後遺障害等級の解説

脊髄損傷

脊髄損傷と腱反射|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

こちらのページでは、脊髄損傷と腱反射との関係について解説しております。

そもそも脊髄損傷とは?

⑴脊髄の役割と構造

脊髄中枢神経系の一部であり、脊椎という骨に包まれた管の中を通っています。脳からの指令を全身に伝える役割を担っているため、運動や感覚、さらに自律神経としての機能において非常に重要です。脊髄は頚髄胸髄腰髄仙髄という4つのパートに分けられ、それぞれが異なる範囲の神経支配をしています。これらの神経が損傷されると、影響を受けた部位以下の身体機能が大きく制約されることになります。

⑵脊髄損傷について

前述のとおり、脊髄は中枢神経として非常に重要な役割を担っていますが、交通事故などによる外部からの強い力による圧迫や断裂などによって損傷することがあります。

脊髄損傷は、その程度によって完全損傷と不完全損傷に分類されます。完全損傷では、脳からの指令が完全に途絶え、運動機能や感覚が消失します。一方、不完全損傷では一部の機能が残っており、筋力低下や知覚障害が観察されます。また、損傷の部位によっては、神経因性膀胱などの排泄障害自律神経系の症状も併発することがあります。

腱反射の基礎知識

⑴そもそも反射とは?

反射とは、刺激によって引き起こされる不随意の筋収縮をいいます。主な反射には、後述する腱反射(筋伸張反射)や、表在反射病的反射などが挙げられます。

腱反射や病的反射は、臨床上、運動神経の障害を判断するうえで非常に有用とされています。

⑵腱反射とは何か

腱反射は、腱などを叩打したときに引き起こされる反射で、イメージしやすいのは、膝を小さなハンマーで叩き反射の反応を見るかっけ検査ではないでしょうか。この反射は、脊髄を介して神経の情報伝達がなされ、筋肉が収縮することで現れます。このメカニズムは、脳を経由せずに素早く反応することができるため、私たちの体が素早く外部の刺激に対処するために必要です。また、腱反射は神経系の健康状態を評価するための重要な指標として、医療現場での検査に頻繁に利用されています。代表的なものとして、下顎反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、橈骨反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射が挙げられます。

⑶腱反射と表在反射の違い

腱反射と表在反射は、共に反射作用を含むものの、異なるメカニズムと役割を持ちます。腱反射は、筋肉や腱を対象とした反射であり、これらは脳を経由することなく脊髄を介して起こる非常に速い反応であり、筋肉の反応を評価するために活用されます。一方、表在反射は皮膚を刺激することによって引き起こされる反射です。脊髄損傷や特定の神経障害がある場合、この表在反射が変化し、場合によっては消失することがあります。深部腱反射と表在反射は異なる反射経路を持ちますが、どちらも診断において重要な情報を提供します。

脊髄損傷が腱反射に与える影響

⑴損傷レベルと腱反射の変化

脊髄損傷は、その深刻度や損傷箇所に応じて腱反射に多くの影響を及ぼします。神経伝達の経路が脊髄のどこで損傷を受けるかによって、反射の変化が異なるのです。頚椎から胸椎、腰椎に至るまでの各レベルで、同様の損傷がどのように異なる影響を及ぼすかが観察されています。特に、上位運動ニューロン損傷があると腱反射が亢進することがあります。一方、下位運動ニューロンが影響を受けると、腱反射が消失することが多いです。これらの反射変化は、医師が患者の損傷範囲を推測する重要な手掛かりとなります。

⑵反射亢進と反射消失のメカニズム

脊髄損傷によって引き起こされる反射の亢進と消失は、神経系の複雑なメカニズムに基づいています。例えば、上位運動ニューロンが損傷されると、腱反射が亢進することがあります。これは、制御系統が損なわれることによって、下位運動ニューロンが抑制されることなく伝わってしまうからです。一方、下位運動ニューロン損傷では、下位運動ニューロンの伝達経路が障害されることとなるため腱反射が消失します。こうしたメカニズムがあることから、運動機能の診断においては、腱反射亢進や反射消失の観察が重要な役割を果たしています。これらの反射変化を検査することにより、損傷の部位および程度がより正確に把握され、適切なリハビリテーション計画が立てられるのです。

腱反射を利用した診断方法

⑴膝蓋腱反射とアキレス腱反射の検査方法

膝蓋腱反射とアキレス腱反射は、神経学的評価の一環として非常に重要な反射検査の一つです。これらの反射検査を通じて、脊髄損傷や神経機能の障害の有無を確認することができます。膝蓋腱反射は大腿四頭筋の反射で、膝を軽く叩くことで膝が自然に伸びる現象を観察します。アキレス腱反射はヒラメ筋や腓腹筋の反射を観察するもので、足首を軽く叩くと足が下方に動くのを確認します。これらの反射は、正常であればしっかりとした反応が見られ、異常があれば反射の亢進や消失が確認されます。

⑵病的反射テストの意義

病的反射テストは、特に上位運動ニューロン障害を示す徴候を検出するのに役立ちます脊髄損傷のリスクがある患者においては、病的反射が認められることが多いです。代表的な病的反射には、バビンスキー反射、ホフマン反射、チャドック反射などがあります。これらの反射の亢進は、上位運動ニューロンの障害を示しており、注意深い評価が必要です。脊髄損傷の場合、病的反射が陽性を示すことは、運動機能の障害の存在を示唆するため、このテストの結果は治療方針の決定や予後の評価において重要な役割を果たします。

おわりに

こちらのページでは、脊髄損傷と腱反射の関係について解説いたしました。

脊髄損傷の後遺症や後遺障害、自賠責での等級認定などについては以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

脊髄損傷|脊髄損傷と後遺症(頚髄・胸髄・腰髄・中心性脊髄損傷)【後遺症専門弁護士解説】

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。