交通事故コラム

物損

休車損(休車損害)

2020.08.11

休車損(休車損害)について

休車損(休車損害)とは

1 最判昭和33年7月17日最高裁判所民事判例集12巻12号1751頁

交通事故により営業用車両が損傷を受けて修理や買換えを要することになった場合、修理や買換えに必要な期間は事故車両を事業の用に供することができないため、稼動していれば得られたであろう営業利益を喪失することがあり、これを休車損という。

この判例が休車損のリーディングケース。原審が休車による逸失利益はすべて特別事情によって生ずべき損害としたのは誤りだとして、休車による逸失利益の中に通常生ずべき損害と特別事情によって生ずべき損害等をも含むべきと解した。言い換えると、修繕に要する相当日数の間の休車の逸失利益は通常損害で、それ以上の期間の休車による逸失利益は特別損害だから、後者については予見し得ることが立証された場合に限るとしても、前車の場合はその必要はなく、当然に賠償責任がある(「物損をめぐる実務と法理」交通法研究47号31頁参照)。

2 加藤新太郎・簡裁民事事件の考え方と実務(第4版)366頁

休車損害とは、営業用車両(緑ナンバー等)を用いることができなかったことによる逸失利益である。

3 平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」472頁

休車損害とは、交通事故により損傷を受けた自動車(事故車)を修理し、又は買い替えるのに相当な期間、事故者を運行に供することができないことによって被った得べかりし利益相当額の損害(消極損害)をいいます。事故車が自家用車両であれば、修理期間中又は買替期間中、通常はレンタカーを代車として使用することによって、被害者に事故車を使用することができないことによる消極損害は発生しないことになりますが、事故車が営業用車両(緑ナンバー)である場合、レンタカーを代車として使用することは困難ですから、被害者に前記のような消極損害が発生することが考えられます。

このような実情から、休車損害は、交通事故によって通常生ずべき損害と解すべきであるとされ(上記最高裁判例)、物損の一項目として認められることに異論を見ません。

 なお、「休車損」と「休車損害」という表記の違いは、意味のある差であると思われず、ひとまず以下「休車損」と表記する。

 

休車損の要件

平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」472頁以下によれば、休車損が認められるための要件は、①事故車を使用する必要性、②代車を容易に調達できないこと、③遊休車が存在しなかったことの3つである。

要件①:事故車を使用する必要性

被害者として、損傷を受けて事故車を使用することができなくなったものの、そもそも使用しなくてもよい状況にあったというのであれば、損害の発生を認める必要性はない。したがって、要件論を論じる際は、まず検討すべき事項である(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」472~473頁)。

要件②:代車を容易に調達できないこと

ア 前提

他からの借入などができる事案では、損害の発生は否定され、代車使用料の問題として処理されることになる。

ただし、代車の使用によっても、事故前の利益水準を確保できない場合は、代車使用料とともに休車損も認められる。

イ 緑ナンバーの場合

運送事業に使用している営業用車両(緑ナンバー)は、他の自動車を無許可で代替して使用することは許されないので、当該車両が使用不能期間は営業による利益があげられなくなる。したがって、営業用車両の場合は、当該要件を満たすといってよい。

ウ 白ナンバーの場合

一般の事業で使用する営業用ではない車両の場合は、通常代車を確保することができるから、代車料損害の賠償で足りることが多いが、代替車両を確保することがむずかしい特殊な車両が被害を受けた場合には、休車損が認められることがある。

要件③:遊休車が存在しなかったこと

ア 学説
(ア) 遊休車が存在しなかったことを要件と考える説

被害者が多数の車両を保有し、その中にいわゆる遊休車が含まれている場合には、これによって支障なく営業を継続することができるから休車損は認められない(小林和明「車両損害」裁判実務体系8 民事交通・労働災害訴訟法)。

(イ) 過分の遊休車が存在しなかったことを要件と考える説

単に遊休車や予備車があるというだけで休車損を否定するのは妥当ではなく、過分の遊休車がある場合に否定するのが妥当である(田島純蔵「車両損害」新・裁判実務体系5 交通損害訴訟法)。

