交通事故コラム

骨折

足の骨折

2020.08.11

足部はChopart関節とLisfranc関節により前足部、中足部、後足部に分けられます。前足部は遠位から末節部、中節部、後足部に分けられます。前足部は遠位から末節骨、中節骨、基節骨、中足骨からなり、手と同様に第1趾のみ繭節骨、基節骨の2節となっています。中足部は第1、第2、第2楔状骨、舟状骨及び立方骨からなります。後足部では足部で最も大きい踵骨が距骨の遠位に存在し、側面からみると交叉して並んでいます。

足部の中で特に重要なのが、各関節の理解です。

距骨と踵骨の間の関節である距踵関節は、距骨と踵骨が前・中・後の3か所の関節面で相接しています。距骨は踵骨の上に側面からみて多少交叉して乗っている形になっています。

Chopart関節は、横足根関節ともいわれ、舟状骨と距骨からなる関節、立方骨と踵骨からなる関節からなり、距舟関節は前方凸に踵立方関節は後方凸となり、この構造によって、極めて良好な安定性が保たれています。逆にいえば、この構造が崩れてしまうと、足部の安定性機能が保てなくなります。

Lisfranc関節は、足根中足関節ともいわれ、5本の中足骨と第1・第2・第3楔状骨及び立方骨から構成される関節で、第1・2・3中足骨は第1・2・3楔状骨と、第4・5中足骨は立方骨とそれぞれ関節を構成しています。そのうち第2中足骨だけがほかの中足骨より長く、第2楔状骨が短い構造のため、安定性が保たれています。

足部は、これらの骨と関節の構造によって、「アーチ」を構成しています(靱帯損傷の項目をご参照ください。)。このアーチによって、身体を安定させ、荷重機能を果たし、推進力を生み出すことができるのです。

①距骨骨折

(1)概要

距骨と呼ばれる骨が骨折した状態です。距骨は、下腿と足部を連結する要の役割を果たしており、非常に重要な骨です。

距骨頭部と言われている距骨の上の部分は舟状骨と、距骨体部のうち滑車部と言われている脛骨接着面は脛骨と、距骨体部の底面は踵骨を関節を形成しています。

頚部骨折と呼ばれる距骨の上の部分の骨折は、足部が背屈を強制されたときに、脛骨の関節前方部が距骨の頚部に衝突して頚部に骨折が生じる形で起こります。たとえば、ブレーキやアクセルに足を乗せていた足部に大きな背屈力が加わったときに距骨骨折が起こりえます。頚部骨折は、Hawkins分類という分類が用いられています(Ⅰ型:距骨骨折の転位のない骨折、Ⅱ型:距骨頚部骨折+距骨下関節の脱臼もしくは亜脱臼している、Ⅲ型:距骨頚部骨折+足関節及び距骨下関節が脱臼している、Ⅳ型:距骨頚部骨折+足関節及び距骨下関節が脱臼+距骨頭が距舟関節で脱臼している)。

留意したいことは、距骨体部という距骨の上の部分以外の骨折は、外力の方向で骨折部位や程度が異なることです(Mann分類という分類が用いられています。Ⅰ型:滑車部の圧力や剪断力による骨軟骨骨折、Ⅱ型:圧迫骨折、前額面剪断骨折、矢状面剪断骨折が含まれる、Ⅲ型:後結節骨折、Ⅳ型:外側結節骨折、Ⅴ型:粉砕骨折)。

高所からの転落などにより体部に大きな圧迫力と剪断力が加わると骨折が起こりますが、そういった外力の場合は亀裂骨折~脱臼骨折に至る骨折になります。

一方で、足関節の内返しが強制されて外側靱帯損傷が起こると、距骨滑車の外側縁が腓骨と衝突し、または内側縁が脛骨の天蓋部と衝突して骨軟骨骨折が起こります。

また、足関節の底屈が強制されると距骨の後突起が脛骨後方関節縁と踵骨の間に挟まれて骨折します。

距骨下関節が内返しを強いられるとともに急激な背屈が加わると、外側突起部に力が集中して骨折が起こります。

このように、骨折の態様から、受傷機転をある程度推認することができます。

(2)症状

骨折部の著しい痛みと腫脹が主訴となります。

(3)認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
後遺障害等級第14級9号 局部に神経症状を残すもの

