後遺障害等級の解説

口・顎・歯・舌 神経症状

顔面神経麻痺と後遺障害等級|後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、顔面神経麻痺と交通事故、そして顔面神経麻痺の後遺障害等級について解説いたします。

顔面神経麻痺について

⑴顔面神経とは?

顔面神経は、主に顔面の表情筋などの運動を司る第7神経のことをいい、顔面神経は脳から顔面に向かって走っています。顔面神経が支配する表情筋は、前頭筋や眼輪筋、口輪筋、アブミ骨筋であり、額にしわを寄せる運動や眼を閉じる運動、口唇の開閉や口角挙上運動が主な働きとなっています。

このほか、顔面神経は、味覚や涙、唾液の分泌などの機能も併せ持っています。

⑵顔面神経麻痺とその原因

顔面神経麻痺とは、この顔面神経が何らかの理由で障害された病態をいいます。交通事故はその主要な原因の一つであり、事故の衝撃によって頭部・顔面部の骨折や神経損傷といった外傷を負った場合に発症することがあります。交通事故のほか、スポーツ事故や転倒事故などの外傷を伴うことが多い事故での負傷によっても発症することがあります。

⑶顔面神経麻痺の症状

顔面神経麻痺を発症すると、前述したような表情筋の運動に異常が生じます。すなわち、額にしわを寄せる運動(眉を持ち上げる運動)や閉眼運動、口角を上げる運動、口唇の開閉運動を正常に行うことができなくなります。こうした症状により、外見的に顔の左右で表情が異なるようなかたちとなり、自然な表情を作ることが難しくなることがあります。また飲食した際に口から水や食べ物がこぼれ落ちてしまうなどの支障が生じることもあります。

これらの麻痺の症状の現れ方は、神経損傷が生じた場所によって異なっており、一般的には中枢性障害末梢性障害の二つに分けられています。

まず、脳内において顔面神経に障害を生じた中枢性障害の場合、障害部位の対側顔面下部にのみ麻痺の症状が現れます。顔面上部の運動である額のしわ寄せや閉眼運動は両側とも正常に行うことができますが、障害部位の対側の顔面下部の口角挙上運動を正常に行うことができなくなり、また鼻唇溝(一般的に「ほうれい線」と呼ばれるもの)が浅くなる又は消失が見られます。

他方、顔面中の顔面神経に支障を生じた末梢性障害の場合、障害部位と同側の顔面上部・下部ともに麻痺の症状を呈します。たとえば左顔面を負傷し、左顔面神経を損傷したとしますと、左顔面について額のしわ寄せや閉眼運動、口角挙上運動を正常に行うことができなくなり、また鼻唇溝の消失等が生じます。しかし右顔面にはこれらの症状は現れず、正常に表情筋の運動を行うことができます。

以上のような顔面の運動神経麻痺の症状のほか、聴覚障害、涙や唾液の分泌低下、味覚異常などの症状を併発することもあります。

顔面神経麻痺の後遺障害等級

交通事故による外傷によって顔面神経麻痺を発症し、表情筋の運動麻痺やその他の感覚神経障害を残存することになった場合、自賠責に、後遺障害等級認定の請求を行うことができることがあります。

顔面神経麻痺による症状で認定される可能性がある後遺障害等級は、次のとおりです。

⑴神経症状

顔面神経麻痺による症状について、画像所見や神経学的所見などの他覚的所見によって症状の存在を立証できる場合には第12級13号が、治療状況や症状経過などを踏まえた上で症状が将来的に回復困難であることを説明できる場合には第14級9号が認定されます。

他覚的所見について、顔面神経麻痺の場合、顔面各部位の動きを評価しその合計で麻痺の程度を評価する柳原法が主に使用されています。このほか、電気生理学的検査なども神経学的所見を得るための一つの手段となるでしょう。画像所見については、XPやCT、MRI等が主なものとなります。

⑵外貌醜状

顔面神経麻痺は、⑴に述べたとおり神経系統の機能の障害ではありますが、その結果として現れる「口のゆがみ」については単なる醜状として取り扱われ、第12級14号が認定されることがあります。たとえば、右ほほ部に受傷し、治療中、次第に右顔面神経麻痺の徴候を呈し、顔半面が左方に引きつっているようなケースが挙げられます。

⑶眼瞼の障害

顔面神経麻痺は、⑴に述べたとおり神経系統の機能の障害ではありますが、その結果として現れる閉瞼不能(目を閉じることができない)については眼瞼の運動障害として取り扱われ、閉瞼時に角膜を完全に覆い得ないものと判断された場合には、両眼のときは第11級2号一眼のときは第12級2号が認定されることがあります。

⑷聴覚障害

顔面神経の損傷等によって聴覚障害が生じ、難聴の症状が残存した場合、難聴の程度に応じて等級認定がなされます。

なお、等級認定の基準は、純音による聴力レベル及び語音による聴力検査結果(明瞭度)を基礎として認定されます。

①第9級9号「一耳の聴力を全く失ったもの」…一耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上のもの

②第10級6号「一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの」…一耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上90㏈未満のもの

③第11級6号「一耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」…一耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上80㏈未満のもの又は一耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上でありかつ最高明瞭度が50%以下のもの

④第14級3号「一耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」…一耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上70㏈未満のもの

⑸耳鳴

ピッチ・マッチ検査やラウドネス・バランス検査によって、難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるものについては第12級相当が、難聴に伴い常時耳鳴があることが合理的に説明できるものについては第14級相当が認定されます。

⑹味覚障害

頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚脱失については第12級相当が、味覚減退については第14級が認定されます。

具体的には、濾紙ディスク法による最高濃度液による検査によって、基本4味質(甘味・塩味・酸味・苦味)すべてが認知できないものが味覚脱失、1味質以上を認知できないものが味覚減退となります。

⑺後遺障害診断書作成のポイント

交通事故による顔面神経麻痺において、診断書は後遺障害等級認定の基礎資料となる非常に重要な書類です。診断書には、麻痺の程度や具体的な症状(目の閉じづらさ、口の歪み、よだれなど)、さらには治療経過などが詳細に記載される必要があります。また、顔面神経が損傷した原因やCT・MRI検査の結果も含まれると、麻痺が交通事故に起因するものであることを証明しやすくなります。しっかりとした診断書を作成するためには、主治医との綿密な連携が不可欠です。

おわりに

本稿では、顔面神経麻痺と交通事故、顔面神経麻痺の症状と後遺障害等級について解説いたしました。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。