交通事故コラム

後遺障害

脊髄損傷|脊髄の損傷範囲と感覚障害の発症にはどのような関係性が?【弁護士解説】

2024.04.19

 

外傷によって脊髄を損傷することを脊髄損傷といいますが、損傷の程度や状況によって多くの分類がなされています。

その一つとして、脊髄横断面(輪切りの断面)における損傷範囲による分類というのがあります。損傷範囲によって障害の発生の仕方や態様が異なることから、この分類がなされています。

本稿では、脊髄横断面における損傷範囲に基づく分類と、各損傷パターンにおける感覚障害の現れ方について、弁護士が解説していきます。

脊髄損傷の横断面での分類

まず、脊髄横断面がどのようになっているかについて解説します。

以下の図は、脊髄横断面のイラストになります。

中央にあは灰白質と呼ばれる部分があり、灰白質を包むように白質があります。

白質には、外側脊髄視床路や外側皮質脊髄路などがあり、そして背側には後索という部分があります。

灰白質外側脊髄視床路は、皮膚にある感覚神経で感じ取った表在感覚の信号を、脊髄を通して脳に伝達する際の経路になります。

また、後索は、深部感覚の信号を脊髄を通して脳に伝達する際に通過する経路です。

なお、外側皮質脊髄路は、脳から手足などに送られる運動神経に関する信号が通る経路になります。

 

そして、横断面における損傷類型は、まず大きく2つに分けられ、一つが完全損傷(横断面損傷)、もう一つが不全損傷となります。

完全損傷は文字通り横断面全体を損傷していることを指し、一方で不全損傷は、横断面の一部を損傷していることをいいます。

不全損傷は更に4つのパターンに類型化されており、それが①前部脊髄損傷②後部脊髄損傷③脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)④中心性脊髄損傷の4つです。以下では、完全損傷及び4つの不全損傷について、図とともに解説していきます。

⑴完全損傷(横断性損傷)

完全損傷(横断性損傷)は、下図のように、脊髄横断面全体を大きく損傷したものをいいます。

完全損傷の場合、損傷高位より下の領域において、運動神経、感覚神経ともに大きな障害が発生します

運動神経については、手足を動かすなどといった運動神経に関わる信号が、損傷高位より下に届かなくなるため、完全麻痺となることがほとんどです。とりわけ頚髄において完全損傷となった場合は、完全麻痺に加えて呼吸器停止も伴うため、最悪の場合死に至る可能性もあります。

⑵不全損傷①―前部脊髄損傷

前部損傷は、下図のように、灰白質や外側脊髄視床路、外側皮質脊髄路等の周辺を損傷したものをいいます。

この場合も、運動神経伝達に関わる外側皮質脊髄路が損傷されているため、不全麻痺が生じる可能性があるほか、表在感覚について障害が発生します。一方、深部感覚の伝導路である後索は損傷されていないため、深部感覚については障害は生じません。なお、表在感覚、深部感覚については、「2.感覚障害について」の項で解説します。

⑶不全損傷②―後部脊髄損傷

後部損傷は、下図のように、後索の周辺を損傷したものをいいます。

後部脊髄損傷の場合、運動神経の伝導路である外側皮質脊髄路や、表在感覚の伝導路である灰白質、外側脊髄視床路には損傷がないため、不全麻痺や表在感覚障害は現れません。他方、深部感覚の伝導路である後索が損傷されているので、深部感覚障害が生じます

⑷不全損傷③―脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)

脊髄半側損傷は、ブラウン・セカール型損傷と呼ばれることもあり、下図のように、脊髄の左右どちらか半分を損傷したものをいいます。

脊髄半側損傷の場合、完全損傷や前部脊髄損傷、後部脊髄損傷などと比べて、複雑な症状を呈することとなります。

運動神経については、損傷高位より下の損傷側に脳からの運動神経の信号が届かなくなるため、損傷側に麻痺が現れます

感覚神経について、損傷高位より下位の損傷側とは反対の側に表在感覚障害が現れ、損傷高位より下位の損傷側に深部障害が現れます

⑸不全損傷④―中心性脊髄損傷

中心性脊髄損傷は、下図のように、脊髄の中心部周辺を損傷したものをいいます。

中心性脊髄損傷は頚髄において生じる例が多くみられます。受傷の原因として多いのが、追突事故などの交通事故であり、急激に追突されることで首が大きく前後に振れ、その際に首が不自然に大きく後ろに反り返った状態(過伸展といいます)が生じることにより、首の部分に位置する脊髄である頚髄(頸髄)の中心部が損傷されます

 

