交通事故コラム

逸失利益 後遺障害 慰謝料

講演内容 後遺障害等級併合14級の問題点(弁護士小杉晴洋)

2020.09.24

「後遺障害等級併合14級の問題点」の講演写真

(1)はじめに(後遺障害等級併合14級についての問題提起)

後遺障害等級14級9号を7つ残した依頼者を担当したときの話である。

彼女は,高齢の母と二人暮らしで,彼女の収入で家計を支えて暮らしていた。いつものように自転車での帰宅の途中,横断歩道横の自転車横断帯を走行していたところ,突如進行してきた四輪自動車にはねられ,自転車ごと路上に叩きつけられて,首,腰,右膝,左膝,左肩,右股関節,左肘の7か所に傷害を負った。

7か所の傷害を負っての勤務は不可能であったため,彼女は休業を余儀なくされ,勤務先の会社もはじめのうちは復帰を待っていてくれたが,1カ月,2カ月…と時を経つごとに,「復帰はまだですか?」「こちらも復帰できないなら新しい人を入れないといけない。」などの話が出てくるようになっていった。彼女も,長年お世話になった会社であるので,これ以上迷惑はかけられないと考え,彼女自ら退職を申し出ている。

その後症状固定を迎え,幸い骨折はなく,また,靭帯損傷の程度も大きくはなかったことから,後遺障害等級12級13号には至らなかったが,上記7か所の疼痛が残存したことから,それぞれについて後遺障害等級14級9号の認定がなされることになった。

保険会社からの示談の提案は200万円以下であり,到底納得できる水準ではなかったことから,東京地方裁判所民事27部に提訴した。

東京地方裁判所,東京高等裁判所,最高裁判所と争ったが,結果として認められたのは,約500万円である(遅延損害金や既払金約330万円を除く。)。

後遺障害等級14級で500万円というのは,交通事故の経験のある弁護士であれば低い水準ではないと感じるかもしれないが,後遺症を7部位に残す彼女のケースにおいては,当然納得できる水準とは言えず,日本の司法や自賠責保険の考え方の根本に誤りがあると考えている。

以下では,併合14級問題にまつわる自賠責保険や裁判所の問題について言及した後,そうしたおかしな問題を抱える現状においてどう戦うべきについてお話したいと思う。

(2)後遺障害等級併合14級にまつわる自賠責保険や裁判所の問題点

東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂5版(別冊判例タイムズ38号)11頁では,東京地裁民事第27部の見解として「自賠責保険で後遺障害等級のいずれかの等級に該当すると認定されている場合は,被告が当該後遺障害等級の認定内容自体を争わない場合も少なくないし,被告が認定内容を争う場合も,自賠責保険で後遺障害等級のいずれかの等級に該当すると認定された事実があると,特段の事情のない限り,後遺障害等級に見合った労働能力喪失率と慰謝料の額について一応の立証ができたと考えられるから,裁判所は,被告からの十分な反証のない限り,同様の等級を認定することが多く,効率的な審理を行うことが可能となる。」と記されている。当該見解自体に問題は無いが,実際の裁判所の運用は,最後の「効率的な審理を行うことが可能となる」という部分に力点が置かれすぎていて,何らの個別事案の考察もなく機械的な運用がなされているのが実情である。

東京地裁民事第27部について補足説明をすると,いわゆる「交通部」と言われるものであり,横浜地裁の第6民事部のような「集中部」ではなく,交通事故事件のみを扱う「専門部」である。赤い本下巻講演録担当の裁判官も,すべて東京地裁民事第27部の裁判官であり,わが国の交通関係訴訟における解釈は同部が握っているといっても過言ではない。

その東京地裁民事第27部が,上述のとおり,自賠責保険の後遺障害等級の認定を重視し,それをもとに効率的な審理を目指していることに問題の根本がある。

では,当の自賠責保険がどのような運用をしているかというと,自賠責保険は自動車賠償保障法及び自動車賠償保障法施行令に基づいて運用をしている。自動車賠償保障法施行令2条1項3号ロ~へでは,後遺障害が2つ以上存在する場合について規定しているが,これを見ると,後遺障害等級13級以上の後遺障害が2つ以上存在する場合には重い後遺障害についての等級の繰上げが規定されているのに対し,後遺障害等級14級の後遺障害が2つ以上存在する場合には後遺障害等級の繰上げがなされないということになっている。1つの後遺障害が14級でも,彼女のように7つの後遺障害が14級でも,いずれの場合も同じ14級として扱われるということである。

