(指がだらんとしたに下がってしまう状態)が生じます。特徴的なのは、知覚などの感覚障害は生じないという点です。あくまでも運動障害のみが生じるのが一般的とされています。
橈骨神経麻痺を医学的に証明する手段として、後遺障害等級認定実務では、神経伝達速度検査などの電気生理学的検査にて異常が認められることが必要と考えられています。
(5)注意点
① 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。
一般に、骨幹部骨折は、レントゲンで経過を追います。そのため、症状固定を迎えても、ふたを開ければCTは初回ないしは手術後のみ撮影されており、症状固定時付近には撮影されていないことが多々あります。そのため、症状固定時ないしは症状固定に近い時期に、主治医の先生にCT撮影をお願いしましょう。
② 橈骨神経麻痺が生じていないか確認する。
(4)のとおり、橈骨神経麻痺が疑われる場合には、電気生理学的検査を施行していただく必要があります。この検査機器はどこにでもあるものではないですし、検査技師の腕にも左右される検査手法ですので、主治医の先生と相談して、早めの検査予約をお願いしたほうが良いと考えます。
③ 偽関節、変形障害の隠れた要件
偽関節は、簡単に言うと、関節でない部分が関節化してしまった、という状態を指します。癒合不全の状態を「偽関節化」と診断してくださる医師もいらっしゃいますが、癒合不全の状態と偽関節の状態とは、後遺障害の認定実務上は、厳密には異なります。「癒合不全の状態が高度で、関節でない部分が関節化してしまっている状態」が認定実務上の偽関節の状態なので、単に診断書に「偽関節化」と書いているから偽関節の後遺障害等級に該当すると軽信するのではなく、以上の状態に達しているかを確認する必要があります。
同様に、変形障害についても「骨が盛り上がって癒合してしまった」という状態では、仮に変形障害の要件(15度以上屈折して不正ゆ合したもの)が備わっていたとしても、後遺障害の認定実務上は、変形障害とは認められないことが多いです。変形障害は、「変形を残すに足る骨折態様」が隠れた要件とされていると考えられており、転位の有無などを確認して変形を残すに足る骨折態様だったことを立証する必要があります。
②橈骨遠位端骨折
(1)概要
橈骨の手首付近を骨折した状態です。
(2)症状
骨折部位の疼痛、腫脹、手関節の可動域制限、変形癒合、偽関節
(3)認定されうる後遺障害等級
後遺障害等級第7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
後遺障害等級第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
後遺障害等級第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
後遺障害等級第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT
橈骨遠位部骨折の有無は、まずはレントゲンで確認します。しかしながら、レントゲンでは癒合しているか否かの確認はできても、癒合状態に不整や変形があるかの確認ができない場合がありますので、症状固定時にきちんと癒合しているか、癒合しているとしても不整癒合や変形癒合がないかは、CTで確認する必要があります。そのため、医学上の必要性がないなどの事情がない限り、少なくとも初診時付近と症状固定時付近には、CT撮影をご担当医師にご依頼いただくことをお勧めします。
イ MRI
橈骨遠位部骨折が起こった場合、手関節に関係する組織で、靭帯にも損傷が及んでいることがあります。骨折の程度が重度だと、骨折に隠れて靭帯損傷などが見逃される可能性もあります。手首のぐらつきがある場合や、手首の腫れがひかない場合には、軟部組織の損傷を確認するため、MRIの撮影を主治医の先生にお願いしましょう。MRIでは、亀裂骨折の有無、外傷後疼痛が持続する骨端線損傷の解析、高度外傷後の骨絵師の状態の把握などに役立つ場合もあります。
(5)注意点
① 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。
一般に、橈骨遠位部骨折は、レントゲンで経過を追います。そのため、症状固定を迎えても、ふたを開ければCTは初回ないしは手術後のみ撮影されており、症状固定時付近には撮影されていないことが多々あります。そのため、症状固定時ないしは症状固定に近い時期に、主治医の先生にCT撮影をお願いしましょう。
② 受傷当初の外傷所見を確認する。
