交通事故コラム

定期金賠償

定期金賠償

2020.08.11

1 一時金賠償と定期金賠償

(1)一時金賠償とは

損害賠償請求の示談交渉や裁判では、通常、被害者が一時金賠償を請求し、相手方保険会社や裁判所がこれを認める判断を行います。

治療費や休業損害のように、現実化している損害についてはもちろんですが、未だ現実化していない将来の損害、たとえば、将来の介護費用、装具の将来の買替費用、死亡・後遺障害逸失利益などについても、一時金賠償が認められています。

これらについて、損害が現実化しなければ賠償を請求できないとすると、被害者は、毎月、訴訟提起を余儀なくされかねず、被害者保護に欠け、何より現実的ではありません。

そこで、実務においては、逸失利益などの将来的に現実化する損害も、事故発生の時点で損害として現実化しているとみなし、一定の予測のもとに計算した損害額を一括して支払う方法がとられています。

この方法は、将来的に発生する損害を、今現在において、一括して賠償する方法であるために、運用利益(「中間利息」といいます。)が控除されます。

たとえば、年収500万円の被害者が、5%の労働能力を、5年間喪失したと認定された場合、ライプニッツ係数という中間利息の係数を用いて、

500万円×5%(0.05)×5年間=125万円

ではなく、

500万円×5%(0.05)×4.3295(5年間のライプニッツ係数)=108万2375円

という損害賠償の内容となります。

(2)定期金賠償とは

定期金賠償とは、将来の損害を、たとえば1か月ごとなどの定期に、都度賠償していく賠償方法をいいます。

従来は、そもそも定期金賠償が認められるかが問題となったこともありましたが、民事訴訟法第117条第1項で、「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。」と規定されたことで、定期金賠償の方法による賠償が認められることが明らかになりました。

将来の介護費用や、装具費用など一部の賠償費目については、定期金賠償を認める裁判例があります。

2 最高裁判所令和2年7月9日第一小法廷判決

この最高裁判例は、後遺障害の逸失利益の判断で、定期金賠償が認められるか否かが争われた裁判で、「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を認めている場合」において、損害の回復と公平な分担という不法行為法の理念に照らして、「相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される」と判断しました。

この事例は、後遺障害の逸失利益について定期金賠償を認めた初めての最高裁判決です。

なお、この事例では、争訟中に被害者が死亡した事件で、定期金賠償の終期も争われましたが、定期金賠償の終期は死亡時ではなく、一般的な労働能力喪失期間の終期である67歳までとも判断されています。

3 定期金賠償のメリット・デメリット

(1)メリット

中間利息の控除がなされないというのが、最もメリットだと思われます。

(2)デメリット

定期に請求しなければいけない煩雑さ、履行期の終期を迎えるまで保険会社や相手方とのやりとりを行わないといけない精神的苦痛及び相手方の資力に請求の実効性がゆだねられることが挙げられます。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。