比較法的に見ても,このような制度を用いているのはわが国のみである。

フランスでは,例えば,片側の低緊張性完全顔面麻痺の場合の後遺障害率(わが国での労働能力喪失率に相当)は5~15%,坐骨神経麻痺の後遺障害率40~45%など,神経症状であっても,その症状の部位別に後遺障害率を分けて規定していて,かつ,断定的な規定ではなく「〇%~〇%」というような形で幅のある規定の仕方をしている。また,上下肢の場合だと,例えば,尺骨神経麻痺は利き腕の場合後遺障害率20%,非利き腕の場合後遺障害率15%と規定するなど,利き腕か非利き腕かによって後遺障害率を分けて規定している(以上,農業共済総合研究所「フランスの交通外相医療査定-特に,査定医による医療査定」(農業共済総合研究所2004年)296頁~297頁参照)。

これに比べ,わが国の場合,局部の神経症状であると後遺障害等級12級13号か14級9号のいずれかに分類されるが(なお,CRPSのみ局部の神経症状であるものの例外的な取扱いを受けているが,ここでは割愛する。),どの部位の後遺障害であっても,利き腕の後遺障害であっても,一律に等級判定がなされることになっている。判断する側にとっては非常に優しい規定となっているが,実際の被害者の立場から見ると,後遺障害の部位や利き腕か否かなどの個別事情を一切排除して判定がなされるため,非常に厳しい規定となっていることが分かる。

また,フランスでは,慰謝料も個別具体的に判断されている。具体的には,症状固定までの非財産的損害としては,①一時的機能損害(症状固定以前の生活の質・日常生活上の通常の喜びの喪失),②耐え忍ぶ苦痛(症状固定以前に被った肉体的精神的苦痛の全体),③一時的美的損害(症状固定以前の身体上の外見の変化)の3種類がある。また,症状固定以後の非財産的損害として,①永久的欠損(肉体的・精神感覚的・知的潜在性の決定的減少),②楽しみの損害(日常的なスポーツやレジャー活動の遂行不可能性に関連する特定の楽しみの損害),③永久的美的損害(症状固定以後の身体上の外見の変化),④性的損害(性器への侵害における外形上の損害,性的行為における楽しみの喪失・生殖困難に関する損害),⑤家族形成に関する損害(通常の家族生活の計画実現の機会や可能性の喪失),⑥例外的永久的損害(他の損害項目では考慮されない一般条項的なもの)の6種類がある。その他,症状固定が観念されないものの非財産的損害として,進行性の病気に関する損害(程度差はあれ短期間に症状が発生する危険を有する外的因子による感染の認識から生ずる損害)の一種類がある(以上,住田守道「フランス人身損害賠償とDintilhacレポート―非財産的損害の賠償が示唆するもの」社会科学年報40号(龍谷大学社会科学研究所,2010年)148頁参照)。

これに比べ,わが国の場合,どのような痛みを被ったか,どんな趣味ができなくなったのか,事故前に考えていた家族の計画がどんなものであったのかなどといった事情に裁判所が思いをはせることはむしろ稀で,入通院期間がどのくらいの長さだったか,後遺障害の等級は何級か,といった画一的な基準で慰謝料算定がなされている。

また,スウェーデンの運用を見ると,複数の異なる機能喪失が同時に存在する場合は通常,累積割合総合評価制度が適用されている(自動車保険料率算定会 料率業務本部 調査研究部「海外調査レポート 北欧における自動車保険の現状」(自動車保険料率算定会,2001年)Ⅰ-45頁)。すなわち,複数の障害がある場合,障害率A%+障害率B%(100-A%)という算式により,複数の障害の複合値を求めている。例えば,膀胱障害(障害度35%)と直腸機能(23%)に障害が残存した場合,35+23(100-35)=50%となる。3以上の障害が残存した場合も同様にこの順番に算出する。

彼女の例を,この累積割合評価制度にあてはめると,5+5(100-5)+5(100-9.75)+5(100-14.2625)+5(100-18.549375)+5(100-22.62190625)+5(100-26.4908109375)≒30%となる(後遺障害等級14級の労働能力喪失率を5%という前提で試算している)。

わが国の場合,先に述べたとおり,後遺障害等級13級以上の場合であると,重い方の等級を1~3繰り上げるといった単純な規定はあるが,後遺障害等級14級の場合であると,後遺障害が1つの場合と同様に扱うといった乱暴な規定になっている。

