後遺障害等級の解説

脳損傷

植物状態(遷延性意識障害・いわゆる”植物人間”)になってしまった場合の入院費はいくら?|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

もしも家族が、交通事故などによって植物状態(遷延性意識障害)を生じてしまったら。

ただでさえ事故にあったというだけでもショックが大きい中、とてつもない将来への不安であったり、現実的な金銭面であったりと大きな負担がのしかかってきます。

こちらのページでは、植物状態になってしまった場合の入院費はいくらになるのか、またその経済的負担を越えるための方法について解説しております。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしてもらっています。

植物状態とは?

⑴植物状態の定義と判断基準

植物状態とは、医学的には「遷延性意識障害」の一形態とされ、生命維持機能は保たれているものの、意味のある意思疎通ができない状態を指します。具体的には、自発的な動きや意思疎通能力を失い、自力での飲食や排泄ができない状態です。ただし、心臓や呼吸などの基本的な生命活動は保たれています。また、覚醒(目を開ける)等の動作が見られることがありますが、外界や自己の視覚的認識を伴わないことが殆どです。患者の生命維持には点滴や胃ろうを用いた人工栄養、さらには医療機器によるサポートが必要となります。

植物状態の判断基準について、日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会が1972年に発表した「植物状態の定義」によると、次の6つの項目を満たす状態とされています。すなわち、①自力移動不可能、②自力摂食不可能、③糞尿失禁状態にある、④声を出せても意味のある発語ができない、⑤「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令にはかろうじて応じることもあるがそれ以上の意思の疎通が不可能、⑥眼球はかろうじて物を追っても認識はできない、の6項目です。この状態に陥り、ほぼ改善が見られないまま3か月以上経過したものをいうとされています。

⑵”植物人間”という表現について

植物状態(遷延性意識障害)について、過去には”植物人間”という語が使われていたこともありましたが、このような表現は、人間の尊厳や倫理観に触れうるような表現であることから、近年では医療分野においても殆ど使われていません。そのため、いわゆる”植物人間”について表現するときは、本稿で繰り返し登場している「遷延性意識障害」や「植物状態」といった語を用いることが推奨されます。

植物状態における入院費用の内訳と平均額

⑴医療費の負担区分と保険制度の適用範囲

植物状態における医療費は、医療施設での継続的な治療や介護が必要となるため、高額になるケースが一般的です。具体的な負担は、保険制度の適用状況によって大きく異なります。基本的には健康保険が適用されるため、自己負担率は3割となりますが、高額療養費制度を利用すれば一定金額を超えた部分が還付されるため、経済的な負担を軽減できます。

さらに、交通事故が原因で植物状態になった場合は、自賠責保険や任意保険による補償を受けることが可能です。事故後~症状固定を迎えるまでの治療費については、加害者が任意保険に加入しているときはその保険会社が対応することが多いです(事故の内容や過失などによる面もありますが、相手方の過失が大きいような場合には保険会社が対応するケースが非常に多いです)。また、症状固定を迎えたら、自賠責保険に後遺障害の保険金の請求を行い、後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた自賠責保険金が支払われます。そして、等級認定が行われたら、その等級に基づいて損害賠償額の算定がなされ、示談になれば損害賠償金が支払われることとなります。

自賠責保険金や任意保険金は、その金額によっては、医療費だけでなく慰謝料やその他の関連費用もカバーできる場合があります。ただし、適用範囲や金額には制限があるため、医療費控除や福祉制度の活用も検討する必要があります。

⑵医療現場でのサポート体制

植物状態の患者には、24時間体制での医療的なサポートが必要です。医療現場では、点滴や胃ろうを通じた栄養管理、褥瘡予防のための体位交換、そして感染症管理が主なケアとして行われます。これらのケアは専門的な知識と技術を持つ医療従事者により提供されます。

また、患者家族への心理的な支援や、受けられる保険や福祉制度の説明も重要なサポートの一環です。特に交通事故によって植物状態となるケースでは、事故後の対応や法律的手続きが複雑であるため、病院内に設置されるソーシャルワーカーや相談窓口の活用が推奨されます。

⑶一般病院での入院費用の平均例

植物状態または遷延性意識障害と診断され、長期の入院を必要とする場合、医療費は非常に高額になる傾向にあります。一般病院での入院費用は病院の施設や地域によって差がありますが、1日あたりの費用はおおよそ5,000円から10,000円程度とされています。この金額には、病院での治療や看護の基本的な費用が含まれています。植物人間状態での入院は平均的な期間が長く、交通事故などが原因の場合には治療費が特に高額になる傾向があります。そのため、全体の支払金額は少なくとも数百万円以上になることが多いです