橈骨遠位部骨折の場合、医学的には比較的重傷事案となり、外傷であることに疑いがないとも思われがちです。しかしながら、手関節は、日常生活はもちろん、スポーツや仕事でもよく使う部位ですので、もともと多少の損傷があったり、手関節の裂隙と呼ばれる隙間が狭くなっていて変形が生じてしまっていたりする場合が少なくありません。その場合には、救急搬送記録や初診時の診療録などから、受傷当時に腫脹があったか等の確認と指摘によって、橈骨遠位部骨折が事故によるであることを裏付ける必要があります。
③ 軟部組織の損傷を見逃さないようにする。
骨折事案一般に共通しますが、骨折の場合は骨癒合の完了と、日常生活レベルの向上(日常生活への馴化)が医師の重大な使命となります。一方で、靭帯損傷や筋損傷などは、MRIでなければ発見することが難しいとされており、橈骨遠位部骨折の一般的な治療経過では、見逃される可能性もあります。そもそも、靭帯損傷は、手首のぐらつきなどを主治医の先生に訴えないと主治医の先生も靭帯損傷を疑う機序にかけてしまうので、ぐらつきや不安定性があれば、主治医の先生に的確に伝えることが重要です。
④ 機能障害や変形障害の後遺障害等級について
一般的には、橈骨遠位部骨折の場合に、機能障害が残存することは多くないと言われています。主治医の先生が、QOLの観点から、機能障害が残存しないようにリハビリを行うからです。後遺障害等級認定要件との関係では、明示的な要件ではないのですが、機能障害の場合には「高度な可動域制限を残す器質的原因」が要求されています。既に述べたとおり、主治医の先生は高度な可動域制限を残さないように治療をしますので、後遺障害等級認定との関係においても、機能障害が認定されることは多くないのです。
ただし、橈骨遠位部骨折の場合には、強い痛みが長時間続くことによって、関節が拘縮して、その結果機能障害につながる、ということも考えられます。つまり、外傷→機能障害という上のメカニズムではなく、外傷→不動→拘縮・機能障害、という因果経過をたどることになります。その場合でも機能障害が認定される可能性はありますので、主治医の先生には関節拘縮の有無や原因を確認しておきましょう。
また、変形障害は、基本的には、骨幹部骨折の場合にありうるとされています。ご年齢や仕事での多様によって手関節が変形することはあっても、外傷によって、かつ治療を行っても手関節が変形したまま、ということは考え難いのです。
⑤ 合併症を見逃してはならない。
橈骨遠位端骨折には、正中神経損傷、手根管症候群。腱皮下断裂、尺骨茎状突起骨折、遠位橈尺関節脱臼、拘縮といった病状が合併する可能性があります。以下では、簡単に各内容と注意点を記載します。
・正中神経損傷:正中神経という手の親指から掌側を支配する神経が橈骨骨折後の骨転位などにより圧迫、牽引されて神経表面の圧挫あるいは部分断裂を生じることがあります。ただし、一過性に神経伝導障害は生じますが、経時的に回復していく例が大半だとされています。
・手根管症候群:早期は第2指と第3指にしびれなどの感覚障害が出る場合が多いとされています。正中神経損傷との鑑別診断が重要ですので、橈骨遠位端骨折後に手指がしびれる場合には、迷わず主治医の先生にお伝えして処置を受けましょう。
・腱皮下断裂:骨折により直接断裂をすることは稀で、外固定が施された以降に「母指の伸展ができない」という症状で自覚することが多いとされています。一見、手首と母指は関係ないように見えても、こちらも橈骨遠位端骨折後の合併症の一つです。
・尺骨茎状突起骨折:裂離骨折の場合に多いとされていて、親指側である橈骨遠位端骨折が骨折したことに伴い、TFCCという三角繊維軟骨複合体を介して尺骨茎状突起骨折が併発することがあります。尺骨遠位端骨折の箇所でも記載しておりますとおり、尺骨茎状突起部分が骨折すると、その態様によってはTFCC損傷が起こるので、MRIなどで軟部組織の状態を確認することが必要となります。
・遠位橈尺関節脱臼:尺骨頭の背・掌側への脱臼・亜脱臼、遠位方向への亜脱臼、及び異常回旋可動性の3方向への不安定性を伴うとされています。単純X線では見落とされやすいので、手首の不安定性を感じた場合には、CTに加えてMRIで、靭帯損傷の有無に加えて当該脱臼の有無を確認されることが重要となります。
③尺骨骨幹部骨折
(1)概要
尺骨(前腕の小指側の骨)の中央部付近を骨折した状態です。
橈骨と同じく、尺骨側に尺骨神経という神経が走行しています。肘より上のレベルの外傷による傷害では麻痺の程度はさまざまですが、前腕の尺側と小指・環指小指側1/2の掌背側の感覚障害と環小指の屈曲障害、母指球を除く手の中の筋肉が麻痺し巧緻運動障害が生じるとされています。かぎ爪変形も生じることがあります。