(ウ) 遊休車が存在しなかったことは要件ではないと考える説

総売上収入を実働台数ではなく保有台数で除するときに遊休車の存在は顧慮されているから休車損発生の証明としては上記式で充分であり、遊休車の存在は、顧慮すべきではない(園高明「休車損害」交通損害賠償の基礎知識下巻)。

(エ) 学説への批判

(ウ)の否定説に対しては、どのような場合に休車損が認められるかという問題と、これを金額としてどのように算定するのが妥当であるのかという問題とを分けて考察していない点に難点があると指摘されている(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」477頁)

なお、遊休車によって営業利益を維持した場合、抽象的な使用利益は侵害されているが、実際の損失・財産状態の変化はないと考えられるのであれば、損害事実説などをとって、ドイツのような抽象的な損害利用利益の賠償を認めるという立場に転換しない限りは、現在の実務としては認められないこととなるでしょうと指摘されている(「物損をめぐる実務と法理」交通法研究47号39頁)。

イ 裁判例

平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」473頁以下によれば、裁判例は、①遊休車の存否に言及せずに休車損害を肯定しているものが提販を占めている。言及したものとしては、②遊休車の存在を指摘して休車損を否定したもの、③遊休車の存否にかかわらず休車損を肯定するとしたもの、④遊休車の不存在を認めて休車損を肯定したものに分類される。裁判例のスタンスは明確には決まっていないように思われるが、赤い本下巻で否定説が明確に否定されていることもあり、近時は否定説ではないと考えられる。

内容を見ると、遊休車等により代替が可能である場合、休車損は認められないとされているが(東京地方裁判所平成26年6月17日判決交通事故民事裁判例集47巻3号721頁,神戸地方裁判所平成10年10月30日判決交通事故民事裁判例集31巻5号1645頁等)、加藤新太郎・簡裁民事事件の考え方と実務(第4版)367頁によれば、過分な遊休車がある場合に限り休車損を否定すべきであるとされている。被害者に代替車を利用すべき義務を負担させるのは相当でないからである(高松高等裁判所平成9年4月22日判決 判例タイムズ949号181頁参照)。

その他、被害者にも、信義則上、損害の拡大を防止する義務があるところ、被害者が遊休車を保有している場合には、これを活用することによって休車損の発生を回避することができるのであり、それにもかかわらず被害者が遊休車を活用しなかったとすれば、そのために発生した休車損は事故との間の相当因果関係のある損害とはいえないとするものがある(神戸地方裁判所平成10年10月30日判決交通事故民事裁判例集31巻5号1645頁,東京地方裁判所平成10年11月25日判決交通事故民事裁判例集31巻6号1764頁)。

また、被害者が遊休車を保有しているとしても、例えば、遠隔地の営業所に保有している場合等、遊休車の活用が容易でない場合にまでこれを強いることは相当ではないとするものもある(大阪地方裁判所10年12月17日判決交通事故民事裁判例集31巻6号1993頁,東京地方裁判所平成21年7月14日判決交通事故民事裁判例集42巻4号882頁)。

具体的には、実働率、保有台数と運転手の数との関係、運転手の勤務体制、営業所の配置及び配車数、仕事の受注体制、車両の特殊性(横浜地方裁判所平成21年7月31日判決 自保ジャーナル1823号50頁)等の諸事情を総合考慮した上、被害者が、休車期間中、遊休車を活用することによって休車損の発生を回避することができたか否かを検討することになる(タクシー会社につき詳細な認定判断をした裁判例として神戸地方裁判所平成15年1月22日判決交通事故民事裁判例集36巻1号85頁)。

ウ いかなる場合に「遊休車が存在しなかった」といえるのか
(ア) 行政的規制による限定

乗合バス(路線バス)については、法令上、予備車を配置することが義務付けられているため、事故車が出た場合、特段の事情のない限り、保有している予備車の活用が期待されるので、休車損は否定されることになる(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」478~479頁)。

(イ) 判断要素(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」480~481頁)

実働率が、遊休車の存否を知り得る1つの手掛かりになる。ただし、これのみでは遊休車の存否を判断することは困難である。これは、数字の上からは、稼動していない車両が存在しているように見えたとしても、実際上は、例えば、隅々車検や定期点検を受けているとか、故障の修理・整備中であるといった事情で直ちに稼働させることができない場合や、営業所が異なるため、当該営業所まで回送するのに費用及び時間を要する場合、事故車の担当運転手が死傷した結果、別の運転手を手当する必要がある場合など、遊休車を容易に稼動させることが困難である場合には、被害者に対しそれでも遊休車をやりくりすべきであるとするのは酷であるという実質的な利益衡量が働くからである。