そもそも「等級」というランク付けを行うこと自体問題であるし,諸外国でも珍しい体系となっているが,その内容も,実に画一的で,判定者の利用しやすい規定となっている。

「等級」という概念は,損害賠償請求につき規定した民法には何らの規定はなく,本来的には,「等級」に捉われずに,後遺症逸失利益や後遺症慰謝料などの個別の損害費目を算定するべきものであり,このように考えるのが比較法的にも支配的な立場である。

以上が比較法的な分析であるが,わが国の後遺症についての運用をもう少し掘り下げてみていく。

慰謝料算定については,日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(赤い本)上巻(日弁連交通事故相談センター東京支部,2019年)187頁~190頁でルール化が行われており,入通院や後遺障害等級を基準とした画一的な運用がなされているが,労働能力喪失率については,同書95頁において,さも個別具体的に判断するかのように記されている。具体的には,「労働能力の低下の程度については,労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表(本誌上巻400頁参照)を参考とし,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体例にあてはめて評価する。」とされている。

しかしながら,上記「労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表(本誌上巻400頁参照)を参考とし」の部分が,前述した東京地裁民事第27部の「効率的な審理」を行うという目的から,「参考」程度ではなく「原則」とされているのが実情で,その他の考慮要素である「被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等」の事実を主張立証しても,この「原則」が覆らないことが多く,例外的に覆ったとしても,その変更幅は僅かなものである。

彼女の例では,労働能力喪失率7%という判決が下されたが,これは前述した累積割合評価制度で計算した30%には遠く及ばず,僅かな変更幅にとどまっている。おそらく後遺障害等級14級の労働能力喪失率は,上位の等級である13級の9%を超えることはできないという頭があって,14級と13級の「原則」の間を取って7%と判断されたのだと思われる。

最後に,自賠責保険の問題点と裁判所の問題点を整理する。

まず自賠責保険の問題点であるが,後遺障害が複数ある場合の処理について定めた自動車損害賠償保障法施行令は,同法13条1項を受けて政令で定められたものである。

同法の目的は1条に規定があり,「この法律は,自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより,被害者の保護を図り,あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。」と定められている。北河隆之・中西茂・小賀野晶一・八島宏平「逐条解説 自動車賠償保障法」(弘文堂,2014年)1頁によると,同法1条は,同法の目的を規定し,これによって,同法の運用および解釈上の指針を示すことを趣旨とするものであり,同法の主要な目的は,被害者の救済と位置付けられている。そして,同法13条の解説を見ると,自賠責保険金額は,基本保障の確保を考慮したものとされている(同書118頁)。

前述のとおり,彼女の例のように後遺障害等級14級を7つ残す場合,累積割合評価制度(30%)と比較して,1/6程度の賠償しか得られないのであり,後遺障害等級14級を複数残す場合であっても,単一の場合と同様に扱う同法施行令2条1項3号は,自動車損害賠償保障法の趣旨に反するものである。

次に裁判所の問題点であるが,過度な画一的な運用は,裁判所自体の存在意義を失わせることになると提言する。諸外国との比較において,画一的な運用が行き過ぎており,現在のような運用を続けるのであれば,裁判官の判断を仰ぐより,AIの判断を仰ぐ方が,より被害者救済に結び付くのではないかとすら思える。

被害者の個別の精神的苦痛に思いをはせ,それを慰謝料額に反映させるべきで,入通院期間を数えるだけとか,自賠責の判断した後遺障害の等級から慰謝料を算定する運用を,即座にやめるべきである。

また,労働能力喪失率については,「労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表(本誌上巻400頁参照)を参考」にする程度にとどめ,これを原則とすることをやめるべきである。

1つの後遺障害が残った場合と,複数の後遺障害が残った場合とで,労働能力の喪失の程度に差が出るのは当然の経験則といえるし,比較法的に見ても恥ずかしい判断をしていることを自覚するべきである。裁判所が個別具体的な判断をしてくれさえすれば,大量の事件を画一的に迅速に処理しなければならない自賠責保険の運用が現在のままであるとしても,救われる被害者は多く存在する。

(3)現状のルールの中での弁護士の主張立証の工夫について

前述したとおり,ルール自体を変えることが第1であるが,現状,このルールが支配してしまっているので,代理人弁護士としては,当該ルール内で戦わないといけない。

そこで,現状のルール内での戦い方を簡単に紹介していく。

① 対自賠責保険

まず考えられるのは,異議申立てや紛争処理申請により,後遺障害等級14級の判断自体を変えさせることである。後遺障害等級14級と12級の違いについては,ここでは割愛する。

