脊髄損傷
交通事故と脊髄損傷|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

交通事故で脊髄損傷を負う被害に遭った場合、治療開始から損害賠償請求までどのような流れになるでしょうか。
本稿では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が、交通事故による脊髄損傷後の流れについて解説いたします。
脊髄損傷の基礎知識
⑴脊髄損傷とは?原因と発生メカニズム
脊髄損傷とは、脳から下半身に向かって伸びる神経線維の集合体である脊髄が損傷を受けることで、身体機能に影響を及ぼす症状を指します。追突事故などの外傷により、背骨が脱臼したり骨折したりすることで脊髄が圧迫される場合(骨傷性脊髄損傷)や、軟部組織により神経が傷つく非骨傷性脊髄損傷もあります。
そして、脊髄損傷は発生部位や損傷範囲による分類がなされています。発生部位による分類は、大きく分けて頚髄損傷(頸髄損傷)・胸髄損傷・腰髄損傷・仙髄損傷があります(更に、仙髄より下部に存在する馬尾神経の損傷についても、脊髄損傷に含まれる場合があります)。また損傷範囲による分類については、前部脊髄損傷・後部脊髄損傷・脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)・中心性脊髄損傷に大別されます。
⑵交通事故と脊髄損傷の関連性
近年の調査では、脊髄損傷を負傷した事例のうち、約20%が交通事故が原因であるとの統計が出ており、依然としてその関連は高いものといえます。中でも、追突事故は非常に多く発生する事例であり、その衝撃によって脊髄損傷が引き起こされることがあります。具体的には、通常追突事故は、その事故態様からして身構えていない状況で起こることが殆どであるため、被害者側には追突された衝撃が大きく伝わることとなります。そして、身体が前に押し出される動きになる一方で、首は大きく後ろに振られるかたちになり(過伸展)、その後前方に大きく頭部が振られる(過屈曲)状況が起こります。こうして頚部に大きな力が加わることにより、脊髄の神経にダメージが入ることとなります。また、座席の構造が正しく体を支えられなかったケースが原因で損傷が発生することもあります。このような事故に巻き込まれた被害者は、長期的な影響を受ける可能性があるため、事故直後の適切な対応が非常に重要です。
⑶脊髄損傷に伴う典型的な症状
脊髄損傷に伴う症状は多岐にわたり、局所の痛みや腫れ、脊柱の変形、可動域の制限が挙げられます。また、運動神経麻痺や感覚神経麻痺が生じる可能性があります。これらの麻痺は、損傷部位によって現れる範囲や麻痺の程度が異なってきます。例えば、頚髄損傷の場合は四肢麻痺や呼吸麻痺を引き起こす可能性があり、胸髄損傷や腰髄損傷では下肢の対麻痺が生じることがあります。さらに、自律神経障害が生じて発汗異常や代謝異常などを発症したり、神経因性膀胱障害や神経因性直腸障害が生じて排泄機能に支障をきたすこともあります。詳しくは後述しますが、自賠責では麻痺や障害の程度や介護の要否等に応じて後遺障害等級の認定がなされるので、早期の診断で脊髄損傷の損傷部位や症状について把握されることが非常に重要となってきます。
交通事故後の脊髄損傷における適切な対応
⑴事故直後の緊急対応と通院の重要性
交通事故の場合、事故直後の対応が非常に重要となります。まず第一に医療機関での診察を早急に受けることが推奨されます。また、事故直後は極度の興奮状態にあるため、痛みやしびれなどを感じないことがありますが、後から症状が現れる可能性も十分にあるため、やはりなるべく早めに医師の診断を受けることが必要です。初診が事故日から空きすぎると、症状と交通事故との因果関係が否定される恐れも生じます。特に脊髄損傷は、早期の画像診断などによって損傷部位や損傷程度などを的確に判断し、治療方針が速やかに策定されるべきとされていますから、そういった意味でも早期受診は肝要です。何より、早期治療は後遺障害の軽減にも直結します。さらに、通院は健康回復だけでなく、損害賠償請求を行う際に重要な証拠にもなります。医師の診断書や治療経過を記録することが後の対応で役立つため、適切な期間の通院を心がけましょう。損害賠償請求上、少なくとも週2~3回程度の通院が望ましいところですが、仕事や家庭の都合との兼ね合いもみながら通院されてください。
なお、初診時には、自覚症状をもれなく伝えることも重要です。事故から期間が経ったのちに、事故直後に訴えのなかった症状が現れた場合、保険会社は交通事故とその症状の因果関係を否定してきて、一部の治療費の支払対応等を拒否する可能性があります。とはいえもちろん、ない症状をあると偽ること(詐病)はしてはいけません。あくまで「ちょっと痛いだけだからこのくらいのことは言わなくていいかな…」という思いで症状を伝え損ねないように注意しましょう。
⑵症状固定のタイミングと注意点
交通事故後の治療が一定期間続く中で、「症状固定」と呼ばれるタイミングが重要となります。症状固定とは、治療を続けてもこれ以上症状が改善しないと医師が判断する時点を指します。このタイミングを迎えると、後遺障害等級の認定が行われるプロセスに進みます。
注意すべきは、症状固定前後の診察や診断書の内容が賠償額に大きく影響を与えることです。このため、症状固定を迎える際には、医師と綿密に相談するだけでなく、弁護士の助言を受けると補償の幅が広がる場合があります。また、適正なタイミングで固定を判断しないと、被害者側が適切な補償を受けられなくなるリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
⑶損害賠償請求のための準備と証拠収集
脊髄損傷の被害者が正当な損害賠償を受け取るためには、証拠収集は非常に重要です。まず、診断書や治療記録、通院履歴は不可欠な証拠となりますので、必ず継続的に保存しておきましょう。次に、事故現場での写真や事故状況を記録したメモ、目撃者の証言なども有力な証拠となります。
特に後遺障害等級の認定では、医師の診断書の内容が重要になります。そのため、医師としっかりとコミュニケーションをとり、傷害の内容が正確に反映された診断書を作成してもらうことを心掛けるとよいでしょう。また、損害賠償請求の内容を強化するために、弁護士のサポートを受けながら、証拠収集や書類作成を専門的に進めると、より有利な結果が期待できます。
そして、損害賠償請求額の算定に関連して、事故後購入した物品などの領収書は保管しておくことも重要です。脊髄損傷の場合、四肢麻痺や下肢の対麻痺など症状によっては介護ベッドや車椅子のような介護用品を購入することがあるでしょうし、入院時の雑費費用などの負担もあるかと思います。また、入通院やご自宅でのご家族による付添介護や職業付添人介護を利用した場合には、日記などのかたちで介護の記録を控えておくことをおすすめします。更に、介護用住宅へのリフォームや、車椅子が積み込める車両の購入等があった場合にも、その契約書や請求書・領収書などを保管しておきましょう。
被害者として知っておくべき補償と法的対策