橈骨神経麻痺では運動障害(下垂手等)が代表的なのに対して、尺骨神経麻痺は感覚障害が代表的な症状(ただし、かぎ爪変形が生じるなど運動障害もあります。)となっています。
(2)症状
骨折部位の疼痛、腫脹、手関節の可動域制限、変形癒合、偽関節、尺骨神経(小指側の感覚と手指・手首の運動を支配) 麻痺
(3)認定されうる後遺障害等(疼痛等感覚障害を除く)
後遺障害等級第7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
後遺障害等級第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
後遺障害等級第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
後遺障害等級第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT・MRI
尺骨骨幹部骨折は、まずはレントゲンで確認します。しかしながら、症状固定時にきちんと癒合しているか、癒合しているとしても不整癒合や変形癒合がないかは、CTで確認する必要があります。また、場合によっては、骨折の転位が高度で、偽関節化してしまっている場合もあります。そのため、医学上の必要性がないなどの事情がない限り、少なくとも初診時付近と症状固定時付近には、CT撮影をご担当医師にご依頼いただくことをお勧めします。
イ 電気生理学的検査
尺骨骨幹部部分には、尺骨神経という神経が走行しており、尺骨の骨折に併発してこの神経が損傷すると、損傷箇所によりけりですが、主に小指側に感覚異常が生じます。特徴的なのは、主症状は感覚障害で、この点で橈骨神経麻痺と鑑別されます。なお、かぎ爪などの運動障害が生じることがあります。
尺骨神経麻痺を医学的に証明する手段として、後遺障害等級認定実務では、神経伝達速度検査などの電気生理学的検査にて異常が認められることが必要と考えられています。
(5)注意点
① 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。
一般に、骨幹部骨折は、レントゲンで経過を追います。そのため、症状固定を迎えても、ふたを開ければCTは初回ないしは手術後のみ撮影されており、症状固定時付近には撮影されていないことが多々あります。そのため、症状固定時ないしは症状固定に近い時期に、主治医の先生にCT撮影をお願いしましょう。
② 尺骨神経麻痺が生じていないか確認する。
(4)のとおり、尺骨神経麻痺が疑われる場合には、電気生理学的検査を施行していただく必要があります。この検査機器はどこにでもあるものではないですし、検査技師の腕にも左右される検査手法ですので、主治医の先生と相談して、早めの検査予約をお願いしたほうが良いと考えます。
③ 偽関節、変形障害の隠れた要件
偽関節は、簡単に言うと、関節でない部分が関節化してしまった、という状態を指します。癒合不全の状態を「偽関節化」と診断してくださる医師もいらっしゃいますが、癒合不全の状態と偽関節の状態とは、後遺障害の認定実務上は、厳密には異なります。「癒合不全の状態が高度で、関節でない部分が関節化してしまっている状態」が認定実務上の偽関節の状態なので、単に診断書に「偽関節化」と書いているから偽関節の後遺障害等級に該当すると軽信するのではなく、以上の状態に達しているかを確認する必要があります。
同様に、変形障害についても「骨が盛り上がって癒合してしまった」という状態では、仮に変形障害の要件(15度以上屈折して不正ゆ合したもの)が備わっていたとしても、後遺障害の認定実務上は、変形障害とは認められないことが多いです。変形障害は、「変形を残すに足る骨折態様」が隠れた要件とされていると考えられており、転位の有無などを確認して変形を残すに足る骨折態様だったことを立証する必要があります。
④尺骨遠位端骨折
(1)概要
尺骨の手首付近を骨折した状態です。
(2)症状
骨折部位の疼痛、腫脹、手関節の可動域制限、変形癒合、偽関節
(3)認定されうる後遺障害等級(疼痛等感覚障害)
後遺障害等級第7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
後遺障害等級第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
後遺障害等級第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
後遺障害等級第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