他に考えられるのは,いわゆるダブルポケットやトリプルポケットの回収である。複数車両が絡む交通事故や,四輪車同士の事故の同乗者など自賠責保険を複数使えるケースというのが存在する。

このようなケースだと,自賠責保険の上限額が2倍・3倍と膨らんでいき,また,自賠責保険の後遺障害部分の損害計算は労働能力喪失期間を5年に制限するといったこともなく,他方で,提訴すると重過失減額などの自賠責保険独自のルールに裁判所が拘束されないため(最高裁判所平成24年10月11日判決最高裁判所民事判例集241号75頁),労働能力喪失期間の制限や過失相殺(同乗者の場合は被害者側の過失の法理)によって減額されてしまい,自賠責保険の方が高額になることがある。

ただ,以上の自賠責保険対策は小手先のものに過ぎず,自賠責保険会社を被告として,自動車損害賠償保障法施行令2条1項3号ロ~への規定改正を促すことが真正面からの闘い方である。

また彼女のような事例を受任することがあれば,今度は自賠責保険会社も被告として闘うつもりである。

②対裁判所

彼女の例でも労働能力喪失率表どおりに5%という判決にならなかったし,他の自験例としても併合14級の事案で5%を超える判決・和解は複数存在する。累積割合総合評価制度のように大幅変更は認められないが(労働能力喪失率7%~14%にとどまることが多い),実際の立証のポイントについていくつか紹介する。

就業先調査

まずやるべきは,就業先への調査である。足を使って,就業先に赴くのが1番良い。そこで実際の作業現場を動画や写真に撮るなどして,被害者の負った後遺症の部位に負担のかかる作業がどの程度あるのかを視覚的に,わかりやすく報告書ベースで証拠化する。あとは,被害者の上司などにヒアリングをして,陳述書を作成してもらうという手段もある。これらは,被害者本人の陳述書よりも,証拠価値が高いと思われ,これが決め手となって,労働能力喪失率表よりも高い率で逸失利益を計算してもらえることがある。

業界団体調査

業界関係の調査も有用である。弁護士であれば日弁連というのと同じように,業界ごとに業界団体のようなものが存在することが多い。それも1業界に複数の業界団体が存在することもある。当該業界団体に問い合わせをしてアポイントをとってヒアリングをし,当該業界において〇〇という部位に後遺症が残った場合の一般的な仕事への支障の程度について陳述書を作成してもらったり,それが頼めない場合は,電話で聴き取りをし,電話聴取書という形で弁護士作成の証拠を提出することもある。裁判なんかに巻き込まれたくないという団体も多くあるが,中には,同情してくれて親身になってくれる団体もあるので,試してみる価値はある。

業界関連書籍調査

被害者の属する業界の仕事の内容を紹介した書籍や雑誌などが出版されていることもある。その場合は,当該書籍から,当該職業の具体的な体の動きなどを立証して,それと被害者の後遺症の部位・程度とを合わせて主張し,労働能力の喪失を裏付けていく。

医師の協力

主治医をはじめとする医師の意見書も効果的である。証拠化の手法としては,尋問(書面尋問になることが多いと思われる),医療照会,意見書,診断書などがあるが,私は意見書派である。この場合,〇〇という職業について,今回の後遺症で仕事に支障はでますか?などといったアバウトな質問をいきなり医師にぶつけるのは避けるべきである。手順としては,まず,上記の調査で,仕事関係の体の動きを把握した上で,医師に当該業務の体の動きを説明できるようにしておき,その上で,医師面談の予約を取る。そして,医師面談の場で,写真などを示し,具体的な体の動きを説明したうえで,医師に医学的に考えられる支障を聞き,事務所に戻ってから,医師から聞いた内容をもとに意見書案をこちらで作成して,病院に郵送かFAXかメールで意見書案を送り,訂正していただいたうえで,完成稿を作成する。なお,1から作成してくれる医師もいるが,ほとんどのケースでは多忙を理由に意見書のたたき台の作成をお願いされる。

その他

その他は,減収の事実,将来昇進・転職・失業等の不利益の可能性,日常生活の不便といった事実を,事故前後の源泉徴収票や課税証明書の比較により立証する,就業先や本人の陳述書から立証する,同居家族の陳述書から立証するなどの方法がある。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。