そうすると、結局のところ、①実働率のほかに、②保有台数と運転手の数との関係、③運転手の勤務体制、④営業所の配置及び配車数、⑤仕事の受注体制など諸事情も総合的に考慮した上で、被害者が、休業期間中、保有者をできる限り稼働させていたか否かを個別・具体的に検討するのが相当である。

エ 遊休車の存在/不存在の立証責任

遊休車の存在については、立証資料が加害者の手元になく、証拠への距離等を考えれば、被害者が遊休車の不存在について立証責任を負担すると考えるべきであると考えられている(東京地方裁判所平成15年3月24日判決交通事故民事裁判例集36巻2号350頁,東京地方裁判所平成18年7月10日判決(平成17年(ワ)19025号),神戸地方裁判所平成18年11月17日判決交民39巻6号1620頁,東京地方裁判所平成20年12月4日判決(平成20年(レ)131号),大阪地方裁判所平成21年2月24日判決自保ジャーナル1815号149頁,東京地方裁判所平成28年10月11日判決自保ジャーナル1989号138頁)。平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」481頁によれば、加害者負担説に立った裁判例は存在せず、被害者負担説が実務の支配的見解になっている。

また、平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」482頁は、「「遊休車が存在しなかったこと」を立証せよと言われると,何か「悪魔の証明」のように聞こえるかもしれませんが…実際には,「被害者は,休車期間中,保有車をできる限り稼働させていたこと」を立証することになりますから,そのような懸念は必ずしも当たらないのではないかと思われます。」と記載している。

オ 保有車の活用による損害(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」494~496頁)

保有車の活用によって、事故車の運休によって得べかりし利益を確保することができたものの、それによって別個の損害が発生したときは、交通事故との間に相当因果関係が肯定されれば、休車損として適宜の方法により損害賠償請求が認められる。

カ タクシー無線配車の特殊性

遊休車の問題ではないが、タクシーの無線配車分の売上げについて、事故車両1台が休車中であっても他車に配車されることで8割はカバーされるとして、休車損を算定した裁判例がある(高松高等裁判所平成9年4月22日判決 判例タイムズ949号181頁)。また、タクシーが流し運転をすることは、顧客獲得のための営業活動の一つであり、実車率が低いからといって、直ちに遊休車が存在しない事実を否定することはできないとして、休車損を認めた裁判例もある(東京地方裁判所平成26年2月13日判決(平成25年(レ)629,829号))。

休車損が認められる期間(休車期間)

相当な買替期間又は修理期間が休車期間として認められる(赤い本上巻)。期間についての考え方は、代車使用料に準じる。

使用不能期間は、修理期間、あるいは買換えの判断に要する期間と新規購入車両の納入に要する期間をもとに認定することになるが、営業用車両であるがゆえに、許可を受けるために必要な期間がかかることもあるので注意が必要である。

保険会社のアジャスターとの交渉期間も休車期間に加味することができる。また、経済的全損かどうか(修理するかどうか)の検討のための期間も、期間に加えられる余地がある(加藤新太郎・簡裁民事事件の考え方と実務(第4版)366頁)。

従業員減少により休車期間が制限された例として下記平成30年さいたま地方裁判所判決。

 

休車損の計算式

原則パターンの算式:(事故車両1日あたりの売上高-変動経費)×必要な休車期間

ア 算定の対象となる車両(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」487~488頁)

算定の対象となる車両は、原則として事故車である。トラックを代表とする貨物自動車の場合、裁判例の大半は事故車を算定の対象としている。

他方、事故車を除く被害者の保有する車両(実働車)1台当たりを算定の対象とする考え方もあり、裁判例を見ると、タクシーはこの算定によることが多い。これは、貨物自動車と異なり、タクシーは各別個性が問題とならないことに起因している。ただし、被害者が小型車と中型車を保有している場合は、両者で運賃や燃費等が異なるため、少なくともこれらは区別する必要がある。