⑷高額療養費制度の利用による費用軽減の可能性

日本では、高額な医療費が必要となる場合、高額療養費制度を利用することで費用を軽減することが可能です。この制度では、収入や年齢、医療費の総額に応じた自己負担額の上限が設定されており、それを超えた分は還付されます。たとえば、月に10万円の医療費がかかったとしても、この制度を利用することで実際の自己負担額を数万円まで抑えられるケースがあります。植物状態の入院費用を負担する家族にとって、積極的な活用が推奨される制度です。

⑸差額ベッド代など追加費用の注意点

植物状態の患者が入院する病院では、差額ベッド代などの追加費用が発生する場合があります。これは、個室や少人数部屋を利用する際に発生する費用で、病院の規模や部屋のグレードによって1日あたり5,000円から20,000円以上となるケースもあります。これらの料金は健康保険適用外であるため、全額自己負担となります。そのため、入院時には病室の選択について事前に確認し、追加料金の負担が家計に与える影響を考慮することが重要です。

なお、損害賠償の観点としては、裁判例の傾向上、医師の指示ないし特別の事情がないと差額ベッド代は損害として認められない可能性がありますが、ここでいう「特別な事情」の一例として、「症状が重篤であること」がありますから、植物状態における差額ベッド代が損害として認定されない可能性は低いと考えてよいと思います。ただし気を付けておきたいこととしては、植物状態の場合、将来的にも差額ベッド代が必要になることが多いかと思いますが、少なくとも示談交渉段階において、将来的な差額ベッド代が賠償金として支払われることは殆どなく、そのため裁判で争う必要があることが多いです。

⑹長期入院となった場合のコスト試算

植物状態では、入院期間が長引くケースが多く、それに伴い医療費の総額も大きくなります。例えば、1日あたりの入院費用が仮に10,000円だった場合、1年間(365日)で約365万円となります。さらに追加の治療費や差額ベッド代が加わると、さらに数十万から数百万が必要となる可能性があります。このように、高額な出費が避けられないため、早い段階で保険制度や補助金制度を活用し、経済的負担を軽減する対策をとることが大切です。

植物状態と自賠責保険への請求

⑴自賠責保険への請求について

交通事故によって植物状態(遷延性意識障害)に陥った場合、自賠責保険に後遺障害の保険金を請求できることがあります。自賠責保険は、交通事故による被害者の救済を目的とした強制加入の保険であり、交通事故の損害賠償請求実務上、基本的には自賠責において認定された等級に基づいて損害額が算定されるため、その意味でも自賠責保険への請求は重要な手続となります。

自賠責への請求方法は2つあり、一つは事前認定、もう一つは被害者請求(16条請求ともいいます)があります。ですが、事前認定は、相手方保険会社が、被害者に対して支払うことになる損害賠償金の算定見積を行うために自賠責に後遺障害等級認定調査を請求するものなので、被害者に自賠責保険金が支払われるわけではありません。そのため、自賠責保険金の支払を受けることを目的として請求を行う場合には、被害者請求を行うこととなります

⑵植物状態(遷延性意識障害)の後遺障害等級

交通事故で植物状態(遷延性意識障害)となってしまった場合に認定される可能性がある等級は以下のとおりです。

別表第一第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

⑶事前認定と被害者請求でもらえる損害賠償金は異なる?

Q.そうすると、被害者請求で自賠責保険金をもらったあと、損害賠償金を受け取ったほうが、最終的にもらえる金額が多くなるってことでしょうか?

A.いえ、最終的にもらえる金額は同じです。事前認定の場合と被害者請求を行った場合とでそれぞれ見てみましょう。

任意保険会社が事前認定を行い、後遺障害等級が別表第一第1級1号と認定され、損害賠償金5000万円と算定した場合は、この額で示談すれば5000万円が支払われます。

他方、自分たちで被害者請求を行い、別表第一第1級1号と認定されて自賠責保険金4000万円を受け取り、任意保険会社が損害賠償金5000万円と算定した場合は、自賠責保険金から支払われた4000万円が損害の填補があったものとして損害賠償額から相殺されることとなります。したがって、任意保険会社が支払う金額は、損害賠償金5000万円-自賠責保険金4000万円=1000万円となります。

このため、最終的に受け取る金額としては同じ5000万円となります。

おわりに

本稿では、交通事故で植物状態(遷延性意識障害)となってしまった場合の入院費の目安や、自賠責保険の請求について解説しました。

植物状態になると、医療費や差額ベッド代、また将来的な費用も含め、経済的負担が高額になることが多いです。そのため、高額療養費制度などの公的保険を上手く活用したり、また自賠責や相手方から適切に保険金や損害賠償金を受け取ることが非常に重要といえます。

しかし、交通事故の対応に追われたりする中で、被害者請求のための書類を整えたり、相手方任意保険会社とのやり取りを行うのはとても大変なので、精神的負担となることも多いでしょう。

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺症専門弁護士が法律相談をいたしております。また、相手方任意保険会社とのやり取りや、自賠責への被害者請求手続についても全面的に対応をしております

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。