(4)必要な検査など
ア レントゲン・CT
尺骨遠位部骨折の有無は、まずはレントゲンで確認します。しかしながら、レントゲンでは癒合しているか否かの確認はできても、癒合状態に不整や変形があるかの確認ができない場合がありますので、症状固定時にきちんと癒合しているか、癒合しているとしても不整癒合や変形癒合がないかは、CTで確認する必要があります。そのため、医学上の必要性がないなどの事情がない限り、少なくとも初診時付近と症状固定時付近には、CT撮影をご担当医師にご依頼いただくことをお勧めします。
イ MRI
尺骨遠位部骨折が起こった場合、手関節に関係する組織で、軟骨や靭帯にも損傷が及んでいることがあります。骨折の程度が重度だと、骨折に隠れて軟骨損傷や靭帯損傷などが見逃される可能性もあります。手首のぐらつきがある場合や、手首の腫れがひかない場合には、軟部組織の損傷を確認するため、MRIの撮影を主治医の先生にお願いしましょう。TFCCと呼ばれる三角繊維軟骨複合体の損傷は、事故による外傷性のものか否かが争われやすいので、小指側の手首が痛かったり、ドアノブを回す動作やペットボトルを開ける動作に痛みを伴う場合には、早期のMRI撮影が重要です。
(5)注意点
① 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。
一般に、尺骨遠位部骨折は、レントゲンで経過を追います。そのため、症状固定を迎えても、ふたを開ければCTは初回ないしは手術後のみ撮影されており、症状固定時付近には撮影されていないことが多々あります。そのため、症状固定時ないしは症状固定に近い時期に、主治医の先生にCT撮影をお願いしましょう。
② 受傷当初の外傷所見を確認する。
尺骨遠位部骨折の場合、医学的には比較的重傷事案となり、外傷であることに疑いがないとも思われがちです。しかしながら、手関節は、日常生活はもちろん、スポーツや仕事でもよく使う部位ですので、もともと多少の損傷があったり、手関節の裂隙と呼ばれる隙間が狭くなっていて変形が生じてしまっていたりする場合が少なくありません。その場合には、救急搬送記録や初診時の診療録などから、受傷当時に腫脹があったか等の確認と指摘によって、尺骨遠位部骨折が事故によるであることを裏付ける必要があります。
③ 軟部組織の損傷を見逃さないようにする。
骨折事案一般に共通しますが、骨折の場合は骨癒合の完了と、日常生活レベルの向上(日常生活への馴化)が医師の重大な使命となります。一方で、靭帯損傷や軟骨損傷などは、MRIでなければ発見することが難しいとされており、尺骨遠位部骨折の一般的な治療経過では、見逃される可能性もあります。
ずっと手首が痛かったが、事故から半年後に初めてMRIを撮影したため、軟骨損傷が事故によるものか否か定かではない、と判断された事例も多くあります。
④ 機能障害や変形障害の後遺障害等級について
一般的には、尺骨遠位部骨折の場合に、機能障害が残存することは多くないと言われています。主治医の先生が、QOLの観点から、機能障害が残存しないようにリハビリを行うからです。後遺障害等級認定要件との関係では、明示的な要件ではないのですが、機能障害の場合には「高度な可動域制限を残す器質的原因」が要求されています。既に述べたとおり、主治医の先生は高度な可動域制限を残さないように治療をしますので、後遺障害等級認定との関係においても、機能障害が認定されることは多くないのです。
ただし、尺骨遠位部骨折の場合には、強い痛みが長時間続くことによって、関節が拘縮して、その結果機能障害につながる、ということも考えられます。つまり、外傷→機能障害という上のメカニズムではなく、外傷→不動→拘縮・機能障害、という因果経過をたどることになります。その場合でも機能障害が認定される可能性はありますので、主治医の先生には関節拘縮の有無や原因を確認しておきましょう。
また、変形障害は、基本的には、骨幹部骨折の場合にありうるとされています。ご年齢や仕事での多様によって手関節が変形することはあっても、外傷によって、かつ治療を行っても手関節が変形したまま、ということは考え難いのです。
⑤ TFCCを見逃してはならない。
手首の靭帯損傷のコラムでも述べましたが、手首の尺側の骨折は、TFCC損傷を併発していることがあります。TFCC損傷は、MRIの撮影が遅れることにより確定診断時期が遅くなったりすることが原因で、事故と因果関係がある損傷といえるかが争点となることが多い損傷です。適時にMRIを撮影し、また、尺側側手関節の受傷を裏付ける証拠資料をそろえたうえで、後遺障害申請を行いたい傷病です。