他に、同地域の同業種のうち同規模の会社の平均値を採用する考え方もあり得る。その他、事故車が新車であって実績が無い場合について名古屋地判平成3年7月19日自保ジャーナル947号があり、また、トラック協会の定める標準的な運賃によった例もある(神戸地判平成6年10月27日交通事故民事裁判例集27巻5号1506頁)。

イ 算定の対象となる期間

平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」488頁は、人損における休業損害と同様、通常は事故直前の3か月間とするのが相当であるとし、別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)18頁は事故前3か月ないし1年の売上実績から算定するとしている。

東京地方裁判所平成27年12月24日判決交通事故民事裁判例集48巻6号1571頁は事業用大型貨物自動車の休車損について事故前3か月の原告車の運賃を基に算出、大阪地方裁判所平成28年4月26日判決自保ジャーナル1979号148頁は、中型貨物自動車の休車損を事故前1年間の営業利益を基に算出している。

ただし、季節による変動がある業種等については別途の考察を要する。京都地方裁判所平成12年11月9日判決自保ジャーナル1406号3頁は、大型観光バスにつき前年同期の実績に基づき算定した(その他の裁判例については平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」488~489頁参照)。

ウ 変動経費(加藤新太郎・簡裁民事事件の考え方と実務(第4版)366頁,交通関係訴訟の実務441~442頁,交通事故物的損害の認定の実務141頁,平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」489~492頁)

売上高(運賃収入)から控除すべき経費は、事故車を運行に供していたとすれば、支出を免れなかったが、事故車を運行に供することができなくなったことによって、支出を免れた経費に限られるから、変動経費に限られると解するのが相当である。

燃費料(大阪地方裁判所平成5年1月29日判決交通事故民事裁判例集26巻1号152頁,名古屋地方裁判所平成10年10月2日判決自保ジャーナル1297号2頁)、有料道路通行料(大阪地方裁判所平成5年1月29日判決交通事故民事裁判例集26巻1号152頁,名古屋地方裁判所平成10年10月2日判決自保ジャーナル1297号2頁)、油脂代、修理代、休日手当・出張手当・調整手当・時間外手当などの運転手の乗務手当(名古屋地方裁判所平成10年10月2日判決自保ジャーナル1297号2頁,札幌地方裁判所平成11年8月23日判決自保ジャーナル1338号2頁,東京地方裁判所平成18年8月28日判決交通事故民事裁判例集39巻4号1160号,大阪地方裁判所平成22年7月29日判決自保ジャーナル1860号152頁,東京地方裁判所平成24年11月26日判決自保ジャーナル1891号106頁)等の車両の実働率に応じて発生額が比例的に増減する変動経費が控除される。

車両の減価償却費、乗務手当以外の人件費、自動車保険料、駐車場使用料、税金など休車期間中も支出される経費は固定経費であり、変動経費にはあたらない(横浜地方裁判所平成元年6月26日判決判例時報1350号96頁・交通事故民事裁判例集22巻3号714頁,札幌地方裁判所平成11年8月23日判決自保ジャーナル1338号2頁,大阪地方裁判所平成22年7月29日判決自保ジャーナル1860号152頁)。

エ 具体例(大阪地方裁判所平成28年4月26日判決自保ジャーナル1979号148頁)
(ア) 認定事実

a 平成25年9月1日から平成26年8月31日までの1年間における原告の営業収益は9971万1000円である。同期間における,原告の経費うち,燃料油脂費は1858万5000円,修繕費は74万8000円,道路使用料は269万1000円である。

b 原告は,本件事故当時,原告車両を含め,11台の車両を保有していた。平成26年4月1日から平成27年3月31日までの1年間における延実在車両数は3080台,延実働車両数は2547台であり,これによれば,年間稼働率は約82.69%であった。

(イ) 上記(ア)aによれば,原告車両の稼働により原告が得る利益は,上記営業収益から,流動経費である燃料油脂費,修繕費及び道路使用料を控除した8268万7000円を11台で除した上で算出される日額2万0549円に上記稼働率を乗じた1万7029円を基礎に算定するのが妥当である。

(計算式)8268万7000円÷11÷265=2万0549円

2万0549円×0.8269=1万7029円

原告は45日間の休車損害を主張するが,修理された原告車両の納車日が明らかでないこと,原告車両の損傷状況等に鑑み,30日の限度で本件事故と相当因果関係のある休車期間と認める。

