後遺障害
嗅覚障害の検査方法はどんなものがある?等級認定のポイントも合わせて解説
2023.11.24
1.嗅覚障害の検査について
嗅覚障害の程度を測定する検査はいろいろなものがありますが、自賠責保険の後遺障害認定との関係において重視されるのは、①T&Tオルファクトメータ、②アリナミン静脈注射による静脈性嗅覚検査(「アリナミンF」を除く。)があります。それぞれ詳しくみていきましょう。
自賠責保険における嗅覚障害の等級についての解説はこちら
1.T&Tオルファクトメータ
T&Tオルファクトメータは、標準的嗅覚検査として用いられるものであり、以下のようなA~Eの5種類の基準臭を用いて検査を行います。
符号 | においを表す言葉 |
A | バラの花のにおい、軽くて甘いにおい |
B | 焦げたにおい、カラメルのにおい |
C | 汗くさいにおい、古靴下のにおい |
D | 桃の缶詰、甘く重いにおい |
E | 野菜のくずのにおい、嫌なにおい、糞臭 |
各臭素には、-2~5の8段階の濃度が作られます(ただし基準臭Bのみ-2~4の7段階の濃度。)。数値が大きくなるにつれてにおいが強くなります。
また、0が標準濃度とされており、これは正常嗅覚者が検知できる濃度を指します。
検査方法としては、におい紙に低濃度の臭素から順次高濃度に変えていき、被験者がにおいを検知できる濃度、においを認知できる濃度をそれぞれ測定します。
なお、ここでいう「検知できる」とは、「初めて何かにおいを感じられたとき」を、「認知できる」とは「何のにおいであるかを判断できるとき」をいいます。
そして、検知できた濃度と認知できた濃度をそれぞれオルファクトグラムに記入していくかたちとなります。
これを、基準臭Aから始めて、順次B、C、D、Eと検査していき、各臭素における検知閾値と認知閾値を測定します。
A~Eすべての臭素での検査が終わったら、その測定結果を用いて嗅覚障害の程度を評価します。
評価にあたっては、各臭素における認知閾値の合計を5で割って得られた数値が下表のどの段階にあたるかを確認します。
なお、濃度5を感じることができなかった場合、その臭素については6として計算されます(Bのみ最高度が4のため5として計算されます)。
認知閾値の平均値 | 嗅覚障害の程度 | 感覚 |
-1.0~1.0 | 正常 | においを正常に感じると思う |
1.1~2.5 | 正常又は軽度減退 | においはするが弱い感じ |
2.6~4.0 | 中等度減退 | 強いにおいは分かる |
4.1~5.5 | 高度減退 | 殆どにおいがしない |
5.6以上 | 脱失 | 全くにおいがしない |
自賠責保険における嗅覚障害では、2.6~5.5(上表の青ゾーン)の場合は嗅覚減退、5.6以上(上表赤ゾーン)の場合は嗅覚脱失に対応することとなります。
自賠責保険における嗅覚障害の等級についての解説はこちら
2.アリナミン静脈注射による静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)
アリナミン静脈注射による静脈性嗅覚検査は、アリナミン注射液を静脈内に注射し、注射後被験者がアリナミン臭(特有のニンニク臭)を初めて感じ取るまでの時間(潜伏時間といいます)と、そのにおいが消失するまでの時間(持続時間といいます)を測定するものです。
なお、アリナミンFはにおいを弱めた製品であることから、本検査で用いるには適しないとされています。
この検査でにおいを感じることができれば、嗅覚機能が残存していることを確認することができます。
嗅覚正常者の潜伏時間の平均は8秒、持続時間の平均が70秒であることから、嗅覚障害があると潜伏時間は平均より長くなり、持続時間は平均より短くなります。
なお自賠責において、嗅覚脱失の場合には、本検査による検査所見のみをもって確認しても差し支えないとされています。
自賠責保険における嗅覚障害の等級についての解説はこちら
2.自賠責の等級認定とのかかわり
自賠責において後遺障害と認定されるためには、単に嗅覚障害があるだけではなく、その後遺症と事故との間に相当因果関係が存在することが立証されなければなりません。
換言すれば、客観的証拠を残しておかなければ、仮に嗅覚障害が残ったとしても、後遺障害として等級認定されない可能性があるのです。
そのため、事故後に急にもののにおいがしなくなった等の症状がある場合は、なるべく早めに専門医の診察を受け、MRIやCTを撮影しておくのがよいでしょう。
後遺障害等級の認定を受けるにあたっては、治療中の動きも重要になってくるので、後遺障害に詳しい弁護士に相談されてみるのもよいかもしれません。