後遺障害等級一般論 靭帯損傷/断裂 上肢 下肢 神経症状
靱帯損傷(弁護士法人小杉法律事務所監修)
本記事では靱帯損傷について整理しています。
靱帯とは
靱帯とは、骨同士をつなぐ軟部組織です。(↑のイラストは膝部を念頭に作成されたものです。)
関節内外にある繊維性組織で、関節運動の方向性を規定し、過度の関節運動を防止する働きがあります。
組織学的には、靱帯の長軸方向に平行なコラーゲン繊維束(90%以上がⅠ型コラーゲン、残りがⅢ型コラーゲン)と繊維束間の繊維芽細胞からなります。
靱帯には機械刺激受容器が存在し、張力により靱帯自身や周囲の筋組織へ情報を伝達し、防御的な役割をすると考えられています。
靱帯損傷とは
靱帯損傷とは、靱帯の繊維が部分的または完全に損傷・断裂したものです。
※捻挫と靱帯損傷
(標準整形外科学第15版(医学書院)、741頁)
関節が生理的な範囲を超えて運動を強制された場合、関節包や靱帯の一部が損傷されますが、関節の適合性が保たれている状態を捻挫(sprain)とよび、関節の安定性に関与する重大な靱帯の損傷を伴う場合には靱帯損傷(lipament injury)となります。
靱帯損傷の重症度による分類
靱帯損傷は重症度に応じて、第1度、第2度、第3度と分類されます。
第1度
靱帯の一部の繊維断裂です。
関節包は温存されています。
軽度の腫脹と疼痛がみられます。
第2度
靱帯の部分断裂です。
関節包も損傷されることが多いです。
靱帯繊維が引き延ばされた状態になることもあります。
腫脹、疼痛、関節血症、軽度の不安定性がみられます。
第3度
靱帯の完全断裂です。
関節包の断裂を疑います。
第2度の症状の増強、特に不安定性が強くなります。
※関節包とは
(標準整形外科学第15版(医学書院)、56頁)
関節包は、関節周囲を取り囲み、骨同士を連結する結合組織性の構造物です。(↑のイラストも膝関節。)
外層は繊維性関節包で、内装は滑膜からなります。
組織学的にはコラーゲン繊維(Ⅰ型コラーゲン70~90%、Ⅲ型コラーゲン10~30%)が平行に並び、繊維芽細胞がまばらに存在します。コラーゲンのほかに少量のエラスチンを含み弾性に関与します。これらの組織には有髄、無髄の神経終末があり、痛覚や固有感覚の情報を中枢へ伝達します。つまり関節包は、関節の安定性に寄与しさらに感覚器として機能します。
靱帯損傷の検査(靱帯一般)
(標準整形外科学第15版(医学書院)、786頁)
関節にストレスを加えた状態での単純X線像と健側を比較します。
疼痛が強いと患者は反射的に力をいれるので、異常を証明できないことがあります。
このようなときは、局所麻酔や伝達麻酔で疼痛を軽減させてから検査します。
靱帯の骨への付着部に骨片を認めるときは、靱帯付着部の裂離骨折です。
靱帯損傷の治療(靱帯一般)
(標準整形外科学第15版(医学書院)、787~788頁)
損傷の程度により、サポーターの装着、ギプス固定、手術療法を選択します。
保存療法
第1度や第2度の損傷が適用になります。
保存療法として、急性期にはRICE処置が行われます。氷嚢で冷却して出血・腫脹を防ぎ、弾性包帯による圧迫で血腫の増大を防ぎます。患部を挙上することにより静脈やリンパの還流をよくし、腫脹を防止します。
さらに安静を保つ意味も含めてテーピング、副子やギプスで固定します。
手術療法
手術療法は第3度の損傷が適用になります。急性期には靱帯縫合が行われます。
陳旧例で靱帯断裂による不安定性が愁訴として残った場合は、靱帯再建術が行われます。
靱帯損傷の発生を注意すべき部位
靱帯は体の関節部にありますので、どこの関節で生じた靱帯損傷なのかによっても分類できます。
上部では靱帯損傷一般について説明しましたが、部位ごとの詳細は下部でご確認いただければ幸いです。
上肢
肩関節
肩関節は肩甲骨の関節窩と上腕骨頭がつくる球関節で、人体で最も可動域が大きい関節です。