以上によれば,本件事故と相当因果関係のある休車損害は51万0870円となる。

オ 売上高の減少が無い場合(交通関係訴訟の実務441頁,交通損害関係訴訟236頁,平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」482~484頁)

裁判例の中には、休車損を認めるための要件として、事故後の売上高が事故前のそれと比較して減少したことを挙げるものがあり(東京地方裁判所平成8年3月27日判決交民29巻2号529頁,東京地方裁判所平成9年1月29日判決交通事故民事裁判例集30巻1号149頁)、人損における休業損害と同様に考えると、売上高の減少が無い以上、休車損は発生していないと解することになる。

しかし、売上高は需要の変動、注文の件数、荷物の量、運送距離、営業努力、投資等によっても変動し、営業収入の減少がない場合においても、仮に事故車両が稼動していればより多くの売上げを得られていたであろうと考えられることもあるから、売上げが減少しなかった原因を探求することなく、単に売上高の減少が無いことのみをもって休車損を否定するのは相当でない。

名古屋地方裁判所平成15年5月16日判決自保ジャーナル1526号16頁は、営業用普通貨物自動車の事故につき、被害者は事故前と同程度の売上げを確保していたが、それは被害者の営業努力による面も大きいとして、休車損を認めた。

さいたま地方裁判所平成26年10月7日判決交通事故民事裁判例集47巻5号1262頁は、売上高の減少が無かった事例について、事故車両は下水道調査用の特殊なTVカメラが備え付けられたもので、代替品を容易に調達することが困難であり、他に当該カメラを搭載した車両が無く遊休車も存在しなかった場合に、仮に事故車両が稼動していればより多くの収入を得られていたであろうと認め、休車損を肯定した。

例外的な算定例

1日あたりの売上げに利益率を乗ずる計算方法(宮崎地方裁判所昭和57年9月16日判決交通事故民事裁判例集15巻5号1220頁,大阪地方裁判所昭和60年1月22日判決交通事故民事裁判例集18巻1号68頁,高知地方裁判所昭和60年11月19日判決判例時報1187号119頁,大阪地方裁判所昭和61年1月30日判決交通事故民事裁判例集19巻1号132頁,大阪地方裁判所昭和61年3月27日判決交通事故民事裁判例集19巻2号426頁,神戸地方裁判所平成8年7月19日判決交通事故民事裁判例集29巻4号1061頁など多数(他の裁判例は平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」485~487頁))や、確定申告を元に1日あたりの利得を算出し、これを車両の所有台数で除する計算方法もある(別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)18頁)。

立証

ア 原則

事業者が運輸局長に提出することが義務付けられている事業損益明細表や実績報告書によって認定される(交通関係訴訟の実務442頁)。

イ 民事訴訟法第248条による認定

休車損の認定が困難であるとして、民事訴訟法第248条を援用して、休車損を認定した裁判例がある(神戸地方裁判所平成10年5月21日判決交通事故民事裁判例集31巻3号171頁,東京地方裁判所平成21年7月14日判決交通事故民事裁判例集42巻4号882頁。なお、大阪地方裁判所昭和61年1月30日判決交通事故民事裁判例集19巻1号132頁は、休車損を、1日あたり売上高に、利益率と相当な休車期間を乗じて算定しているが、各数値の合理性が確保されている限りにおいて、許容され得る手法であろう。)。

名古屋簡易裁判所平成19年4月11日判決(平成17年(ハ)5442号)は、交通事故による被害車両(14t車)の休車損を証拠上認定することは困難であるとして、民事訴訟法第248条により、原告の所有車両中、目的用途等を同じくする中距離用大型車12台の過去4か月分の総売上金額の5割が人件費総額と仮定し、売上粗利益から人件費総額を控除し、1日あたりの平均収益1万3000円を休車損と認定した。

※民事訴訟法第248条「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」

ウ 他の指標による認定(平成16年赤い本下巻講演録「休車損害の要件及び算定方法」493~494頁)

実務上「休車損害計算書」と題する書面を原告が訴訟のために作成して提出することが多いが、加害者が特に争わなかった場合は別として、これのみでは基礎となる算定資料や算定方法が明らかではなく、売上高や経費の立証として一般的には客観性・正確性に欠けるものと言わざるを得ない。

