後遺障害等級の解説

骨折 上肢

手首の骨折の手術|医師監修記事・後遺障害専門の弁護士法人小杉法律事務所

本稿では、手首の骨折の手術と、自賠責の後遺障害等級とのかかわりについて解説いたします。

なお、本記事は損害賠償請求を専門に取り扱う弁護士小杉による執筆記事となりますが、医学的事項を含むため、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をしていただいています。

手首の骨の構造

まずは手関節まわりの骨の構造について簡単にみておきましょう。下図をご覧ください(図は右手を手の甲側から俯瞰したもの)。

上肢の3大関節の一つである手首(手関節)は主に手根骨と総称される8つの骨からなります。前腕側の4つの骨(豆状骨・三角骨・月状骨・舟状骨)は近位列手根骨、手指側の4つの骨(有鉤骨・有頭骨・小菱形骨・大菱形骨)は遠位列手根骨とも呼ばれています。

手根骨は靭帯によって繋がっており、これによって手関節の複雑な可動性や安定性を担っています。

また、前腕側には橈骨尺骨があり、これらも手関節の動きについて重要な役割を持っています。

手首骨折など交通事故による後遺症の実態

⑴交通事故での手首の骨折

手首骨折は、交通事故による衝突でしばしば発生します。具体的には、自転車やバイクを運転中に車と衝突する事故、または歩行中に車に接触されて転倒するケースなどが多く見られます。このような状況では、被害者が手を地面につくことで手首に強い衝撃が加わり、橈骨や尺骨、手根骨を骨折することが多いです。手首への衝撃で橈骨を骨折した場合は橈骨遠位端骨折が、尺骨を骨折した場合は尺骨遠位端骨折となることが多いです。また、交通事故では急な衝撃を受けるため、損傷が複雑骨折になるケースもあります。

⑵手首骨折の症状

手首骨折でよく見られる症状としては、手関節の可動域制限や、骨折部周辺の痛みやしびれといった神経症状が挙げられます。また、骨折に伴って神経や腱が損傷した場合、手指の細かい動作に影響を与えることもあり、日常生活や仕事に支障をきたす場合もあります。このほか、前腕の可動域制限が見られることもあり、回内・回外運動(ドアノブを握って内にひねる・外にひねるような動作)に支障が生じることとなります。

⑶手首の骨折の治療・手術

手首を構成する骨の中では、橈骨が特に骨折がみられることが多いです。とりわけ橈骨遠位端骨折は手を突いた際に生じるケースがよくみられます。

レントゲン(XP)やCT画像等で骨折の所見を確認し、骨折が軽度のものであれば、手術は行わずに、ギプス固定による治療が行われることが多いです。肘関節から手までの部位についてギプス固定がなされ、固定期間はおよそ1か月~2か月程度ほどが目安となるでしょう。

一方で、骨折の程度が大きい場合には手術が行われることも検討されます。骨折部にプレート(金属板)を挿入し、ボルトによって固定する手術が一般的でしょう。手術を行った後は骨の癒合の経過観察が定期的に行われ、癒合が確認されれば、プレートやボルトを除去する手術(抜釘術)が行われます。

⑷後遺障害に認定され得る主な骨折の種類

手首骨折の中でも、特に後遺障害に認定される可能性が高い骨折には以下の種類があります。

橈骨骨折(橈骨遠位端骨折): 橈骨が手首に近い部分で骨折するケースで、可動域制限や神経症状が頻発します。

尺骨骨折(尺骨遠位端骨折): 橈骨骨折と同時に発生することが多く、痛みやしびれといった後遺症が見られることがあります。

舟状骨骨折::舟状骨は構造上、血流が不足しがちで、適切に治療しないと偽関節につながりやすい骨です。この結果、長期にわたる固定が必要になり、後遺障害につながることがあります。

これらの骨折は、交通事故による衝撃で起こりやすく、被害者が後遺障害等級認定を受ける際の重要な判断材料となります。そのため手首の骨折が疑われる場合は、丁寧に症状を管理することが重要です。

手首の骨折と後遺障害等級

後遺障害認定とは、交通事故などによって負った怪我が治療後も完全に回復せず、生活に支障を残す状態である「後遺症」が、どの程度の障害と評価されるかを判断する制度です。この認定を受けることで、治療費や慰謝料などの補償を受けられる可能性が高まります。

手首の骨折の場合、手術を受けても痛みや可動域制限が続けば、後遺症として生活に大きな影響を与えることがあります。このような状態を認めてもらうことで、被害者として適切な補償を受ける道が開かれます。

疼痛やしびれ等の神経症状で認定される後遺障害は神経系統の障害に、手関節や前腕の可動域制限で認定される後遺障害は上肢の機能障害になります。以下、詳しく見ていきましょう。

⑴手関節の機能障害

手首の骨折による後遺症が原因で、手関節の屈曲・伸展運動(主要運動)や、橈屈・尺屈運動(参考運動)に可動域制限が残存してしまった場合に等級認定がなされます。手関節の機能障害の等級認定のポイントは、①可動域制限の原因が器質的損傷であり、かかる器質的損傷が画像所見等によって確認できること、②患側の可動域と健側の可動域を比較した時の患側の可動域制限の程度の2点になります。①について、可動域制限の残存が、骨折等の器質的損傷を原因とするものであることが画像で確認できる必要があります。②については、健側の可動域と比較した時に、患側の可動域がどの程度制限されているかによって、認定される等級が異なってきます。

