後遺障害等級の解説

網膜剥離で失明になるまでの期間|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、網膜剥離と失明までの期間について解説いたしております。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。

網膜剥離とは?

⑴眼球の構造

網膜剥離について見ていく前に、まずは眼球の構造について簡単にみていきましょう。

眼球は、上図に示すような構造となっています。角膜や水晶体を通して眼球内に入ってきた光が、眼球内壁の網膜に当たることによって、電気信号が視神経を通して脳に伝達されることとなり、その結果として私たち人間はものを見ることができます。カメラで例えられることが多く、角膜や水晶体がカメラのレンズで、網膜がカメラのフィルムのような役割をしていると考えるとイメージしやすいかと思います。

そして、網膜の中に黄斑部という部位がありますが、ここは視細胞が特に密集した部分であり、物体の認識、色の識別など、視覚を司る中でも非常に重要な部位となっています。

⑵網膜剥離とその原因

網膜の位置や役割を確認すると、網膜剥離とはどのような疾病なのかというのも想起しやすいでしょう。網膜剥離は、文字通り網膜が眼球内壁から剥がれてしまったものをいいます。発症例として多いのが、網膜に小さな孔が開いてしまい、眼球内の水分がその孔を通って網膜の下に入り込むことにより、徐々に網膜が眼球内壁から剥がれていくケースです。経時的に剥離が進行することとなり、やがてすべての網膜が剥がれてしまう恐れもあります。

網膜に孔が開く原因の一つとして交通事故などの外傷が挙げられます。交通事故による高エネルギー外傷による衝撃によって網膜が引っ張られるような挙動となり、網膜に裂け目が生じます(この裂け目を網膜裂孔といいます)。こうして生じた網膜裂孔を発端として、前述のような機序で網膜剥離が進行してしまいます。このように、交通事故などの外傷によって生じた網膜剥離は外傷性網膜剥離と呼ばれます。

外傷性網膜剥離のほか、老化や網膜の萎縮などを原因として網膜剥離が生じることもあります。更に、非裂孔原性網膜剥離と呼ばれる発症例もあり、これは外傷性網膜剥離のように孔が開くことによって生じる網膜剥離とは異なり、眼球内での滲出液の横溢や眼球内の他の器官による網膜の牽引によって引き起こされるケースが確認されています。

⑶外傷性網膜剥離の症状

外傷性網膜剝離の症状として、次のようなものが挙げられます。

①飛蚊症

視界に黒い点や小さな虫、ゴミのようなものが見える症状です。網膜剥離の初期症状としてみられることが多いです。

②光視症

突然チカチカとした光の点滅を感じるような症状を光視症といいます。飛蚊症と同じく、網膜剥離の初期症状としてしばしばみられます。

③視野欠損

網膜剥離が進行すると、下図のように、視界の一部が見えなくなるような症状が現れます。

④視力低下/失明

網膜剥離が進行すると、視力が低下してくることがあります。治療などを行わずそのまま放置していると、やがて失明に至る恐れもあります。

⑶網膜剥離で失明に至るまでの期間は?

さて、本稿の主題となる「網膜剥離で失明に至るまでにどのくらいの期間があるのか」ですが、若年者の場合には網膜剥離の進行が比較的ゆっくりである傾向のため、網膜剥離の発症から失明までは数週間~数か月ほどかかると言われています。他方、中高年者の場合は網膜剥離の進行が早い傾向にあり、網膜剝離の発症から視野欠損・視力低下まであっという間に進行し、早い場合には1~2週間ほどで失明に至る可能性があるとされます。近年では、スマートフォンなどの使用による近視の進行といったこともあり、網膜剥離の発症率自体も増加傾向にあります。

網膜剥離と後遺障害等級

交通事故を原因とする外傷性網膜剥離によって、視野欠損や視力低下、失明などの後遺症が残存してしまった場合、自賠責に後遺障害等級の申請を行うことができるときがあります。