国土交通省自動車交通局編「自動車運送事業経営指標」は、過去3年間の営業報告書を集計・分析したものであり、毎年刊行されている。実務では事業損益明細表や実績報告書が提出なされない場合も少ならずあり、そのような場合は一応の参考となるが、被害者がこれに記載された営業収益なり営業費なりに匹敵する営業実績を達成している保証は必ずしもないので、これに安易に依拠することは相当でない。

なお、札幌地方裁判所平成8年11月27日判決自保ジャーナル1189号2頁は、観光バスの損傷による営業補償費の損害賠償を求めた事例で、当該営業補償費の算定根拠を裏付ける証拠が不十分であり、観光バスにおいては季節や曜日等によって需要が異なり、原告会社においては、休車期間中、常に原告車を稼働させる必要があったのかなどの点について明らかでなく、原告会社請求に係る営業補償費を直ちに認定することはできないが、事故による原告車の休車により原告会社に休車損害が発生したことは推認し得るとして、運輸省自動車交通局編「自動車運送事業経営指標」1995年版(乙5)中の貸切バス1台当たりの実粗利益1万6573円に休車期間49日(事故当日については,事故発生時刻及び同日の代車料を請求していることを考慮して、休車日としない。)を乗じた金額81万2077円を損害として認めた。

 

近年の裁判例解説(さいたま地方裁判所平成30年11月26日判決 自保ジャーナル2039号)

裁判所の判断

休車損の発生(遊休車の不存在)について

被告は、原告会社に遊休車が存在しないことの立証がないから、休車損は発生しないと主張する。

しかし、証拠によれば、原告車両は営業用車両(49席タイプの観光バス)であり、また、原告会社が所有する車両は、本件事故当時、原告車両を含め15台であり運転者数も15名であったところ、本件事故前3か月(平成28年6月~同年8月)における原告車両及び同型車(49席タイプの観光バス)合計8台の平均稼働率は85.1%(稼働日数合計627日÷(平成28年6月1日~同年8月31日の92日×原告車両及び同型車台数8))であることが認められるから、原告車両の稼働率も同程度であったと推認される。そして、原告車両の修理期間は平成28年9月12日~同年12月10日までの90日間であるところ、原告車両の修理期間中、原告車両が行うべき旅客運送業務全部を他の同型車7台及び新規車両1台により代替できたものとは考えにくい。すなわち、原告会社の1日当たりの原告車両及びその同型車の稼働状況は、本件事故前は8台×0.851=6.808台となり、平均して1日当たり8台のうち7台が稼動していたことになるため、8台全車両が旅客運送業務に従事していた日も相当数あるものと推認されるし、原告車両の修理期間中は秋の観光シーズンと重なっていることをも考慮すれば、本件事故後に新規車両が1台導入されたとしても、原告車両の修理期間中、時期によっては原告車両を含めた同型車(49席タイプの観光バス)9第全車両が旅客運送業務に従事していた可能性が高いものというべきであって、原告車両の修理期間中、原告車両について休車損が生じたものと認めるのが相当である。

ア 車両稼働率の算定にあたり稼働時間の長短にかかわらず1日稼働させたとみなすことが不当か否か

これに対して被告は、車両稼働率を算定するにあたり、車両を稼働させた場合は稼働時間の長短にかかわらず1日稼動させたものとみなすことは不当であると主張する。しかし、原告車両及びその同型車は大型観光バスであり、1日のうちに旅客を複数の離れた目的地に送迎することは困難な場合も多いであろうし、観光バスの性質上、出発時間も限られることが多いと考えられるから(例えば、日帰り旅行であれば午後から観光地に向けて出発することは比較的少ないものと思われる。)、1日当たりの1台の稼働時間が短い場合であっても、1台の車両の同一日数内に複数の需要に対応することが容易であったとは考えにくいのであって、被告の上記主張は採用することができない。