中心性脊髄損傷の場合、灰白質の損傷が目立ちます。

そして症状としては、多彩な感覚障害が生じることが多いです。

また、運動神経について、一般的に脊髄損傷を負傷すると上肢よりも下肢に強い麻痺が生じることが多いのですが、中心性脊髄損傷では下肢よりもむしろ上肢に強い麻痺が生じることになります

感覚障害について

人間には、感覚神経が存在しており、表在感覚と深部感覚に大別されます。以下では、これらについて解説していきます。

⑴表在感覚

表在感覚とは、温度覚や痛覚、触覚など、皮膚や粘膜により感じ取るものをいいます。

表在感覚は、末梢神経で受けた刺激が、末梢神経から脳に向かって伝達された信号が脳に伝わることにより感じるものです。例えば、右手で雪を触ったとき、「冷たい」という信号が、手の皮膚にある末梢神経から脊髄の灰白質や外側脊髄視床路を経由して脳に伝わることにより、「雪が冷たい」と認識できることになります。

末梢神経から温痛覚の信号が伝達されて脊髄に入ったとき、灰白質の背側にあるとがった形のところ(後角といいます)から灰白質中心部を通り、クロスするような形で反対側の外側脊髄視床路に行き、そして脳に向かって上行していきます。前述の例でいいますと、右手皮膚の末梢神経から脊髄に来た信号は、右側の後角から灰白質に入り、中心部を通って左側の外側脊髄視床路に行き、脳に向かっていく、ということになります。

⑵深部感覚

深部感覚とは、位置覚、振動覚といった、筋や腱、靭帯などに対する接触や刺激、運動から生じる感覚であり、これによって人間は、自分の手足の位置や運動方向、振動などを感じることができます。

深部感覚は、筋肉や骨などから、脊髄を通り脳に信号が送られることで感じ取ることができるものです。末梢神経から伝達されてきた信号は、脊髄に到着するとそのまま後索に入り、脳に向かって信号が進んでいきます。そして、延髄下部で信号は反対側に交叉し、やがて脳に伝わります。ちょっと細かい話になりますが、例えば、右足に振動があったときに、右足の筋肉や骨などの神経から、振動に関する信号が脳に向かって送られます。脊髄に入る際はそのまま右側の後索に入って脳に向かって進んでいきますが、延髄下部に到着したタイミングで、これまで右側の経路で来ていたところ、左脳に信号を伝える必要があることから伝達経路が突然左側に交叉するかたちとなり、やがて左脳に信号が到達し振動を認識することができる、といった流れになります。

損傷範囲と感覚障害発生範囲の関係

以下では、各損傷範囲のパターンと、表在感覚や深部感覚の感覚障害が発生する範囲との関係について解説していきます。

なお、表在感覚について、厳密に言うと温度覚・痛覚と、触覚とでは伝達経路が異なります。しかし、そこまで立ち入ると説明が非常に複雑になりますので、以下では「表在感覚」=「温度覚・痛覚」という意味合いで用いることとします。

⑴完全損傷(横断性損傷)

完全損傷の場合、下図のようなかたちで感覚障害が現れます。

損傷高位より下位から脳に向かって伝達された表在感覚や深部感覚の信号は、伝達経路である脊髄が損傷されていることにより信号を脳まで届けることができなくなるため、損傷高位より下位の髄節が支配する領域において表在感覚障害や深部感覚障害が生じることになります。また、表在感覚障害と深部感覚障害が生じる範囲は同一となります。

⑵不全損傷①―前部脊髄損傷

前部脊髄損傷の場合、下図のようなかたちで感覚障害が現れます。

前部脊髄損傷では、表在感覚の信号の伝達経路である灰白質や外側脊髄視床路が障害されていることから、損傷高位より下位の髄節支配領域において表在感覚障害が現れます。他方、深部感覚の信号の伝達経路である後索は障害されていないため、深部感覚の信号は通常どおり脳に到達するので、深部感覚障害は生じません

⑶不全損傷②―後部脊髄損傷

後部脊髄損傷の場合、下図のようなかたちで感覚障害が現れます。

 

後部脊髄損傷の場合、表在感覚の信号の伝達経路である灰白質や外側脊髄視床路は障害されていないので、表在感覚の信号は通常どおり脳に到達することができ、したがって表在感覚障害は現れません。他方、深部感覚の信号の伝達経路である後索が障害されているため、損傷高位より下位の髄節支配領域から脳に向かって伝達される深部感覚の信号は脳に届かなくなります。結果として、損傷高位より下位において深部感覚障害が生じることとなります

⑷不全損傷③―脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)

脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)の場合、下のように半側を損傷しているとすると、2つめの図のようなかたちで感覚障害が現れます。