(4)診断

ア 臨床所見

足関節から距骨下関節部にかけて著しい腫脹と疼痛が確認できます。事故直後にこれらの所見がなければ、事故による距骨骨折だと判断されない可能性があります。

イ レントゲン

背底像と側面像が有用とされています。骨折線が不鮮明な場合や、転位が大きく位置関係が確認できない場合には、斜位像、CT画像が必要となります。

なお、滑車部の骨軟骨損傷は、レントゲンで見逃されることもあります。

ウ CT

足部は、大小様々な骨が入り組んで構成されており、単純レントゲンだけでは、小さな骨折が見逃されることもあります。小さな骨折であっても、関節内に骨片が流入していたりすると、レントゲンでは所見がないとされているが強度の疼痛は持続しているという、所見と主訴が一致しない状態が続くことになります。

そのため、強度の疼痛が残存する場合には、主治医の先生にCT撮影をお願いすることをお勧めいたします。

エ MRI

距骨骨折には至らないが、距骨の骨挫傷がある場合や、距骨骨折後の転位による靱帯損傷の併発などの評価のために、有用です。骨折が癒合すればレントゲンで経過を観察するのが通常であり、MRIは撮影されない場合も多いですが、強度の痛みが残存する場合には、CTとともにMRIも撮影依頼を行うことをお勧めいたします。

(5)評価の視点

後遺障害等級評価の視点は、以下のとおりです。

①骨折線が、関節内に達するような骨折か否か

骨折線が関節内に達しない骨折(関節外骨折)であれば、後遺障害が残りにくいとされているし、残ったとしても後遺障害等級は14級9号が認定されるにとどまることが多いです。

(1)で述べた、距骨頭部、距骨滑車部、距骨底面は、それぞれ関節を形作っていますので、骨折の部位が特定できれば、ある程度関節内骨折か否かは判断ができます。

②骨折の転位があるか

転位のある骨折は、周辺の軟部組織を傷つけている可能性があり、また、完全な整復が困難なため、症状が残りやすいと評価できます。

特に、足部の骨折は、足部のアーチを構成する関節に影響を与えうるため、足部のアーチを構成する関節面の不整を導く程度の転位があるか、という視点で転位の有無を確認してください。

③症状固定時に関節面の不整が認められるか

症状固定時に関節面の不整が認められなければ、後遺障害等級12級13級以上の可能性は高くありません。関節面に不整が認められるからこそ、痛みが立証されていると考えられています。

症状固定時に関節面の不整が認められるかを確認するためには、レントゲンでは不十分(見えにくい)ので、CT撮影をお勧めします。

足部の後遺障害等級の視点は、「足部のアーチが崩れているか」です。足部のアーチを構成する関節面の不整が認められるか、という視点で確認してみてください。

②踵骨骨折

(1)概要

いわゆるかかとの骨を骨折した状態です。

踵骨骨折は足根骨骨折の60%を占めるといわれており、その発生頻度は高いとされています。高所からの転落や飛び降り動作で発生します。交通外傷による場合には、ピンポイントで踵骨骨折だけが起こるケースはまれで、多くの場合下肢のほかの損傷を伴います。

踵骨骨折は、レントゲン所見における解剖学的な整復の程度と、臨床成績が必ずしも一致せず、整形外科の先生によって治療が困難な骨折の一つとされています。

踵骨の解剖で重要なことは、後方の踵骨隆起には強靭なアキレス腱と足底筋腱が付着しており隆起自体は力のレバーアームとして足部の底背屈運動に関与していること、踵骨上面は距骨と距骨下関節を形成していること、踵骨前方は立方骨と関節面を形成していることです。関節内骨折か関節外骨折かの判断に役立ちます。