関節窩が浅いため肩関節は安定性に乏しく、脱臼を起こしやすい骨の構造をしていますが、周囲の靱帯や筋・腱が安定性を高め、多くの滑液包がその動きを助けています。
また、肩関節の肩甲骨関節窩に存在する関節唇は、関節面を拡大する働きをする補助構造です。
肩関節の靱帯は、烏口肩峰靱帯、烏口上腕靭帯、上腕横靱帯、肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯、上肩甲横靱帯、上関節上腕靭帯、中関節上腕靭帯、下関節上腕靭帯等があります。
肩関節の安定性を高める筋腱として腱板が重要ですが、腱板とは、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が肩関節を取り囲んで補強している構造です。
また、肩関節の関節唇は、上腕骨の受け皿の骨(肩甲骨関節窩)の輪郭を土手のように覆っている線維性の組織のことで、その部位ごとに、上方関節唇、前方関節唇、後方関節唇、下方関節唇に分けられます。
肘関節
肘関節は、上腕骨、尺骨、橈骨によって構成される関節です。
肘関節の靱帯では、内側の内側側副靱帯、外側の外側側副靱帯、尺骨と橈骨を連結する輪状靱帯が重要です。
蝶番構造をとる腕尺関節の内外両側に側副靱帯があって、肘関節の安定性の要になっています。
→肘の内側側副靭帯損傷についてはこちらの記事で整理しています。
→肘の外側側副靱帯損傷についてはこちらの記事で整理しています。
手関節(手首)
手根骨は、近位手根列(舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨)と遠位手根列(大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鉤骨)に分類できます。
遠位手根列は靱帯により強固に連結され、ほぼ一塊として動きます。
近位手根列の各骨間は骨間靱帯(舟状月状骨間靱帯(SLIL)(舟状骨と月状骨をつなぐ)、月状三角骨間靱帯(LTIL)(月状骨と三角骨をつなぐ))で連結され、多少の捩れを許容します。
近位手根列の骨間靱帯が断裂すると近位手根列を構成する各骨が異常回転し、手根不安定症になります。
また、手首にはtfccという構造体があります。
tfccとは、尺骨と手根骨(月状骨、三角骨)の間にある関節円板と掌側・背側橈尺靱帯、尺側側副靱帯により構成されるハンモック様構造で、手に加わる力を尺骨に伝達する際のクッション作用に加えて尺骨を安定化させています。
手指
下肢
膝関節
内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)の4つが主な靱帯です。
足関節(足首)
多数の靱帯がありますが、遠位脛腓靱帯損傷、外側靱帯損傷、内側靱帯損傷(三角靱帯損傷)、二分靱帯損傷が損傷しやすいと言われます。
→足関節(足首)の靱帯損傷についてはこちらの記事をご覧ください。
リスフラン関節
足は足根中足関節(リスフラン関節)と横足根関節(ショパール関節)を境にして、前足部、中足部、後足部に分類されます。
リスフラン関節は前足部の中足骨と中足部の楔状骨、立方骨で構成されます。詳細には、第1~3中足骨と第1~3楔状骨、第4~5中足骨と立方骨の関節で形成されます。
→リスフラン関節部の靱帯損傷についてはこちらの記事をご覧ください。
弁護士に相談を
交通事故や労災事故等の外傷で靱帯損傷を受傷した場合、損害賠償請求を加害者側に対し適切に行うために、靱帯損傷の部位や態様を把握し、残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集していく必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士による無料相談を是非ご活用ください。