イ 新規車両の購入により遊休車が存在したといえるか否か

また、被告は、本件事故後に原告会社は新規車両を1台導入しており、原告車両及び原告ドライバーの稼働状況が本件事故前後を通じて大差がないことからすれば、原告には遊休車が存在していた(すなわち、原告車両の修理期間中、新規車両が原告車両の事実上の代替車両として稼動した。)といえるから、原告会社に休車損は発生していないと主張する。確かに、原告会社は、平成28年6月に新規車両を購入し、本件事故後である同年9月24日頃には同車両を稼働し始めていることが認められるから、原告車両の修理期間中、事実上、新規車両が原告車両の代替車両の役割を果たした面があることは否定できない。しかし、証拠によれば、現在、原告会社は事業用車両3台を増やして(原告車両の同型車は2台の増加)合計18台で観光バス事業を行っていることが認められるし、原告会社代表者は尋問において「(原告会社のような)中小企業では遊休車を抱える余裕はなく、新規車両の購入もローンを組んでのことであるから、借入金返済のためにも新規車両導入後はなるべくこれを稼働させる必要がある。」旨の供述をしていることに照らしても、原告会社としては、平成28年9月に原告車両の同型車1台を導入した際は、原告車両ないしその同型車の予備ではなく、新規需要に対応する意図のもとで新規車両を導入したことがうかがわれる。そして、原告では、本件事故前1日当たり平均して原告車両及び同型車8台のうち7台が稼動している状況にあったことは前記のとおりであるから、新規車両の導入によって原告車両の行うべき業務を完全に代替できる状況にあったとは推認できず、これに反する被告の主張は採用できない。

ウ 事故前年より営業成績が悪化していることにより遊休車が存在したといえるか否か

被告は、平成28年の原告会社の営業成績は平成27年よりも悪化していることを指摘するところ、確かに証拠によれば、原告会社の平成28年5月~同年8月までの営業成績が平成27年の営業成績よりも悪化していることが認められるものの、その原因が受注件数の減少にあるとはただちにいえず(価格競争により1件当たりの輸送単価が下がっている可能性や1件当たりの集客数が減少している可能性もある。)、原告が新規車両を新規需要に対応する意図のもとで導入したことは前記説示のとおりであるから、平成28年5月~同年8月までの営業成績が前年度同期よりも悪化していることをもって、平成28年9月~同年12月の間に原告に遊休車が存在したものと推認することはできない。

休車損の計算について

ところで、平成28年12月には原告ドライバーの稼動人数が16名から14名に減少しており、仮に原告車両が稼動できる状況にあっても、これを稼働させるドライバーを欠く状態にあったといえるから、休車損の算定にあたっては、原告車両の実休車日数を平成28年9月12日~同年11月30日までの80日とみるべきである。

また、原告車両の修理中に休車損が発生するとしても、原告車両及び同型車の本件事故前3か月の稼働率が平均85.1%であり、1日当たり平均して8台のうち7台が稼動している状況にあったことからすれば、本件事故日以前には、原告車両以外の同型車7台(原告会社の保有車両総数は合計15台)により必要な旅客運送業務を全て受注できる日もあったと考えられるし、本件事故がなければ、新規車両の導入によって原告車両及びその同型車は9台(原告会社の保有車両総数は合計16台)となったはずであること、また、原告会社主張のとおり、新規車両導入後は訴外戊田をドライバーとして採用する予定であったとしても、原告ドライバーの稼働日数や稼働時間にも自ずと限度があることも考慮すれば、原告車両が本件事故後も稼動していた場合におけるその稼働率は、新規車両導入以前の原告車両の稼働率よりも相当程度低下したものと推認される。もっとも、本件事故がなかった場合の原告車両の稼働率を正確に認定することは困難といわざるを得ないから、民事訴訟法第248条の趣旨に従い、原告車両の休車日数を27日(実休車日数80日に本件事故前の平均稼働率0.851を乗じ、さらに0.4を乗じた日数)として、原告車両の休車損を算定するのが相当である。

そして、証拠によれば、平成27年度における原告の保有車両(15台)の1台当たりの売上(日額)は、平均8万3434円(事故前年の原告会社全体売上額4億5680万3000円÷原告会社観光バス保有台数15台÷265日≒8万3434円)であり、その経費は4万2787円((運送人件費6773万2000円+燃料費3220万4090円+修繕費1796万9000円+道路使用料3777万6000円+その他7858万2000円)÷原告会社観光バス保有台数15台÷365日=4万2878円)であるから、1台当たりの1日の利益は4万0647円(8万34343円-4万2787円=4万0647円)となる。したがって、原告車両の休車損は109万7469円となる(4万0647円×27日=109万7469円)。