踵骨骨折の分類は様々なものがあるのですが、近年のCT画像および3DCTをはじめとする画像診断の急速な進歩により踵骨骨折においてCTを撮影しないことは少なくなったことから、CT画像を基礎として治療法の選択や治療結果の評価を行うべく、Sanders分類というものがあります。同分類では、Type1は骨折線の数とは関係なく骨片転移のないもの、Type2は1本の骨折線が認められるもの、Type3は2本の骨折線が認められるもの、Type4は3本の骨折線が認められるものもしくは粉砕骨折とされており、後者になればなるほど難治性となります。

(2)症状

骨折部の疼痛、腫脹、歩行困難が主訴となります。

(3)認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
後遺障害等級第14級9号 局部に神経症状を残すもの

(4)診断

ア 臨床所見

局所の疼痛、首長、圧痛、変形が認められます。特に、踵部の内外側の著しい腫脹と皮下出血は特徴的です。踵骨隆起部の水平骨折では内外果の後方部が腫脹し、単独骨折の場合は内果の真下に著しい腫脹がみられ、踵骨前方部骨折では前距腓靭帯の2㎝前下方に著しい圧痛点が存在するので、臨床所見からもある程度損傷部位が特定できます。

なお、一側に高度な骨折がある場合には、他側の骨折が見逃されることが少なからずあるので、必ず両側とも臨床所見をとってもらいましょう。

イ レントゲン

側面像と軸射像だけでなく、Anthonsen撮影法が行われなければなりません。側面像と軸射像だけでは、後距踵関節の観察が難しいとされているのです。

側面像は隆起部の水平骨折や水平骨折がよく観察でき、軸射像は外壁の突出度及び内側骨折の医務や転位度がよく観察されるので、整復の目安になります。

ただし、前方突起骨折など一定の骨折は、単純レントゲンだけでは確認が難しい場合も多いため、痛みが続く場合には、CT撮影など精密な検査を要します。

ウ CT

強度の疼痛が残存する場合には、主治医の先生にCT撮影をお願いすることをお勧めいたします。前方突起骨折など一定の骨折はレントゲンだけでは確認が難しいことがあるためです。また、疲労骨折や、不顕性の骨折の確認のためにも役立ちます。骨癒合の有無や、癒合状態の確認(不整癒合の有無の確認)のためにも必要です。

エ MRI

踵骨骨折には至らないが、踵骨の骨挫傷がある場合や、踵骨骨折後の転位による靱帯損傷の併発などの評価のために、有用です。骨折が癒合すればレントゲンで経過を観察するのが通常であり、MRIは撮影されない場合も多いですが、強度の痛みが残存する場合には、CTとともにMRIも撮影依頼を行うことをお勧めいたします。

(5)評価の視点

後遺障害等級評価の視点は、以下のとおりです。

①骨折線が、関節内に達するような骨折か否か

骨折線が関節内に達しない骨折(関節外骨折)であれば、後遺障害が残りにくいとされているし、残ったとしても後遺障害等級は14級9号が認定されるにとどまることが多いです。

(1)で述べた、関節を形づくる部分の骨折か否かを確認した上、骨折線を追って関節内骨折か否かを確認しましょう。骨折が後距踵関節に及ばない型は予後は比較的良好とされています。

②骨折の転位があるか

転位のある骨折は、周辺の軟部組織を傷つけている可能性があり、また、完全な整復が困難なため、症状が残りやすいと評価できます。

特に、足部の骨折は、足部のアーチを構成する関節に影響を与えうるため、足部のアーチを構成する関節面の不整を導く程度の転位があるか、という視点で転位の有無を確認してください。

③症状固定時に関節面の不整が認められるか

症状固定時に関節面の不整が認められなければ、後遺障害等級12級13級以上の可能性は高くありません。関節面に不整が認められるからこそ、痛みが立証されていると考えられています。

症状固定時に関節面の不整が認められるかを確認するためには、レントゲンでは不十分(見えにくい)ので、CT撮影をお勧めします。

足部の後遺障害等級の視点は、「足部のアーチが崩れているか」です。足部のアーチを構成する関節面の不整が認められるか、という視点で確認してみてください。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。