自賠責の後遺障害等級の中で、認定される可能性があるものは、視力障害と視野障害になります。以下、解説いたします。

⑴視力障害

網膜剥離による視力低下及び失明で認定される可能性がある視力障害の等級は次のとおりです。

①第1級1号 視力障害(両眼の失明)

両眼が失明したもの」に該当する場合に認定されます。

なお、「失明」の定義について留意しておく必要があります。一般的に失明と聞くと、全く視覚がない状態を想起する方が多いかと思いますが、自賠責の後遺障害等級認定基準における「失明」は、「眼球を亡失(摘出)したもの明暗を弁じ得ないもの及びようやく明暗を弁ずることができる程度のもの」と定義されており、光覚弁(明暗弁)又は手動弁も含まれるものとなります。光覚弁は、暗室で被験者の眼前で照明を点滅させ、明暗が弁別できる視力をいい、手動弁は検者の手のひらを被験者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力をいいます。つまり、一般的に想起されるような完全に失明した状態だけでなく、目に光が入ったとしても明暗を認識できる程度や手の動きを認識できる程度の極めて低い視力のケースも、自賠責では「失明」として扱われるということとなります。

②第2級1号 視力障害(一眼の失明&他眼の視力低下)

一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの」に該当する場合に認定されます。すなわち、事故によって片目を失明したことに加え、もう片方の目の視力が失明までは行かないものの0.02以下という著しく低い視力にまで低下した場合に認定されることとなります。

なお、ここでいう「視力」とは矯正視力をいい、測定方法については原則として万国式試視力表(ランドルト環を用いたもの)によるものとされています。矯正視力には、眼鏡による矯正医学的に装用可能なコンタクトレンズによる矯正または眼内レンズによる矯正により得られた視力も含まれます。なお、矯正不能な場合には例外的に裸眼視力によって等級判断がなされます。

③第2級2号 視力障害(両眼の視力低下)

両眼の視力が0.02以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

④第3級1号 視力障害(一眼の失明&他眼の視力低下)

1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑤第4級1号 視力障害(両眼の視力低下)

両眼の視力が0.06以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑥第5級1号 視力障害(一眼の失明&他眼の視力低下)

1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑦第6級1号 視力障害(両眼の視力低下)

両眼の視力が0.1以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑧第7級1号 視力障害(一眼の失明&他眼の視力低下)

1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑨第8級1号 視力障害(一眼の失明)

1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

眼の後遺症が片目の失明のみであったり、片目の失明に加えて他眼にも視力低下があるものの、その視力が0.6より大きい場合にはこの等級が認定されます。

⑩第9級1号 視力障害(両眼の視力低下)

両眼の視力が0.6以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑪第9級2号 視力障害(一眼の視力低下)

1眼の視力が0.06以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑫第10級1号 視力障害(一眼の視力低下)

1眼の視力が0.1以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑬第13級1号 視力障害(一眼の視力低下)

1眼の視力が0.6以下になったもの」に該当する場合に認定されます。

⑵視野障害

①第9級3号 両眼の視野障害

両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

視野の測定にあたっては、ゴールドマン型視野計が用いられ、この測定結果に基づき視野障害の認定判断が行われます。具体的には、V/4視標による8方向の視野の角度の合計が、正常視野の角度の60%以下になっていることが要件とされています。日本人の視野の平均値は8方向で560度となりますので、視野欠損による視野の角度の合計が、この平均値の60%である336度以下となれば等級認定されることとなります。なお、暗点については絶対暗点を採用し、比較暗点は採用しないとされています。

また、「半盲症」とは、視神経繊維が視神経交叉又はそれより後方において侵されるときに生じるものであり、注視点を境界として両眼の視野の右半部又は左半部が欠損するものをいうとされています。「視野狭窄」は、視野周辺の狭窄をいい、同心性狭窄と不規則狭窄があります。「視野変状」は、ここにおいては暗点と視野欠損をいいます。

②第13級3号 一眼の視野障害

1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」に該当する場合に認定されます。

おわりに

本稿では、網膜剥離と失明の関係、そして網膜剥離の後遺症と自賠責の後遺障害等級について解説いたしました。

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております

交通事故により外傷性網膜剥離を負ってしまった方やお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。