 

まず、表在感覚について考えていきましょう。

向かって右半分の脊髄横断面が損傷されていることがわかります。言い換えると、向かって右半分にある灰白質や外側脊髄視床を伝達経路とする信号は、脳に届かなくなるということです。

このとき、損傷高位より下位の髄節における表在感覚の信号の動きを考えてみましょう。2の⑴で解説したように、表在感覚の信号は脊髄内において灰白質内でクロスするように伝達され、外側脊髄視床路から脳に向かい上行します。つまり、損傷高位より下位の、半側脊髄損傷側の対側からの表在感覚の信号は、損傷高位における障害側の外側脊髄視床路を通ることになります。ですが、損傷高位の外側脊髄視床路は損傷されているため信号が通過することができなくなり、結果として上図の青斜線部のように、損傷高位より下位の障害側の対側に表在感覚障害が現れることとなります。

では、深部感覚はどうなるでしょうか。2の⑵に述べたように、深部感覚の脊髄内の伝達経路は後索になります。

そして、1つめの図からすると、向かって右半分にある後索を伝達経路とする信号は、脳に届かなくなるということです。

損傷高位より下位の髄節支配領域から伝達されてくる深部感覚の信号は、脊髄内で後索に入るとそのまま上行していく経路となることから、半側脊髄損傷側の損傷高位より下位の深部感覚の信号は、障害された後索を通過することができなくなります。したがって、損傷高位より下位の障害側に深部感覚障害が現れることとなります。

そのため、2つめの図のように、表在感覚障害と深部感覚障害が生じる領域が異なることになります

表在感覚と深部感覚の信号が脊髄内で交叉する箇所が異なる(表在感覚は末梢神経から信号を受け取った脊髄高位内、深部感覚は延髄下部)ことにより、それぞれの障害が現れる領域も異なってくるのです。

⑸不全損傷④―中心性脊髄損傷

中心性脊髄損傷の中でもとりわけよく見られる中心性頚髄損傷の場合ですと、下図のようなかたちで感覚障害が現れます。

外側脊髄視床路は、さらに細かく見ると、内側から頚髄から脳への信号伝達経路、胸髄から脳への伝達経路、腰髄から脳への伝達経路、仙髄から脳への伝達経路の順に経路が並んでいる構造となっています。

ここで、中心性頚髄損傷を負うと、頚髄から脳への信号伝達は障害される一方、胸髄や腰髄、仙髄から脳への伝達経路は依然として通常どおりとなります。

また、中心性損傷で損傷されるのは主に灰白質や外側脊髄視床路(の中心部に近い側)であることから、伝達経路が障害されるのは表在感覚のみになります。

そのため、頚髄の感覚支配領域である上肢や体幹部分について、表在感覚障害が現れることになります。

感覚障害と後遺障害等級

交通事故で脊髄損傷を負い、感覚障害等の後遺症が残った場合、自賠責に、後遺障害に係る自賠責保険金を請求できる可能性があります。

脊髄損傷は、主に①麻痺の程度や範囲、②介護の要否や程度に応じて等級認定がなされる運用とされていますが、実際にはこれらの要素だけで認定されるわけではなく、残存している感覚障害の程度や、脊髄損傷を負傷したときに生じることが多い神経因性膀胱障害や直腸障害など、諸般の後遺症の程度や状況等も考慮の上で等級認定がなされています。以下では、脊髄損傷の場合において定められている後遺障害等級を解説していきます。

⑴別表第一第1級1号

脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺、神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形等が認められるもの

⑵別表第一第2級1号

脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために、立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに、軽度の神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形が認められるもの

⑶別表第二第3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷別表第二第5級2号

脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸別表第二第7級4号

脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために、杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑹別表第二第9級10号

通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑺別表第二第12級13号

通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの

脊髄損傷認定のポイント

自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、画像による損傷高位診断、横断面診断、MRI画像上の脊髄内病変等の画像所見や、深部腱反射、病的反射検査、知覚検査、徒手筋力検査、筋萎縮検査などの神経学的所見は必須となり、場合によっては電気生理学的検査が必要となります。

その他、形式的要件として『脊髄症状判定用』という書式や、脊髄損傷後の日常生活状況を記した書面なども場合によっては必要となります。

このように、自賠責に申請する際には、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、自賠責に申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

家族が交通事故に遭い脊髄損傷を負ってしまった、急激な追突事故で骨折はしてないものの麻痺が残っているなど…

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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また、脊髄損傷の症状や治療・リハビリ、後遺障害等級、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷に関する詳しいことは以下のページで解説いたしておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。