交通事故コラム

後遺障害

脊髄損傷|神経因性膀胱障害(蓄尿・排尿障害)とは?後遺症や後遺障害等級は?【弁護士解説】

2024.04.19

交通事故によって脊髄損傷を負った場合、損傷した脊髄の部位に応じて上肢や下肢に麻痺が生じたり、温痛覚や触覚などの障害が現れることとなります。

そして、これらの症状と合わせて、神経因性膀胱障害を併発することが非常に多くみられます。

このページでは、脊髄損傷を原因として生じる神経因性膀胱障害について、メカニズムや後遺障害との関係を解説します。

なお、脊髄損傷について、損傷高位別(頚髄損傷・胸髄損傷・腰髄損傷)に症状や後遺障害等級について解説したページもありますので、詳しくは以下のページをご覧ください。

頚髄損傷(頸髄損傷)の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

胸髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

腰髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

また、特徴的な損傷類型の一つとして挙げられる中心性脊髄損傷についても、以下のページで解説しております。

中心性脊髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

後遺障害等級

神経因性膀胱障害とは

⑴排尿・蓄尿に関する神経系のメカニズム

「膀胱」には蓄尿機能排尿機能の2つの役割があります。

「神経因性膀胱障害」とは、「膀胱を制御する脳からの信号」と「膀胱」との神経伝達経路に異常が生じ、蓄尿機能と排尿機能が上手く働かなくなる障害をいいます。

まず、蓄尿に関する神経系のメカニズムですが、膀胱に尿が溜まることで膀胱が広がると、膀胱壁内にある神経がこれを感知し、脳に向かって信号が送られます。大脳や脳幹部排尿中枢で尿意として感知される際、排尿反射が起こらないように、大脳によって排尿中枢反射が抑制されます。これと同時に、膀胱や尿道括約筋の収縮・弛緩に関する信号が脊髄を通して伝達され、蓄尿時には膀胱を弛緩し、尿道を収縮させるような信号が送られます。。これにより、普段は排尿を抑制しつつ、膀胱に尿を溜めることができます。

次に、排尿に関する神経系のメカニズムについて、随意的な尿の排出を効率よく行うためには、膀胱の十分かつ持続的な収縮と、尿道括約筋の十分な弛緩といった、膀胱と尿道括約筋の協調運動が重要となります。排尿時には、蓄尿時に行われていた排尿中枢反射の抑制が解除され、排尿中枢から脊髄に信号が送られます。信号は仙髄の副交感神経や骨盤神経を介し、膀胱を収縮させるとともに、尿道括約筋を弛緩させ、随意的排尿ができるように働きかけます。

上述のように、蓄尿や排尿といった下部尿路機能は、中枢神経や末梢神経からの制御を受けつつ成立するものとなっています。

⑵神経因性膀胱障害の発生と症状

しかし、脊髄損傷を負った場合、損傷高位より下位には脳からの信号が届かなくなったり、逆に損傷高位より下位の神経から脳に向かう信号が脳に届かなくなることになります。そのため、膀胱に尿が溜まっていることを伝達するための信号は脳に届かなくなってしまい、他方、脳からの排尿に関する信号も損傷高位より下位の脊髄や排尿にかかわる末梢神経に届かなくなってしまうこととなります。

結果として、尿意を感知することもできなくなり、排尿中枢の制御も失われることになります。また、脳からの信号が下部尿路機能にかかる神経に届かなくなるため、膀胱や尿道括約筋を意識的に収縮させたり弛緩させることもできなくなり、通常の蓄尿や排尿が不可能となります。

脊髄損傷による神経因性膀胱障害が生じると、自分の力では尿を排出できなくなったり溢流性尿失禁(膀胱に尿を溜めきれずあふれてしまうことにより起きる失禁)が起きたり、膀胱尿管逆流等の症状が現れます。

⑶損傷高位と神経因性膀胱障害のかかわり

症状の程度は、損傷高位が下位のレベルになっていくにつれて現れる症状も軽度になっていくものと考えられます。

頚髄損傷の場合、脊髄による神経伝達が大幅に障害されることになるため、神経因性膀胱障害が発生する可能性が非常に高いです。またその症状も重いことが多く、二次的な感染症を発症してしまう恐れなどからも膀胱瘻(ぼうこうろう)の増設等を行う必要性が生じることもあります。

上位胸髄損傷の場合にも、やはり神経因性膀胱障害が生じる可能性が高いです。下位胸髄損傷や腰髄損傷の場合にもこの障害が発生する可能性はありますが、頚髄損傷や上位胸髄損傷の場合と比べ症状は軽度であることが多いようです。

ただし、症状の重さは、脊髄損傷が完全損傷か不完全損傷か、不完全損傷の場合には損傷範囲がどの程度かによっても変わってきますので、これらはあくまで傾向としてみられるものとなります。

後遺障害等級について

交通事故によって脊髄損傷を負い、治療やリハビリを続けた結果後遺症が残ってしまった場合、自賠責に、後遺障害に係る自賠責保険金の支払請求をできることがあります。脊髄損傷が生じた場合の後遺障害認定及び等級の判断は、基本的に、麻痺の程度や範囲並びに介護の要否や程度に着目して行われますが、脊髄損傷においては神経因性膀胱障害や脊柱の障害(脊柱変形障害、脊柱運動障害など)、その他体幹骨の変形障害等も通常伴って生じうることから、実際にはこれらも含めて等級認定がなされます

脊髄損傷による麻痺や感覚障害等の障害は、損傷高位や横断面における損傷の程度などによって大きく異なるため、認定される可能性がある等級も異なってきます。したがって、以下では、脊髄損傷に関する障害として自賠責保険後遺障害等級表に定められているものを解説していきます。

⑴別表第一第1級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺、神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形等が認められるもの

⑵別表第一第2級1号

「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために、立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに、軽度の神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形が認められるもの

⑶別表第二第3級3号

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷別表第二第5級2号

「脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸別表第二第7級4号

「脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために、杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑹別表第二第9級10号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの

⑺別表第二第12級13号

「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの

脊髄損傷認定のポイント

自賠責に正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、画像による損傷高位診断、横断面診断、MRI画像上の脊髄内病変等の画像所見や、深部腱反射、病的反射検査、知覚検査、徒手筋力検査、筋萎縮検査などの神経学的所見は必須となり、場合によっては電気生理学的検査が必要となります。

その他、形式的要件として『脊髄症状判定用』という書式や、脊髄損傷後の日常生活状況を記した書面なども場合によっては必要となります。

このように、自賠責に申請する際には、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、自賠責に申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

家族が交通事故に遭い脊髄損傷を負ってしまった、急激な追突事故で骨折はしてないものの麻痺が残っているなど…

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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また、脊髄損傷のその他の症状や治療・リハビリ、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷全般に関する詳しいことは以下のページで解説いたしておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。