物損
物損事故でよく耳にする【車両時価額】とは? 弁護士解説
2025.01.14
このページでは、交通事故被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士が、
- 物損事故でよく耳にする【車両時価額】とはなにか?
について解説します。
車両時価額とは?
車両時価額とは、今回の交通事故により損傷した車両が、事故の瞬間どれだけの価値があったかを価格で評価するものです。
当然ですが車両の価値は新車時が最も高く、使用したり時間が経過したりするにつれて段々と価値が低下していきます。
車両損害を受けた被害者が常に新車を購入できるだけの賠償金を得られるとすると、
被害者は事故に遭ったことによってある意味得をすることになります。
被害者側としては買替を余儀なくされたり、大切にしていた車両を廃車や売却をせざるを得なかったりするという点で、
少なからず精神的苦痛を受けているわけですから、新車を購入できるだけの賠償金を得たいというのが普通の心理だとは思います。
しかし、民法上は損害の賠償で被害者側に得が発生してはいけないということになっているため、
賠償すべき車両の価値はその瞬間の価格で評価されるという運用が通底しています。
ところで、実際の所その事故の瞬間の価格をどのようにして算定するのでしょうか。
中古車市場における取引価格を参考にする
最高裁判所第二小法廷昭和49年4月15日判決(民集28巻3号385頁)では、車両の時価は以下のように算定されるとされています。
「いわゆる中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によつて定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである。」
ここに示されているように、車両時価額は原則として被害車両と同一の
- 車種
- 年式
- 型
- 同程度の使用状態
- 走行距離
の車両が中古車市場でどれだけの価格で取引されているかを参考に決定することになります。
この中古車市場における価格の調査については、レッドブックと呼ばれる『自動車価格月報』を参考とするか、
中古車サイトにて調査することになります。
例外的な算定方法を認めた判例
大阪地方裁判所平成14年5月7日判決(交通事故民事裁判例集35巻3号635頁)では、
事故の約2か月前に購入したばかりの中古車について、実際に購入した時の価格が分かっているのであるから、
これをもとに減価償却等の方法によって時価を算定する方が合理的であるとして、
実際の購入価格をもとに、定率法(償却期間6年間)による減価償却を行い車両時価額を決定しています。
東京地方裁判所平成22年1月27日判決(交通事故民事裁判例集43巻1号48頁)では、
実際に中古車市場で被害車両と同程度の車両を購入した場合には消費税相当額が加算されることから、
車両時価額の消費税分についても相当因果関係のある損害として認めています。
大阪地方裁判所平成26年1月21日判決(交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)では、
メーカーオプション付きのレクサスRXについて、メーカーオプションは車両の価値向上に資するオプションで、かつ容易に他の車両に転用が効くものではないことから、
その価格は車両時価額に加算して計算すべきとしたうえで、メーカーオプションによる価格の増加も減価の対象として時価額を認めています。
東京地方裁判所平成30年12月20日判決(交通事故民事裁判例集51巻6号1524頁)では、
ポルシェ・911ターボ(1996年式)について、発売当時の新車価格は1680万円であり、
レッドブックの中古車小売価格は480万円であったものの、日本及び米国のインターネット上の中古車販売サイトにおける同年式の車両の価格水準や走行距離を参考に、
2000万円が車両損害額として認められています。
このように、車両時価額の計算は原則として被害車両と同グレードの車両の中古車市場における取引価格を用いることになっていますが、
オプションがついていたり、限定品であったり、ヴィンテージ品として価値が高騰しているような場合には個別の事情を斟酌する場合もあるようです。