靭帯損傷/断裂 上肢 神経症状
内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)損傷(弁護士法人小杉法律事務所監修)
この記事では肘部にある靱帯のうち、内側側副靭帯の損傷について整理しています。
肘の靱帯
肘関節は、上腕骨、尺骨、橈骨によって構成される関節です。
靱帯とは、骨同士をつなぐ軟部組織で、関節運動の方向性を規定し、過度の関節運動を防止する働きがあります。
蝶番構造をとる腕尺関節の内外両側に側副靱帯があって、肘関節の安定性の要になっています。
内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)(MCL)
肘の内側で肘関節の安定性に貢献する靱帯です。
上腕骨内側上顆と尺骨を連結し外反ストレスに対抗します。
前斜走靱帯、後斜走靱帯、横走靱帯からなり、前斜走靱帯が最も重要です。
内側側副靱帯損傷の原因
転倒時に地面に手を着いた点を支点として、あるいはスポーツ競技などで上肢を決められた状態で、肘関節に伸展外反を強制されて受傷します。
内側側副靱帯損傷の症状
損傷部位の痛み等の症状が発生しえます。
内側側副靱帯損傷の検査
徒手検査
内外反ストレステストがあります。外反動揺性があれば内側側副靱帯損傷を疑います。
意識下には痛みのために正確な評価が難しいため、麻酔下で徒手検査を行うことも有用です。
画像検査
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、452頁)
単純X線像にて内側上顆の剥離骨片の有無を、関節造影や超音波検査によって肘関節の不安定性を、画像として客観的に把握できます。
超音波やMRI検査では靱帯の断裂像を観察できます。
内側側副靱帯損傷の治療
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)、452~453頁)
保存療法・手術療法いずれの場合も可能な限り外固定は2週間以内に留め、装具を処方して屈伸運動から開始します。回内外も順次進めていきます。
保存療法
いわゆる1度損傷など軽度の不全損傷では、特に外固定をせず、冷湿布や圧迫包帯により痛みの軽減がみられれば、なるべく早期に損傷靱帯に負荷をかけないよう慎重に可動域訓練を指導します。
2度以上の中等度から重度損傷では、まずギプスシャーレによる外固定を1~2週間行います。外固定期間中にヒンジブレースや支柱付きサポーターなど側方へのストレスを防御できるような可動性の装具を準備し、受傷後2週から装着してもらい運動訓練を開始します。
→1度、2度といった靱帯損傷の程度の区別についてはこちらの記事をご覧ください。
手術療法
最初から整復位が維持できなかったり、保存期間中に整復位がずれてくるような不安定性の強い例は、手術治療の適用になります。
靱帯損傷部に、Locking Kessler 法やKrackow 法などで強固に縫合糸をかけ縫合します。
上腕骨内側上顆起始部での内側側副靭帯損傷では、損傷靭帯を内側上顆に開けた骨孔にpull-out法で直接縫合することも可能です。
重度損傷で靱帯実質に十分な強度が期待できない場合は自家長掌筋腱や薄筋腱を移植腱として用い、靱帯起始部に骨孔をあけて靱帯再建を行います。
認定されうる後遺障害
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予測されます。
機能障害
肘関節に動きにくさが残った場合に認定される可能性があります。
靱帯損傷により肘関節に動揺性が残った場合、動揺関節としての認定もありえます。
別表第二第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
別表第二第10級10号 | ・1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
→患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限されたもの ・常に硬性補装具を必要とするもの(動揺関節の場合) |
別表第二第12級6号 | ・1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
→患側の関節可動域が健側の3/4以下に制限されたもの ・時々硬性補装具を必要とするもの(動揺関節の場合) |
症状固定時に行う可動域の測定ですが、肘関節の測定だけではなく、前腕の回内・回外についても測定することをお勧めします。
回内・回外の機能障害の認定にあたっては、健側の1/4以下に制限されているものを著しい機能障害に準じて別表第二第10級相当、健側の1/2以下に制限されているものを単なる機能障害に準じて別表第二第12級相当が認定される可能性があります。
※「関節の用を廃したもの」とは、関節が完全強直または完全強直に近い状態となったもの、関節の完全弛緩性麻痺または完全弛緩性麻痺に近い状態になったものを言います。
「完全強直」したものとは、関節の可動域が全くないものをいい、「完全強直に近い状態」になったものとは、原則として、健側の関節可動域の10%程度以下に制限されているものをいいます。
この「10%程度」とは、健側の関節可動域の10%に相当する角度を5度単位で切り上げて計算されます。
なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合は全て「これに近い状態」として取り扱われます。
神経症状
受傷部位に痛み等が残存した場合に認定される可能性があります。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
弁護士に相談を
交通事故や労災事故等の外傷で肘部に靱帯損傷を受傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、靱帯損傷の部位や態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。