⑴後遺障害等級認定とその基準
交通事故の相手方が自賠責に加入している場合、被害者は後遺症について自賠責保険に保険金請求を行うことができます。請求後、自賠責において後遺障害についての調査が行われ、後遺障害等級の判断がなされることとなります。後遺障害等級は、後遺症の重さや日常生活への影響の大きさに基づき、予め定められた要件に該当すると認められた場合に認定されます。脊髄損傷の場合、麻痺の程度や介護の要否及び程度について勘案した上で、その他の後遺症を含め総合評価で等級認定がなされます。脊髄損傷で認定される可能性がある等級は以下に述べる①~⑦のとおりです。
また、不完全損傷の場合は、損傷が見落とされないよう適切な診断を受けることが重要です。とりわけ中心性脊髄損傷は、画像での確認が難しいことや症状が他の脊髄損傷と比べると若干分かりづらいことから、脊髄損傷と確定診断することが難しく、頚椎捻挫や腰椎捻挫などによる神経症状と判断されてしまうことがあり、そのため裁判で争いになることも多くみられます。等級の認定は慰謝料や賠償金の額に直結するため、専門的な知識を持った弁護士や医師の協力が欠かせません。
①別表第一第1級1号
「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 高度の四肢麻痺が認められるもの
b 高度の対麻痺が認められるもの
c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺、神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形等が認められるもの
②別表第一第2級1号
「脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 中等度の四肢麻痺が認められるもの
b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
例:第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために、立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに、軽度の神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部以下の感覚障害が生じたほか、脊柱の変形が認められるもの
③別表第二第3級3号
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの」の該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)
b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)
④別表第二第5級2号
「脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、以下のものが該当します。
a 軽度の対麻痺が認められるもの
b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
⑤別表第二第7級4号
「脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。
例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために、杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの
⑥別表第二第9級10号
「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。
例:第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの
⑦別表第二第12級13号
「通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。
具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。
また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの
例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの
⑵後遺症による逸失利益の計算方法
交通事故による脊髄損傷によって後遺障害が残存してしまったことにより働けなくなった場合には、逸失利益として将来的な収入減少分を請求することができます。具体的な金額は後遺障害等級や被害者の年齢、職業、収入額によって大きく異なります。一方で計算誤差や保険会社側の提示金額の低さが問題となることも多いため、適正な金額を正確に見極めるには、法律や保険について専門知識を有する弁護士のサポートが重要となります。
⑶慰謝料の計算方法
交通事故による脊髄損傷の場合、入通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺症慰謝料の2つを加害者に請求することができます。
入通院慰謝料は、受傷によって入通院治療をしなければならなかったことや症状による精神的苦痛の慰藉を求めるものです。弁護士基準では、総治療期間及び入院日数に基づき算定がなされ、生死が危ぶまれる状況が長期的に継続したことなどの事情がある場合には増額請求をすることができます。
後遺症慰謝料は、治療の結果として後遺症が残ってしまい、将来的に後遺症によって苦しめられることへの精神的苦痛を慰藉するものです。弁護士基準では、自賠責の等級ごとに下表のとおり金額が定められており、自賠責により等級認定された場合に請求することができます。たとえば後遺障害等級別表第二第3級が認定された場合には、1990万円の後遺症慰謝料を請求するかたちになります。
おわりに

本稿では、交通事故で脊髄損傷を負った場合の対応や損害賠償請求について解説しました。
脊髄損傷は事故の中でもとりわけ怪我の態様が大きいものであり、時には命に関わる症状が生じることもあります。また、運動神経麻痺や感覚神経障害、自律神経障害、排泄機能障害などの重篤な後遺症が残存する可能性もあります。
しかし、重度の後遺症が残ったとしても、保険会社から必ずしも十分な損害賠償金が得られるとは限りません。また保険会社も自賠責の後遺障害等級に基づいて損害賠償の算定を行うため、自賠責において適切な後遺障害等級認定がなされなければ、十分な賠償を得られる可能性も下がってしまいます。
弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が法律相談を行っております。
今認定されている等級は妥当なのか、提示されている示談金の額は妥当なのか?
お悩みの場合は弁護士法人小杉法律事務所にぜひ一度ご相談ください。
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