靭帯損傷/断裂 上肢 神経症状
腱板断裂(弁護士法人小杉法律事務所監修)
この記事では、肩部の受傷のうち、腱板断裂について整理しています。
→肩部には靱帯等の構造もありますが、そちらについてはこちらの記事をご覧ください。
肩の構造、腱板とは
腱板とは、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が肩関節を取り囲んで補強している構造です。
これら4つの筋は、肩甲骨と上腕骨を連結し、主に回旋運動(外旋、内旋)に働いています。
腱板断裂の原因
交通事故等での外傷で発生することがありますが、他方で、加齢等による腱板の変性による断裂も発生しえます。
また、腱板断裂の主な症状は肩の疼痛ですが、加齢等で腱板断裂が生じているのに症状がないケース(無症候性断裂)もあります。
腱板断裂の分類
腱板断裂は断裂形態により、完全断裂(全層断裂)と不全断裂(部分断裂)に分かれます。
不全断裂はさらに、断裂部位によって関節面断裂、腱内断裂、滑液包面断裂と分かれます。
腱板断裂の症状は
痛みや可動域制限等が発生します。
→腱板断裂で生じる症状の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
腱板断裂の治療
腱板断裂には症候性(痛みや可動域制限があるもの)と無症候性のものが存在し、症候性の患者が治療の対象になります。
保存療法によって効果が得られない症例が手術適応となりますが、若年者(50歳以下)の腱板断裂では断裂の進行を考慮して軽微な症状でも積極的に手術治療が勧められています。
また、保存療法に効果を示さない安静時痛や夜間痛が強い症例では、早期に手術治療を選択する場合もあります。
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)390頁)
保存療法
疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンの内服・外用薬投与や肩峰下滑液包もしくは肩関節腔内への副腎皮質ホルモン、ヒアルロン酸の注射を行います。
約3~5か月の保存療法を行っても改善が十分ではない場合、手術治療が必要になります。
(今日の整形外科治療方針第8版(医学書院)390頁)
手術療法
関節鏡視下で行うことが多く、術後は4~6週間の外固定、約5か月のリハビリテーションが必要になります。
腱板断裂の検査
徒手検査
断裂腱断端が肩峰と衝突することから、多くの場合、有痛弧(painful arc sign)やインピンジメント徴候が陽性になります。
・有痛弧
腱板断裂では、外転60°~120°の間で疼痛が生じるとき、陽性となります。
その他、断裂部位診断として、以下のようなテストがあります。
・棘上筋腱断裂を診断する棘上筋テスト
・棘下筋腱断裂を診断するexternal roration テスト
・肩甲下筋腱断裂を診断するリフトオフテスト、ベリープレステスト
・棘下筋腱と小円筋腱の断裂を示すホーンブロワーサイン
超音波検査
超音波検査は外来で気楽に行えること、動的検査ができること、患者への説明も便利で検査費用が安く、高解像度の機種が次々に開発されていることから、近年、整形外科領域でも急速に普及しました。
体表近くに存在する腱板断裂の診断に有用です。
(標準整形外科学第15版(医学書院)、451~452頁)
MRI
断裂部には水がたまりますので、MRI検査ではT2強調像で高輝度として描出されます。
五十肩との関係
診断名として五十肩(凍結肩)は、50歳代を中心とした中年以降に、明らかな原因がなく肩の疼痛と可動域制限が生じる疾患です。
肩関節の構造物の退行変性により発症するといわれ、肩関節周囲炎、癒着性関節包炎ともよばれます。
腱板断裂による疼痛や可動域制限とは診断上は区別されます。
後遺障害認定時のポイント
外傷性の損傷か
本記事の上部で整理してきましたが、腱板断裂は交通事故等の外傷で生じるものと、そうでないものがあります。
また、腱板損傷があるのに症状がない無症候性のものもあります。
交通事故等で腱板損傷を受傷した場合、それが加齢等の影響で生じたものではなく、事故により(あるいは事故が一つの要因となって)発生したものだと立証していく観点が特に重要です。
例えば、事故によって肩部に加わった衝撃が大きかったのかどうか(警察が作成した実況見分調書や車両の損傷程度がわかる写真等を参考にします。)、画像診断で腱板損傷が描出されたとして、事故前から存在したものではなく、事故によって発生したものだと区別できそうな所見が認められるのか、等の視点です。
認定されうる後遺障害等級
自賠責保険に関する法令である自動車損害賠償保障法施行令の別表に示される後遺障害として、以下のようなものが予測されます。
機能障害
肩関節に動きにくさが残った場合に認定される可能性があります。
別表第二第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
別表第二第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
別表第二第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
神経症状
肩関節に痛み等が残存した場合に認定される可能性があります。
別表第二第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第二第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
弁護士に相談を
交通事故や労災事故等で腱板断裂を受傷した場合、加害者に対しての損害賠償請求を適切に行うために、腱板断裂の態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所の所属弁護士に是非ご相談ください。
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