なお、可動域制限の評価は、原則として他動値(他の人が関節を動かしたときの可動域角度)により行われます。そのため、自分で動かしたときには可動域制限が大きくても、人が動かした時には十分に可動が見られるようなケースでは、機能障害が認定されない可能性もあります。ただし、他動運動による測定値を採用することが適切でないと判断された場合には、例外的に自動運動による測定値によって等級判断が行われます。ここでいう「他動運動による測定値を採用することが適切でないと判断された場合」とは、例えば、末梢神経損傷を原因として可動に関わる筋が弛緩性麻痺となったために他動では可動するが自動では可動できない場合や、CRPS(複合性局所疼痛症候群)やRSD(反射性交感神経ジストロフィー)等が原因で関節を可動させると我慢できない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等があります。

①第8級6号 上肢1関節の廃用

一上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」に該当する場合に認定されます。

「1関節の用を廃したもの」とは、具体的には次のa~cのようなものが該当します。

a 関節が強直したもの

ここでいう「強直」とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいい、「これに近い状態」とは、関節可動域が、原則として健側の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものをいいます。更に「10%程度」の意味としては、健側の関節可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度をいいます。例えば、手関節の屈曲運動について健側の可動域角度が90度とする場合、90度の10%を5度単位で切り上げた10度以下であれば、手関節の強直と認められることになります。

b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

なお「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下になったものをいいます。

c 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

②第10級10号 上肢1関節の著しい機能障害

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、次のいずれかに該当する場合に認定されることとなります。

a 関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの

b 人工関節・人工骨頭を挿入置換したもの(ただし、挿入置換した関節の可動域角度が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合を除く)

bについて、挿入置換した関節の可動域角度が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合は第8級6号が認定されます。

③第12級6号 上肢1関節の機能障害

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に該当する場合に認定されます。

具体的には、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されていることが要件となります。

⑵前腕の可動域制限

橈骨遠位端骨折などによって、前腕にも可動域制限が残存することがあります。この時、患側の前腕の可動域角度が、健側の可動域角度の4分の1以下に制限されている場合は第10級の機能障害として、健側の可動域角度の2分の以下に制限されている場合は第12級の機能障害として相当等級が認定されます。

また、前腕の機能障害と同一上肢の関節の機能障害を残す場合には、併合の方法を用いて相当する等級を定めることとなります(例1)が、手関節部の骨折等により、手関節の機能障害と前腕の可動域制限を残す場合には、いずれか上位の等級が認定されます(例2)。

例1:左肩関節の機能障害第10級10号、前腕の機能障害第12級相当に該当する場合→併合の方法を用いて第9級相当を認定

例2:右手関節の機能障害第10級10号、前腕の機能障害第12級相当に該当する場合→上位の等級である第10級10号を認定

⑶神経系統の障害

手首の骨折によって手関節に痛みやしびれなどの神経症状が残存した場合、第12級13号もしくは第14級9号が認定される可能性があります。

①第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

手関節の神経症状の残存について、画像所見や神経学的所見などにより他覚的に立証できる場合に認定されます。認定にあたってはMRI等の画像所見は必要不可欠であり、画像によって手根骨や橈骨、尺骨等の外傷性異常所見が認められ、そのほか神経学的所見からも手関節の神経症状の残存が肯定されることが要求されます。

②第14級9号 局部に神経症状を残すもの

画像所見や神経学的所見などによって他覚的に症状の残存を立証することはできないものの、事故態様や治療状況、症状経過などによって症状の残存につき説明可能である場合に認定されます。

むち打ち損傷の場合には、相当程度の通院頻度が望ましいものとされていますが、骨折の場合には実通院日数が少なくても等級認定されることはあります。なぜならば、骨折はむち打ち損傷とは違って、頻繁に通院すれば骨癒合や回復が早まるような傷病ではないからです。医師の指示のとおり、骨癒合の時期には安静にしたり、きちんと定期的な経過観察を行うなどすることが肝要となるでしょう。

⑷証拠集めのための検査と後遺障害診断書作成

認定を受けるには、手首の骨折に関する物的証拠や医学的証拠を適切に収集することが大切です。まず、治療過程で行われた検査結果(レントゲン、CT、MRIなど)は必ず保管しておきましょう。特に舟状骨骨折や尺骨骨折のように診断が難しい場合、これらの検査による証拠が後々の認定で重要になります。

また、自賠責に後遺障害等級の申請を行う際に必須となる書類として後遺障害診断書がありますが、後遺障害診断書は正確かつ明瞭に作成することが望ましいです。骨折などの傷病を記載してもらうことも重要ですが、それに加えて、自覚症状をきちんと記載してもらうことが非常に重要となります。なぜならば、自賠責は、自覚症状欄に記載されている症状について、後遺障害に該当するかどうかを判断するからです。手関節の痛みやしびれ、可動域制限など、症状固定時に残存している症状については主治医にしっかりと伝えておくことが大切です。

おわりに

 

本稿では、手首の骨折とその症状、そして後遺障害等級について解説いたしました。

弁護士法人小杉法律事務所では、被害者専門・後遺障害専門の弁護士が無料で法律相談を行っております

交通事故により手根骨や橈骨、尺骨の骨折などを負い、賠償請求や後遺障害のこと等でお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。