 

本裁判例の検討

大きく分けると2つの構成になっている。①休車損が認められるか=遊休車が存在しなかったといえるか、②①が認められるとして休車損の金額はどうなるか。

要件①:事故車を使用する必要性

本件では特段の問題なく認められているように思われる。

要件②:代車を容易に調達できないこと

本件は緑ナンバー事案であることから、当該要件は問題なく認められているように思われる。

要件③:遊休車が存在しなかったこと

遊休車の存在の立証責任については、「遊休車が存在したものと推認することはできない」との表現があり、被告側に立証責任があるかのような表現となっているが、そうした意図はないように感じる。

次に内容を見ると、原告会社にある車両がどの程度稼動していたかに着目して休車損の発生の有無を検討していて、過分の遊休車が存在しなかったことを要件と考える説というよりかは、遊休車が存在しなかったことを要件と考える説に近い考えのように思われる。

赤い本下巻の5つの判断要素については、①実働率及び②保有台数と運転手の数との関係については、具体的な数字をもとに判断しているが、他の要素については観光シーズンとの関係で⑤が言及されているのみで、③運転手の勤務体制や④営業所の配置及び配車数は言及されていない。この点は原告の立証の程度の問題であると思われる。

これらについての感想としては、前提となる規範の不明確さを感じた。具体的には、①遊休車の不存在を明言するか、②5つの考慮要素を総合考慮した結果として、原告会社が、休車期間中、遊休車を活用することによっても休車損の発生を回避することができなかったこと明言した方が論理的にすっきりしたのではないかと感じた。

休車期間

通常は、相当な修理期間か否かという点が争点となるが、本件ではその点は実質的な争点となっておらず、修理期間の後半に退職者が出ていて、車両が存在していたとしても原告車両を稼働させるドライバーがいなかったという点で休車期間が制限されている。

計算式

 算定の対象となる車両

本件では、原告車両及び同型車(49席タイプの観光バス)が対象となっている。同型の観光バス内において個性が問題とならないと考えられ、問題のない算定であると思われる。

 算定の対象となる期間

原告会社主張どおりに裁判所も認定しており、被告も特段争っていない。

具体的な数字は不明だが、原告会社の主張は事故前3か月よりも、事故前年の9月~11月の3か月の売上高を主張した方が良かったのではないかと思われる。京都地方裁判所平成12年11月9日判決自保ジャーナル1406号3頁は、大型観光バスにつき前年同期の実績に基づき算定している。

 変動経費

原告会社主張どおりに裁判所も認定しており、被告も特段争っていない。

民訴法248条の趣旨適用

本裁判例は、民訴法248条の趣旨に従って0.4を乗じている。その理由として、①本件事故日以前には原告車両以外の7台により必要な旅客運送業務を全て受注できる日もあったと考えられること、②本件事故がなければ新規車両の導入によって原告車両及びその同型車は9台となったこと、③原告ドライバーの稼働日数や稼働時間にも自ずと限界があることを挙げた上で、原告車両が本件事故後も稼動していた場合におけるその稼働率は、新規車両導入以前の原告車両の稼働率よりも相当程度低下したものと推認できる、と判示されている。

本裁判例は休車期間に0.4を乗じているが、休車期間は80日として、1日あたりの利益に0.4を乗じたとすると、4万0647円×0.4=日額1万6258円となる。札幌地方裁判所平成8年11月27日判決自保ジャーナル1189号2頁は、運輸省自動車交通局編「自動車運送事業経営指標」1995年版中の貸切バス1台当たりの実粗利益1万6573円を日額としていて、本裁判例は、民事訴訟法第248条を適用することによって0.4を乗じ、裁判例の相場観に合わせたのではないかと思われる。

原告車両の修理期間中は秋の観光シーズンと重なっていることを考慮すると、6割減というのは引かれ過ぎである。当該シーズンが書き入れ時であることの丁寧な立証ができていれば、より原告寄りの判断がなされた可能性がある。また、休車損では民事訴訟法第248条の適用が複数見られるが、同じく消極損害である休業損害や逸失利益ではあまり例を見ない。休業損害や逸失利益についても、被害者に有利に民事訴訟法248条を適用することが望ましい。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。